Rin's

Rin's

アメリカが見える女子寮。


アメリカの横須賀米軍基地の隣に、私の通う短大はあった。
私は女子寮に入っていたのだが、その女子寮は基地と金網フェンス一枚隔てただけの所にある。
金網は金網でも普通の金網ではない、これは国境だ。
いたずらに侵入でもしたら間違い無く銃を持った米軍兵に確保される。
水道水だって違う。アメリカの水には虫歯予防の為フッ素が添加されている。
そんな日本とアメリカの国境近くで私は2年暮した。

寮は校舎側とアメリカ側に部屋があり、1年の時は校舎側だったが2年になりアメリカ側に移動した。
アメリカ側はとにかくウルサイ。
朝は6時頃必ずアメリカ国歌と君が代が流れて来るので、起きたくなくても起きてしまう。
仕方なく起きてカーテンを開けると、アメリカンが「ヘ~イ!グッモ~~ニ~~~~ン!」と陽気に声をかけてくる。
力なく手を振るのが精一杯だ。奴らはテンションが高すぎる。

たまの休講で朝寝坊できる貴重な日も、奴らのテンションは止まらない。
フルメタルジャケットの映画ばりに、軍靴を鳴らして歌いながらランニングする。
声がでかい、足音がでかい、とにかく迷惑なのだが石でも投げたら銃弾になって返って来そうで怖い。

怖いといえば、私が寮に入る数年前に寮に米軍の男が侵入した事があるらしい。
夜眠っていた301号室の人は何やら人の気配で目が覚めたらしい。
2段ベッドの上段で寝ていたその人の目に飛び込んで来たモノは、両手をベッドにかけ覗き込んでいる黒人の男だったという。
幽霊が出る方がまだマシだと思った。
日本側からアメリカ側に入るより、逆の方が明らかに簡単なのだ。
そんな所に何故女子寮を・・・理解に苦しむ。

寮での洗濯は屋上の洗濯機置き場で行う。
屋上の洗濯物干し場は広く、海も見える。
天気の良い日の洗濯はまさに気分も晴れ晴れ、心も洗濯という按配だった。
だが、そんな憩いの場にもアメリカの魔の手は忍び寄る。

青い空、白い洗濯物、心地良い風、そして空母。

・・・シュールな絵である。
空母やら原子力潜水艦などが、横須賀基地には良くやって来るのだ。
そして間違い無く核を搭載している。
核のすぐ隣で眠ったり、勉強したり、お茶飲んで笑ったりしていたと思うと複雑な青春の1ページだ。

今でも、この女子寮あるとか無いとか・・・。

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