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カテゴリ: 【滝が~】 関連
*****

 夜空に燈る灯は 彼方に揺らめいて
 月も 星も 未だ堕ちず
 そこにあるという 真実
 夢はゆめ
 時はただ……

 ……ふっと、歌声が途切れて、リノスはゆっくりと俺を振り返った。
「――――ハル」

「これを……」
 リノスは自分の首にかけてあったものを外した。
 それは青い色の宝石を、皮ひもで結んだものだった。
「――――これは?」
 リノスはそれを差し出して、俺に言った。
「――――きっと、ハルの役に立つと思う」
「けど、たいせつなものなんじゃ……」
 リノスがずっと身に着けていた青い宝石。一人の時にも、共にあっただいじなものなんだろうに。
 リノスはゆっくりと首を横にふった。
「わたしには、もう必要がない」
「必要……ないって」

 何を言われているのかわからない。
「なに言って……」
「ハルは風の……時間の記憶を継いでいる」
「そんなもの――――」
 リノスは戸惑う俺を、静かに見つめた。

 確かにそうだ。否定できない。呆然としていると、リノスが言った。
「…………でも、なにか――――」
 言いかけて口をつぐんだ。
 俺はその、ほんの一瞬に見せた表情が気にかかって、なにか目に焼きついて、離れなかった。
 青い瞳が、つらいほどに、深くて、綺麗で……。
 俺はリノスのてのひらから、青い玉を受けとり、自分の首にかけた。
「ハル」
 リノスははっきりと、俺の名を呼んだ。
「ここはおそらく、時の狭間。あなたの時間も、わたしの時間も、ここでは止まったまま――ここにいる限り、あなたの時間は進まない」
 急にすらすらと話すリノスに驚きながら、俺は何も考えられなくなった。
「ここにいては――――ハルのたいせつなひとは見つからない」
 理解しつくすことが出来ない俺に、リノスは、はっきりとそう言った。
「…………そうだな」
 リノスは左手を空に向けて、何かを描くようにした。
 呪文――――か?
「今から、ハルを外に出そうと……思う。あなたは、ここにいるべきでは、ない。ここは……わたしのような者にこそ相応しい」
「リノス……? ――――おまえ」
 まさか……まさか。こいつ一人でここに残る気なのか――――?
「ハル……レムリアという人に会って欲しい。なにかが見つかるはず。その石が、導いてくれるから」
「俺をここから出すって、おまえは? リノスはどうするつもりで――――!」
「わたしは――――」
 印を描いていたリノスの指が止まった。そして目を閉じて、静かに言う。
「わたしはここに残る」
「莫迦いうな!! ――――ここにいる限り時間は進まないって、そう言ったのは自分だろう? なんで……? なんでそんな」
「わたしが外に出ても、時間は無駄に進むだけ。だったら、自分の時間を止めて、流れていく時代を見守ることが許されるのなら……こうして、日の光を受け、風に吹かれて、緑に包まれて生きていけるのなら……そうしたいと願うのは……我侭だろうか?」
 瞳を潤ませながら、消え入りそうにリノスは言った。
「リノス――――」
「疲れてしまった……。もうわたしのそばには、誰もいない。だけど……それでもここは……風が吹いている」
 言って薄く笑うリノスがあまりにも儚くて、危うくて、言いようの無いほどせつなくて。
「リノス……俺」
「みんないなくなってしまった……わたしが招き……また……望んだことだけれど」
 俺はリノスを無言で抱きしめた。その目を見ていられない。涙をためていたときよりもずっと深い悲しみを湛えているような気がした。
「……自分が、泣けるなんて思わなかった。涙を流したことはあっても、あんなふうに声をあげてないたことなんて無かった」
「……俺には」
 声が震える。
「俺には、今のおまえの方が……よほど哭いているように見える」
「では……わたしは……今までずっと、泣き続けていたのだろうか」
 抱きしめる腕が、手が、リノスの存在を確かめるようにその背を包んだ。
「…………そばに、いる」
 リノスは驚いたように顔を上げた。
「ずっと、おまえのそばにいる。気のすむまで、泣いていい。もう……それ以上……」
「ハル……」
 リノスは悲しげに微笑んだ。
「ハル、あなたのすべてを失わせて、ここにとどめることなど出来ない」
 俺はどうしたらいいのかわからなかった。頭を左右にうちふって、うなだれることしか出来なかった。
「あなたは、失ってはいけない。たいせつなひとのことを」
「…………あ」
「名前を呼んで、強く抱いてくれた。そばにいてくれると言った。もう……それだけでいい」
 リノスは俺の髪に、頬にふれて、言った。
「それで……じゅうぶんだから」
「……い…やだ」
 否定する声が、かすれた。リノスは再び印を描き始める。
「ほんの一瞬だけ、世界を繋げる。だから、ハル」
「嫌だ!……駄目だ……俺は行かない。リノス、おまえが一緒でなければ」
「そんなことは無理」
「一緒に出よう。そして、たいせつなひと、探そう。――俺が、おまえの運命を変えてやる」
 リノスの肩をつかんで、揺さぶるようにする。でもリノスは何も言わず、黙ったまま首を横に振るだけ。
「……できない……もう、帰れない……どこにも。二度と――」
「りの……」
 リノスの名を最後まで呼ぶことは出来なかった。空に印を描くリノスの指先と、歌うような呪文が遠くに……とても遠くに感じて。
 金色の光が、ゆっくりと俺を包んでいった。意識が遠のいていくのがわかる。
 そして、そのなかで、リノスの言葉を聞いた気がした。
 『カイン』……と。

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最終更新日  2010.02.08 00:07:05
コメント(3) | コメントを書く


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~はじまりの春~ 6のこと  
777・にー  さん
今、読み返すと、ハルは子供だな……と思う。
一生懸命に生きている。若者ってすごいな。

このころ書いていた詩は、ひどいものばかりです。
本文で引用してあったものも、全文はひどいです。
書きません (*≧∀≦) かわりに……

~種子~
ありきたりの言葉であたりまえのように
わたしを縛ろうとするひとたちがいる
そうしてばらまかれていった種子は
やがて静かに根を下ろす
どんなに根を広げても
過剰な肥料を与えられても
それが尽きるまで吸収しても
けっして花はさかないのだ

ざまあみろ


…………こんな詩を書いていたよ。ひでえな、1994年。

(2010.02.08 00:21:27)

Re:滝が逆流した頃 ~はじまりの春~ 6(02/07)  
とうもろこし さん
>レムリア

レムリア水晶って、知っていたのかな?
このお話のような水晶だよ。

この詩の方がピンと来ました。

>~種子~
>ありきたりの言葉であたりまえのように
>わたしを縛ろうとするひとたちがいる

>そうしてばらまかれていった種子は
>やがて静かに根を下ろす
>どんなに根を広げても
>過剰な肥料を与えられても
>それが尽きるまで吸収しても
>けっして花はさかないのだ

ぜんぜんひどくないよ~!!!
だって、真実じゃない(笑)

>ざまあみろ

ああ、すっとします。
というこは…
本当はざまあみろと言いたいんでしょうかね(笑)

ファンより~☆☆



(2010.02.17 16:35:09)

ざまあみろ (*≧∀≦)  
777・にー  さん
さまあみろ、ですよ。ざまあみろ、思い知れ 。゚(゚^∀^゚)゚。
ほかにはこんなものが。

~ 一粒の涙 ~
濁泥の中を わたしは軽やかに渡るだろう
そっと微笑をうかべながら
それはわたしの涙の一粒が
作り出した場所なのだから

果てしなく続く悲しみの中で
せめて笑ってみせようか
それは他人には
とても笑顔には見えないのかもしれないけれど

わたしを支配する苦しみの中で
せめて歌ってみせようか
それは他人には
叫びにしか聞こえないのかもしれないけれど

こんなの。

『レムリア水晶』 知らないです。
後で検索かけようっと。

(2010.02.17 23:29:05)

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