月下美人の語り草

月下美人の語り草

その瞳に映るものは・・・ 第28話


それは絶えることのない波となって私という世界を覆い尽くす。

私は自らの存在を疑う。
世界に数多の意識が存在する中、何故に異端ともいえる自分が生まれたのか。
私は人間の存在を疑う。
己が最も優れた生物だと信じて疑わず、何故に幾つもの種族を蹂躙し同族同士でさえ争う種族が在るのか。
私は神の存在を疑う。
全てを見ている神という存在があるのなら、何故にこの状況を傍観しているというのか。

その答えがこの混乱の先にあるというのなら、私は・・・―――――




ドラッヘンバルト・・・。
7ヵ国中随一の軍事国家である。
首都のピースには世界最大の闘技場があり、常に己を鍛えることを信条とした国の特色が見られる。
普段は武将、兵士、国民、旅人など関係なく個人で参加・対戦をしているが、毎年世界各国から強者が集い国別の団体戦が行われる。
時には戦争中などの理由もあり不参加をする国もあるが、大抵は各国とも参加をする方針である。
それだけこの天真武道会というものは各国の力を誇示するのに役立ち、時には牽制の効果もあった。
もっともこの大会が開催されるのはまだ先の話であり、しかも今のドラッヘンバルトではその余裕はまったくなかった。

ラクチェ「・・・覇気がないわねー。。」
酒姫「よっぽど山賊に痛い目に合わされてるんだな==」

ロゼたちと別れて約1週間・・・少し大きめの山を越え、ようやくドラッヘンバルトの領地内にある街の一つ、ルミナスについた。
ここから首都ピースまではもう一つ山を越える必要がある。
一行は早々に宿をとり部屋で今後の動向を相談していた。
とはいえリエルは早速食べ歩きに出かけ『一人では危ないから』と蜘蛛も同行したので、話し合っているのはラクチェと酒姫だけだが。
ざっと街を見たところ露店が少なく、人の往来もあまり見られなかった。
やはり噂通り山賊が幅を利かせているのだろう。
コンコン・・・。
部屋のドアがノックされ、宿の女将が入ってきた。

女将「お客さん、タオルはここに置いておきますからね。」
ラクチェ「あ、ありがとうございます。もう汗でベトベト~・・・。」
女将「遠くから来られたんですか?旅は大変でしたでしょう。。」
酒姫「まぁ人探しを兼ねた旅行みたいなモンですよ==b」
女将「人探し・・・ですか。」
ラクチェ「えぇ。女将さん、異世界から来たっていう人の噂って聞いたことあります?」
女将「・・・っ!?い、いえ・・聞いたことありませんね。。」
酒姫「・・・?==」
女将「そ、それでは私は仕事がありますのでこれで・・・。ごゆっくりどうぞ。。」

そそくさと部屋から出て行く女将。
その反応の不可解さに二人は顔を見合わせる。

酒姫「・・・なんか知ってるね、アレ。==」
ラクチェ「・・・うん、怪しいね。。」

女将の態度に不審を抱きつつもあえて突っ込まず見送った。

ラクチェ「さて、と・・・これからどうしましょうかねぇ?」
酒姫「とりあえず決まった目的地があるわけじゃないし、情報集めてみないことにはね==」
ラクチェ「そうですね。。今の反応も気になるし・・・。」
酒姫「直接聞いてもいいんだけど、あんまし良い反応じゃなかったからなぁ・・・==;」
ラクチェ「女将さんに聞いても答えてくれそうにない、か。。」
酒姫「うん。それじゃ行こうか==」
ラクチェ「えっ?どこに・・・??」
酒姫「情報の集まる場所。酒場さ==w」
ラクチェ「・・・本当はただ呑みたいだけでしょ?」
酒姫「そうとも言う==b」

澄ました顔をして颯爽と部屋を出て行く酒姫。
ラクチェは苦笑して後を追っていった。



リエル「にゃはーw並ばずに買い食いできるなんて最高にゃあ~♪」

ルミナスはドラッヘンバルトでもピースに次ぐ程栄えている街である。
人口もそれなりに多く、武器や防具、装飾品を扱う店には強力なものが並んでいた。
・・・それも山賊が現れる前までの話だが。
度々姿を現す山賊が強奪していく為、街は荒れていく一方・・・。
市場も開店はしているが当然客足は少ない。

蜘蛛「・・・ねぇリエルさん。。山賊が出てこないうちに戻ろうよ~。。」
リエル「まだまだにゃあ!今日はここの通りを制覇するまで戻らないにゃあっ!」
蜘蛛「この通りを制覇って。。(汗)」

ざっと見て食べ物屋だけで10軒以上はあるだろうか。
ウンザリしながらトボトボと後を付いていく。
通りには国の状態を表すかのような強い風が吹き荒れ、紺色のマフラーが激しく踊る。
風に撒き散らされた砂埃が目に入り涙を流して目を擦っていると、ふと風に乗って何かの声が聞こえた。
一瞬迷うが好奇心に負けて声の主を辿ると、店と店の路地を通り抜けたところにある小さな空き地に行き着いた。
ここまで来ると声は言い争うようなものだと気付く。
こっそり様子をみると小柄な女の子が一人、3人のゴロツキに囲まれていた。
女の子の方は黒髪だが、ラクチェと違い背中まで長く伸びている。
動きやすそうな胸当てを身に着けており、腰には護身用だろうか、短刀が差してある。
大人しそうな顔つきをしているが、今はゴロツキたちを睨み付けていた。
一方ゴロツキはみな厳つい体つきをしており、顔もやっぱり悪そうな感じ。

蜘蛛「ひょっとして。。あれが山賊なのかな?・・・やっぱり助けた方がいいんだよね。。(汗)」

聞こえないように一人呟いて、しばらく迷っていたが意を決して飛び出していく。
ゴロツキたちは突然の乱入者に驚き、一斉に振り向いた。

蜘蛛「あ。。あのー・・・女の子に乱暴は良くない。。と思うんですけどー。。」
女「・・・・・?」
ゴロツキ1「あぁ!?なんでぇテメェは!?」
ゴロツキ2「邪魔すんな!引っ込んでやがれ!!」
蜘蛛「うわぁっ!?」

有無を言わさず飛び掛ってくるゴロツキ共。
悲鳴を上げつつも、ゴロツキごときに遅れをとる蜘蛛ではなかった。
ゴロツキの剣をかわして膝蹴りを鳩尾に叩き込む。
もう一人の剣を受け流しつつ、肘でアゴを捉え撃沈させる。
残った一人を足払いでバランスを崩すとアッパー気味の正拳で打ち倒した。
あっという間にゴロツキを倒してしまった蜘蛛を、女の子は呆然と見ていた。

蜘蛛「あの。。大丈夫だった?」
女「・・・・・。」
蜘蛛「あ、あれ。。。??(汗)」

女の子の無反応に思わず困惑する蜘蛛。
すると女の子は急に表情を曇らせて大きくため息をついた。

女「・・・はぁ~あ。。こんなどこぞとも知れない兄ちゃんにやられるとは。。情けないにも程があるよ。。」
ゴロツキ1「うぅ・・・面目ねぇです、姐御。。」
蜘蛛「ぇ。。えぇ。。。??」

まったく状況が掴めない蜘蛛。
女の子は構わず指を鳴らしながら蜘蛛に近づいてくる。

女「いきなり乱入したかと思えば人の手下をボコボコにしやがって・・・いい度胸してんじゃねーか。」
蜘蛛「えぇっ!!?」

大人しそうな顔つきとは裏腹に男のような口調で詰め寄る女の子。
その表情は怒りに加えて、退屈を紛らわせることの楽しさが混じっているように見えた。

女「その度胸に免じて殺さないでおいてやる。痛い目にはあってもらうがな。」
蜘蛛「ちょ。。待っ。。。!?(泣)」

女の子の拳が唸りを上げ的確に蜘蛛の鳩尾を強打、屈んだところを掌底でアゴ先を打ち上げる。
悲鳴すら上げる暇なく崩れ落ち、マフラーが落ちる。
気が抜けていた蜘蛛は為す術もなく意識を失った・・・。

女「・・・ふん。アジトへ帰るぞ。。そいつも持っていきな。処遇については後で考える。」
ゴロツキ1「へい、姐御。」

蜘蛛は意識がないままゴロツキに抱え上げられ、女の子と共に空き地から姿を消した。
地に落ちた紺色のマフラーだけが空き地に残され、ここでの出来事を物語っていた。



リエル「・・・ハッ!?」

蜘蛛が拉致されていた頃・・・リエルはというと。。

リエル「・・・・・やっぱりあそこの肉まんが旨かったからもう一回食べにいくにゃあっ!!」

やっぱり食べ歩いていた。

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