つれづれなるままに―日本一学歴の高い掃除夫だった不具のブログ―

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2014.12.20
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カテゴリ: 近代日本文学
『蒔岡家の姉妹』という題名で英訳されている本書は、表面的には 『若草物語』 に似ている。また三女の結婚話を巡るとりとめのない話という点では『吾輩は猫である』に似てないこともないし、斜陽族が 『斜陽』 になる直前の最後のきらめきを示した記録小説と言えなくもないが、上中下三部作に分かれていて、その文体が読点ばかりでなかなか句点にならないまどろっこしさや自然描写の妙、蒔岡家の人びとの鷹揚さや、終わったか終わらないかわからないようなラストの書き方からして、昭和の『源氏物語』と評することもできるだろう。

ただしこの物語に光源氏は登場しない。登場するのは「大阪のおばちゃん」を上品にしたような旧家の人びとで、英名の示すとおり蒔岡家の四姉妹、ことに次女の幸子から見た三女の雪子と四女の妙子の動向について語られるのだが、幸子は谷崎夫人がモデルであるそうだから、貞之助は谷崎氏自身なのかもしれないけれども、かといって私小説というわけでもなくて、ただ時局によって滅び行く古きよき時代の大阪の名家のありようを、細部に至るまでこと細かく書き残した、哀惜に満ちた小説なのである。 映画 もその点はよくわかっているようだ。

細雪という題名は三女の雪子から来ていることは推察され、雪子の見た目や内気さや芯の強さやその他もろもろを象徴しているのであるが、これから本格的な冬の時代を迎える直前の一家の姿を、散り逝く桜ではなく、細雪に託したのだと考えることもできよう。この小説はいったん読み始めると最後まで読み通さずにいられない魅力があって、しかしそれは登場人物の魅力によるものではなく、もっぱら文体の力であるように思われる。

かといって登場人物に全然魅力がないというわけではなくて、幸子や貞之助や雪子らの逡巡もわからなくはないのだが、それはあくまで世間体を重んずる旧家の体面を代表するものであって、そういう意味ではむしろ型破りな四女の妙子に惹かれなくもないのだが、終盤に至ってそのあまりの無勝手流にあきれ返りもし、逆に雪子を再評価するような展開にもなる。ゆえに最後にめでたく結婚が決まって上京していくのをみてやれやれと胸をなでおろすのであるが、下痢が止まらないという描写はあるいは事実でもあったのかもしれないが、時局の行く末を知っている戦後の立場からみれば暗示的である。

それにしても、生前あれほど「筋のない小説」について激しく論争した谷崎潤一郎の代表作、最も長い長編小説がこの『細雪』だと知ったら、草葉の陰の芥川龍之介はどのような感想をもつであろうか。…



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Last updated  2014.12.22 05:56:08コメント(0) | コメントを書く


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