日常の記録

日常の記録

病院



電話で受け入れ先をあちこち打診している。
私には行って欲しくない病院があった。夫もその病院が嫌いだった。普段から冗談で「あそこに運ばれたら助からないよね」なんて言っていた。
別の病院の名前をあげ、「○○病院に行って下さい!」
「△△の方が近いと思います」と何度も言ったが、相手にしてもらえなかった。

そのうちどうやら心臓マッサージを始めた
「心臓がどうかしたんですか!?」
「とまっちゃったみたい・・・」

とまっちゃった?心臓が?
何を言っているんだろう?
お父さんの心臓がとまった?

それは現実味のない言葉だった



病院に着いてから、何時間経ったのかわからない。
私は救急処置室のはじっこに座っていた
看護士さんが「ロビーのイスで待っていたらいかがですか」と言ってくれたけど、「ここにいさせて下さい。邪魔しませんから」と彼の帽子を握りしめ、ただただ座っていた。
途中で耐えられなくなって何度か部屋を飛び出したが、一方では「持ち直すに違いない。もうすぐ『もう大丈夫ですよ』と言うに決まってる。
暫く入院になるだろうから、タオルと洗面器と・・・」と入院したときのことを考えたりしていた。

でも、そんなことはおこらなかった。
やがて「心臓を動かす、一番強い薬を使いました。もう2時間も処置をしてるけど、全く反応しません」と言われた。
それって、もうダメってこと?
なんだかよくわからないけど、お父さんはもう戻ってこないんだと言うことなんだ。
医者は「(死亡)宣告させて欲しいんですよね~」と言った。
顔を見ると、「いいかげんあきらめて欲しい」というような表情だった。



警察が来た。
病院のロビーで色んな事を聞かれた。
年齢、それまで何をしていたか、何をどれくらい食べたか。


友達が子ども達を連れてきてくれた。
タクシーから子ども達の手を引いて走った。
2人になんて言おう?
こんなにいきなりお父さんが死んでしまうなんて、どう言ったらいいだろう?

「あのね、お父さん、今日ちょっと具合悪かったでしょ?   あれからね、もっと具合が悪くなったの。。。。。お父さん遠くに行っちゃうかも知れない。お父さんとお別れしなくちゃならないかも知れない」
そう言いながら処置室まで走った。

お父さんはいつもみたいにニコニコしながら寝ていた。
結婚してまもなくの頃、聞いたことがある。
「ねえ、ニコニコして寝てるって、言われたことない?」
「あるよ」
どんな時にも、子ども達が不安にならないように、心配にならないように気を配っていたお父さん。
今もまるで「心配しなくてもいいぞ」って言っているみたい。

お父さんにマッサージしてあげて。
お父さんにいっぱいマッサージしてもらったね。いっぱい遊んでもらったね。
心臓のモニターは相変わらず直線のままなのに、2人がマッサージすると、その瞬間だけ動く。
大好きな2人が呼んだら戻ってくるんじゃないかと思った。

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