月下美人の語り草

月下美人の語り草

その瞳に映るものは・・・ 第30話


番兵「だぁっ!!!喧しいっ!騒ぐなっ!!!」

鉄格子に噛り付いて牢の番兵に吼えるラクチェ。
暴れる彼女をようやく牢に入れた番兵は迷惑そうな顔をしながら彼女に吼え返していた。

番兵「まったく・・・厄介な奴の監視をすることになったもんだぜ。。」

悪態をつきながら兵の控え室へと去っていく。
ラクチェはその様子を見ながら尚も文句を言ってやろうと大きく息を吸い込んだ。
・・・しかしその時後ろから声がかかった。

酒姫「その辺にしときなよ。疲れるだけだよ?==」
ラクチェ「だってさぁっ!!こんなの冤罪もいいとこじゃないっ!?」
酒姫「ま、なんとかなるさ==b」
ラクチェ「そんな気楽な・・・。それともなんか余裕ありげだけど・・・策でもあるの?」
酒姫「いや別に?==」
ラクチェ「っておいっ!!」
酒姫「まぁいざとなったら脱走すりゃいいだけさ==w」
ラクチェ「・・・脱走って。。」
男「フン・・・そんな大声で話すとは随分大胆な作戦会議だな。」
ラクチェ「・・・え?」

誰かが控え室の方向から歩いてきたようだ。
牢内は薄暗く隅々まで明かりが届いていない。
そのせいで十歩も離れないうちに闇へと包まれてしまう。
声の主も数歩先まで来て、ようやくその正体に気付いたのである。
深紅に染まった燃えるような紅く長い髪。
残酷な光が宿った凍えるような両眼。
酒場に突入してきたドラッヘンバルト軍を指揮していた男であった。

ラクチェ「アンタはあの時の・・・!?」
男「・・・ここから出たいか?」
ラクチェ「当ったり前でしょ!?無実でこんなところに閉じ込められちゃたまんないわよっ!!」
男「誰も貴様等を山賊の仲間だとは言っていない。だが山賊共と一緒になって酒場で暴れたのは事実だ。」
ラクチェ「う゛っ・・・!?」
男「領内で暴れた輩を牢にぶち込むのは当たり前だろう?」
ラクチェ「で、でもそれには理由が・・・ッ!!」
男「異世界から来た者を捜している・・・か?」
ラクチェ「ッ!?何故それを・・・。」
男「酒場の主人が聞いていた。そこの娘が山賊共に尋ねていたとな。」
酒姫「・・・・・。」

視線だけを酒姫に向ける。
口元はニヤついているが、その眼は笑ってはいない。
全てを読み取ろうと鋭く光っていた。

男「吐け。貴様等はそいつとどんな関係だ。」
ラクチェ「(・・・仲間だなんて言ったら山賊だと思われて処刑されそうだなぁ。。どう誤魔化そうか。。)」
酒姫「仲間よ。」
ラクチェ「言っちゃったよオイッ!?」

即座に言い放つ酒姫の言葉にラクチェは驚いた。
反対に男は面白そうに片眉を上げ酒姫を見る。

男「そんな正直に答えたら処刑されるとは考えないのか?」
酒姫「別に。そんときゃ力ずくでも抵抗するけどね==」
男「・・・フッ・・まぁいいだろう。ならば使い道もある。」

男は持っていた鍵で牢の錠を外した。
キィィ・・・
錆付いた鉄格子が甲高い音を立てて開いた。

男「ついて来い。」

男は言い捨てて返事も待たず歩き出す。
二人は顔を見合わせ、牢を出た。



二人が男に連れられて辿りついた先は一つの執務室のような部屋だった。
そこにはこの部屋の主であろうか、一人の男が椅子に腰掛けて待っていた。
見た目はまだ若く、20代半ばといったところだろう。
肩までの長さの金髪でこざっぱりとした服装が品位を感じさせる。
眼鏡をかけ温和な表情をしており、いかにも文官らしい男であった。

眼鏡男「やぁどうも。わざわざ来ていただいてすみませんねぇ。」
ラクチェ「・・・アンタ誰よ。」
眼鏡男「あれ?そこの目つき悪いのから何も聞いてませんか?」
ラクチェ「聞いてないどころか、自己紹介すらされてないけどね。」
男「フン・・・必要ない。」
眼鏡男「やれやれ・・・まったく君という奴は・・・。」

困ったような物言いだが、咎めるようなものではなく諦めが混じっている。
細かいことを気にしない性格なのか、すぐに気を取り直して笑顔で話し始める。

眼鏡男「それではまずは自己紹介させて頂きましょうか。私はキース・アグニットと申します。そっちはサキオス・クレメント。」
酒姫「ドラッヘンバルトの名参謀と血煙の将軍が私たちに何の用?==」
眼鏡男改めキース「いえいえ・・大した用事ではないんですが、一つエリュシオンの名軍師殿にお願いがありましてねぇ。。」

キースは既に酒姫の事を調べ尽くしているのか、肩書きで呼んだ。
人が好さそうな顔をしているが、抜け目のない男のようだ。
ラクチェは二人の間にある妙な緊張感に押されて話に混ざれずに様子を見ていた。
『それにしても血煙の将軍って・・・』と目線をサキオスへと向ける。
血のように紅く長い髪、一分の隙もない身のこなし。
見ているだけで背筋が凍りそうな眼。
おそらく一度戦場へと赴けば容赦なく敵を斬り捨てるだろう。
いや、下手をすれば味方すらも・・・。
名は体を表すというが、確かに・・・。

ラクチェ「・・・・・っぽい。。」
サキオス「・・・・・。」

思わず呟いた彼女をサキオスは黙って睨み付けただけで何も言わなかった。

ラクチェ「(そういえば山賊の話・・・『姐御』ってのが異世界から来たって言ってたな。。)」

姐御というからには女なのだろう。
しかしラクチェにはラグナロクのドラッヘンバルトに所属する女性プレイヤーに知り合いはいなかった。
先程の山賊の様子から考えても縛り上げたところで口を割りそうもないし、やはり本拠地へと乗り込むしかなさそうだ。

ラクチェ「(しっかし山賊から姐御呼ばわりか。。とんでもない人だわねぇ。。)」

感心半分呆れ半分で苦笑してしまう。
そのくらいやってのけそうな男達なら知ってはいるが・・・。
クックッと声を殺して笑っている彼女に突然声がかかった。

酒姫「楽しそうなところ悪いんだけど、そろそろ行くよ==」
ラクチェ「へ?・・・ぇ、あ・・・あれ?」
キース「そちらのお嬢さんもよろしくお願いしますね。」
ラクチェ「ぇ・・・えぇ?」

考え事をしている間に話は終わったようで、酒姫はラクチェの首根っこを掴んで部屋を退室していく。
状況を把握できていないラクチェは、にこやかに言うキースを見ながら引きずられていった。

ラクチェ「ちょ・・・ちょっと酒姫さん!一体どういうことっ!?」
酒姫「聞いてなかったの?==」
ラクチェ「ぇ、や、そのー・・・ちょっと考え事をー・・・あははw」
酒姫「まぁよーするに囮になれってことかな。==」
ラクチェ「囮・・・って。。何の?」
酒姫「山賊を誘き出す為の==b」

ラクチェの問いに酒姫は涼やかに答えたのだった。



気付けば見知らぬ場所に放り込まれていた。

蜘蛛「ここ。。どこ?」

寝起きの頭で事態を理解することもできず、ただボーっと辺りを見回した。
どうやらどこかの小部屋にいるらしい。
魔力による照明に照らされた部屋には自分以外何もない。
ただ入口と思われる扉と小さな窓しかなかった。
窓から外を覗こうとして、初めて気付いた。

蜘蛛「縛られてる。。(汗)」

蜘蛛は両手両足を縄で固く縛られ、立ち上がることすら困難な状況にあった。
しばらく呆然としていると、部屋の外で騒がしく足音が鳴り響いた。
蜘蛛が我に返ったと同時に扉が開き、何者かが数人姿を現した。

老人「・・・ん?なんだ、起きてるじゃん。」
蜘蛛「えと。。。(汗)」

拍子抜けしたような面持ちで言い放ったのは、この中のリーダーらしき白い髭を蓄えた老人。
見た目は70歳前後に見えるが言動は若々しく、若者のそれと変わらない。
体格は大柄というわけではないが、頼りない印象はまったく受けない。
困惑している蜘蛛を面白そうに観察している。

老人「変なヤツを拾ったと聞いて来てみれば・・・いまいちパッとしねぇなw」
蜘蛛「ほっといて下さい。。(泣)」
老人「あっはっはwまぁそうイジけるなって。ホントのことなんだからwww」

そう言って笑う。
フォローになっていない。
蜘蛛はそう思ったが、それについては反論せず気になっていることを口にした。

蜘蛛「あの。。あなた達は何なんですか?なんで僕縛られてるんですか?(汗)」
老人「ん?あー・・・そうだな。。俺たちはとある悪魔信仰の教団で、お前はこれから悪魔への生贄になるのさっ♪」
蜘蛛「いっ。。生贄ぇっ!!??(滝汗)」

驚愕する蜘蛛を見て一同大爆笑。
部屋に響き渡る笑い声と対照に、蜘蛛は己の不運を呪い絶望に打ちひしがれた。
腹を抱えて笑っていた男たちの一人が目に涙を浮かべながら、老人に向けて口を開いた。

男「ヒャヒャヒャwwちょっと副長、冗談はそれくらいにして下さいよwwコイツ本気になってますぜwww」
老人「クククw仕方ねぇなぁ・・・これくらいにしといてやるかwww」
蜘蛛「ふぇ。。。??(泣)」

ひとしきり笑った後、老人は悪戯っぽい顔で言った。

老人「俺らは・・・まぁ山賊みたいなもんだ。お前を縛ってるのはウチの大将の命令だw」
蜘蛛「山賊。。大将って。。」
老人「覚えてねぇか?何でも話をしている最中に乱入してきて、大将に張り倒されたそうだなw」
蜘蛛「あ。。。」

悪魔信仰教団と山賊・・・別に事態は好転しているわけではないのだが、蜘蛛はとりあえず落ちついた。
言われた言葉に意識を失う前の記憶が蘇る。
一見大人しそうな少女が浮かべる不敵な笑み。。

老人「まぁそういうことだ。大将が呼んでるからついて来な。」
蜘蛛「でも縄が。。。(汗)」
老人「そんなもん気合でなんとかしろw」
蜘蛛「んな無茶なっ!?(泣)」

余裕で置いていく老人を涙目で見返しながら泣き叫んだ。
流石に見かねたのか、男のうち一人がため息をつき蜘蛛を担ぎあげて老人の後を追っていった。

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