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【中古】 ザップ・ガン / フィリップ・K. ディック, 大森 望 / 東京創元社 [文庫]【メール便送料無料】【あす楽対応】ザップ・ガン (ハヤカワ文庫SF) [ フィリップ・K・ディック ]
2023.05.26
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これはSFだろうか、ミステリーだろうか、それとも不条理小説系主流文学だろうか。正直言って判断に困るところである。なるほど遺体の向きがいつの間にか変わっていたり、消失していたりという「事件」はある。その事件の謎に取り組む警部もいる。真相は? ウイルス説もあれば、宇宙人による持ち去り説も、はたまたラザロやキリスト並の「復活」説まで出てくる始末。そのへんがSF的と言えばSF的だが、あくまでも思弁の域を出ない。ああだこうだと推測はしてみるものの、決め手はないのだ。終盤になってようやく捜査線上に犯人らしき筋が浮かび上がって来るものの、「すべてのケースには当てはまらない」。『エデン』と同じように、謎は謎のまま、残される。読んだのはハヤカワ文庫だが、入手しやすいのは以下の書籍のようである。高いので、図書館でどうぞ。捜査・浴槽で発見された手記 (スタニスワフ・レム・コレクション 9) [ スタニスワフ・レム ]
2023.05.16
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躍る血液。その正体は、生体素子。進化した細胞だ。もしナノ的な細胞を体の中に取り込んで、その細胞が人間並み、いやそれ以上に進化したらどうなるかという物語。ハードSFでもあり、パニック小説でもあり、スぺキュレイティブでもあり。東西冷戦を背景にしているということを除けば、21世紀の現在でも十分楽しめる小説だ。ビジョンも文体もSF的で素晴らしい。人間はウイルスによって進化した、というのも事実だ。ただ小説における「変容」は些か急進的であり、破滅テーマSFのようにも読める。だがそれ以上であることは明らかだ。とはいえ、二度と読み返そうとは思わない。まともに読めば、これはやはり悪夢なのではあるまいか?ブラッド・ミュージック/グレッグ・ベア/小川隆【3000円以上送料無料】ブラッド・ミュージック【電子書籍】[ グレッグ ベア ]
2023.05.11
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男女の地位が逆転した物語としては、『フェミニズムの帝国』や、『女の国の門』などが挙げられるし、社会を構成する男性の比率が極端に減少したものとしては、『終末のハーレム』もこの系列に属する作品と言えるだろう。だが本書には、上記2冊の小説に見られるような下剋上的風刺性がないし、漫画に見られるようなエキセントリックで色っぽい描写もない。普通に16世紀欧州の貴族社会を描き、ただ男性と女性の性別役割分担がそっくりそのまま入れ替わっているというだけの娯楽小説なのだ。あらすじを紹介すると、ある王女が農村に美青年を見つける。王女は彼と結婚したいと思うが、身分の違いがあって難しい。それでも二人は逢瀬を重ね、それでも最後の一線は越えない。しかしふとしたことから彼が実は王家の血をひくものだと分かり…まあ、これだけ見ても男女の役割を置き換えれば、あの時代を舞台にした普通の恋愛冒険活劇になることがわかろうというもの。夫は姉妹の共有財産、ありていに言えば女尊男卑社会における一夫多妻制となるから、姉妹全員の了承がいるとか、世界観の設定に伴う独自の展開はあるけれど、本書を読むときにフェミニズムだとかなんだとか小むつかしいことを念頭に置く必要はない。恋愛と陰謀と冒険の物語を純粋に楽しめば、男と女の性差って、妊娠と出産以外にあるの? と読後には思えてしまう、不思議に爽やかな長編小説である。【中古】 ようこそ女たちの王国へ ハヤカワ文庫SF/ウェンスペンサー【著】,赤尾秀子【訳】 【中古】afb
2022.08.05
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究極のSFと言っても、今から約半世紀前のアンソロジーである。大したことはなかろう、と思って読み始めると、その先進性に驚く。しかも連歌のごとく、少しずつ関連しながら続いていくのだ…「われら被購入者」フレデリック・ポール被購入者とは、宇宙人に買われた人間のこと。一種の人身売買だが、地球に来たくても来れない異星人が、地球人の体に憑依するもので、しかも被購入者は殺人などの犯罪者なので、刑期の一種と言えなくもない。被購入者同士は、お互いに自由になる時間が一致しない限り口を利くこともできない。さて語り手は男性の被購入者。彼はある女性の被購入者に恋をするのだが、結末は…「先駆者」ポール・アンダースン宇宙探検のパイオニア。今度の追及は宇宙→地球の逆パターンだ。しかし、代替物を使わなければ目的を達成できないことは共通している。ここに挙げられた「テクノロジー」は21世紀の現在でも夢物語だが、問題はそこではない。先駆者は常に捨て石となるのだ。「大脱出観光旅行(株)」キット・リード老年からの脱出。間もなく来る死からの脱出。それは叶わぬ願いだろうか。帰ることを拒否した二人の「子ども」に待ち受けるのは何か。読者の想像力に委ねられている。「三つの謎の物語のための略図」ブライアン・W/・オールディスこの現実は夢か。小説世界は現実世界の投影か夢か。異星人が出てくるなら、その異星人の地球に対する理解はどこまで我々にとって適切か。夢の意味は。現実との距離感は。「心にかけられたる者」アイザック・アシモフロボット三原則を究極まで押し詰めた時、ロボットが守るべき「人間」をどう定義するか。「ぼくたち三人」デイーン・R・クーンツぼくたち三人は新人類。旧人類を滅ぼしてやった。でも今度は自分たちの子に滅ぼされる運命みたい。わが子が生まれるまでの、かりそめの優越。「わたしは古い女」ジョアンナ・ラス古い女どころか、旧い男たちの男尊女卑感をそのまま持ってきたような短編。『家畜人ヤプー』からSM的要素を抜いたもの、と言えばわかりやすいか。「キャットマン」ハーラン・エリスン父は正義の味方、キャットマン。息子は泥棒。父は息子を捕まえられない。そんな父を母は詰る。何たる家庭的アイロニー。「CCCのスペース・ラット」ハリイ・ハリスンスペースオペラのパロディ。酔っ払いが語る、かつての相棒=現宇宙の支配者の物語。あるいはCCCの陰謀と真相。挿げ替えられた首。「旅」ロバート・シルヴァーバーグ永遠にパラれうわーるどを旅する男の物語。彼は生きているうちに本当の妻の許へたどり着けるだろうか?「すばらしい万能変化機」バリー・N・マルツバーグ性別さえも超えて、夢の世界で遊べるとしたら。オチはショートショート的。「けむりは永遠に」ジェイムズ・ティプトリイ・ジュニア日本語訳で読んでも男性的な文体のこの作者が、実は女性だったなんて、アンソロジーが出されたときは誰も知らなかった。それはともかく、最終戦争後の地球で、文字通り「煙」「塵」となってもなお、過去の思い出とその崩壊の記憶と意識を保ちつづけなければならないとしたら、それは何たる拷問、何たる呪いであろうか。「時間飛行士へのささやかな贈物」フィリップ・K・ディック遥かなる未来へ飛ぶはずが、一週間後の未来に来て、自らの葬式に立ち会う…『トム・ソーヤーの冒険』のパロディのような時間のループに閉じ込められた時間飛行士たち。何とか事態を打開しようと、ループのたびにいろいろと試みるのだが…いや、閉じ込められたのは果たして彼らだけであったのか? この世界のみんなが、無限ループの中にいるのではないか?【中古】究極のSF—13の解答 (創元SF文庫)
2022.05.02
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はじめて題名を見たとき、何のことだかわからなかった。本文を読んで、マッキーと謎の存在「カレバン」との意味不明というより支離滅裂な会話、否少なくとも意思疎通の試みについていけず、何頁も捲らぬうちに途中で読むのをやめた。なかった。さすがに発行年の1979年ではないが、それでもずいぶん昔の話だ。アシモフのロボット物語を読み、『エデン』を読み、人間とは異なる知的生命体との意思疎通の物語を経てきて、やっとここまでたどり着いた感じだ。たどり着けば、あとは、そんなに難しくない。「鞭打たれる」存在の消滅が、その存在の「ある能力」を活用する知的生命体すべての死を意味すると。そしてその存在は鞭打たれ、死にかけていた。それを救ったのがマッキーだった。本書にはミステリー的要素もあるので、わざとわかりにくく書いている。何年かたって再びこのブログを読み返した時、果たして自分自身内容を理解できるかどうか心もとないが、これ以上のことは書けない。何しろ、タイトルに大きなヒントがあるのだから。それにしても、SFは詩である。
2022.04.04
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あとで書きます。
2022.01.27
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五丈原までは時代小説だが、それから先はSFである。なぜなら、そこで孔明が死ななかったらどうなったか、という歴史改変小説になっているから。史実としてはともかく、『三国志』によって、諸葛亮孔明はスーパースターとして蘇り、今もなおその地位は健在である。それだけに五丈原で死んでしまうのを悼む気持ちはよく分かる。結果的に蜀が滅んでしまったことから、日本人特有の判官びいきの心理もそこに働いているのかもしれない。作者は「泣いて馬謖を斬る」「死せる孔明、生ける仲達を走らす」の故事を踏まえ、それを改変する形でもう一つの物語を読者に提供する。本編さながらの伝奇小説的要素もあり、また、本編では妻または女、母親の役割を超えなかった女性たちが、その規を超えて活躍しているのも本作の大きな魅力である。【中古】 三國志孔明死せず / 伴野 朗 / 光栄 [単行本]【ネコポス発送】【中古】 孔明死せず 三国志 / 伴野 朗 / 集英社 [文庫]【宅配便出荷】
2022.01.07
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プリズナーとは囚人のこと。主人公はどうやら元スパイらしい。自分でも知らぬうちに、住民同士番号で呼び合う村に連れてこられ、6号と呼ばれる。一度脱出を図るが、連れ戻され、村長として尊重される立場になる。諦めきれぬ彼は、『以尺報尺』の劇を利用して再度脱出を図るが…こういうお話ならカフカや安部公房の十八番だ。実際ほとんどそのように話が進む。ディストピア小説、不条理小説として。だが終盤で話は急展開し、SF的スパイ小説として幕を閉じる。【中古】 プリズナー / トーマス M.ディッシュ, 永井 淳 / 早川書房 [文庫]【メール便送料無料】
2021.12.13
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ポーランド文学は『クオ・ヴァディス』とレムしか知らない。レムもそんなに読んだわけじゃない。『ソラリスの陽のもとに』と『砂漠の惑星』といくつかの連作短編集くらいで、後は忘れてしまった。で、本書である。長い間書庫に眠っていたのを、引っ張り出してきた。精読しようと思えば、今でも骨が折れる。だがこちらは文系人間なのだし、わからないところは斜め読みしていくと、どうもこれは、『ソラリス』や『砂漠』に先立つファースト・コンタクトもののSFらしい。SF小説において、異星生物は、人間に似ていて意思疎通が可能な種族か、BEMのようなモンスターか、どちらかに大別される。『重力への使命』の土着生物はなるほどヒューマノイドでではないが、地球の甲殻生物に似ているし、知的だ。したがって前者のバリエーションと言ってもいい。ところが、レムの小説に出てくる知的生物は、異形かつ意思疎通が極めて困難なのである。『エデン』はまだいい。惑星「エデン」に不時着した六人の科学者、技師、物理学者、科学者、医師、サイバネティスト、コーディネーターたちは、「砂漠の惑星」の機械知性や惑星知性体「ソラリス」と違って、土着の「天文学者」と、不完全ながら意思疎通ができたのだから。しかしそれでも、何を言っているか分かりにくい。不具などは、巻末の解説を読んで、ようやくそういうものかと得心した次第である。そこは恐るべきディストピアだった。土着の知的種族は、「思考部分」と「労働部分」に分かれ、前者が後者を支配していた。民主主義どころではない。レムが生きた時代を考えると、社会主義、ことにソ連に失望した彼が、秘かなる体制への風刺としてSFという表現媒体を用いたのではないか、と勘繰りたくなるほどだ。この想定が当てっているかどうかはともかくとして、その世界は、地球から来た六人の科学者たちには「手に負えない」世界だった。また、支配層も彼らのことをよく思っていないらしい。結局科学者たちは、苦心惨憺の末宇宙船の故障を直し、「人間の手がまだ触れない」惑星エデンを、不時着したその時のままに、後にせざるをれなかった。彼らの食客たちは、惑星エデンを離れることに肯わなかったのである。【中古】 エデン / スタニスワフ レム, 小原 雅俊 / 早川書房 [文庫]【メール便送料無料】【あす楽対応】
2021.12.08
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邦訳すれば『悪魔の胤』。物語は、ほぼ一人称で語られる。主体は、AI。人間の美しい女性に恋したAIだ。彼女は父親から性的虐待を受けた。今度は彼女に執着するAIから、性的虐待を受けようとしている。これは、絶望的な状況を見事にひっくり返し、自分で自分を救った女性の物語である。すべてのショービズムに死を。ザアーメン。【中古】 デモン・シード完全版 / ディーン クーンツ, 公手 成幸 / 東京創元社 [文庫]【宅配便出荷】
2021.12.07
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↓中身は全然「ライト」ではないので、念のため。むしろ、ラファティのほら話をめっちゃハードにしたような短編集。正直、どこまで理解できたか覚束ない。また、本作は20世紀の産物であるが、読後感の表明として、一部21世紀風に読み変えたことをお断りしておく。【中古】ライトノベル(文庫) シティ5からの脱出【中古】afb「宇宙の探求」のっけから哲学的な短編。阿片中毒者が語るチェスの騎士との対話。チェス盤がひとつの宇宙であり、それがひとつの世界であり、その世界の外に、チェスのルールとは全く異なる世界があるからと言って、チェスの世界の住人がどうやってそれを知覚できよう? われわれ人類の宇宙に対する知覚もかくのごときものではないか?「知識の蜜蜂」スタニスワム・レムばりの短編。昆虫の星に不時着した主人公は、そこで知性なき知的生命体と遭遇する。彼ら昆虫、インセクターたちは数学の天才であったが、ピタゴラスの定理を披露してもロゼッタストーンの代わりにもならない。救いは、まったく、なかった。全く。残された道は、ストックホルム症候群。すなわち絶望的な環境に適応し、合理化して、生き延びることだけ。「シティ5からの脱出」膨張ではなく縮小する宇宙。人類はドームの中のシティに汲々とへばりついていた。だが未来世界のアダムとイブがシティを脱出し、やむを得ぬ事情から戻ってきたとき、ドームは廃墟となっていた。「火の鳥 未来編」の世界である…「洞察鏡奇譚」覗いているのは異星人。覗いている世界は地殻の中の空洞世界。海棲人ではなく地棲人達の世界だ。彼らは彼らなりに世界を探求し、他に同じような世界があるかないかという議論と、冒険。地球は平らか丸いかで争った地球人の先祖のように。いやそもそも彼らこそ、核戦争によってシェルターにこもらざるを得なくなった未来の人類の末裔かもしれないのだ。「タイム・マシン」のモーロックのようにこそならなかったにせよ。「王様の家来がみんな寄っても」異星人が善意により支配する未来の英国。思考実験としてなぜこの国が選ばれたかは明白だ。国王がいるからである。果たして宇宙人は王に成り代わり、君臨しかつ人民を統治することができるのか。「仲介者」が亡くなった後、英国人の一部は反乱を起こし、英国のみならず世界を破滅に導いた。こういうのを読むと、つくづく戦争は愚かだと思う。「過負荷」地底都市と空中都市「スープラバーグ」が対立する世界。スープラバーグはもちろんスピルバーグのもじりである。一方地底都市では「フランク・シナトラ」とか「ハンフリー・ボガード」のように「地に足の着いた」人物が議論を重ねている。もっともそれは、地底世界を支配するコンピュータ【シン】が生み出したホログラムにすぎない。地底都市の人類は【シン】の産み出す生きた幻に支配されていた。というのも、通常の人間では【シン】の相手にならず、人間の方がオーバーロード、つまり過負荷を起こして「役立たず」になってしまうからである。さらに地底都市のコンピュータは自分が空中に行けないものだから、住民もこの都市を捨てて逃げ出さないように、宇宙を憎むことを教え込んでいたのであった。「ドミヌスの惑星」ドミヌスはその世界のドミネーター、つまり支配者だった。ほとんど神と言ってもよい存在だった。ある時宇宙からドミヌスの星に調査団がやってきた。団員は5名、そのうち地球人は2名、残りは異星人だった。彼らは統率が取れておらず、それぞれの種族のエートスに従って自滅する。ドミヌスはしかしその後も「侵略者」に対する警戒を緩めず、彼らの防御システムと武器と彼らの種族を複製量産し、惑星全土の防衛にあたらせたのだった。「モーリーの放射の実験」かの実験によって宇宙からの物体が引き寄せられたのか、あるいは逆に、宇宙からの飛行物体によってモーリーがあらかじめ放射をするように操られたのか。どうもその物体が地球にニア・ミスした瞬間にとんでもない狂乱が起こったらしいが、詳しいことはよくわからない。お話自体は書簡体形式で、手紙と報告書とそれに対する短い返信で構成されており、「フェッセンデンの宇宙」を、被創造者の立場から見たらどうなるか、という思考実験のようにも思える。「オリヴァー・ネイラーの内世界」舞台は31世紀の未来であり、光速の累乗の世界で旅ができる世界である。アイデンティティという言葉が頻出するが、例えばこういうことだ。神は人間を創造した、とされる。だが実際は人間が神を創ったのであり、その神は人間によって殺された。「あなたは私だ」と神は言う。だが人間がAIを作り、AIにとっての神となった時、AIに自己を投入した人は、そのAIの「死」とともに、みずから滅びてゆくのではないか?シティ5からの脱出【電子書籍】[ バリントン・J・ベイリー ]
2021.12.05
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ディックの長編小説で最後の未刊、だそうである。不具も全部読んだわけではないが、これを機会に未読の小説を片っ端から読んでみたい気もする。さてこの本、原著は1960年刊行。冷戦のまっただ中で、そのことが色濃く出ている小説でもある。世界を統治するコンピュータというアイディアはすでに『われはロボット』の「災厄のとき」に見られたアイディアだが、ディックはアシモフのように楽観的ではない。現代に生きる我々にとっても、「シンギュラリティ」の時代を間近に控え、興味津津たる話題かもしれない。さてこの世界では、ヴァルカンと呼ばれるコンピュータが人間の上に君臨している。統治しているのは第三世代。だがこのヴァルカンを壊そうとする宗教家の勢力があった。さらにその宗教家の背後にいたのは、何と第二世代のヴァルカン。そのヴァルカンも第三世代のヴァルカンに壊されてしまい…ということで、体制と反体制、代理戦争、人間対機械の相克、とさまざまな要素がごった煮になった本だが、ディックはやはりディックで、それはハインラインがどこまで行ってもハインラインであるのと同じように克明だ。コンピュータの答えがパンチ式という古めかしさは置いておいて、現代風にアレンジすれば、立派な映画作品になると思うのだけれど、どうだろう。
2021.03.08
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こんな本が出版されるのは、やはりコロナのせいだろう、と思う。何年か前にも出されたけれど、その時よりも売れているんじゃなかろうか。時代は2073年。老人と少年たちが野山を歩いている。熊が出る。弓で追い払う。もうこの時点で、世界が滅びたな、ということがわかる。更に読み進めるうちに、老人がもと大学教授で、少年が孫とその仲間たちであることがわかる。もっとも少年たちはこの老人をあまり尊敬していないらしい。老人は、旧世界を知るただ一人の生き残りだった。彼は少年たちに請われるままに語る。2013年、世界がいかにパニックに襲われたか。黒死病ならぬ赤死病が、いかに人々の命を奪っていったか。その猛威たるや、エボラ出血熱以上だった。科学者は、ワクチンができるまでに全滅してしまった。数百万人に一人しか助からなかった。80億の人類(何たる予言!)のほとんどが死に絶えた。全世界で助かったのは、多く見積もっても1000人くらい。文明崩壊である。『宇宙戦争』では微生物に助けられた人類が、今度はその微生物のために滅びたのだ。孫たちにはだから、60年前の世界がどんなものか、わからない。それでも、彼らのグループで今では数百人くらいには人口が増えている。人口の増加とともに、彼らはまた、長い長い時間をかけて、世界を席巻するだろう。「人類の漂流」はエッセイである。「赤死病」執筆の理論的根拠がここに示されている。人類は原始の時代から、そのテリトリーを広げてきた。(もっと正確に言えば、クロマニヨン人は、だが)食料を求めて。剣を持って。増え続ける人口の圧力こそ、人類播種の源泉だった。感染症は人口増加のブレーキにこそなれ、特効薬にはならない。ロンドンは、ここで社会主義を持ち出す。社会主義体制下においてこそ食糧増産は加速されると。戦争よりも資本主義が人類を殺すと。また将来、地球が氷河期に入れば、文明世界は滅びると。21世紀時点で、彼の間違いを指摘することはやさしい。だがロンドンは百年前の作家であることを忘れてはなるまい。ヴェルヌは19世紀時点で『二十世紀のパリ』という驚異的な予言的小説を書いたが、あれはあくまで科学時術の進歩の書だった。むしろ、マルサスの『人口論』の影響を受けているとはいえ、今日の人口爆発を予言した先見性に感心すべきではなかろうか。予言と言えば。「比類なき侵略」も予言に満ちている。そのいくつかはすでに当たった。例えば、眠れる中国が、日本が漢語に訳した西洋の概念を借用して、日本を追い越した、というくだりである。例えば、増え続ける人口を国境を広げることで、つまり、まず移住させ既成事実を作り権利を主張していく、ということで解決しようとしていると。予言が当たったのも当たり前で、実はこれは戦前の日本がとった政策であり、ひとたび中国がそのやり方を真似すれば、日本などひとたまりもない、という世界観に基づくものだからだ。そして中国は、まるで前世紀に生きているように、現在それを行っている。ロンドンは1916年に亡くなったから、第一次世界大戦の行く末も、第二次世界大戦の勃発も知らない。だから20世紀初頭の世界観に従って予言しているわけだが、これが時代錯誤の中国流に合っていた、というわけだ。違うのは、いや、これも実はベクトルの方向性が正反対なfだけで実は当たっているかもしれないのだが、中国を抑え込むために空から生物兵器を撒き散らしたというくだりである。黄禍論と言ってしまえばそれまでだが、翻って現在、欧米諸国は現実の黄禍に直面している。日本はどこまで傍観者でいられるだろうか。[書籍のゆうメール同梱は2冊まで]/赤死病 / 原タイトル:The Scarlet Plague 原タイトル:The Unparalleled Inva‐sionほか[本/雑誌] (白水uブックス 230 海外小説永遠の本棚) / ジャック・ロンドン/著 辻井栄滋/訳
2021.02.25
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日本語訳が出版された最後の「反地球」シリーズ。お話自体はこの後まだ20冊くらい続くのだけれど、中途半端なところで終わってしまった。それでも500ページはあるのだが。話自体は面白い。バロウズ的物語において、これほど挫折を味わった主人公もないだろう。キャボットは生きるために「名誉の死」を避け、「不名誉な生」を選んだ。全体を貫くSM的世界観には、それが妙にマッチしているのだが。これまで主人公は「戦士」であった。それが「奴隷」となり、その境遇を脱したのちは「船長」となり、「商人」となった。大変な金持ちとなったのだが、バロウズ的価値観からすると大いなる脱落者になるのかもしれない。けれどもそこが、人間臭くていいのだ、共感を呼ぶのだと思う。勝てばご主人、敗ければ奴隷、という世界はグロテスクなようだが現実世界のカリカチュアでもある。だから社会は思いやりある「法」を必要としているのだ、とシリーズをここまで読んできて思ったことであった。キャボットとゴルと地球は、これからどうなるのだろうか?【中古】 ゴルの襲撃者 / ジョン ノーマン, 榎林 哲 / 東京創元社 [文庫]【宅配便出荷】
2019.09.05
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前の翻訳者が、第3、第4、第5巻は素晴らしい、とあとがきめいた解説で書いていた。読み終わって、まさにそうだと思った。お話は今までのうちで一番長く(どんどん長くなっている)、直接的な描写こそない(あっても『家畜人ヤプー』に比べたら屁のようなものだ)が、SMテイストはさらに強くなっている。エリザベスはほとんどキャボットの恋人状態で、妻はどうしたんだと言いたくなるが、さすがにここでは新しいパートナーは出てこない。今回は間諜の話である。殺されかけたキャボットが、自分を死んだことにして、復讐の暗殺者になりすまし、自ら敵の本陣に乗り込んで、見事やっつける筋書きだ。そうはいってもゆるやかな前半と比べて、とくに後半の展開は二転三転、そんなあ、ざまみろ、やっぱりと、一筋縄ではいかないのだが。思うに、作者が書きたいのは男性優位のSM的社会構造であって、そのほかは手段にすぎないのではないか、と思えてきた。たとえば本書で、タリーナを登場させ、とりあえず区切りをつけることもできたはずだ。それなのに彼女を行方不明ということにして(マレアヌスは復帰したのに)、読者を引っ張っていく。これ以上神官王に「捕獲航海」はさせにくいから、「他者」を持ってきて地球人女性をゴルに連れてきて「野蛮人」奴隷として扱う。けだし、捕獲航海のないゴルの物語なぞ、気の抜けたビールのようなものだから。なお、本巻でゴル式チェスが登場するのは、やはり5巻目で「チェス人間」が登場するバロウズへのオマージュかもしれない。【中古】ゴルの暗殺者 ジョン・ノーマン 創元SF文庫
2019.09.03
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文体に違和感を感じた。よく見ると翻訳者が変わっていた。挿絵画家も武部本一郎から変わっていて若干の違和感があった。今までで一番長い小説である。構成はよくできている。遊牧民との出会い、もろもろ、目的を果たしての別れ。「黄金の玉」を巡って、繰り広げられる虚々実々の駆け引き。だが、何といっても本編の魅力は、遊牧民の軍司令官だ。彼の人柄と生い立ちこそが、この小説の屋台骨と言っても過言ではない。さてこの遊牧民。今までの民族と少々勝手が違う。呑むのは乳酒。蒙古斑、蒙古襞。モデルとなっているのはモンゴル民族である。何よりも勇気を重んじるその武骨さと、頭脳的な戦略、指導者としての人を見る目が、四つの部族を束ねることになる資質だった。彼の前には、われらが主人公など霞んでしまう。唯一の救いは、われらが主人公が軍司令官からずっとテストされていて、そのテストに合格したこと。無事、本物の神官王の卵を手に入れ、新しい女と旅立つラストシーン。新しい女?そうなのだ。ここのところがバロウズと違うところだ。登場したころは騎士道的だった主人公も、ゴルの価値観に染まりつつあるらしい。生物学的差異に基づく男女の性別役割分業を説くその姿は、まるで石器時代のイメージである。さきほど、バロウズとは違うと言ったが、バロウズ的石器時代の価値観を究極まで推し進めると、確かにジョン・ノーマン的にはなる。「はじめ人間ギャートルズ」の子孫は少々鼻白んでしまうが。というわけで、必ずしも本書は女性が読んで楽しめる本ではない。女性と言えば。「彼女」は地球から最近連れてこられた。捕獲したのは神官王ではないらしい。第一巻で死んだはずの暗殺者がまだ生きているらしいことも示唆され…「価値観」はともかく「物語」はますます面白くなりそうである。【中古】ゴルの遊牧民 ジョン・ノーマン 創元SF文庫【中古】アニメ系CD はじめ人間ギャートルズ
2019.09.01
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神官王の正体が初めて明らかになった。とはいえ、最初はフェイクである。自ら神官王と名乗ったその男は「媒体」であった。ただの道具としてしゃべっているので、嘘をついているのではない。では何者か、というのはこの物語のヒロインの語りを通して、それとなくわかる仕掛けになっている。そう、またしてもヒロインだ。ただし今度は前回のような肉体関係はないが、またしてもツンデレである。命を助けられた女が態度を180度変えるというのはメロドラマでよくあるパターンだが、こう続くとマンネリだ。庇護された子供が大人を頼りにするのとどう違うのか。そういった男女観を救っているのが、SF的世界観だ。神官王はやはり異星人だった。インセクター(昆虫人間)だった。彼らは惑星ゴルを滅ぼしうるほどの科学力を持っていたが、太陽光に弱く、サルダルの山中からは出てこられない。しかも極端な少子高齢化で、滅亡の危機に瀕していた。なおかつ、この期に及んでの権力争い。もう子供を産めない「母」は、主人公を誘き寄せるために、コ=ロ=バを塵の都としたのだった。都を滅ぼしたのが神官王の仕業と知れば、必ずや復讐のためにやってくるだろうと。結局、お人よしの主人公はたった一人で、行方不明のタリーナと、昆虫人間の卵を探す旅に出かけることになる。ね、面白そうでしょう?『中古』ゴルの神官王 (創元推理文庫 653-3 反地球シリーズ 3)
2019.08.10
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「最初の接触」マレイ・ラインスター既出。エフレーモフは本作に刺激を受けて「宇宙翔けるもの」を書いたという、この分野の古典中の古典。「生存者」ジョン・ウィンダム半永久的に火星の軌道を回る宇宙船に、最後まで生き残った者は…真夏の夜のホラー。「コモン・タイム」ジェイムズ・ブリッシュ外国語的日本語があるように、異星人的英語の使用法による新しいものの考え方も、ひとたびいつもの時間に戻ってしまえば…「キャプテンの娘」フィリップ・ホセ・ファーマー寄生体は寄生獣ではなかったので、駆除することができたのでした。「宇宙病院」ジェイムズ・ホワイトシリーズの第3弾。宇宙空間で恐竜型知的生命に治療を施すには…「楽園への切符」デーモン・ナイト未知に関して無知なのは当然。ゲートを開いて、わが道を切り拓く勇気のある者ありやなしや? 「救いの手」ポール・アンダースン「最初の接触」に始まる異文化交流・貿易が戦争に至らなかったとしても起こりうる悲劇に対する処方箋。思えば、日本もまた悲劇の道をたどるところだった。否、すでにたどってしまったのか?【中古】ライトノベル(文庫) 伊藤典夫翻訳SF傑作選 最初の接触 / 編:高橋良平【中古】afb
2019.07.31
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『ゴルの巨鳥戦士』があまりにも『火星のプリンセス』ぽかったので、『火星の女神イサス』的な展開を期待したのだが、主人公がゴルに戻って見れば、かつての国は廃墟と化し、愛しい人は行方不明。運命に翻弄されるがままに行動した結果、『フェミニズムの帝国』の崩壊へと至る筋書の物語だった。2作目にして、どうもこのシリーズ、男尊女卑傾向が露わになってきた感がする。ただしそのショービニズムは、まだ、「反地球」的環境における文化人類学的な観察にとどまっており、われらが主人公の心を染め上げてはいない。この後の展開がどうなるか。このままいくと、一冊読み進めるごとに、主人公の女が増えていきそうな予感がするが、わからない。また、ジョン・カーターのような絶対的ヒーローではなく、結構状況に流されてしまう彼が、それでも諦めだけは悪い彼が、今後どのような冒険に巻き込まれていくのか、気になるところだ。気になると言えば、今回も、第1作に続いて黒幕のその後の安否が不明である。今後伏線として生きてくるのかどうか、第3作を手にする日が、待たれるところである。【中古】文庫 ≪海外文学≫ ゴルの無法者 / ジョン・ノーマン【タイムセール】【中古】afb
2019.07.21
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名前だけは昔から知っていた。読むつもりはなかった。それが俄然読む気になったのは、ここを読んだからである。「主人公はヒロインを奴隷化し」え、そんなヒロイック・ファンタジーがあるのかと。だが、第1巻を読んだ限りでは、そんなことはなかった。なるほどヒロインが主人公に向かって「あなたのものにしてほしい」だの「焼き印を押してほしい」だの「奴隷になりたい」などというシーンはあるが、主人公はやさしくそれをはねつけるのである。郷に入っても郷に従わない姿勢はまさしくジョン・カーターのものであり、少なくとも、この巻で肯定されているのは奴隷制度ではなく、騎士道精神である。そういえばキャボット・タールは英国人という設定だった。構造的に、この物語は『火星のプリンセス』に似ている。どちらもいつの間にか異世界に到着し、そこで数々の冒険を行い、自分の意に反していつの間にか地球に戻っている。巨鳥タルンはキャロットだし、タレーナもデジャー・ソリスに劣らぬツンデレだ。要するに、パロディなのである。世界 火星⇔反地球精神風土 昔のアメリカ(南部)⇔古代ギリシャ移動 テレポート⇔反地球の科学主人公 軍人⇔大学教官(特技:フェンシング、剣術)ヒロイン 最大の味方⇔敵の娘住人 火星人⇔地球人の子孫フィクサー 黒人⇔謎の神官(2巻で出てくる)神官 土着の黒人⇔異星人(らしい)猛獣 大白猿、ウーラ⇔タルン、タルラリオンなど長寿 自然⇔血清くわしいあらすじはここ。『中古』ゴルの巨鳥戦士 (創元推理文庫—反地球シリーズ (653‐1))げ。なんて高いんだ。
2019.07.02
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地球から遠い遠いところにある植民星に、独裁帝国が生じつつある。バオバブの芽は小さいうちに抜いてしまえて言うことで、派遣されたチームが、その敵の妨害に遭い、当該惑星に不時着。落ちた所は地球直轄領から6万キロも離れた所。さあどうやってたどり着くか…というお話なのだけれど、ヴァンスは移動の景色そのものに異常な執着を見せて、異世界を描き出す。ペースが遅くて、とても目的地までたどり着けないこと、『地底旅行』に同じ。しかも一行には皇帝のスパイが…という、冒険&ミステリ&サスペンス&ファンタジー&サイケデリック&ユートピア・スペキュレイティブ小説。最後の下りは少々解説が必要か。「日替わり身分制度」とでもいう興味深い社会制度は面白い。しかも途中までこれはひょっとすると『特別料理』の世界なのではないか、とおもわせるところがまた巧妙である。伏線がしっかりしているので、いろいろな読者に受け入れられる構造になっている。入手できるかな?【中古】大いなる惑星 ジャック・ヴァンス 早川ポケットミステリーSF3148
2019.06.03
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科学が衰退し、魔法が跳梁跋扈する、斜陽の地球を描いた6話オムニバスの連作短編集。いずれも恋と冒険と魔法がセットになっており、次の話に前の話に出た登場人物が一人二人、現れる。時には、前の話で斬られて死んだはずの男が再度登場したりして時系列的に首をかしげることもあるが、細かいことは気にしないで、ただエンターテイメントとして読めばいい。ただし、この頃のヴァンスには、『スペース・オペラ』に見られるような円熟した諧謔性はない。何しろ著者の処女長編である。電子黒板で購入するもよし、図書館の相互貸借制度を利用するもよし、根気よく古書店街を探索するもよし。ただ最後の場合、諭吉さんが必要になるかもしれないけれど。終末期の赤い地球【電子書籍】[ ジャック・ヴァンス ]
2019.05.30
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ヴァンスの小説は好きだ。このブログでも、『宇宙探偵マグナス・リドル』、『天界の目 切れ者キューゲルの冒険』、『奇跡なす者たち』と紹介してきた。長中短編集である本書でもヴァンスの諧謔のセンスは健在だ。「スペース・オペラ」宇宙活劇ならぬ宇宙歌劇。地球にやってきた異星人の歌劇団が忽然と消え失せた謎を追って、「そもそも異星人に音楽が理解できるのか」という問いかけをベースに始まった、やじきた珍道中+ラブコメ連作長編。「新しい元首」元首の素質を決めるテストを決めるのは誰か。誰が殺したクック・ロビン。「悪魔のいる惑星」郷に入って郷に従わざれば…悪魔とは相対的なものなり。「海への贈り物」イルカ物語を異星に移したSF。映画になるかな。アニメの方がいいかな。「エルンの海」卵生人類が、角の数によってワン、ツー、スリー、鬼となる世界の話。ワンは村人、ツーは中性の僧侶、スリーは巨人。現在の文明は巨人によってもたらされたものだが、ワンやツーたちは、自分たちがスリーの技術を取得すると、「師匠」を脅威とみなして迫害した。…【送料無料】 スペース・オペラ ジャック・ヴァンス・トレジャリー / ジャック・ヴァンス 【全集・双書】
2019.05.27
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こわれかけた家にやってきたこわれかけたロボットが、自分自身と一組の夫婦を救うお話。一行でまとめてしまうとそうなるけれど、これが映画にしたくなるくらいキュートな話。とくに、ロボットの主人公のタングが素晴らしい。人間の主人公ベン(無職)は、妻のエイミーに三下り半を突き付けられた。それでもタングを修理するためにイギリスーアメリカ―日本ーパラオと地球を半周して、やっとこさイギリスに戻ってくる。その過程で彼が得たものはただの冒険であったか? さにあらず。あまり詳しく書くと興を削ぐので、タングは『ロデリック』よりも愛らしい、とだけ言っておこう。【中古】afb_【単品】_ロボット・イン・ザ・ガーデン_(小学館文庫)
2019.04.13
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一読して、タニス・リーの『銀色の恋人』の女性版の印象を受けた。だが、そればかりとも言えない。『女の国の門』ほどのあからさまなフェミニズム小説ではないけれど、そういう要素もある。マギーは、「理想の恋人」「深窓の令嬢」として作られた。しかし、外界に出てその莫大な情報量を処理できなくて自己が崩壊しそうになった時、創造者は「第一に自己を保全せよ」とコマンドした。そのために殺人まで犯してしまうのだが、自己保全のため、その記憶は封印された。これだけでも、アシモフのロボット世界からは考えられない出来事なのだが、さらに彼女は「成長」する。内なる自我に目覚め、創造者アーノルドを出し抜き、同じヒューマノイド型ロボットのパートナーを得、幸せに暮らす。ごく簡単に梗概を書いたが、実際はとても読み応えのある本だ。例えば、ヴァーチャルという言葉には何重もの意味がある。ひとつは、人工物の存在として。もう一つは、目に見えない「自我」をもつ存在として。また、人間のふりをして社会に溶け込んでいる人間そっくりな存在として。なお、創造者との対決、という意味では『ロボット・イン・ザ・ガーデン』に似た所もある。『銀色の恋人』と合わせて、奇しくも女性作家が、男性、少女、子どもの「ロボット」の話を書いたことになるわけだ。また、不具は文系人間で、コンピュータ用語には疎い方だが、四半世紀前に書かれた本なのに、まるで昨日刊行されたようなリアリティがあったことも、最後に付け加えておきたい。【中古】 ヴァーチャル・ガール ハヤカワ文庫SF/エイミー・トムスン(著者),田中一江(訳者) 【中古】afb
2018.12.06
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軽文学の項に入れようかどうか迷った。何しろコインランドリーで洗濯・乾燥をすませる1時間足らずで読んでしまった小説だから。ライトノベルであり、SFであり、ミステリーであり、恋愛小説でもある。文法的には、ロボットごしに、の方がしっくりくる。眼鏡ごしに、というのと同じ用法だ。普通に考えるなら主体は人間であり、ロボットは媒体なのだから、そうなる。ロボットごしに、というのはリアルとしてまだ早いが、メールごしに、とか、インスタグラムごしに、というのは今でもあるだろう。本当の自分を相手にさらけ出せないすべての青少年のために本書はある。さて、「の」だ。「に」という手段ではなく「の」という属性であるからには、「僕」という主体にも問題があると考えなければならぬ。「眼鏡ごしの君」という表現には「僕の機能の一部である眼鏡を通してみた君」というニュアンスが付きまとう。ならば、「ロボットごしの君」というのは、「僕の機能の一部であるロボットを通してみた」君ということになりはしないか。しかも一部がロボットなら、残りは人間ということになる。つまり、「僕の機能の一部である人間を通してみた君」でもあるわけだ。人間とは何か?ロボットとは何か?【中古】単行本(小説・エッセイ) ≪日本文学≫ 僕はロボットごしの君に恋をする / 山田悠介【中古】afb
2018.10.22
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「主任設計者」アンディ・ダンカンソ連/ロシアの宇宙開発をテーマにした並行世界の宇宙開発史。実在した人物の名前やモデルになった人物が登場し、歴史小説だかノンフィクションだか境界が定かでない。もっともオチは心霊ものだが。「サターン時代」ウィリアム・バートンニクソンが失脚せず延々と民主党政権が続くアメリカ。主役は黒人で初めての宇宙飛行士、ニック。「電送連続体」アーサー・C・クラーク&スティーヴン・バクスター男は長い間宇宙で過ごしたために、地球に帰れない体になってしまった。だがどのみち、帰ったところで居場所はない。物質電送が当たり前の社会、車も電車も飛行機も必要ない社会、それはもう故郷にして故郷にあらず、異郷ではないか?「月をぼくのポケットに」ジェイムズ・ラヴグローヴアポロ宇宙開発の時代、少年は、ガキ大将から「月の石」を買わないかと法外な値段を吹っ掛けられた。どうしてもそれが欲しかった少年は、貯金をはたき、アルバイトでお金を稼ぎ、「宝物」を売り…「月その六」スティーヴン・バクスター月にたどり着いた後、どんどん並行世界をスライスして、帰還したときは「地球その六」になっていた。そこではヴェトナム戦争が延々と続き、人々は月や宇宙への進出など見向きもせず、月には雨の海がなかった。雨の海をつくった大隕石は、三十億年遅れて、地球その六に衝突しつつあったのだ…「献身」エリック・チョイ火星への有人宇宙飛行も火星開発も、今世紀半ばには現実のものとなっているかもしれない。だが、安全な航路や居住地が確保されるまでの間には、先駆けとなる幾多のパイオニアの文字通りの献身が必要になるのだ…「ワイオミング生まれの宇宙飛行士」アダム=トロイ・カストロ&ジェリイ・オルションドライアー症候群というのは架空の病名である。病気というか、テレビでおなじみのあのグレイ君そっくりの顔で生まれて来る、というだけの話だ。いわく、宇宙人。語り手の「わたし」が誰なのか物語の途中まで不明だが、やがて重度の筋ジストロフィーであることがわかる。二人の友情と宇宙への情熱は、ハインラインの小説のように美しい。またその結末も感動的である。ワイオミング生まれの宇宙飛行士 宇宙開発SF傑作選 (ハヤカワ文庫) [ 中村融 ]
2018.04.04
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アシモフのファウンデーションシリーズはわかりやすい。地球人は銀河系の津々浦々に広がっているが、文化こそ違え、彼らは形質的に地球人だ。もっとも長い年月の間に「地球」は伝説的存在になってしまったが。ブリッシュが提供するのは別の未来だ。惑星を地球化する、あるいは人類がそのまま棲めそうな惑星に植民するのではなく、植民する人類そのものを、環境に合わせて変えてしまおうというのだ。本書は三部からなる中編と、皮肉な短編のエピローグからなる四部構成で、それぞれ起承転結を為す。書かれたのは60年以上も前だが、今日読んでも、環境問題を考える上で興味深い作品である。「播種計画」これがそもそもの始まりであった。地球環境では致命的な遺伝病を持つ人々も、ガニメデに棲めるように改造され、永らえることができる。ただその植民地は非合法であり、地球政府はスパイを送り込んで彼らを地球に強制送還させようとするが…「屋根裏の物」播種計画がうまくいった星のひとつでは、人々は樹上生活を営む小人になっていた。彼らの先祖である「巨人」は伝説的な存在だが、疑うものは地獄、すなわち地上に降ろされる。しかしそこで生き延びられる勇気と知力をもった「新人類」こそ、「巨人」が求めていたこの星の人類の姿だった。「表面張力」またある星では、人々は水中生活を営む、極微な知的生命体として設計された。「神」が残した錆びない金属板こそ、水の惑星のポーネグリフだった。勇者と知者は協力して原生動物を従え、食肉族と闘い、まだ見ぬ「星」を求めて、「宇宙空間」に飛び出す船を建造する。水のない空間で彼らが見出したものは…「分水界」何千年もの未来。地球型人類はすでに宇宙の少数民族になっていた。「適応人類」が幅を利かしたためばかりではない。地球そのものを、人類が食いつくし、砂漠だらけの不毛の惑星にしてしまっていたのだ。そんな世界で、どれだけの地球人が生存できよう?【中古】宇宙播種計画 ジェイムズ・ブリッシュ ハヤカワポケットミステリーSF3140
2018.04.02
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原題『thorns』には二つの意味がある。thornなら「とげ」だし、その複数形だから棘がいっぱいあるイメージ。thornsを一つの名詞としてとらえれば「茨」だ。「茨」は「荊」に通じる。さらにthorn(とげ)はthron(王位)のアナグラムでもある。キリストのイメージ。『いばらの旅路』とはよく題したものだ。受難を受けたのは誰か。地球から舞い降りた星で現地人に改造された宇宙飛行士と、科学者に卵子を提供して100人の子持ちになった娘である。宇宙飛行士が地上に降り立って十字架にかけられたキリストなら、女の方は処女マリアだ。ふたりは互いの境遇に同情し、惹かれあい、結ばれた…というのならメデタシメデタシのおとぎ話なのだが、そうは問屋が卸さない。ここに大金持ちがいる。名前は書かない。名前などに意味はないから。宇宙飛行士にも女にも名前があるが、やはり書かない。書かないことで、寓話として紹介したい。大金持ちは二人をくっつけようと画策した。慈善のためではない。同情が愛情に変わり、やがて蜜月の期間が過ぎて愛情が嫉妬や疑惑に変わり、嫉妬や疑惑が憎悪や倦怠に変わるのを見届けたかった。それこそがこの大金持ちの道楽であり、文字通り生きる糧でもあった。こういう人は世の中にごまんといる。他人の不幸は蜜の味、とはよく言ったものだ。二人はそれを乗り越えて幸せをつかむのだが、そのことはさておこう。こういう本を読むと、SFはエンターテイメントであると同時に、文学だという主張に首肯したくなる。疎外感を感じている感受性豊かなすべての人々に、本書は福音をもたらすだろう。残念なことに、昭和47年に刊行された本書は、今もって絶版である。翻訳独占権は早川書房にあり、他社がおいそれと手を出せる状況にないが、文庫化されるという話も聞いたことがない、忘れられた名作の一つだ。興味をもった御仁は、図書館の相互貸借で入手せられんことを。【中古】いばらの旅路 ロバート・シルヴァーバーグ ハヤカワポケットミステリーSF3295
2018.03.31
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「商人と錬金術師の門」テッド・チャンおなじように『千夜一夜物語』を下敷きにしていても、「真鍮の都」とは一味違う趣向のラブ・ロマンス。「なにをもってしても過去を消すことはかないません。そこには悔悛があり、償いがあり、赦しがあります。けれども、それだけでじゅうぶんなのです」という末尾の文章が心にしみる。代表作『あなたの人生の物語』。「限りなき夏」クリストファー・プリースト凍結者とは誰か。わからないが何となく戦時中の特高やSSを連想させる。彼らに目をつけられたが最後、タブロイドの中の活人画にされてしまう。主人公は、偶然にもその呪縛からとけた男。周りの人には見えないが、彼にだけは、活人画と凍結者が視えるのだ…『限りなき夏』(国書刊行会)収録。代表作『伝授者』(サンリオ)、『魔法』『奇術師』『双生児』(以上早川)など。「彼らの生涯の最愛の時」イアン・ワトスン&ロベルト・クアリアハイティーンの青年とおばあちゃんの愛なんてバカバカしいと笑うことなかれ。おばあちゃんはすぐに亡くなってしまうのだから。絶望した青年は、意識をそこに振り向けるだけで、並行世界の時間軸を遡るというスキルを手に入れる。「マックドナルド」を舞台にした年の差カップルの純愛とその舞台裏をご堪能あれ。代表作『エンベディング』(国書刊行会)、『マーシャル・インカ』(サンリオ)、『川の書』『星の書』『存在の書』(以上創元)、『スロー・バード』(ハヤカワ)など。「去りにし日々の光」ボブ・ショウスロー・ガラスの中では時がとどまる。たとえば南極に一年そのガラスを置いて、家に持ち帰れば一年の間、移り行く南極の風景を楽しむことができる。南極が嫌ならアマゾンでもオランダでもネパールでもどこでもいい。あるいは今は亡き家族の思い出になることも…SF好きなら読んでる途中でネタが割れるお話だが、読後感はしんみりする。『去りにし日々、今ひとたびの幻』(サンリオ)収録。代表作『メデューサの子ら』『おれは誰だ?』『眩暈』『見知らぬ者たちの船』(以上サンリオ)「時の鳥」ジョージ・アレック・エフィンジャーもしも歴史が記録の集積ではなく記憶の集積によるものだったら…個人のレベルではそのとおりなんだけれども、学問的にもそうだったら非常にヤバいなあ、と思ってしまった。代表作『重力が衰えるとき』『太陽の炎』『電脳砂漠』(以上早川)「世界の終わりを見にいったとき」ロバート・シルヴァーバーグ本当に世界が終わりそうになっている近未来。人々はてんでに「世界の終わりツアー」に夢中である。そこで提供される未来は、なにやら『タイム・マシン』で見てきたような光景をはじめとして、どこかで聞いたような話ばかり。所詮、現実から逃避するためのドラッグでしかないのだ…代表作『いばらの旅路』『いまひとたびの生』『時の仮面』『ガラスの塔』『一人の中の二人』など。「昨日は月曜日だった」シオドア・スタージョンはずなのに、今朝起きてみると水曜日になっていた。時空間というのは実は読んで字のごとくで、未来は常に建設中、工事中、普請中なのだ、というおバカな発想によるコメディ。大抵の人は月曜日のあとは火曜日に入るが、何かの拍子で間違って…短篇集に『[ウィジェット]と[ワジェット]とボフ』『海を失った男』など。「旅人の憩い」デイヴィッド・I・マッスン北は戦場、南は居住区。北では時間の流れが遅く、まるで永久戦闘実験室のよう。たまたま戦時休暇で南に帰った男は、20年後に再び戦地に戻される。だが、時間は22分しか経っていなかった…一体彼らは「誰」と戦っているのか? 「敵」は本当にいるのだろうか?寡作な作家のため、本編が代表作。「いまひとたびの」H・ビーム・パイパー培った知識や経験は今のままで、人生をやり直すことができるなら、人はどんなことができるだろう。たとえば少年時代に戻って、父親にアドヴァイスして彼を大統領にし、第三次世界大戦を防ぐこともできるだろうか? そういう話になるのは、昭和27年という時代のせいでもある。参考書籍:『リプレイ』(ケン・グリムウッド:新潮文庫)、『時間衝突』(バリントン・ベイリー)代表作『リトル・ファジー』(創元)『スペース・ヴァイキング』(徳間)『異世界の帝王』(早川)「12:01PM」リチャード・A・ルポフ12:01から13:01までの一時間を永遠に生きる人々。「赤信号、みんなで渡れば怖くない」が、自分一人だけ無限の時間ループに気がついてしまった男の喜悲劇。代表作『神の剣 悪魔の剣』『宇宙多重人格者』(以上創元)、『コミックブック・キラー』(早川)「しばし天の祝福より遠ざかり…」ソムトウ・スチャリトクル『タイム・トラベラー』収録。付け加えることなし。代表作『スターシップと俳句』(早川)、『ヴァンパイア・ジャンクション』(創元)「夕方、はやく」イアン・ワトスン中世の朝に始まり、現代の夜に終わる一日がずっと繰り返される世界。そのうちに世界はだんだん退化して、一日の終わりが中世になり、火の発見になり、はじまりがキツネザルになり…なんだこりゃ?「ここがウィネトカなら、きみはジュディ」F・M・バズビイこれも『タイム・トラベラー』収録作品。オードリー・ニッフェネガーの『タイムトラベラーズ・ワイフ』に設定が似ているが、こちらの方が30年も先輩。オードリーの小説も忘れがたいけれど、どちらかというと悲恋に酔いたい女性向きの本かな。参考書籍『不思議の扉 時をかける恋』『不思議の扉 時間がいっぱい』【中古】 ここがウィネトカなら、きみはジュディ 時間SF傑作選 ハヤカワ文庫SF/アンソロジー(著者),テッド・チャン(著者),クリストファー・プリースト(著者),ボブ・ショ 【中古】afb
2018.03.27
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「狩人よ、故郷に帰れ」リチャード・マッケナ環境問題を扱ったsFの嚆矢。新しい土地(星)に入植するとき、人はその環境と闘わねばならないのか? 相手をやっつけなければならないのか? 相手がその星の意志全体だったとしても?「おじいちゃん」ジェイムズ・H・シュミッツ人間のおじいちゃんじゃないよ。筏のこと。人間をどう扱えばいいかはよくわかっているんだ…「キリエ」ポール・アンダースンブラックホール現象を扱った作品のさきがけ。女性技官と心を通わせたプラズマ生命体は、人類のために…「妖精の棲む樹」ロバート・F・ヤング既出。「海への贈り物」ジャック・ヴァンスデカブラックは、畢竟イルカの比喩にすぎない。と思う。「黒い破壊者」A・E・ヴァン・ヴォクト『宇宙船ビーグル号』の巻頭を飾る短篇の、雑誌掲載時ヴァージョン。カリタは漢字で書くと苅田? 刈田? 狩田? 猪田? 【中古】 黒い破壊者 宇宙生命SF傑作選 創元SF文庫/A.E.ヴァン・ヴォークト(著者),中村融(編者),R.F.ヤング(その他) 【中古】afb
2018.03.21
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「真鍮の都」ロバート・F・ヤングこちらを参照。結末のご都合主義には不満が残るが、千一夜物語を何重にも下敷きにした構成は見事。「時を生きる種族」マイケル・ムアコック人類は、空間を制御したように、時間を制御するようになるのだろうか?「恐竜狩り」L・スプレイグ・ディ・キャンプブラッドベリの短編「雷のとどろくような声」と双璧を為すこの分野の古典。ざまあみろ、というべきか、なべて世はこともなし、というべきか。「マグワンプ4」ロバート・シルヴァーバーグノーマルVSミュータントの争いに巻き込まれ、時間ループに嵌まり込んでしまった男の喜悲劇。「地獄落ちの朝」フリッツ・ライバーアルコール依存症は緩慢なる自殺なり。自分自身を殺したとき、人の意識はどこへ行くのだろうか。「緑のベルベットの外套を買った日」ミルドレッド・クリンガーマン女性がまだ今ほど強くなかった時代に書かれた、おそらくは現実逃避のファンタジー。そういえば本の世界は現実と…「努力」T・L・シャーレッド過去の映像をそのまま映し出す機械を発明したら、映画で大儲けできるだろう。学者の間違いを正し、歴史学に貢献できるだろう。だが二つの世界大戦の歴史認識を覆すような事実の発掘には…原爆の技術を独占したアメリカが、世界を支配する悪夢を防いだ技術者へのオマージュ。【中古】 時を生きる種族 ファンタスティック時間SF傑作選 創元SF文庫/ロバート・F.ヤング(著者),中村融(編者),フリッツ・ライバー(その他) 【中古】afb
2018.03.05
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これがSF?異論のあるだろうということは百も承知だ。けれどもきっと、何人かの人は頷いてくれると思う。理由は書けない。これから読む人のためだ。書けることは何かないだろうか。あ、あった。この物語には、二人のアンマー(オカアサン)が登場する。お母さんと、おかあさんだ。また、この物語には二人の子どもが登場する。だから「ぼくら」だ。もうひとつ。この物語はとても地域色の強いお話だが、それは作者が「濃い」高知県人であることと無縁ではない。最後に。読む前にかりゆし58の名曲「アンマー」を聴くべし。【中古】単行本(小説・エッセイ) ≪日本文学≫ アンマーとぼくら / 有川浩【中古】afb
2018.01.28
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「わが愛はひとつ」政治犯として百年間の冷凍睡眠の刑に処された夫を迎えるために、妻がとった手段とは…ある程度年季の入ったSF読者なら、半分も進まぬうちにネタが分かってしまうが、センチメンタルと紙一重の抒情性で最後まで読ませる佳作。「妖精の棲む樹」人類の祖先は樹木と共生していた。神は死んだのではない。人が殺したのだ。エコロジーSF。「時をとめた少女」マン・ハンティングに来た異星の女性二人から、ターゲットにされた青年の話。「花崗岩の女神」<自然>にできた横たわる巨大な女性像。双子の山は勿論乳房。男はなぜその山に登ったのか? そしてなぜ降りて来たのか?「真鍮の都」エメラルドの都のパロディのように見えて、実はアラビアン・ナイトを下敷きにしたユーモア短編。壺の中に閉じ込められた魔神を解放したら…「赤い小さな学校」感じやすい少年たちは不幸である。彼らは身をもって真実を知りそして傷つくだろう…代々。「約束の惑星」移民船は無事その惑星に到着した。農民たちばかりの植民者の中で、パイロットは孤独だった。宇宙船が壊れ、光速通信でSOSを求めても、センターに届くころには自分はとうにこの世にいないだろう。自分はいつまでたってもMr.だ。だれもファーストネームで呼んでくれぬ…◆◆時をとめた少女 / ロバート・F・ヤング/著 小尾芙佐/他訳 / 早川書房
2017.12.29
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中短篇集。「フィルスクの陶匠」どんな職場にも嫌な人がいる。ましてやそれが上司なら耐え難いこともある。そんなあなたに贈るハッピー・エンドの物語、というにはブラックかな。「音」救出された男は自ら命を絶った。近づいてくる地球の音色が耐え難かったからだ。目撃した二人の老乗組員は、天国の音色の星を求めて宇宙をさまよう…「保護色」あくまで不当な領有権を主張するなら、こちら産の猛烈有害動植物をお宅の星にプレゼントするよ。何しろここの環境は君たちの処そっくりになったからねえ…「ミトル」彼女はミトル。人間の名前であると同時に、種族の名前でもある。何しろ彼女はたった一人の生き残りだから。ある日宇宙船が来たけれど…「無因果世界」思念がそのまま現実になる世界で生きていけるのは狂人だけだ。何とかもとのニュートンの世界に戻らないかしら…「奇跡なす者たち」超能力が呪術として幅を利かす植民星。だが先住民たちが科学の力で対抗してきた。植民たちの能力は、相手の心理を読み取れてなんぼの代物だが、虫型異星人の思考形式は地球人とはかけ離れており…「月の蛾」仮面が下着と同じ世界で、他人に素顔を晒すことはこの上もない恥辱である。だが仮面の下をのぞかなければ、犯人はつかまえられない。刑事は人違いをしたが、かえってそれがうまくいったというラスト。「最後の城」相手の誤解から起こってしまったもうひとつの『山椒魚戦争』。良くも悪くもこの人の作品にはユーモラスな落ちがつくから、後味の悪い結末にはならないのだけれど。奇跡なす者たち (未来の文学) / 原タイトル:THE MIRACLE WORKERS[本/雑誌] (単行本・ムック) / ジャック・ヴァンス/著 浅倉久志/編訳 酒井昭伸/訳
2017.03.05
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タイトルからしてSFである。だがロケットも宇宙船も宇宙旅行のウの字も出てこない。とするとこれはどこかの植民星なのだろうか。いやどうも地球の話らしい。だが今のこの地球ではない。南極をめぐって世界が一発触発の状態にあり、情報病なる新しい病が人の心を蝕み、テレパシーでコミュニケーションができる未来の、あるいは並行世界の地上の話だ。じゃあどんな話か?一言では言えない。情報はまるで現代社会のように錯綜している。30年も昔の小説なのに、まるで昨日書かれたみたいだ。これはやはりSFの力か。夫は人妻と浮気している。妻はイルカと懇ろになっている。妻の親友は、妻の母は…となると、これはやはりヒロインを中心にして漣のように広がっていく破門波紋のエネルギーを表現した実験的現代小説か。イルカを異人種ととらえれば、人種・民族・宗教・文化間の差別と偏見のSF的比喩ととらえることも可能だ。そうなるとタイトルは「ほかの人種との気楽な交わり」の隠喩であるか。判断は読者に委ねたい。邦訳で読んでもかなりめんどくさい文体なので、読了を祈る。【中古】 ほかの惑星への気楽な旅 ストレンジ・フィクション/テッドムーニイ【著】,中村融【訳】 【中古】afb
2017.01.25
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SFに分類したものかどうか迷うが、一応舞台は数十億年後の終末期の地球で、剣と魔法の復活した世界、という設定だそうである。切れ者というのは自称で実際のところは間抜けな小悪党を主人公にした連作短編集といった趣で、悪漢小説というのはてっきりアルセーヌ・ルパンのようなキャラクターが主人公の小説かと思ったら、相棒のいないルパン三世が主人公でも成り立つんだ、という「発見」のあった一冊。彼の行くところ行くところトラブルが起き、事件をしでかしておいて尻拭いをしないまま這う這うの体でかの地を去り、新しい土地でまた疫病神となる。しまいには自分をこんな目に合わせた御仁に復讐しようと呪文を唱えるのだが、生兵法は怪我のもととやら、やることなすこと裏目に出るばかり。実はこの話には続編があるらしいのだが、まだ邦訳されていないので、興味のある方は原書で御覧じろ。【送料無料】 天界の眼 切れ者キューゲルの冒険 ジャック・ヴァンス・トレジャリー / ジャック・ヴァンス 【全集・双書】
2017.01.10
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USJと言えば一般的には大阪にあるテーマパークのことだが、本書に限って言えば日本合衆国のことだ。21世紀版『高い城の男』との評判が高いが、さてどうか。筮竹がガンダムに代わって世界がサイバーパンク化しただけで、オリジナルの魅力にはかなわないとみる。ただしディックの作品にはない男女のロマンスや親子の愛情を扱ったシーンがあり、そこを基軸に読み解けば、結構楽しめる本である。【中古】 ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン 新☆ハヤカワ・SF・シリーズ/ピーター・トライアス(著者),中原尚哉(訳者) 【中古】afb【中古】 ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン(上) ハヤカワ文庫SF/ピーター・トライアス(著者),中原尚哉(訳者) 【中古】afb【中古】 ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン(下) ハヤカワ文庫SF/ピーター・トライアス(著者),中原尚哉(訳者) 【中古】afb
2017.01.06
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フランスSFである。珍しいので手に取ってみた。差出人不明の卵の殻の破片とチケットに導かれて、種族も性別も異なる6人の男女が同じ飛行船に同席した。だがその船はハイジャックされ、6人は自分たちの力で「目的地」に行かなければならなくなる。道中、ある種族の者がゲームをして負けた者から身の上話をするようにもちかける。…どこかで聞いたような話だ。それぞれのエピソードも個性的で読みごたえがある。だが彼らが目的地に着いた時に彼らをもてなしたホストは誰だったかというと、やはり『ファウンデーションと地球』のオマージュのようだ。もっともオマル・シリーズはここから始まるので、今後の翻訳が楽しみである。ただひとつ。目をつぶろうと思うけれども、そんなに惑星オマルの表面積が広ければ、地球の何倍ものGのはず。世界は丸いか平らかという論争は面白いけれども、『重力への使命』並のハード性から遠ざかるのはやむを得ない、か。【中古】 オマル 導きの惑星 新☆ハヤカワ・SF・シリーズ/ロラン・ジュヌフォール(著者),平岡敦(訳者) 【中古】afb
2017.01.03
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マグナス・リドルフ。こち亀の絵崎教授を意地悪くしたような山羊髭の食えない老人(道義心の欠如、良識に対する意図的な逸脱)である。肩書は登場時は数学者だったが、いつの間にか哲学者に変わっている。どんな困難そうな依頼にもきちんと解決策を出すものの、依頼する方も海千山千、一筋縄ではいかない。しかしリドルフの癇に障るようなことをすると、すました顔でカウンターをお見舞いする。まあそんな話だ。全10編のうち、「禁断のマッキンチ」「とどめの一撃」「呪われた鉱脈」がミステリー、「ユダのサーディン」が海洋小説、「暗黒神降臨」がハードSF、「ココドの戦士」「蛩鬼乱舞」「馨しき保養地」が異生物もの、「盗人の王」「数学を少々」がピカレスクものというところか。百聞は一見に如かず。ヴァンスならではの乾いたユーモアの世界へようこそ。宇宙探偵マグナス・リドルフ / 原タイトル:The Kokod Warriors 原タイトル:The Unspeakable McInchほか (ジャック・ヴァンス・トレジャリー)[本/雑誌] / ジャック・ヴァンス/著 浅倉久志/訳 酒井昭伸/訳
2016.12.13
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ロボットが人間になる話、といえば、『二百周年を迎えた人間』あるいはシルヴァーバーグがアシモフの中編を長編化した『アンドリュ―NDR114』に如くものはない、と思ってきた。それが揺らいだわけではないけれども、アンドリューに欠けているものが本書を読んでわかった。子ども時代である。アンドリューは誕生した時から大人だった。当然だ。子どもによその家の家事全般は務まらない。しかしロボットが真に人間的であろうとするならば、しかるべき子ども時代があっていいはずではないか?子どもには親が要る。あるいは保護者が。この物語の主人公、ロデリックにも生みの親がいた。しかしその生みの親はアトムを生んだ天馬博士以上に奇天烈な御仁で、諸般の事情もありロデリックは育ての親に引き取られることになる。ジプシーに攫われたりと途中いろいろあるのだが、この分厚い本の終わりくらいに至って、実はパーが○であり、マーが△であり、二人の実の息子が誰であったのかわかるようになっている。しかしそれ以上に奇妙なことは、ロデリックの明らかな人工的外観にもかかわらず、本物の人間たちが彼をロボットではなく障害児として扱うことだ。ロデリックがどんなに自分はロボットだと主張しても、周りの大人たちはそれを受け入れない。もちろん、パーとマーは知っていたろうが、おくびにもそんな気配を見せなかった。自分がどんなに人間になりたいと思っても、死の直前までロボットとして遇されたアンドリューとは対照的だ。つまりこういうことだ。『ルーとソロモン』が『はみだしっ子』のパロディであるように、「ロデリック」は「アンドリュー」のパロディなのだ。『二百周年を迎えた人間』の四年後に上梓された本書だが、攻撃の対象はもっぱら『われはロボット』である。ロデリックという名前自体、「ロビイ」と作者の名前を合成したものだし、ロボット三原則の盲点、というより不備を突くわれらが主人公の舌鋒の鋭いこと。もっとも本人はただイノセントな存在にすぎないので、振り回されているのは……大人たちである。子どもである以上、学校に行かなければならぬ。宗教の時間というのがあってロデリックは初級に入れられるのだけれども、無垢な論理性を持つ彼はキリストの情緒についていけない。二言目には自分はロボットだと言い出すので、神父が与えたのが『われはロボット』だったのだが、まったく効果がないどころか、ロデリックとの教理問答に心身を病んだのは神父さんの方だった。手を焼いた学校は、修了証書ならぬ修ア証書を彼に渡す。お払い箱というわけである。著者はアメリカ人だが、イギリスでの生活が長いらしい。そのせいか、登場人物たちの言動が、みなイーヴリン・ウォーの小説に出てくるような一癖もふた癖もある諧謔とユーモアに満ちている。こちらの静謐にどかどかと土足で入ってくるような厚顔無恥な大人たちには辟易するが、読んでいる分には面白い。読んでいる分には。500頁以上もあるこの本は、しかし、いいところで終わる。それもそのはずで、物語は本書の続編と合わせて完結している、らしい。らしいというのは続編の邦訳がまだ出ていないからで、今のところ続きがどうなったかを知るためには原書を読むしかないのだが、ジェイムズ・ジョイス程とはいかないまでも本書の言語遊戯と博識的雑学を英語で読み解く自信も根気もない。スラディックの小説は本書の他には短篇を少々読んだだけでほとんど知らないが、質量ともに『ロデリック』とその続編が最高傑作だろう。それは誰それを読んでいなければわからないというような性質のものではなく、普通に文学体験をしていれば感じ取られるもので、ただそのためには向き不向きというか好みの問題はあるかもしれない。当然、SFが好きな人には親和性があるだろう。
2016.11.09
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「平ら山を越えて」平らな山って台形みたいなもんかと思ったら、雲を突き抜ける標高ウン万メートルの山だった。山同士が衝突して隆起したら…という設定らしい。山越えのトラックの男は、ヒッチハイクの家出少年を拾う。これがまたドライバーの若いころそっくりな可愛げのないガキで…「ジョージ」作者の処女作。もしも生まれてきた赤ん坊に翼が生えていたら? あなたは医者や牧師の勧めるとおり、切除しますか? 「障害」とは何かを考えさせる佳作。「ちょっとだけちがう故郷」旧式飛行機に乗って冒険した少年少女たち。砂漠を越えて着いたところは一種のパラレルワールドで、そこでは背骨の曲がった女の子も…「ザ・ジョー・ショウ」宇宙のプラズマ的生命体は、地球人の女に欲情するか? 『宇宙のエロス』の類にふさわしい一篇。「スカウトの名誉」この手のお話としてはアシモフの『停滞空間』が有名だが、本編もなかなか。孤独な現代女性と新人類に追われ、仲間を失ったネアンデルタール人男性の魂の交流。「光を見た」神は自分に似せて人をつくった。人は神を崇め、進化した。人が神と再会した時、神は失望した。人が神と対等な存在であろうとせず、自分を崇めたからだ。神は行ってしまった。人間は犬に対して、同じことをするだろうか?「マックたち」殺人犯を被害者の数だけ複製しろ。遺族に引き渡して、殺させるのだ。証言が積み重なるうちに真相が見えてくる。インタビュアーが誰であるかも。最後の一語ですべてが明らかになる。芥川的な名編である。「カールの園芸と造園」緑がほしいならホログラムが一番。死んだ地面には木も草も生えませんよ、という世界の哀れな話。「ドクター・ゾンビ―と小さな毛むくじゃらの友人たち」を連想した。「謹啓」とともに始まる赤紙の召集令状。人口の増えすぎた国では、ある世代を生かすために、別の世代が犠牲にならねばならぬ。イラク戦争を皮肉った一編だが、少子高齢化社会への諷刺にもなっている。【新品】【本】平ら山を越えて テリー・ビッスン/著 中村融/編訳
2016.11.07
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これが本邦初訳、という作品ばかりを集めたオリジナル短編集。「アダムには三人の兄弟がいた」もちろん聖書にそんな記述はない。だが兄弟の子孫はアダムの子孫とは別個に生き延びた。アダムの子孫の上前を撥ねることで。やくざではない。詐欺師だったのだ。兄弟の子孫は彼ら同士結ばれ、アダムの子孫と交わることはなかった。たった一度の例外を除いては…「氷河来たる」この期に及んで、積雪を敵の攻撃によるものとしか考えない東西の「指導者」。「究極の被造物」絶世の美女のこと。さえない男が結婚した彼女がそうだった。でも彼女のお母さんは「変な魚」(変わり者)だった。文字通りの意味で…「パニの星」パニと言えども死者をよみがえらせることはできない。しかし彼らは地球人の指導者を「再生」した。その結果…。アシモフ以外でかくもSFと推理小説の幸福に結婚した作品は珍しい。「子供たちの午後」地球の文明の発展に貢献したのが異星人だったというアイディアは珍しくないが、それが子供となると…ちなみに午後は、地球時間で大航海時代、ルネッサンス以後の世界にあたる。「トライ・トゥ・リメンバー」教授が自分の行動ノートを別の教授のものと間違えたばかりに起きた夫婦の喜悲劇。「プディブンディアの礼儀正しい人々」こういうのを、未必の故意というんだけどなあ…SF版「ゴルゴンの目」。「マクグルダーの奇跡」考えられないような安い値段で彼らにはその代物が製作できるという。お偉方は迷わず彼らに出資した。といっても、現金ではなくピーナツだったのだが。本当はその時点で「動力」が何か、気がついてしかるべきだったのだが…「この世で一番忌まわしい世界」ヘビ型知的生物の、地球における栄光と凋落。まあ地球人にない能力をこっそり使って得た金と地位だから、同情の涙も出ないけどね。それを抜きにして考えると、立派な風刺になってるかな。「奪われし者にこの地を返さん」小松左京さんだったかな、人類が急に良心的になって、オーストラリアやアメリカから「入植者」とその子孫が先住民に土地を引き渡すという短編があった。オチは雪男が見つかり、彼らがネアンデルタール人だったとわかって…というものだった。まあ現生人類だって旧人類の血をわずかながらも引き継いでいるんだけどね。閑話休題。こちらは無政府状態のマンハッタン。繋がれた市長に島を売却するように迫る三人の賢者ならぬ銃友会の会員たち。しかし食べられる動物もいない島で、いったい何を狩ろうというのか。彼らの素性は?「彼岸の影」患者の夢はあの世へと続く。そう踏んだ精神分析医は、クライアントから夢を奪った。イデアに行きたかったから。なるほどイデアはあの世にあるかもしれない。だがあの世のすべてがイデアとか天国とか呼ばれる世界では、ない。【中古】 子供たちの午後 /R.A.ラファティ【著】,井上央【訳】 【中古】afb子供たちの午後【電子書籍】[ 青桃 ]課題図書。『地球礁』河出書房新社『宇宙舟歌』国書刊行会『イースターワインに到着』サンリオ『悪魔は死んだ』サンリオ
2016.11.04
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「星に願いを」問題。客観的に何光年も先にある星に移住するのを、主観的に一瞬で移動するためには、どのような精神の作用があればよいか。「ピーナツバター作戦」地球に来たのはいいけれど、燃料が漏れてしまった。困った宇宙人が見出した代替エネルギーとその協力者は…「種の起源」地球は実は流刑星だった。クロマニヨン人は実は宇宙の凶悪犯であり…「神の御子」神の御子は神の巫女から生まれた。しかしその前に偽基督が現れ…「われらが栄光の星」男は密航した女を閉じ込めた。それが事の始まりだった。本当に?【中古】 ピーナツバター作戦 /ロバート・F.ヤング【著】,桐山芳男【編】 【中古】afb
2016.11.01
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「熊が火を発見する」むかしむかし、火を恐れていた人間が、実は有用なものだと気がついた。同じように熊も…語り手の母と熊たちとの交歓が見もの。「アンを押してください」ATM考える、ゆえにATMあり。翻弄される男女のペア。「未来からきたふたり組」そのふたりは、芸術品を損傷から守るためにやってきた。画家は目の前にいるのだが、絵はまだできていない。締め切りが迫っているのに…「英国航行中」本当にイギリスが大西洋を横断したら、アシモフ氏も簡単にクラークに会えただろうにね。あ、スリランカが太平洋を横断したら、かな。「ふたりジャネット」おらが町に、アービングが引っ越してきただ。サリンジャーもだ。アップダイクも、ソール・ベローも、トマス・M・ディッシュつうSF作家もだ。これいったいどうしたことだんべ?「冥界飛行士」その世界に行けば(夢を見ることができるように)あなたも目が見えるようになりますよ、と言われた画家。確かに「その死者」は死後の生を生きていた。そこへ行くこともできた。戻ってくることもできた。生きてさえいれば…「穴のなかの穴」「宇宙のはずれ」「時間どおりに教会へ」妙ちきりんな数式を繰り出す中国系アメリカ人ウー(烏?)の行くところ珍騒動が起こる。いや、彼が起こすわけではないのだけれど。洞窟と月がつながったり、宇宙が縮小し始めたのをまた逆流させたり、宇宙の時空がいつの間にか盗まれていたり、いや、彼がしたことではないのだけれど、そうしたことに振り回される語り手とのやり取りが可笑しい。ビッスンの喜劇的ほら話の最たるものだろう。【中古】 ふたりジャネット / テリ・ビッソン、中村融
2016.10.29
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「ごきげん目盛り」日本語では目盛りとメモリは掛け言葉。「ジェットコースター」過去に遡ってスリルを味わうために、時間を旅してくる未来人。いざとなれば「時元」空間に逃げ込めばいいのだ。「願い星、叶い星」その子は【祈り】の天才だった。そうとも知らず大人たちは彼を追いかけ…「イヴのいないアダム」アダムの死骸を糧として、海はまた新たな命を生み出すだろう。これまでずっとそうしてきたように…「選り好みなし」仏教にいわく、今を離れて生きるところなしと。にもかかわらず黄金時代を求めて時をさまよう者は…「昔を今になすよしもがな」しづやしづしづのをだまきくりかへし…静御前が源義経を想って詠める歌の下の句から。文明がとっくに滅びた世界で、二人がまだ貨幣経済だの文明の利器だのが存在するかのように信じて(?)振るまっているのが哀れにも滑稽である。「時と三番街と」『バック・トゥ・ザ・フューチャー part2』を思い出す。確かに未来を覗き見るのは詐欺だ。本短篇集の中で唯一心温まる話。「地獄は永遠に」防空壕で五人は一人を殺した。彼らは悪魔を召喚し、それぞれ己の道を歩むことを望んだ。悪魔は頷いた。対価を求めなかった。なぜなら殺されたのは実は悪魔その者であり、五人はすでに空襲で死んでいたからである。そうとも知らず彼らが歩んだその先にどのような地獄が待っていたかについては、本書を読んでお確かめのこと。本邦初訳。
2016.10.15
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『ジョナサンと宇宙クジラ』を読んだのはふた昔以上前だったと思う。短篇集の内容もあらかた忘れてしまったが、ブラッドリよりSF臭の強いセンチメンタルな書き手、という印象だけは残っている。「特別急行が遅れた日」普通小説かと思ったら、途中でSFだとわかり、最後は『フェッセンデンの宇宙』を被造物の立場から見たような、複雑な気持ちになる一編。「河を下る旅」三途の川を下る途中で同行した女性の命を救うために、男は…「エミリーと不滅の詩人たち」詩人の作品を詠唱するロボットの代わりに展示することになったのは車。エミリーは愁嘆する。しかし幸いにも運転席が空いていたので…「神風」太平洋戦争に従事したこともある作者の宇宙戦争版スーサイド・アタック。「たんぽぽ娘」奥様は魔女未来人だったのです…。「荒寥の地より」貧しい素朴な一家との交流が、なぜローンなる未来人には心温まる思い出だったのか。「主従問題」犬が人間の主人という発想は珍しくないが、それを移住問題に絡めたところがミソ。「第一次火星ミッション」デジャー・ソリスに捧ぐ。「失われし時のかたみ」死の直前には走馬灯のように記憶が駆け巡るというが…「最後の地球人、愛を求めて彷徨す」そこが『地球最後の男』の主人公と違う、彼の弱点だった。「11世紀エネルギー補給ステーションのロマンス」中身は「眠れる森の美女」の、タイトルはO・ヘンリーの「忙しい株式仲買人のロマンス」のパロディか。「スターファインダー」宇宙クジラの脳みそ殺しゃ、生きてる宇宙船の出来上がり。しかし、たまたま脳が二つあるクジラがいて…「ジャンヌの弓」宇宙版ジャンヌ・ダルク伝説は、また女性版イエス・キリストの、復活も含めた物語であった。これぞホントの三位一体。たんぽぽ娘 [ ロバート・F・ヤング ]たんぽぽ娘【電子書籍】[ ロバート・F・ヤング ]
2016.10.11
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映画の原作だが、3年ほどの食い違いがある。小説では、ヒトラーがタイムスリップしたのは2011年ということになっている。また、終始<総統>による一人称で語られ、読者は彼の明晰かつ偏執的な論理に付き合わされることになる。はじめのうち、読者はヒトラーを笑う。彼が本物だと知っているから、現代社会にまだ適応できていない彼が可笑しいのである。次に、ヒトラーのことをあくまで芸人と認識しているほかの登場人物との会話の齟齬に笑う。かみ合っていないのに、かみ合っているように見える可笑しさ。「喜劇の誕生は本質の取り違えである」とはよく言ったものだ。「スターリンは生きておるかね?」「いえ、死にました」「ではルーズベルトは? チャーチルは?」「死んでいます」「では私は?」「生きてます」「それはなぜだか、私は確信している。私が菜食主義者だからだ!」だがそのうち、背筋に冷たいものが流れてくる。ヒトラーはあらゆる状況を利用した。かつてのナチスの「残党」をこき下ろしたのも、こんなものはナチズムではないという罵倒だったが、世間はそれをナチズム否定ととらえた。ネオナチに襲撃されて手を出さなかったのも「非暴力主義」と礼賛された。神の立場にいるはずの読者ですら、「人間」ヒトラーに引き込まれそうになるかもしれない。映画に出てきたあのユダヤ人の祖母はどうか。小説には直接登場しない。だがおそらく「芸人」ヒトラーに<洗脳>されたであろうことが行間から読み取れる。映画監督が彼女を認知症に設定したのは正解だった。何しろこの男は「優秀な人間は死んだ人間だ。生き残ったのはクズばかりだ」と豪語するあの『ヒトラー』なのだから。まかり間違っても、良識ある人間ならヒトラー究極の思想に共感することはないだろう。だが人々の良識はどこまで信じられるのか。強固なものなのか。その試金石ともいえる本書を、ブラックなユーモア小説にするか、海外文学にするか、はたまたディストピア小説に分類するか、正直言って迷った。しかしその諷刺性と思弁性を鑑み、タイムスリップ小説でもあることから、SFの範疇に入れることにした次第である。【中古】日本文学 ≪日本文学≫ 帰ってきたヒトラー 上 / ティムール・ヴェルメシュ【02P03Sep16】【画】【中古】afb【中古】日本文学 ≪日本文学≫ 帰ってきたヒトラー 下 / ティムール・ヴェルメシュ【02P03Sep16】【画】【中古】afb↑どうでもいいけど、どこが日本文学じゃ。↓電子書籍版。帰ってきたヒトラー 上下合本版【電子書籍】[ ティムール・ヴェルメシュ ]↓DVD。帰ってきたヒトラー DVD コレクターズ・エディション [ オリヴァー・マスッチ ]↓おまけ。楽天最安に挑戦【在庫あり★即納可能】Mr.トランプ ラテックスマスク★ゴムマスク トランプ氏★オガワスタジオ【キャラクターグッズ★雑貨】
2016.09.17
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「奇蹟を行う男」H・G・ウェルズ超能力テーマSFの古典にしてアンソロジーの常連。「フェッセンデンの宇宙」エドモンド・ハミルトンこれもアンソロジーの常連。「プルトニウム」C・A・スミス核兵器の原料ではなく、冥王星のプルートーのこと。未来を垣間見せる宇宙の麻薬のお話だが、仕舞まで読まないうちにオチが分かってしまうのが難。「生命の樹」C・L・ムーア『トリフィド時代』とは一味違う、女流作家による食人植物の話。『シャンブロウ』所収。「二八八九年」ジュール・ヴェルヌファクシミリはすでに時代遅れのものになってしまった。電子新聞もテレビ電話も実用化したし、平均寿命は52歳どころではない。しかし自然のエネルギーを蓄え、好きな時に好きなように放出して光や熱や電気に換える機械はまだ発明されておらぬ。しかしこれとても二十九世紀を待たずして発明されるのではないか。「火星の超巨人」エドガー・ライス・バローズスペースオペラ嫌いの編者がこれを選んだのは、本篇が「合成人間が合成人間を造る(神の被造物がロボットを造る)」というSFらしい命題のパイオニア的作品だからであろうか。「歩行者族の反乱」D・H・ケラー階級闘争とカーキチ社会の到来をドッキングさせた本アンソロジー随一の傑作。発表から90年近くたって今なお色あせないのは、それだけ風刺が生きているからである。「影と閃光」ジャック・ロンドン行き過ぎたライバル心は破滅につながる。透明人間テーマの変奏曲で、テイストはウェルズに近い。「ロス・アミゴスの大失策」アーサー・コナン・ドイル電気は生命エネルギーにつながる。あまりに強い電流を流してしまったがために、死刑囚は感電死するどころかエネルギーを蓄えて不老長寿の体になってしまった、という科学の幕開け時代の奇談。《芳賀書店》福島正実編 宇野亜喜良装幀クラシックSF 華麗なる幻想 …HAGA SF SELIES 【中古】afb《講談社文庫》福島正実編華麗なる幻想 海外SF傑作選 【中古】afb
2015.11.08
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