月下美人の語り草

月下美人の語り草

その瞳に映るものは・・・ 第13話



城壁から見渡すと一面人・人・人・・・。
今フェンリル国の王都ブエルはエリュシオン軍に取り囲まれていた。
というより、取り囲ませたのだ。
戦力差は若干エリュシオンが多い程度。守備に徹すれば凌げるはずだ。
そして相手が疲れを見せた時に隙を衝くという作戦でいくことになった。
・・・そう上手くいけば良いが。

レイナート「なんだ、もう怖気づいたのか?」
ラクチェ「な、何よ!うるさいわねっ!アンタと一緒にしないでよ!!」
リエル「あんちゃんも足が震えてるにゃあ。」
レイナート「む、武者震いってやつだ・・・!」
ラクチェ「・・・まったく強がっちゃって。。」

半眼で見返し『はぅ・・・』とため息をつくラクチェ。
ブエルには北と南に城門があり、それぞれを部隊が守備している。
ラクチェとリエル、レイナートは北門を。エロルドは南門を。ラゼムとカノアは王宮の守りをそれぞれ任された。
大してエリュシオン軍は北と南にそれぞれ兵を展開させ、歴戦の猛者で突入を試みようとしているようだ。
しかし気になるのは酒姫の姿が北にも南にもないこと。
(あの人が来るのは間違いない。一体どこから・・・?)
姿を見せないことでフェンリルの首脳陣には動揺が走っている。

ラクチェ「気になるけど・・・まずは与えられた任務をこなさないとね!」

喧騒と共にエリュシオン軍の攻勢が始まった。
城門を固く閉じて歩兵で裏から押さえ、城壁から弓兵で応戦する。
エリュシオン軍は被害を出しつつも、降り注ぐ矢の中を駆け抜ける。
その勢いは凄まじく、あっという間に城門まで到達した。
門の破壊と共に城壁からの侵入を始める。

レイナート「歩兵は門を死守しろ!弓兵は敵兵を城壁に近づかせるな!!」
ラクチェ「私は門の裏に控えておくねっ!!」
レイナート「頼んだっ!・・・おい猫!城壁に敵が姿を見せたら魔術を打ち込んでやれ!」
リエル「わかったにゃあ!」

言ってるそばから城壁を上りきった敵兵が現れた。
すかさずリエルは素早く詠唱し雷撃を放った。

「ぐぁッッ!!」

雷撃に打たれた敵兵は、城壁を上りかけた兵を巻き添えにして落下していった。
その様子を横目に見ながらラクチェは城門へと急いだ。


彼女が城門にたどり着いた瞬間、今まで門を支えていた兵たちが吹き飛んだ。
門が破壊され、エリュシオン軍がなだれ込んできたのである。
一気に押し込まれ、ラクチェの場所にまでたどり着いた。
敵兵の剣が。槍が。その殺気に満ちた視線がラクチェに向けられる。
ラクチェは射すくめられたかのように身体が動かない。
剣がラクチェに向けて突き出される・・・!
誰かの叫び声が聞こえた。

ラクチェ「・・・ッ!?」
ザシュゥッ!!

彼女の目の前には誰かの背中。
しかしその背中からは不自然に剣が生えている。
彼に見覚えはないが、装備からしてラクチェの部隊の兵の一人のようだ。
敵兵は鮮血を浴びながら貫いた剣を抜く。
背中はグラリと傾き、そのまま倒れた。
ラクチェは呆然としたまま片膝をつき、彼を抱え上げた。

兵士「・・・お・・お怪我は・・ございませんか・・・?」
ラクチェ「どうして・・どうして庇ったの・・・?」

兵士は毅然とした態度で『将をお守りするのが私の任務ですから』と答えた。
傷はどうみても致命傷。
命の火は今にも燃え尽きそうだった。
会話すらもあと僅かな時しかもつまい。

ラクチェ「・・・・・ありがとう。」

兵士はにっこりと微笑み、そして息絶えた。
ゆっくりと兵士を地面に下ろし、手を胸の上で組ませる。

ラクチェはゆらりと立ち上がり、城門の方に視線を向けた。
なんとか敵を城内に侵入させないよう奮戦しているが、旗色は悪いようだ。
ラクチェは剣を携え、その争いの中に突っ込んでいった。
突如現れた女剣士に驚きつつも、敵兵は剣撃を浴びせていった。
・・・がその剣が届くより先に、彼の首は宙を舞っていた。
動揺の波が走る中、ラクチェは隙を見逃さず次々と斬っていく。
向かってくる兵をことごとく斬り伏せるその姿に、敵兵はやがて逃げ腰になった。

ラクチェ「敵は動揺してる!行けぇッ!!」
フェンリル軍「おおぉぉぉおおおおッッッ!!!」

ラクチェの号令に呼応し、兵士たちが吠える。
混乱するエリュシオン軍を蹴散らし、一気に城外まで押し戻す。
このままの勢いならば負けることはあるまい。
ラクチェは先程の庇った兵士の亡骸に目を向け、別の兵士に問いかけた。

ラクチェ「・・・あの兵の名前は・・・?」
兵士「はっ。ハルクと申します。」
ラクチェ「・・・そう・・・ありがとう。」

(ハルク・・・貴方の事は忘れないわ。・・・絶対に!)
ラクチェは強く胸に誓い、剣を固く握りしめた。
再び敵陣に足を向け歩き出す・・・が、先程の自軍の勢いが弱まっていることに気付いた。
急ぎ部隊の先頭に向かうと、一人の大男が立ち塞がっている。
巨大な戦斧を片手で軽々と振り回し、兵士を薙ぎ払っていた。
誰も止められる様子はなく、距離をとって牽制しているのみである。

大男「なんだなんだ!フェンリルってのは、どいつもこいつも腰抜けばかりか?ああっ!?」

挑発されているが、それに乗れるほどの実力を持った者はいない。
それ程に大男と並みの兵士の力は歴然としているのだ。
ラクチェは大男に向かって進み出ていった。

ラクチェ「・・・・・。」
大男「おおっ?今度は小娘かよ・・・。おい、殺されたくなけりゃとっとと消えな!」
ラクチェ「・・・やってみなさいよ。」
大男「・・・てめぇ、いい度胸してんじゃねぇか。望み通り殺してやるぜぇ!!」

大男は戦斧を振り上げ、一気にラクチェの頭に叩き下ろした!
しかしラクチェは半歩横に移動しただけでかわした。
そして手首を返して剣を振るったかと思うと軽く後ろに退いた。

大男「チィッ!ちょこまかと逃げやがって!」
ラクチェ「・・・まだやる気?」
大男「ああん!?ちょっとかわしたくらいでいい気になってんじゃねぇッ!!」

大男は再び戦斧を振り上げた・・・つもりだった。
戦斧の重さを感じなかった為不思議に思い視線を向ける。
彼のその腕は・・・手首から先がなかった。

大男「う・・ぐああぁあああッッ!?う、腕がぁぁあああ!?」
ラクチェ「・・・今頃気付いたの?鈍いわね。。」
大男「ぐううぅぅ・・・き、キサマァアアア!!!」

痛みで半狂乱になりながらも向かってくる。
ラクチェは一瞬でその懐に入り、胴を断ち切る程の一閃を放った。
大男は悲鳴もあげられずに事切れた。
その様子を遠巻きで見ていたエリュシオン軍はざわめき、武将を失ったことにより退却を始めた。

ラクチェ「追わなくていい。まだ敵は二陣、三陣と控えているはずよ。痛い目に会う前に城に戻りましょう・・・。」

自軍を撤退させる。
その最中、ラクチェは自分の手を見つめていた。
(血に塗れた手・・・。あの時の夢と同じ・・・。)
夢の映像と現在の視界が交錯する。
(人殺し・・・か。正真正銘・・・言い逃れようもないわね。。)
夢の中の少女の表情。自分を庇って死んだハルクの表情。
自分の葛藤をあざ笑うかのように、状況は留まることを知らない。
(でも・・・もう二度と自分の為に人が死ぬなんて・・・絶対に嫌。。)
その為なら自分の手がいくら血に塗れようと構わない。

そう決意するのだった・・・。

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