放浪の達人ブログ

寝るスペース



 急に思い付いてタイに行って来た。自家用ジェットで行こうかとも考えたが
最近燃料代が高いので某アジア系航空会社の飛行機をチャーターした。
チャーターといっても格安航空券のエコノミーシートを1席のみチャーターというのはここでは伏せておく。

 現地ではヒルトンホテルのスイートルームにチェックインしようと思っていた。
1泊50万円も出せばメイドも付くし、市内を回るのに運転手付きのおベンツなんかに乗って
「出してくれ」と後部座席で足を組んでればいいからだ。
しかしスイートに泊まって白いガウンに身を包み、ワイングラスを傾けながら
バンコクの夜景を眺めるのも独りじゃ淋しいもんだわなあと思い、宿のランクをほんの少しだけ下げた。
運河(ドブ河)沿いにある1泊500円もちろん朝食なしのゲストハウスっちゅうやつである。
市内を回るのも黒塗り高級送迎車はまあ次回ということにしてボロい市バスに乗った。
ちなみに高級送迎車は次回と書いたものの、その次回というのはいつなのか俺自身わかんねえ。

 今の日本の季節と違ってバンコクは暑かった。泊まった宿は熱帯の国にも関わらず
エアコンなんてものは付いてない部屋ばかりなので、ロビーなんかには上半身裸の外国人どもがウロウロしている。
床はタイル敷きで冷たいので皆さん裸足である。俺も裸足でピタピタ歩いていると「斎藤さん」と日本語で声を掛けられた。
見知らぬ顔の日本人中年男性だった。
はは~ん、大原みりんちゃんと並び岡崎の超有名エッセイストの俺の名前もバンコクまで轟き渡っているのかと思い、
クールかつニコヤカ、それでいてわざとオーバーに驚いたふりなんかをして返事をした。
すると、サインでも求められるのだろうという俺の予想は全くもって外れており
「いやあ、わたくし長期滞在であまりにヒマでしてね、ホラここの宿は
ガラの悪いヨーロッパ人しか泊まらないんですよね。今年になって日本人が泊まったの4人だけなんですよ。
え?何で知ってるかって?そりゃあ~た、ヒマなんで宿泊台帳を毎日チェックしてたんですよ」

 なあんだ、それで俺の名前がわかったのである。この宿とヒルトンホテルの違う点は、
こういったプライバシーが全く守られてないところや宿泊客が裸や裸足でウロウロしてるところ、
エアコンやホットシャワーがないところ、トイレが共同ってところ、犬や猫が廊下を歩き回ってるところ、寝てると虫に刺されるところ、
そんな微々たるもんである。

 結局さ、宿なんて寝れりゃいいんだよな、俺の場合。だって6時間か7時間寝るだけだし、
寝るスペースなんて一流ホテルでも安宿でも所詮シングルベッド1個分でいいんだし。
あ~、思い出した。スゲエ宿に泊まったことあるよ俺。同じくバンコクなんだけど雨季だったな。
その宿のおばあちゃんが「荷物は床に置いとかない方がいい」って言ったんだ。
雨が降ると床が濡れるからって。その夜スコールが降ったんだけど
寝る前に荷物を机の上に乗せてたから大丈夫だったけどさ。
だけどゾウリはプカプカ浮いてたよ、部屋の中で。

 日本ってさあ、ホテルの満足度だとかフロントマンの対応とかが過敏に反応されてる気がするんだよね。
俺は別にフロントマンに会うために泊まるわけじゃねえし、宿の壁に掛かってる絵を見に行くわけでもねえ。
ただ寝ぐらが欲しいだけなんだよな。
日本のホテルもさ、何のお構いもなしで壁もベニア板、タオルも石鹸も自分持ち、
汚ねえ共同トイレに水しか出ないシャワー、ロビーに犬や猫がうようよ、
だけど1泊500円です、ってホテルねえかなあ。そういうのでも構わないっていう
海外からのバックパッカーもいると思うんだよね。
殿橋の下あたりにオープンしてくれよ、誰か。

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