月下美人の語り草

月下美人の語り草

その瞳に映るものは・・・ 第15話




ラゼムとカノアは謁見の間の扉の守護についており、南北の門の戦況を打開する策を考え続けていた。
だが急にラゼムが立ち上がり、槍を手に取った。
カノアは怪訝な顔をしている。

カノア「どうされました?ラゼム将軍。」
ラゼム「カノア殿、敵のようですぞ。」
カノア「えっ!?」

その瞬間、影が動きラゼムに襲い掛かった。
しかしラゼムは落ち着き槍を払う。
影が槍をかわして飛び上がる・・・そのタイミングに合わせて槍の柄を影に向けて打ち込む!

影「・・・ッ!?」
ドガッ!!

影は吹っ飛び柱に激突する。
そのまま倒れるかと思いきや、くるりと一回転し着地した。

影「あいててて・・・。やるねぇオッサン。」

ニヤリと笑いながらラゼムを見る。
ラゼムはその顔に見覚えがあった。

ラゼム「ふん、タウルか・・・。相変わらず未熟な奴よ。」
タウル「オッサンこそ、そろそろ引退したらどうだい?」

この二人、戦場では度々戦っている。
結果は全てラゼムの勝利なのだが、タウルも戦う度に強くなっている。
先の戦では今一歩というところで勝てなかったのだ。

ラゼム「悪いがまだお主のような若造に負けるほど落ちぶれてはおらんのでな。」
タウル「それはどうかな?今日こそは勝ってやるぜ!」

互いに気を溜め始める。
武の本質は一撃必殺。この戦い、一合で決まるだろう。
タウルは床石を踏み潰すかの如く地を蹴り、間合いを詰める。
ラゼムも反応し槍を鋭く突き出す。
しかしタウルの踏み込みは速く、ラゼムの槍が彼を捉えることはなかった。

ラゼム「ムゥッ!?」
タウル「もらったぁッ!!」

無防備な胸部に鍛え抜かれた拳が繰り出される!
ドグゥッッ!!!
ラゼムが苦悶の表情を見せ、身体が傾く・・・。

タウル「(やったか・・・!?)」
ラゼム「・・・っく・・ぅうおおおおおっ!!!」
ガッッ!!!
タウル「ぐぁっ!?」

ラゼムはそのままの姿勢から肘をタウルの側頭部に打ち込んだ。
たまらず倒れるタウル。ラゼムもその反動で倒れる。
二人は立つことができず、突っ伏している。
カノアがラゼムに駆け寄ろうとすると、目の前を少年が通り過ぎタウルの元へ走っていく。

少年「タウルッ!しっかりするのだ!」
タウル「・・・く・・。」
カノア「・・・?(あの少年・・・どこかで・・・。)」

少年に支えられなんとか立ち上がるタウル。
ラゼムはどうやら意識を失くしているようだ。
鉄を曲げる程の力で殴られたのだ。当然だろう。
カノアは庇う形で二人に向き直ると、廊下の奥からドタドタと大勢の足音が聞こえてくる。
騒ぎに気付き、兵士がようやく駆けつけて来たようだ。
兵士たちは倒れているラゼムを目にして殺気立つ。

兵士「ラゼム将軍!?貴様ら・・・何者だ!?」
兵士「動くなっ!逃がさんぞ!!」
少年「・・・くっ・・。」

二人を囲み退路を断つ。
明らかに多勢に無勢。
タウルが快調ならばこの囲みなどものともしないだろうが、現状では厳しいだろう。
苦々しげに兵士たちを見渡す二人。

少年「・・・酒姫もいればどうにかなっただろうが。。これまでか・・・。」
タウル「チッ・・・あの女が現れなきゃ・・・。」
兵士「ここまでだ!かかれっ!!」
??「待たんかっ!!」

飛び掛らんとした瞬間、制止する声が鳴り響いた。
一同は静まり、声の主が現れると跪いた。

少年「・・・ふ、フェンリル王・・・。」
タウル「な・・・!?」
フェンリル王「・・・大きくなったのぅ。5年ぶりか?アステル王子。いや、今は王か・・・。」
カノア「・・・エリュシオンの・・・王!?」

これにはさすがのカノアも驚いた。
まさか敵国の王自ら来るとは思わなかっただろう。
アステルは厳しい目でフェンリル王を睨み返す。

アステル「フェンリル王・・・。父上の仇、とらせてもらう!」

腰に携えていた小剣を抜き、フェンリル王に斬りかかった!
周りの兵士は慌てて止めようとするがフェンリル王はそれを制し、自らの剣でそれを受け止める。
老いたりとはいえ二人には体格の差がある。
鍔迫り合いでアステルが敵う相手ではなかった。

アステル「・・・ぐぐ・・ッ・・。」
フェンリル王「・・・仇、か。そう思われても仕方ないな・・・。」
アステル「何を白々しい!貴様は同盟国であった我が国を裏切り、父上をも暗殺したのではないか!」
フェンリル王「・・・・・。」
アステル「反論もできぬか?本当のことだからな。できるはずもあるまい!」

憎しみのこもった視線、口調でフェンリル王を非難する。
フェンリル王はしばしの間重く口を閉ざし・・・そして開く。

フェンリル王「わしは・・・・・ッ!?」

突然フェンリル王はアステルを抱え上げ、大きく横に跳んだ!
その瞬間・・・
どっごおおおぉぉぉおおおんんん!!!!!
壁が破壊し破片を撒き散らした。
多くの兵士たちが巻き込まれ下敷きになる。
城内は一時騒然となった。

カノア「い、一体何が・・・!?」
タウル「陛下ッ!?」
アステル「私は大丈夫だ・・・!」
フェンリル王「・・・・・。」

砂埃が一面巻上げ、視界を覆っている。
しかしよく見ればその中に一つ大きな影がある。
一同は砂埃が収まるのを待った。
そこに現れたのは・・・一体の魔物だった。
全長5mを超す巨体に大きな2本の角。
全身は猿のような剛毛に覆われており、その腕は何百年の歳月を経た大樹のように太い。
人を丸呑みできそうな程大きな口からは、鋭く尖った牙が並んでいる。

タウル「な、なんだこの化け物は・・・。」
カノア「・・・これはまさか・・ラディウス?」
タウル「なんでぇ、それは?」
カノア「タイラート山脈付近にしか生息しない魔物だと以前文献で読んだことが・・・。」
タウル「じゃなんでこんなとこにいるんだよっ!?」
カノア「わかりませんっ!私だって驚いてるんですから。。」

タイラート山脈とは大陸の北方にそびえる大陸一の山脈である。
フォルトナと隣国を隔てている為、フォルトナが難攻不落である所以でもある。
フェンリルからは遠く離れており、この山脈にたどり着くには蒼き太陽の神々国とドラッヘンバルト国を越える必要がある。
もちろんこんなところにいるはずがない。
兵士たちは王を守ろうと、見たこともない化け物に勇敢に立ち向かう。
しかしそれは無謀というものだった。
ラディウスは太い腕で兵士たちを薙ぎ払い、一気に10人近くの兵が吹き飛んだ。

タウル「チッ!これじゃ戦どころじゃないぜっ!!」
アステル「なんでこんなタイミングで・・・!?」
カノア「陛下、お下がりくださいっ!!」

ふと見ればフェンリル王は剣を構えてラディウスに向かって歩いていっている。

カノア「・・・ッ!?陛下、何を・・・。」
フェンリル王「・・・・・また、か。」
アステル「・・・・・『また』・・・?」

フェンリル王は今まで見せたことのない形相でラディウスを睨みつけている。

フェンリル王「貴様はまたわしの大切なものを奪おうというのかッッ!!」

怒気を発し、剣を構える。
それに反応したのか、ラディウスはフェンリル王めがけて拳を打ち下ろす。
しかしその拳を受け流し、高く跳んだかと思うとラディウスの脳天を剣で貫いた!
ラディウスは咆哮を上げフェンリル王を掴もうとするが、その前に首を斬り落とされ絶命した。

カノア「す・・凄い・・・。」
タウル「・・・・・マジかよ。」

一同は唖然としている。
その中でただ一人、フェンリル王は依然として収まらない砂埃の中を睨みつけている。

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