庖丁の刃でペタペタと源さんの頬を叩いて詰め寄るデウィちゃん。
この状況は極めて拙いが、はて、どう打開できるのか、どんな策があるのか・・・・。必死に模索するが、妙案などさらさら思い浮かばぬ・・・。
だって、そうであろう。源さんがほかで子供を作ってしまったのが、ほんの浮気心、出来心、失敗、ついふらふらと・・・というのであれば、まだまるく治める手段もあろうが、源さんの場合は違う。
まさに確信犯。
齢七十を越え、残り少ない人生の生き甲斐が、出来る限りあちこちで子供をつくり、自分の子孫を増やしたいというのだから、開いた口も塞がらぬ。
とはいえ、その源さんの生き甲斐をとやかく説教する筋合いではない。しかも、大阪の古女房は、それを認めているというのだからなんとも肝っ玉がでかい。
その手始めにデウィちゃんに子供をつくり、はや二歳。そこで、虎視眈々と次の計画に移したのであろう・・・・。
『デウィちゃんに源さんの真意は伝えてないの?』
『アホ抜かせ!言えるかいなそんなもん』
いままで神妙に床に両手をついてひれ伏していた源さん、やにわに顔を真っ赤にしてこちらをギョロリ。
『言うたのは、結婚は出来へん、その代わり一生喰うのは不自由させん・・・それだけや』
『それはいい。だけど黙ってほかに子供を作ったらデウィちゃんが怒るのは当たり前だろう』
『ほな、どないせえ言うんや!』
ボクが源さんと話している内容が判らぬデウィちゃん、細心の注意を払っているものの、顔の表情が先ほどより落ち着きを取り戻している。
今がチャンスだ!
『デウィちゃん、この源さんは酷い奴だよ実際。構うことはないよ、その庖丁でひとおもいにブスッとやっちゃっえば』
そう言うなりデウィちゃんの手が伸びて、庖丁を掴んだ・・・。
刃先を源さんに向けて睨みつけている。戸惑いを見て取るや、
『やれないんだったら、自分を刺しちゃえば』
刺身庖丁の刃先がゆっくりと胸元に向いた・・・・。
そのデウィちゃんの手がぶるぶると震えたかとおもうと、パッと庖丁をテーブルに投げ棄てた。
そこをすかさず庖丁を奪い取った。
だが、こちらを見たデウィちゃんの眼に怒りはなかった・・・。
『なん言うたん?』
『ひとおもいに源さんを刺しちゃえば・・・って』
『なんやて! えげつない奴ちゃなァ!ほんま見損なうたでェ!』
『なんとでもほざけ、この糞じじい』
と、なんとか庖丁はこっちの手に渡ったものの、問題は一向に解決しておらず、
『どこの女か知らないけれど、すぐに子供を堕して!』
デウィちゃん、源さんに詰め寄るや、耳たぶをグリグリと力任せに絞りあげた。
さあ、源さんどうする・・・・・。
PR
Keyword Search
Freepage List
Comments