桜工房(だったところ)

桜工房(だったところ)

#15



「いやぁ、あはは。ごめんごめん!」
 カナエは自分のポニーテイルをいじりながら苦笑する。
 結局、彼女の本の話は一時間ほどたっぷりと掛かり。ハルカはすっかり憔悴しきっていた。
「みゅ~~」
「本当にごめんね? ハルカちゃん」
「あぃ…」
 ふらふらのハルカは、操り人形みたくカクンと一度うなずいた。それを見たカナエはニコニコと微笑む。それからカナエはポンと手を叩く。
「さーて! そろそろ行こうか?」
「みゅ? どこへですか?」ハルカは首をかしげる。
「決まっているじゃない。返却日を過ぎているのに返さない人のところへよ!」カナエはぐっとこぶしを握り熱く語った。
「聞いていたのぉ?」
「うん」カナエは目を細める。「私、本の話を始めると止まらなくなるけどぉ。周りが見えなくなるわけじゃないのよ」
「へぇ~」ハルカは感心した。
「じゃ、メモを貸して? ま、たぶん内容はわかるけどねぇ」
「あ、あぃ」
 ハルカは先ほど男子生徒に渡されたメモをカナエに渡した。カナエはメモを開いて中を一目確認すると直ぐにポケットに突っ込んだ。
「ふぅむ、やはり予想通り。エレンさんだった」
「エレン…?」
 ハルカは先ほどの出来事を思い出す。変わった人が多い2-Gの面々の中で、彼女の存在は抜きん出ていた。一応、天使であるハルカだがテレパシーで話しかけられたのは、生まれてはじめての出来事だった。

「やっぱり、彼女は魔女なの…?」
「そうだよぉ。魔女♪」カナエはにこりと微笑んだ。「でも、怖がることはないよ。エレンさんは
魔法が使えるだけで、それ以外は普通の寂しがり屋の女の子だから」
「寂しがり屋?」ハルカは再び首をかしげる。
「うん…」カナエは笑みを崩さずにうなずいた。「あのね、少しお話しようか」
 ハルカはびくっとした。
「あはは、大丈夫。本の話じゃないよぉ、エレンさんの誤解を解くためのお話…」
「う、うん…」
 それでもどこかハルカは不安そうな顔をしていた。

 それからカナエはハルカに、エレンの話を始めた。
 子供のころ、古本屋で寂しそうな顔をしながら本を眺めていたエレンと出会ったときのこと。
 それから何度も話をするうちに、エレンが少しずつ明るくなってきたこと。  

「ま、そんなわけでねぇ。彼女とは結構長い付き合いなのよ」
「でもぉ、彼女が魔法使いだとわかって。カナエちゃんは怖くはなかったのぉ?」
 ハルカは自分が天使であることを忘れたような質問をする。
「何で? そんなことなかったよぉ」カナエは不思議そうな顔をする。「格好いいじゃない、魔法使いだなんてぇ!」
 カナエは満面の笑みを浮かべた。
「みゅ?」ハルカは目を丸くする。
「さっきも言ったけど、私、『魔法少女リリィ』のファンなのよぉ。子供のときから!」
「そ、そうだったねぇ」
 ハルカはカナエの本の話を思い出して身震いをした。
 だが、ふとハルカは思った。
(カナエちゃんなら、私の正体がわかっても仲良くしてくれるかも…)

 それからハルカとカナエは、クラブ棟の地下二階の「エレンの館」へとやって来た。

「ここなのぉ?」
 ハルカは辺りに怪しい雰囲気を漂わせている扉を前に、少し怖気づいたようだった。
「うん。そうだよ。本当は窓のある部屋の方がじめじめしなくていいよぉって、上の階を勧めたんだけどねぇ。エレンさん、地下の方が落ち着くってさ…」
「うーん。さすがは魔女だぉ」
「うん。ハルカちゃんもわかってきたねぇ」カナエは笑った。

「エレンさん、入るよ――、おぉ?」
 扉を開き中を覗き込んだカナエはしばらく硬直した。覗き込んだ部屋の中は、まるでそこだけに台風がやってきた見たくひどく荒れ果てていた。
 カナエの肩越しに中を覗くハルカも目を丸くする。
「これは、どういうこと?」
「わからないよ。もしかして実験中に爆発でも起こしたのかなぁ?」
 カナエは恐る恐る部屋の中へ入っていく。
「ど、どぉ…?」
 扉のとこでハルカが尋ねるが、エレンのことが心配なカナエの耳には届かない。
 そして、扉の陰になっているハルカからは見えない方を見たカナエは短く息を呑んだ。
「…エレン、さん…!?」


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