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作者:倉麻るみ子(PN&HN) ―2006年 イタリア― ここは、とあるパン屋。 特に大繁盛でもしているわけではない、普通のパン屋。 それでも、お客は来ている。だがそれは、平均して一日に、4~5人程度来るだけである。 そこを、夫婦で経営しているのだ。 だが今、妻は妊娠中。 パンを作れる状態じゃなかった。だからこそ、夫が必死で頑張っているのだ。 妻「クウザ・・・。」 夫「エナ!何やっているんだ!寝ていろと言っただろ?」 エナ(=妻)「ごめんなさい・・・でも、クウザも疲れたでしょ?少し休んだら?」 クウザ(=夫)「そうしたいのも山々だが、これも仕事だ。止めるわけにもいかない。 それに、少しでも多くのお客が入るように、新作の美味しいパンを作らなければならないからな・・・。」 エナ「でも・・・。」 クウザ「大丈夫だ。こんな事で倒れる俺じゃない。エナはもう少し休んでいてくれ・・・。」 エナ「判ったわ。もう少し寝ているわね・・・。」 エナは、寝室のほうへと足を運んだ。 その時だった。突然エナが倒れ、苦しそうに悲鳴をあげたのだ。 クウザは、作っていたパン生地をそのままにし、すぐさま病院へと車をとばした。 クウザ「待っていろ、今病院へ連れてってやるからな・・・!!」 だが、車をとばしたのは良いのだが、運が悪い事に渋滞にはまってしまったのだ。 クウザ「くそ・・・何で今日に限って・・・急患なのに・・・!!」 エナは、さっきよりも酷く悲鳴をあげている。それを横目で心配そうに見るクウザ。 だが、良く見ると、子供の頭が見えていたのだ! クウザは、どうしたら良いのか焦った。 クウザ「(このままでは、ここで生まれてしまう!! しかし、この渋滞だ・・・どうしたらいいんだ・・・。)」 クウザは、焦りながらも考え、そしてこう、決心した。 クウザ「(仕方ない・・・ここで生ませるしかない!!)」 ちょうど道沿いの道路を走っていたので、クウザは車からおり、何故か車の中にあったバスタオルを道に敷き、そこにエナを寝かせた。 そして、こう叫ぶ。 クウザ「誰かここに、医師はいませんか!?私の妻の子が生まれそうなんです!! お願いです!!!助けてください!!!」 しかし、すぐには現れるはずもなかった。 エナの体調は、悪くなるばかりだ。 だが、クウザは何度も叫んだ。 すると・・・、 医師「私は医師です。お手伝いさせていただきましょう。」 と、一人の男性がやってきた。 クウザ「医師・・ですか!!お、お願いします!!妻が・・子供が・・・!!」 医師「判りました。落ち着いてください。まずは少し安定剤を打って置きましょう。」 そういって、急いで鞄から注射を出しエナに安定剤を打った。 エナは、少し落ち着きを取り戻す。 医師「奥さん、苦しいかもしれませんが、これを乗り切れば、子供さんと出会えますよ。」 エナ「は、はい・・・。」 医師「では、お父さん・・もう頭は出掛かっています。あとは、うまく引っ張るだけです。」 クウザ「はい。」 二人は、エナを励ましながら、その子供を引っ張り出す。 ―30分後― ようやく、その子供は生まれた。 元気な産声をあげている。 どうやら、渋滞も空いたようで、急いで病院へと急いだ。 そして、そのまた数分後に、クウザはエナが寝ている病室に向かった。 クウザ「大丈夫か?」 エナ「えぇ・・・クウザとあの医師のおかげよ・・・。」 一息ついて・・・、 エナ「・・ねぇ、この子私の髪の色に似ているわ。」 クウザ「本当だ・・・目の辺りは俺にそっくりだ。」 エナ「えぇ・・・。」 クウザ「こいつの名前、何にするんだ?」 エナ「『ブラウン』よ。この子が生まれてすぐに、思いついたの・・・。」 クウザ「そうか。じゃ、『ブラウン』で決定だな」 数日後、エナは退院し、彼―ブラウンを育て始めた。 それから数年後のある日の事。 ブラウンが、5歳になった時である。 クウザは、いつもの様にパン生地を練っていた。 なかなか上手くいかず、一から作り直す。 するとそこに、ブラウンがやってきた。 ブラウンは、自分もやってみたいと、クウザにすがりよってきた。 クウザ「ダメだ。これは遊びじゃないんだぞ?」 ブラウン「だって・・・、暇なんだもん・・・。僕にやらせてよ!」 クウザ「無理だって!・・・エナ・・お前も何か言ってくれよ~(汗」 エナ「・・・やらせてあげたら?」 クウザ「エナ・・・、それはないだろう・・・。」 エナ「知っている?こういう年の子は考えている事が未知なのよ? やらせてみたら、きっと新しいパンを作るヒントが見つかるかもしれないわよ?」 クウザ「でもなぁ・・・。」 ブラウン「お願い、父さん・・やらせて~。」 クウザ「・・・はぁ・・・、・・・判った。OK、やってみな。」 ブラウン「やったぁ!!」 クウザがほんの少し手を加えたパン生地を、ブラウンに手渡し、ブラウンはそれを練り始めた。 手つきは、クウザほどではないが、何とかパンを練っていた。 よく見ると、パンの発酵が異様に早く感じ取れる。 そして、出来上がると、綺麗なドーム型の形になっていた。 そして、そのパン生地に向かって手を翳した。 すると、ろうそくに火をともすぐらいの大きさの炎が、パンの周りを囲み、普通に釜戸で焼いているように、パンに焦げ目がついてきたのだ。 二人は呆然とそれを見る。 数分後、パンはふっくらと焼きあがった。 クウザ「・・ブラウン・・・・何だ、その力は・・・?」 ブラウン「・・・わかんない、何かこの力に今気付いたよ。凄いね♪」 ブラウンはとにかく、「食べてみて」とクウザ&エナに言う。 二人は、一口サイズにちぎり、口に運ぶ。 クウザ「・・・・・う、美味い!!俺がいつも作るパンよりも美味いぞ!!」 エナ「えぇ・・・」 ブラウン「ホント?」 ブラウンはそう言って、自分も食べる。 ブラウン「ホントだぁ!美味しいww」 クウザ「ブラウン。」 ブラウン「何?」 クウザ「お前のこの力があれば、この店にお客が増えるかもしれないぞ。」 ブラウン「ホント!?」 クウザ「あぁ、本当だ。」 それからというもの、パン作りを店の前でパフォーマンスし、そのすぐ出来たパンを、お客達に売った。 もちろん、商売繁盛。前の何倍ものお客がその店に入って来るようになったのだ。 最初はほんの10人程度だったが、この店の噂を聞きつけて、わざわざ遠くから来る人たちもいるのである。 今では、客入りが4、50人も増え、店の前には長蛇の列が。 おかげで、毎日大忙し。予約もいっぱいであった。 だが、「物事には必ず終わりがある」とも言う。 そう、その家族に悲劇が訪れたのである・・・。 2015年に軍事政権が民主政権を倒し、徴兵制が成立した。 徴兵制とはイタリアにいる子供は13歳から徴兵にならなければならないという制度だったのだ。 その年は、ブラウンはまだ9歳。当然、免れた。 だが、成立されたからには、この4年後にブラウンは徴兵にならなければならないのだ。 ブラウンが13歳になっても、クウザとエナは否定し続けた。 だが、それも運のつき・・・、 ブラウンが16歳になったある日の事、政府の者がラファール家にやってきた。 政府の人「お前達・・・、いい加減にしろ。あれから3年も待っているんだぞ? 何故徴兵に出さない!?」 クウザ「この子は、俺たちにとって大切な子供だ。そんな大事な子供を戦争とかに巻き込みたくはない!!」 エナ「そうよ!!あの子、『徴兵になんか絶対になりたくない』って言っているわ!!」 政府の人「そんな事言っても、徴兵制は成立されたんだ!! 徴兵にしてないのは、お前達のとこだけなんだぞ!?さぁ、とっととガキをだしな!!」 クウザ「・・・エナ、・・・ブラウン、・・・こうなったら・・・逃げるしかないぞ!」 クウザは、政府の者を突き飛ばし、走って逃げた。 しかし・・・、 追っ手が来ていた。 クウザ「ちっ・・・」 クウザは、舌打ちをする。 クウザ「ブラウン!ここは俺とエナで食い止める!お前は遠くに逃げるんだ!!」 ブラウン「で、でも、父さんは!?」 クウザ「あとで必ず追いつく!!」 エナ「ブラウン!早く逃げて!!!」 ブラウン「・・・絶対だよ!!絶対追いついてよ!!!!」 ブラウンは遠くへ走っていった。 追っ手の人数は、延べ20人。到底二人じゃ、なんとも出来やしない。 クウザ「・・・すまないな、ブラウン・・・追いつきそうもない・・・。」 そう、クウザはポツリと呟き、二人はその追っ手におさえられ、逮捕されてしまった。 ブラウン「はぁ・・・、はぁ・・・、はぁ・・・、はぁ・・・ここまで来れば・・・大丈夫・・・かな・・?」 ブラウンは息を切らして立ち止まる。 ブラウンは、遠くの森まで走ってきていたのだ。 ブラウン「父さん・・・、母さん・・・、大丈夫かな・・・。」 ブラウンは、数分待った。 だが、何分待っても、クウザとエナは現れなかった。 そこで、ブラウンは判った。両親は捕まってしまったのだと・・・。 ブラウンは、自分を責めた。 自分が、ちゃんとこの制度に従っていれば、こんな事にはならなかったのだと。 ???「そこの君、両親を助けたいか?」 と、何処からか声が聞こえた。 ブラウンは、声のしたほうに向く。 すると、茂みの中から、空色に近い髪の色をした青年が現れた。 ブラウン「誰?」 ???(=プラノズ)「これは失礼。私の名はプラノズ。君のように能力を持つ者だ。」 ブラウン「で、オレに何の用?」 プラノズ「さっきも言っただろう。『両親を助けたいか?』って・・・。」 ブラウン「助けたいよ・・・。オレのせいで、父さんと母さんは・・・。」 プラノズ「ならば、私の隠れ家へ案内しよう。」 そう言って、自分とブラウンを光に包み、プラノズと名乗った青年の隠れ家へと瞬間移動した。 ブラウン「いつか、この国を変えてみせる。そして、父さんと母さんを、絶対に助け出す。 絶対に・・・。」 その時から、ブラウンはそう決心した。 第12話へと続く。 |