喧嘩の理由～カマンベールチーズ編～
美味しければ何であっても遠慮なく食べる。
ただしまずくても「もったいないお化けが出る」
と言って食べてしまうので肉付きがよくなる。
二〇〇三年の夏。
羊さんとうれしはずかし同棲生活４０日。
前半はトイレ以外つきっきりのべったり生活だったが
後半は彼は働かなければならなかった。
さとっきーな、羊さんが帰ってくるまで退屈である。
私が暇をもてあますと思って心配していた羊さん。
「本当に退屈しない？」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ。
私日本でもいつも一人遊びしているから。」
むしろひとりでパソコンがいじれたり、
台所がいじれることが嬉しくもあった。
ひとりでドイツの町も歩きたかったし、
買物だって、
「無駄使いしちゃ駄目」
って余計なこと言う人（羊さん）無しにしてみたかった。
合鍵もあるし、さて何をしようかなと
やや興奮気味の私。
とりあえずスーパーに行って、今夜の食材でも
さっさと買って、ご飯作ってあげようと思った。
心優しい私。
ドイツのスーパーなんていつも羊さんと一緒に
来てたけど、彼はいつも必要なものだけとって
嵐のように去っていくから私がのんびり
物色する時間なんて無かった。
羊さんが居ない。
私は自由なのだ！
ふと足を止めたチーズコーナー。
ゴウダチーズでも買ってグラタンにのせようかしら・・
と若奥様気分のさとっきーなの目に映ったのは・・
ゴウダチーズではなく、
カマンベールチーズ。
しかも私が日本に居た頃からのお気に入りのもの。
ここを参照してください。
これは買うしかない。
買わなければいけない。
買わなければ女じゃない。
そう思った私、即断で購入しました。
夜ご飯は適当にスパゲッティでいいやと
この時点で思った私。
家に帰った私は、羊さんが帰ってくるのが待ち遠しかった。
こんなに美味しいものを見つけた私を
きっと彼は褒めてくれるに違いない！
「ハロー」
と言いながら帰ってきた羊さん。
今のソファーでねっころがりながら
「ハロー」
と返事する横着な私。
「今日は何かいいことあった？」
と聞かれ、笑いの止まらない私。
「むふ、くふ、えへ、あったあった！」
「何があったの？何をしたの？」
「スーパーに行ったんだけれどね・・
いいもの発見しちゃったんだ～！」
冷蔵庫まで小走りし、ブツをとりに行く私。
「じゃ、じゃーん！」
「え？あ、カマンベールか。」
ｴ??>
何なの、この反応は？
と予想外の反応に戸惑うさとっきーな。
あれ？褒め言葉は？
でかした！とか、言ってくれないの？
うちのお父さんなら、
「よし、食うぞ！」
って言って即食べだすけど？？？
「おいし～～～～～～ﾖﾈ?｣
「ボクあんまり好きじゃないんだよね。」
「ええ？！なんでなんでなんで？」
「なんでって・・好きじゃないんだよ。」
「でもあなたヨーロッパ人よね？！
ほら、ヨーロッパ人てチーズにワインでしょ？
あれはフランス人だけなの？
カマンベールがフランスだから？？」
「何もヨーロッパ人みんながチーズ好きなわけじゃないよ。
君、好きなら食べればいいじゃないか。」
期待はずれ・・・
とちょっと悲しくなったさとっきーな・・・。
ひとりでカマンベールを食べ始めました。
「あ～おいしい！」
とちょっと誇張して見せれば羊さんも
「一口ちょうだい」
なんていいだすかもしれないわと思ってたけど・・
無反応。
再び挑戦する私。
でも、
無反応。
その無反応がむかついて、
「一口だけあげるね！」
と大きなお世話をしだした私。
「いいよ、どうもありがとう」
断る羊さん。
「遠慮しないで！美味しいから、ね！」
しつこい私。
これが数回続き、また悲しくなった私。
「ひどい・・・ひどい・・・
カマンベールってフランスでしょ？
ヨーロッパのものでしょ？
それなのに食べられないの？
私たち、共通点何も無いのね！
何もかも違うんだわ・・・。
やっぱりあなたとは一緒に居られない！！！！」
「フランスだろうと中国だろうと好きじゃないものはあるんだよ。
ボクはチーズをそんなに好んで食べないんだよ。
ボクたち共通点たくさんあるじゃないか。」
「でも私とカマンベールは食べられないじゃない！」
「他のもの食べればいいじゃないか。」
「でもカマンベールって特別よ！」
「たかが食べ物じゃないか。」
「また“たかが”って言った！！
たかが食べ物じゃないのよ！私にとって食は重要問題よ！
文化よ！食べ物は文化なのよ！
やっぱ私たちって一緒にいちゃいけない運命なんだわ、
うわーー！」
私は軽く 海原雄山 。
いや、彼はもっと心が広いだろう。
泣き出す私。
戸惑う羊さん。
「わかったよ、じゃ小さなかけらだけ食べるよ。」
「無理矢理食べてもらっても嬉しくないよ、バカー！！！！」
気に入らないことがあると、
すぐに寝室に逃げる私。
それを心配して追いかけてくる羊さん。
だんまり作戦の私。
そばで戸惑う羊さん。
結局数時間後には和解し、
仲良くスパゲッティを一緒に作り
食べる私たちだった。
こうして本来ならば何か他のことをして
有意義な時間を過ごせるはずなのに
いつもくだらないことで喧嘩をして
寝る時間が訪れてしまう、このバカップル。
次は何の食べ物で喧嘩をするのだろうか。
乞うご期待。
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