ねこと歩こう

ねこと歩こう

「幻覚」


今で言うサイドビジネス的な仕事で、幼稚園や小学校の記念写真や
行事ごとのスナップ写真などを撮影する事が侭あった。

その出来上がった写真の納品や、行事予定の打ち合わせなどで
よく、そういった場所へ父は出掛けた。

私はたまに、その仕事に付き合わされる事もあって父が取引先へ
入って行く時は、近くの公園や田んぼで暇つぶしをしたものだった。

ある時、私が通っていた幼稚園に納品だったか打ち合わせだったか
記憶にはないが、例の如く父に付き合わされた時の事。。。

元々通っていた場所という事もあって辺りの地理には詳しかった。
私は幼稚園を出ると真っ直ぐに近くの田んぼへ向かった。
調度、蓮華の季節だったので田んぼは一面に赤紫の色で覆い尽くされていた。
その田んぼで私は、父を待つ事にした。

当時の私は、蓮華の花が特に好きだった。

近頃は田んぼも減少し、蓮華を植えるところも少なくなったが
その時代には、田植え前に蓮華の花を植えるのが最もポピュラーで
蓮華の花というもの事体は、誠、珍しいものではなかった。
けれど、その中で私は「白」の蓮華を探すのが趣味だった。

私は、何反もある田んぼの中で白い蓮華を探して
あちらこちらに行ったり来たりして時間も忘れる程、没頭していた。
かなり自分の世界に入っていたようにも思う。

けれど、いくら探しても、その時は白い蓮華が見つからず
困難を極めていた。

「ここには、ないんかなぁ・・・」半ば諦めが入りかけた頃・・・。

そこの田んぼは、山に続いていて田んぼを出ると山へ入って行く事ができた。

その山の方で、何やら物音がした。―というより・・・人の気配がした。
当時の地主は田んぼへ入ると、たいてい怒鳴り付ける人が多く
もしや・・・地主のおじさんではないかと私は、恐々振り返った。

・・・ところが、私の目に映ったものは地主のおじさんなどではなかった。
なんと説明したら良いのだろう?

大人の背丈くらいは充分にあったと思う。
解りやすく言うと、人間のような大きな「猿」だった。

全身が毛に覆われていて、猿かゴリラのような顔で、しかも二足歩行。

その姿を見た私は、ただただ呆然とするだけで
驚いて騒ぐ間もない程、黙って立ち尽くしていた。
不思議な事に怖いとは、思わなかった。
攻撃性を感じなかったからだろう。

だけど、その人間のような大きな猿は、私と目が合うやいなや
山の中へ戻って行った。
私は、その後ろ姿を見えなくなるまで、じっと見ていた。

「猿にしては、大きいよなぁ・・・」そう思ったけれど
これを大人に話しても信じて貰えないだろう事を予測した私は
即座に口外しないでおこうと決めた。

それから後に、私はたった一人の友人にしか話していないが
今でも、その記憶は鮮明である。
けれど・・・あの生き物が一体なんだったのかは
未だに解らない。

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: