月下美人の語り草

月下美人の語り草

その瞳に映るものは・・・ 第20話


怪我はまだ治りきっていないが、何とか歩くくらいまでは回復しているようである。
ジーマの回復魔術のおかげだろう。
しかしそれとは無関係にひどく顔色が悪く見える。
蜘蛛はラクチェ、酒姫、リエル、ロゼからの痛いほどの視線を浴びながら椅子に腰掛けていた。

一応紹介しておこう。
蜘蛛・・・ラクチェたちと同じく現実世界の者。
銀髪に紅い瞳。紺色のマフラーがトレードマーク。
名前は蜘蛛と呼んではいるが、もちろんあの昆虫の蜘蛛ではない。
確か現在のキャラクターの名前は『御伽』だったはずだ。
しかしゲームに登録した時の名が『空野蜘蛛』であった為、転々と名前を変えても蜘蛛と呼ばれているのだ。
ゲーム内ではよくラクチェや酒姫に虐げられ・・・いや、教育的指導・・・いやいや・・・。
まぁ色々とスキンシップを受けてきていた。
先程の顔を見ての逃亡もおそらくは・・・。

ラクチェ「んで?なんで逃げ出したのかなぁ?」
蜘蛛「いやあの。。つい。。。(汗)」
酒姫「つい・・・なに?==」
蜘蛛「じょ。。条件反射で。。。(泣)」
リエル「条件反射で抱きついたにゃあ?w」
蜘蛛「ち、違っ。。(滝汗)」
ロゼ「変態。(ズバッ)」
蜘蛛「うぅぅ。。。(号泣)」

たたみ込まれるような波状攻撃にあえなく撃沈する蜘蛛。
その様子を見て気が晴れたようで、話題を変える一同。

ラクチェ「まぁこの辺にしておいてあげますか。」
酒姫「うむ==b」
ロゼ「えっ?もう?」

失礼。約一名は違ったようだ。

酒姫「話進まないから==」
ラクチェ「まだ気が晴れないならあとで殺っちゃって♪」
ロゼ「うん・・・仕方ないわね。。」
蜘蛛「。。。。(滝汗)」

渋々納得するロゼ。
だがあの様子ではあとで本当に殺る気だ・・・。
背中に冷たい汗が流れる蜘蛛だった。

ラクチェ「でもどうしてあんな怪我してたの?誰かに襲われた?」
蜘蛛「あ。うん。。なんかゴロツキにからまれちゃって。。」
酒姫「相手がただのゴロツキならそう簡単に負けないだろ?==」
蜘蛛「ぇ。。僕ケンカはちょっと。。(汗)」
ラクチェ「は?ゲームのキャラの力を引き継いでりゃ勝てるでしょう?」
蜘蛛「引き継ぐって。。なにそれ。。」

本気でわかっていない様子。
どうやら今まで力を試すようなシチュエーションに出会った事がなかったらしい。

ラクチェ「それで今までよく生きてこられたね・・・。」
蜘蛛「いや。だって。。普通に街でバイトして暮らしてただけだし。。。(苦笑)」
酒姫「・・・向こうとやってることは一緒か。。==;」
ラクチェ「・・・そういうとこは順応性あるよね。。」
蜘蛛「そうかな?(苦笑)。。でもバイト先でゴロツキに言い掛かりつけられちゃって。。ちょっと文句言ったらこんな目に。。(泣)」
リエル「相変わらず運が悪いにゃあw」

リエルの一言で余計に落ち込む蜘蛛。
このまま放っておいても良いのだが、ずっと落ち込んでられるのも鬱陶しかったラクチェは一応フォローした。

ラクチェ「まぁこうしてロゼにも助けられたんだし、私たちとも再会できたんだからいいじゃないw」
蜘蛛「。。。。追い討ちをかけられた気がするんだけど。。」
ラクチェ「それは自業自得。・・・まぁこれからは一緒に行動することになると思うけど、いいわね?」
蜘蛛「まぁ。。。僕もこのままこの世界にいたくないし。。」
ラクチェ「よし、決まり!ということで、ロゼ。この人も部隊に入れるから、ヨロシクw」
ロゼ「えぇ!?こんな人を入れるなんて正気なの!?」
酒姫「ちゃんと監視するから==b」
ラクチェ「なんかやったらコレ使っていいからw」
ロゼ「・・・まぁ、それなら。。」
蜘蛛「。。。。怖。。(泣)」

どこから取り出したのか、フレイル型のモーニングスター(痛々しいトゲのついた鉄球を鎖でぶら下げた武器)を笑顔でロゼに手渡すラクチェ。
ロゼはそれを受け取りながら渋々了承する。
蜘蛛は死の危険を感じとり話題を変える。

蜘蛛「と、ところで部隊って何?これから何するの?(汗)」
ラクチェ「あぁ、だからね・・・。」

事の成り行きを説明する。
話していくうちに蜘蛛の顔色がだんだん青ざめてきた。

蜘蛛「ちょっ。。それって僕に戦えってことじゃ。。。?(汗)」
ラクチェ「そうなるね。」
蜘蛛「そんな軽く。。だってここって実際に斬りあうんでしょ!?人殺しするってことじゃん!?」

当然の批判だ。
そう・・・現実の世界では当然の。

蜘蛛「ゲームじゃないんだよ!?そんなの許されることじゃないよ!!」

許されることじゃない。
どこの世界だろうと人を殺すことがどれ程の大罪か・・・。
それがわからないほど愚かではない。

蜘蛛「ラクチェさん達もそんなこと止めときなよ!元の世界に戻るためにそんなことする必要ないでしょ!?」

・・・しばらく沈黙が続いた。
ラクチェは目を閉じ蜘蛛の言葉を聞いていた。
蜘蛛は懇願するような目でラクチェを見ている。
他の者もラクチェの反応を窺っていた。
・・・静かに目を開け、ラクチェは口を開いた。

ラクチェ「・・・元の世界に戻るためには必要ないかもしれない。でも・・・それとこれとは関係ない。私は私自身で戦うことを決めただけ・・・。」
蜘蛛「そんな。。」
ラクチェ「あなたが戦いたくないのならそうした方がいい。人なんて殺さない方がいいに決まってるから。。」
蜘蛛「そ、それならなんで。。このままじゃ人を殺しちゃうんだよ!?」
ラクチェ「・・・人ならもう殺してる。」
蜘蛛「・・・ッ!?」
ラクチェ「でも私は立ち止まれない。・・・立ち止まらない。そう決心したから。」

『立ち止まれば今までやってきたことが無になる。』
(先に進み続けることこそが自分が手に掛けた者への償い・・・だよね。ラゼムさん。。)
かつて自分の迷いを振り払ってくれた男を思い浮かべながら蜘蛛を見返した。
蜘蛛はその強い意志のこもった視線に押され、何も言えなくなった。
ラクチェは『作戦会議があるから』とこの場を去っていった。

酒姫「戦わないなら邪魔にならないところにいろよ==」
リエル「はっ!?朝食を食べ損ねたにゃあっ!?」

それぞれ言い残して姿を消す。
蜘蛛は返事も返せずその場に立ち尽くしたままだった。
そんな彼にロゼは声をかけた。

ロゼ「・・・あなたの言ってることは正論だわ。間違ってなんてない・・・。」
蜘蛛「・・・・・。」
ロゼ「でも・・・大切な人を失ったことのない言葉ね。そちらの世界ではどうだったか知らないけど、この世界はそんなに甘くないの。」
蜘蛛「失う。。?」
ロゼ「・・・あの人たちは失ったことがあるのね。それも目の前で。。」

蜘蛛は黙っている。
ロゼは構わず続けた。

ロゼ「あなたはどうするのかしら?彼女たちと同じように、失ってからじゃないと気付けない?」
蜘蛛「。。。でも。。」
ロゼ「人を守れる力がありながらそれを使わないで見殺しにする。。人殺しとどう違うというの?」
蜘蛛「・・・それは。。っ!?」
ロゼ「大切な人が目の前で危機に陥っている・・・。その時に守られて逃げることしかできなかった者の気持ちが・・あなたにわかる・・・っ!?」

雫が零れ落ち床にシミができる。
蜘蛛は言葉を失ってしまった。

ロゼ「戦わないなら・・・その力、私にちょうだいよっ・・!!私に・・・お父様の仇を討つ力をちょうだいよぉ・・・ッ!!」
蜘蛛「・・・・・。」

先程まで気丈にも元気に振る舞っていた姿はどこにもない。
目の前にいるのは・・・ただ親を亡くして泣き崩れる、今にも消えてしまいそうな少女が一人いるだけだった。
蜘蛛は何も言うことができず、そのまま立ち尽くしていた。

その後しばらく経つとロゼも落ち着いてきたようだ。
深呼吸して再び口を開く。

ロゼ「・・・ゴメン。どうするかはあなたの自由だもんね・・・今のは忘れて。・・・それじゃ。」
蜘蛛「ぁ。。。」

会議室へと向かうロゼを見送り、一人取り残される蜘蛛だった・・・。



王城奪還作戦の概要は以下の通りである。
反乱軍の戦力はこちらの約五倍。正面からぶつかったところで勝ち目はない。
そこでまず部隊を三つに分け、一つを囮として正面から攻撃してわざと敗走。
退却させて罠を仕掛けた場所へと敵を誘導させる。
罠を発動させて戦力を分断させた後、部隊を反転させてもう一つの部隊と挟撃する。
そしてもう一つの部隊は王家のみが知る隠し通路を使い、手薄となった王城へと突入して落とす。
・・・どの部隊も全滅の危機はある。しかしこれがもっとも効果的な作戦だ。
重要となるのが人員配置だが・・・。

ゴーエン「突入部隊は少数精鋭。囮は状況判断に優れた者。罠部隊は情報の優れた者、といったところですかな。」
酒姫「ん。突入は敵ボスの顔を知ってる人がいないとね==」
ラクチェ「うーん。。だったらゴーエンさんかぁ。。でも戦力としては、ねぇ?」
ゴーエン「んなっ!?失敬な!これでも陛下から・・・。」
ラクチェ「ハイハイ、また後でね。状況判断なら酒姫さんでしょう。情報伝達ならリエルさん・・・かな?」
ゴーエン「猫に部隊を任せるというのかっ!?そんなことはできんぞっ!!」
酒姫「んじゃオッサンもついて行きなよ== となると必然的に突入はラクチェさんだな==b」
ラクチェ「いいけど・・・私、ボスの顔知らないよ?敵を全滅させるわけにもいかないしね。。」
ロゼ「私が行くわ。」
一同「・・・なっ!?」

思いもよらぬ一言に誰もが驚愕した。
戦場に、しかも敵の本陣の真っ只中に戦いの心得もない者が行くなど自殺行為である。
皆も必死に反対する(特にゴーエン)が、彼女は凛とした声で言葉を返した。

ロゼ「自分に関係することで誰かに任せっきりにするのは嫌なの。自分に何かできるのなら・・・やるわ。」

反対意見はもう出ることはなかった。
しかし王女が突入部隊に入るということで若干動きにくくなることも確か。
いかにラクチェでも一人でロゼを守りながら戦うというのは厳しかった。

ラクチェ「せめてもう一人いればいいんだけど・・・仕方ないか。」
ロゼ「ゴメンね。私が強ければ・・・。」
ラクチェ「いいのいいのwなんとかするから、気にしないで♪」
酒姫「ラクチェさんなら相手が劉備三兄弟でも引けを取らないから大丈夫==b」
ラクチェ「私は呂布かっ!?Σ( ̄□ ̄;)・・・いや、でも今ならいけるかも。。(ぁ」
ロゼ「・・・?何かわからないけど、ヨロシクねw」

現実世界のネタについて来れるはずもなく、軽く流される。
ともかくこの場は明るくなったようだ。
気合十分、作戦決行は三日後の陽が落ちてから。
それまで一同は準備に取り掛かる。


そして運命の時は来た。

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