ダマスクローズ


その中で横たわる君
全てが終わろうとしているのが僕には解った
赤い薔薇の花弁の中で
まるで世界中に独り取り残されたように居る君は
まるでそこに散りばめられた華の様に
とても美しかった

嫉妬深くもなく
冷たくもない君
束縛癖もなく
人一倍崩れやすかった君
僕の記憶の中で
君の姿はいつでも美しかった

最期のとき
君を独りで逝かせまいとする僕に云った たった一つの言葉
今でもしっかりと耳に残っている
決して弱みを見せようとはしなかった君が
たった一つ云った言葉
「お願い 独りにしないで」
その言葉も今は遠く_

僕はどうして君を連れて逃げ出すことが出来なかったのだろう
君が怯えていた世界から
全てに対して余りにも過敏過ぎた君には
この世界は痛いほど残酷すぎた

今でも胸に刺さったままの棘
君を救い出すことが出来なかった僕の罪
荊の棘を持ちながらも美しかった君
僕だけの君
もう二度と会えない_

事実は残酷すぎて
白い病室のような君の部屋
床一面に敷き詰められた
赤い花びら
その中で立ち尽くす君さえ
僕には美しく

床一面に散りばめた薔薇の花びらの中で
遠くを見ていた君は
一体何を見ていたのか
僕にはまだ解らないよ
覚えているのは
最期のときまで美しかった君

棘を持ちながらも
可憐で
時に妖艶で
今でも僕のこころを掴んで離さない

僕は君の何を知っていたのだろう
君の全てを解っていたつもりだった
冷たすぎる君の瞳

「嫉妬」「愛情」

ダマスクローズ
「美しき姿」

薔薇

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