月下美人の語り草

月下美人の語り草

その瞳に映るものは・・・ 第23話


まず目に映ったのは神々を模した大きな石像だった。
自然を司る神々らしく、様々な精霊を従え包み込むような穏やかな表情をしている。
信仰心のないラクチェだが、もし現在の状況を神々が見ているならきっと悲しんでいることだろう、と思った。
隣をみればロゼも哀しい眼で石像を見ていた。
そんな彼女の気を紛らわすため、明るい声で話しかけた。

ラクチェ「それにしても、この剣すっごいねーwどんどん力が湧いてくるような気がするよ♪」
ロゼ「あぁその魔力剣ね、昔お父様が旅してた時に見つけたんだってwなんでも持つ人によっては凄い力を発揮できるらしいよ?」
ラクチェ「ふぅん・・・属性付きの武器みたいなもんかな。。」
ロゼ「お父様の剣なんだけど私には使えなかったし、それラクチェにあげるよw」
ラクチェ「えッ!?だ・・だってこれお父さんの形見ってことになるんじゃ・・・。」
ロゼ「いくら形見だって持ってるだけじゃ宝の持ち腐れでしょ?なら使える人に渡した方が効率的じゃない?w」
ラクチェ「そりゃぁ・・・そうだけど。。」

言い淀むラクチェにロゼは笑って『それにね・・・』と続ける。

ロゼ「どんな大事な形見であれ、お父様が大好きだったこの国にはかなわないよ。それを取り戻してくれようとする人にだったら渡してもいいかなって。。恩返しってわけじゃないけどねw」
ラクチェ「・・・・・ロゼ・・・。」

『にはは・・・w』と笑うロゼの言葉に胸が熱くなるのを感じた。
こういうところが人を惹きつけるのだな。
きっと良い国主となることだろう。
(その為にもこの戦い・・・負けるわけにはいかない。)
ラクチェは固く決意したのだった。

ラクチェ「わかった。それじゃあこの剣でこの国を取り戻してみせるよw」

ロゼはその言葉に満面の笑みで答えた。

ラクチェ「そういえばロゼ。護身術ができるみたいだけど・・・奴らと戦える?」
ロゼ「・・・ダメだと思う。兵士とかならなんとかなるんだけど・・・ウェイブにはとても太刀打ちできない。。」
ラクチェ「そっか・・・。酒姫さんと互角以上に渡り合うような奴だもんね。。」
ロゼ「でも・・・それよりも恐ろしいのが、あの黒衣の男。。アイツは・・・人間じゃないもの。。」
ラクチェ「人間じゃない・・・?その話し振りだと・・・比喩なんかじゃなさそうだね?」
ロゼ「うん・・・。まったく攻撃が通じない。。まるで幻でも見てるかのようだった。。」
ラクチェ「攻撃が通じない・・・?そんなことって・・・。」
ロゼ「わからない。。全然手応えがなかったから・・・。」

城が落ちた時のことを思い出したのか、表情が一転。顔に恐怖が浮かび震えた。

ラクチェ「・・・そいつの正体が何者でも、ここまで来た以上引き返すわけにはいかない。。」
ロゼ「・・・そうね。行きましょう。」

その言葉に戸惑いつつも、今成すべき事を口にする。
手元の剣を握り直し、再び神々の石像に目を向け祈る。
どうか敵を打ち破る力を、と。



扉が開く。
やはり謁見の間というだけあって玉座が厳かな存在感を出している。
お香でも焚いているのだろうか、微かに甘く不思議な匂いが鼻をくすぐる。
少し前であれば様々な将軍や文官が立ち並び、重苦しい重圧の中謁見を許されていたであろう。
しかし今は立ち並ぶ者はおらず、謁見を許す者もいない。
・・・いや、唯一それを可能にする者といえば、今目の前にいる男のみ。

ロゼ「お久しぶりね。・・・騎士ウェイブ・フォーレスト。」
ウェイブ「僅かな側近のみでよくぞここまで辿り着かれました。・・・ロゼッタ姫。」

かつては王女と騎士という主従関係にあった二人。
何の因果か守り守られる立場から命の駆け引きをする関係へとなってしまった。
お互いの眼には哀しみが宿っている。

ロゼ「全てを話してもらうわよ。何故こんなことになったのか。。」
ウェイブ「・・・残念ですが何も話すことはございません。どうしてもと言うのであれば・・・。」
ラクチェ「・・・『力ずくで』というわけね。。」

ラクチェの言葉に答えるように、無言で大剣を抜くウェイブ。
ロゼと親衛隊2人を下がらせつつ剣を抜く。

ラクチェ「その前に一つ聞いておきたいことがあるわ。」
ウェイブ「・・・言ってみろ。」
ラクチェ「アンタ以外に得体の知れない奴がいるって聞いたんだけど・・・そいつは逃げちゃったのかな?」
ウェイブ「・・・さてな。隠れて俺の命でも狙ってるんだろう。」
ラクチェ「・・・どういうこと?アンタ達仲間じゃないの?」
ウェイブ「質問は一つだろう?・・・そろそろ行くぞ。」
ラクチェ「・・・ケチ。」

言って構える二人。
ダンッ!!!
床を踏み潰すかのような音がしたかと思うと、ウェイブの身体はラクチェの目の前にあった。
しかしラクチェも遠くからではあるが、ウェイブの動きは先の酒姫戦で一度見ている。
つまり予想通り。慌てず騒がずある時は避け、ある時は受け流した。
だが衝撃は予想以上であった為、少々腕が痺れていた。

ラクチェ「ッこの馬鹿力っ・・・!まともに受けてたら身が持たないわね。。」

守勢は不利と悟ったか、攻勢に転じるラクチェ。
薙ぎ払うように振り抜かれる大剣を掻い潜り、下方からすくい上げるように一撃を放つ。
ギィンッ!!
しかし踏み込みが浅かったか、鎧にかすり傷を負わすことのみに留まった。
完全に避けたつもりだったのかウェイブは見切りを誤ったことに驚き、一旦距離を取ろうとする。
だがラクチェは止まらず、大きく前に跳んだ。
それと同時に一撃・・・二撃・・・三連撃を放つ!
ウェイブは一撃、二撃と大剣でなんとか凌いだが、三撃目は間に合わず左腕の鉄製の手甲で受ける。
並の剣であれば弾き返されていただろうが、ラクチェの手にあるのは属性付与の魔力剣。
手甲を切り裂き左腕に裂傷を負わした。

ウェイブ「ぐぅッッ・・・!!?」

ラクチェが更に追い打ちをかけようとしたが、咄嗟にウェイブの放った蹴りが腹部に命中し中断せざるを得なかった。
その隙にウェイブは距離を取るのに成功した。
斬られた左腕を押さえ、ラクチェの剣を凝視している。

ウェイブ「・・・そうか。その剣は陛下の・・・。」
ロゼ「そうよ。お父様があなたの本心を知りたがってるわ。」

その言葉に呼応するように、刀身を纏う淡い緑の光が輝きを増す。
それを見たウェイブはまるで苦悩してるかのような表情を見せた。
ウェイブの様子からラクチェの頭に一つの疑問が浮かび上がった。

ラクチェ「・・・本当にアンタがロゼのお父さんを殺したの?」
ウェイブ「・・・っ!?」
ラクチェ「どうもアンタがやった気がしないんだよね。。」
ロゼ「私もそう思う。・・・ウェイブ、全てを話しなさい。」
ウェイブ「・・・・・。」

しばらく沈黙を守っていたが、やがて覚悟を決め口を開いた。



かつてこの国がロゼの父、モリスン・アグ・マークノイアに治められていた頃・・・。
自然の神々を信仰する教えが国内の全てに広まっていた。
教えの最たるものは『自然と共に生きよ』というもの。
蒼き太陽の神々国は古来からこの教えに則り続いてきた。
・・・だが今は戦乱の世。
自然と共に生きるとは言っても限度がある。
この先この国が生き抜いていくには他国と交流し良い部分を取り入れることが必要だ。
・・・そう主張した者がいた。
だがモリスン王は自然を破壊してしまう可能性が高いと判断し、この進言を受諾するに至らなかった。
これで諦めるはずもなく、進言を拒否された男は反国家組織を形成。
独自に他国との交流を深め、己の計画を進めようとしていた。
流石にこれを良しとしなかった王は、ウェイブを派遣し宥めることにした。
当時ウェイブは闘神として国外にまで響き渡るほどの将軍であり、多くの民にも尊敬や憧れの念を持たれていた。
その彼ならば話を上手くまとめられるだろうと判断したのだ。
幸いその狙いは大きくは外れなかった。
彼の説得により武力による衝突は起こらず、あくまでも話し合いによる解決を望んだ。

だが話し合いは長期に渡り、お互いがピリピリした雰囲気に飲まれていた。
そんな中、いつからか組織に顔を出すようになった男がウェイブに一つ提案をした。
『王に許可を求めるのではなく、独立を宣言してはどうか』と。
なるほど。思想が分かれてしまった今、同じ国に存在するのは国の崩壊へと繋がり得る。
ならばいっそ国を分けた方が互いの為になるということか。
長期の交渉に疲れたウェイブには良案に思えた。
となれば『新たな国にも王が必要だろう』と思案していると、男は『ウェイブ以外には考えられない』と進言した。
流石にウェイブは拒否した。騎士たるもの国に忠誠を誓い、運命を共にする義務がある。
それを放棄してしまうなど、できるはずがない。
しかし男はそれを読んでいたのか、落胆の色も見せず淡々と言葉を続ける。

男『ならば今まで慕ってついてきた民を見捨ててしまうのか。それがお前の騎士の姿か。』

そう言われてしまうとウェイブには言葉を返すことができない。
様々な葛藤の中、ついにウェイブは王となることを決心する。
しかしモリスン王はそう簡単に独立を認めてはくれないだろう。
そうなると一戦を交える覚悟が必要になるが、蒼き太陽の神々国に比べて戦力は著しく劣っている。
こちらには闘神ウェイブがいるとはいえ、国にはまだ歴戦の将軍が率いる精鋭の軍隊が丸ごと残っている。
まともに戦えば敗北は確実だろう。
それを口にすると、男は他愛もないこととでも言うようにニヤリと嗤った。

男『我と契約するがいい。さすれば我が軍に一滴も血を流すことなく、国と領土を手にできることを約束しよう。』

ウェイブは『契約』という言葉が気になった。

ウェイブ『契約とはなんだ?魔族との契約のように魂でも喰らうつもりか?』
男『ククク・・・簡単なことよ。お前が【舞台】から降りないことだ。一度始まってしまえば全てのシナリオが終わるまで、自らの意思で舞台を降りることは許さぬ。」

舞台・・・とは面白い表現をしたものだ。
この男の素性はわからないが、元より王になる決心をした時から最後まで責任を取るつもりだった。
それに『一滴も血を流すことなく国と領土を手に入れる』という策にも興味があった。

男『もし契約に反することがあれば・・・お前の国が滅ぶことになる。』
ウェイブ『・・・よかろう。貴様こそ自分が吐いた言葉を忘れるなよ・・・。』

そしてウェイブは黒衣の男と・・・契約を交わした。


その翌月・・・ウェイブは独立を宣言した。
もちろんモリスン王を始め、諸侯は怒りを露わにしてウェイブに王城へ出頭を命じた。
ウェイブは命令通り王城へと出向いた。
殺気に満ちた視線の中、彼は淡々と説明する。
しかし思った通り理解される様子もない。
次々と罵倒され永遠に続くかと思った矢先、モリスン王がよく通る声で問いかけた。

モリスン『それは本当にそなたの考えか』
ウェイブ『はい』

それが互いの為と、迷わず肯定する。
しばらく思案した後、再び王が口を開く・・・いや、開こうとした。
その瞬間地響きが起こり、それと共に城内が騒がしくなった。
何事かと騒然となる諸侯。
突然謁見の間の扉が開かれ、慌しく衛兵が駆け込んできた。

衛兵『何者かが群れを成して王城に押し寄せてきました!既に城内に侵入されております!』

その言葉に動揺が走った。
あまりにも突然に、しかもこのタイミングで・・・。
誰かがウェイブの策略だ、と叫んだ。
ウェイブ自身その覚えはないが・・・否定はできなかった。
あの時黒衣の男は『我が軍には一滴も血を流すことなく』と言った。

ウェイブ『・・・【我が軍には】だと?』

(では・・・蒼き太陽の神々国の軍には・・・どうなのだ?)
黙ったまま否定しないウェイブをもはや敵と認知したか、将軍らは攻撃を仕掛けた!
そのまま斬られるわけにはいかない。ウェイブは仕方なしに応戦する。
本気で戦うわけにもいかず一体どうしたものかと頭を悩ませていると、背後に多数の気配が近づいてくるのを感じた。
『囲まれたか!?』と思ったが、その気配の主は将軍らに襲い掛かった。
よく見てみれば城の衛兵のようだが・・・目つきが尋常ではない。何か術でもかけられたか?

黒衣の男『おやおや・・・何をしている?せっかくのチャンスではないか。呆けている暇はないぞ?』

振り向いてみれば黒衣の男が立っていた。

ウェイブ『・・・この兵達はなんだ!?一体どういうつもりだ!?』
黒衣の男『何を憤っているのだ?お前との契約通り国と領土を手に入れようとしているだけだが?』
ウェイブ『なっ・・・!?どういうことだ!?俺は独立を求めたのだ!国の乗っ取りではないッ!!』
黒衣の男『ククク・・・この方が早いではないか。。国も領土も手にできる。反論する者も掃討できる。言うことなしだろう?』
ウェイブ『違う!俺はそんなものを望んではいない!!今すぐ止めさせろ!!』
黒衣の男『クク・・もう遅い。既に舞台は始まったのだ・・・・・む?』

見れば先ほどまで玉座にいたはずのモリスン王の姿がない。
どうやら騒ぎに乗じて避難したようだが・・・。

黒衣の男『・・・まぁ城内からは出ておるまい。さて、見つけ出して処分するとしようか。』
ウェイブ『ッ!?貴様、陛下をも手に掛けるつもりかっ!!そんなことはさせんッ!!』

素早く斬りつけるウェイブ。
ザシュッ!!!
魔力が備わる大剣がまともに脇腹を一閃する。
・・・しかし黒衣の男はまったく表情を変えない。
いや、むしろウェイブの方が渋面となっている。
それを見て黒衣の男は軽くため息をついた。

ウェイブ『バカな・・手応えが・・・。』
黒衣の男『やれやれ・・・舞台に上がったからにはシナリオを邪魔するのだけは止めてもらいたいものだな。』

言葉と共に眼を覗き込むと、ウェイブは身体がまったく動かなくなった。

黒衣の男『事が終わるまでそこで待っているがいい。』
ウェイブ『ま・・待てッ!!』

踵を返すと黒衣の男は姿を消した。
ウェイブの叫びは虚しく喧騒の中へと吸い込まれていったのだった・・・。

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: