月下美人の語り草

月下美人の語り草

その瞳に映るものは・・・ 第17話


戦いで王と将軍が倒れ、誰もが未来に不安を抱いている。
そんな中エロルドは即座に王位を継ぎ、事態の収拾を図った。
そのお陰で目立った暴動や賊の侵入もなく、徐々に治安の回復を見せていた。

先の戦いから1週間が過ぎた。
城内の雰囲気はお世辞にも活気があるとは言えないが、まだ良くなった方だ。
ラクチェ達もここのところ忙しく走り回っていたが、ようやく一息つけたというところである。
しかし・・・。

ラクチェ「・・・・・。」

エロルドは相変わらず父を失った悲しみに耽る暇もなく政を行っている。
少し落ち着いてきたとはいえ、王の仕事はまだまだ終わりを見せない。
ラクチェは彼をちらりと一目だけ見て、謁見の間から立ち去った。
廊下から中庭を覗き、考え事をする。
(・・・まだ、ダメね・・・。)
『ふぅ・・・』とため息をついて、憎らしいくらいに晴れ渡っている空を見上げた。
そうしている内に誰かの足音が近づいてきて、彼女の隣で止まった。

レイナート「・・・どうかしたか?」
ラクチェ「ぇ・・あ・・ううん、なんでもない。」
レイナート「それが『なんでもない』って顔かよ。」

レイナートは呆れた表情で隣に並び、同じように空を見上げた。
しばらく沈黙が続く。
それに耐え切れなくなったか、ラクチェは口を開いた。

ラクチェ「・・・これからどうするの?」
レイナート「ん?これまで通り国を守っていくさ。」
ラクチェ「そう・・・だよね。。」
レイナート「エリュシオンとの戦いが終わったからとはいえ、他にも敵対している国はあるしな。」
ラクチェ「・・・強いね。」

『何が?』と怪訝な顔を向けるレイナート。
ラクチェは躊躇いがちに彼の顔を見ながら口を開く。

ラクチェ「・・・あんなことがあったのに、もう先を考えて動いてるんだもん。」
レイナート「あぁ・・・そりゃ哀しいけど、落ち込んでばかりいても始まらんだろ?」
ラクチェ「うん・・・そうなんだけど。。」
レイナート「・・・父さんに『お前の思う通りに生きろ』って言われたからな。父さんの守り抜いたこの国を俺も守りたいんだ。」
ラクチェ「・・・やっぱり強いなぁ。。あなたも、エロルドも・・・。」

『私ならそう簡単には立ち直れないだろうな・・・』と小さく呟き、足元を見つめた。
どうやらレイナートには聞こえなかったようだ。

レイナート「んで?お前はどうするんだ?」

問われ、言葉に詰まるラクチェ。
レイナートと同じように『この国に残り守っていく』というのも一つの道だ。
だが・・・。

ラクチェ「・・・・・。」
レイナート「・・・・・。」

またしばしの時間沈黙が場を支配した。
ラクチェは俯き、目を合わせないようにしている。
レイナートは『ふぅ・・・』と軽くため息をついた。

レイナート「・・・行って来いよ。」
ラクチェ「えっ・・・?」

顔を上げレイナートの顔を見る。
彼は笑って言葉を続けた。

レイナート「仲間探しに行きたいんだろ?行って来い。」
ラクチェ「え・・・でもこんな大変な時に・・・。」
レイナート「あのなぁ・・・お前は元々この国の・・っていうかこの世界の奴じゃねぇだろが!気にすんなって!」
ラクチェ「そ、そうだけど・・・。」
レイナート「仲間と一緒に元の世界に戻りたいんだろが。自分のやりたいことやれよ。」

気持ちは嬉しい。彼女が本当にしたいことは彼の言う通りだ。
しかしこの国が心配なのも事実。

ラクチェ「私は・・・この国が好きだからね。。そう簡単には決められないよ・・・。」

その言葉を聞き、レイナートはまた呆れた表情に戻った。
今度は大きくため息をつき、口を開いた。

レイナート「はぁぁあああ・・・。だってさ・・・聞いたかエロルド。」
エロルド「あぁ・・・。予想通りだな。」
ラクチェ「えっ?・・・えぇっ!?」

いつの間にやらエロルドが背後に立っていた。
まともにうろたえるラクチェ。

エロルド「ラクチェ、この国のことは俺たちでなんとかやっていける。俺たちのことが信用できないか?」
ラクチェ「信用はしてる。でもこの国が大変な時に出て行くのはどうかと思う。。」
レイナート「まったく・・・頑固なもんだぜ。」

エロルドとレイナートは顔を見合わせ苦笑する。

レイナート「俺たちはお前に行って欲しいんだ。」
ラクチェ「それ・・・私が邪魔だってこと?」
エロルド「ち、違う違う!ラクチェには頼まれて欲しい仕事があるんだよ!」
レイナート「あ・・・悪い、言葉が足りなかったか。」

エロルドにギロッと睨まれて苦笑するレイナート。

ラクチェ「仕事って・・・?」
エロルド「あぁ・・・父上が息を引きとる前に言っていたことを覚えているか?」
ラクチェ「王様が・・・?」

ラクチェは言われて当時を思い出す。


グレイスが姿を消し、一同はフェンリル王に駆け寄った。

エロルド『父上ッ!しっかりして下さい!!』
フェンリル王『ぐ・・・ェ・・エロルド・・・。』
エロルド『喋ってはなりませんっ!気をしっかり保って安静に・・・!』
フェンリル王『よいのだ・・・。わしはもう長くは持たん。。』
エロルド『何を仰るのです!こんな傷など・・・』
フェンリル王『よいかエロルド・・・よく聞くのじゃ・・・。』

ガシッとエロルドの腕を掴む。
強い意思を感じさせる眼光に押され、思わず黙り込む。
フェンリル王は息子の眼を見ながら言葉を続けた。

フェンリル王『奴は・・・わしの目の前でアシュレイを討った・・・。その結果、争いは始まった・・・。そして今回は・・・わしが目的と言いおった・・・。わしが死んだことによって、混乱を生むことじゃろう・・・。そうなればまた争いが起こる・・・。』
エロルド『・・・はい。』
フェンリル王『この世界が始まったのは遥か昔のことじゃが・・・なぜ未だに一つの国に統一されないのか・・・。わしはずっとそれが疑問じゃった・・・。仮初めとはいえ統一されれば、争いも少なくなるだろうに・・・の。』
エロルド『確かに・・・そうです。』
フェンリル王『じゃが・・・どのような文献を読み漁っても・・・世界が始まってからというもの、統一されたという記録はない・・・たかだか7ヶ国しかないのにそれ程増えもせず減りもせず・・・何故じゃ?』

問われてハッとする一同。

エロルド『ッッ!?まさか・・・!?』
ラクチェ『・・・さっきの奴らが糸を引いている、と・・・?』
フェンリル王『・・・わからん。だが、なんらかの形で関わっている・・・そんな気がするのじゃ・・・。』
カノア『そういえば・・・確かに先ほど、乱世を狂わせる・・・と言っていましたね。。』
フェンリル王『うむ・・・気をつけるのじゃ・・・。この先、何が起こるか・・・ぐ・・ぅ・・・。』
エロルド『ち、父上ッ!?』

エロルドを掴んでいた腕が力なく垂れ下がり、フェンリルの王は二度と返事を返すことはなかった。

フェンリル王『・・・・・。』
エロルド『父上ぇぇぇえええええッッッ!!!』

だんだん冷たくなっていく父を抱えた息子の叫びは、城内に響き渡っていった・・・。


ラクチェ「・・・乱世を狂わせる存在、か・・・。」
エロルド「あぁ・・・。もし奴らがそのつもりなら・・・なんとしてでも止めねばならん。」
ラクチェ「他国に行って情報を集めろってこと?」
エロルド「そうだ。できれば同志も欲しい。」
ラクチェ「そうね・・・私たちだけじゃ勝つのは厳しいもんね。。」
レイナート「その為にも、お前の仲間が居てくれた方が助かるしな。」

大事なのは今じゃなく未来・・・。
たとえ今は苦しい状況でも、その先に明るい希望があれば頑張れるはず。
そう固く信じている二人を前に、ラクチェもまた自分の役割を悟り力強く頷いたのだった。


翌朝・・・。
ラクチェは旅支度を整え出立前の挨拶に、カノアの元を訪れていた。

カノア「話は聞いています。寂しくなりますね・・・。」
ラクチェ「心配しなくてもまた逢えるからwだからそれまでにさ・・・。」

ラクチェは悪戯っぽい顔をしてカノアの耳元に口を近づけ、何事か囁いた。

カノア「・・・っ!?」

カノアの顔が真っ赤に染まり、ニッと笑うラクチェを睨みつける。
その時、ラクチェを呼ぶ声が聞こえた。

ラクチェ「あ、エロルドだよ。カノアさんw」
カノア「ら、ラクチェ様・・・!」
エロルド「ん?何の話だ?」
ラクチェ「べっつにぃ~~~♪」
カノア「・・・・・。」

とぼけるラクチェと赤面したままのカノアを交互に見て怪訝な顔をするエロルド。

エロルド「・・・ま、いいか。ラクチェ、準備はできたか?」
ラクチェ「えぇ。もうバッチリよ♪」
エロルド「そうか・・・なら城門まで行こう。お客が待っているぞ。」
ラクチェ「・・・お客?」
エロルド「行けばわかる。」

『誰だろう?』と不思議に思いながらも3人で城門に向かう。


ラクチェ「・・・・・え?」
酒姫「やっ==ノ」
リエル「にゃっ♪」

待ち受けていたのは一人と一匹。
よく見慣れた顔ぶれだ。揃って手を上げている。

ラクチェ「どうして・・・?」
リエル「わちしを置いていこうなんて甘いにゃあ!」
ラクチェ「いや、だって・・・外は危険だし。。」
リエル「面白そうだにゃあ!危険の中にこそ喜びが待っているにゃあ!」

相変わらずのお気楽っぷり。
これは説得は無理そうだ、と苦笑するラクチェ。
今度は酒姫に向き直った。

酒姫「世界一周の旅は私が言い出したことでしょ?==」
ラクチェ「そ、そうですけど。。エリュシオンの方はいいんですか?」
酒姫「アステル王子に任せておけば大丈夫だろ。聡明な方だし。あの筋肉バカもちゃっかり生きてたしね==」
ラクチェ「ちゃっかりって・・・^^;でも他国の侵略とかは・・・。」
酒姫「それも大丈夫w外交で弱味を握りまくってるから、そう簡単に手は出せなくしてる==b」
ラクチェ「・・・流石だ。。」

敵に回すと本当に怖い女だ。
横で聞いているエロルドとカノアも、苦笑しつつ冷や汗タラリである。

エロルド「一人では何かと危険だしな。彼女たちと一緒に無事に帰ってきてくれ。」
カノア「どうか御無事で・・・。」
ラクチェ「わかった、行ってくる!二人共・・・元気でねっ♪ついでにレイナートにもよろしくw」


図らずも異世界に飛ばされたラクチェ、リエル、酒姫の3人はこうして出会い、運命を共にすることとなった。
この世界のどこかにまだ同じ境遇の者がいる・・・。
それを必ず見つけ出してグレイスの野望を阻止し、元の世界に戻ってみせる。
そう心に決めて彼女たちは歩き出した・・・。

酒姫「ナイアードには美味い酒があるらしい==b」
リエル「魚料理が有名な国ってどこにゃあ!?」
ラクチェ「どっかに良い男いるかなぁ?w」

・・・たぶん。

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