桜工房(だったところ)

桜工房(だったところ)

エピローグ



 とても長く感じられた、あの学園生活最初の日から、数日が経ち――。
 本格的な学園生活に慣れ始めた頃、ハルカは寮の部屋で、母親宛の手紙を書いていた。


 お空の上のお母さんへ

 こちらの生活にもだいぶ慣れてきました。
 学校のみんな仲良くしてくれて、お友達もたくさん出来ました。

 あぅ、でもでも~。学校初日は大変だったんだぉ。 


 ――あの事件の翌日、理事長室にて…。

「…そうでしたか。それは大変でしたねぇ」理事長は口ひげをいじりながら難しい顔を作る。
「あぃ、でもでも。みんなに助けてもらってぇ」ハルカは言う。
「うむ。それは良かったですが…。怪我をした子もいるのでしょう? 幸い重傷者がいなかったのがなによりですが…」
「は、はぃ~。リーダーさんや、ミオお姉ちゃんは、あの後しばらく動けなかったんだぉ。エレンさんの特効薬を飲んで、今はだいぶ良くなった見たいだけどぉ…」
「エレンさんですか…」理事長は渋い顔をする。「元はと言えば、彼女のせいでこの事態になったんでしたね…。困ったものですねぇ」
「で、でもぉ、ちゃんとみんなを助けてくれたのもエレンさんだよぉ」
「えぇ。ま、当然と言えば当然なのですが。彼女も今回は頑張ってくれたようですね。今回は無しにしておきましょう」
「あ、ありがとうございます!」
 ハルカはペコペコとお辞儀をし、戸口に立つ担任のケイに見送られて、理事長室を後にした。

「…今回の件は申し訳ありませんでした」ケイが呟くようにいった。
「いえ、構いませんよ」理事長はケイに微笑みかける。「まさか初日でこのような事態になるとは、私にも予想できませんでしたからね」
「それはそうですが…。やはり彼女たちの担任としての立場を考えると…」ケイは申し訳なさそうにいう。
「起きてしまったことは仕方ありません。子供たちの無事を素直に喜びましょう」理事長は優しくいった。
「はい…」
「――フフッ…」
 突如、懐かしそうな顔をしながら理事長は笑みを浮かべた。
「?」ケイは不思議そうな顔をした。
「いえ、思い出し笑いです。お気になさらずに…。ハルカさん、若い頃の彼女にそっくりだなぁと思いまして…」
「彼女…?」
「あの娘のお母さんですよ…」
 理事長はそういって机の上の小さなボートレートを眺めた。


 事件の時に私のことを守ってくれた、みんなの話を書きます。
 最初はミオお姉ちゃん。背が高くて力持ちの男の人みたいな、女の人です。
 最初、お兄ちゃんと呼んで怒られたので、
 同じ年だけど「お姉ちゃん」と呼ぶことに決めました。

 ミオお姉ちゃんは、実は教会の孤児院で働いているそうです。
 事件の後によくお話をするようになった、いつも綺麗なお洋服を着ているマヒロさんと
 この前会っているのを見かけました。


 ――事件から三日後、孤児院。

 孤児院の子供たちに、私服姿で悪戦苦闘しているミオ。

「あー、ちょっと君たち! いい加減にしてくれないかなぁ?」ミオはうんざりしたように言った。
「ミオー。お前、制服どうしたんだー?」一番生意気そうな少年のザックがいった。
「なくしたんだよぉ。もう、院長様に怒られて大変なんだから、思い出させないでよ!」
「へへ~。ドジだなぁ、ミオは!」

 そこへマヒロが紙袋を持って現れた。
「あのー、ミオさんいますかー?」
「あれ? あー、マヒロさんじゃない? どうしたのこんなところで?」
「う、うん。そのね、学園の落し物係やってる友達から、サイズの大きいシスター服が届いたと聞いて…。なんかミオさん、シスター服落としたそうじゃない? だから、これかなぁって、持って来たのよ…」
「え!? 本当にー? 助かったよぉ、マヒロさん!」
「う、うん…」
 マヒロはミオに紙袋を渡した。
 その中身は二日掛けて彼女が新しく制作したシスター服が入っていた。
(本当のミオさんの奴は、破れちゃったからねぇ…。でも、我ながらそっくりに作ったから、大丈夫、バレない、バレない…) 
「あれ~?」ミオは不思議そうな声を上げた。
「――え? な、何? 違ったかな…?」
「う、うん。ボクのとそっくりなんだけど…丈が、ちょっと短いようなぁ…」
「えぇ――!!」マヒロは思わず頭を両手で押さえる。
(し、しまったー。私のコスプレ用の方を持ってきてしまった――!)

「おぉ、ミオ! それってミニスカじゃないかぁ!」ザックが妙に興奮した口調で喜ぶ。    


 それからねぇ、私そっくりのカナエちゃんという、
 本が大好きで、いつもメガネを掛けている女の子とはねぇ。
 席も隣同士で、寮のお部屋も一緒の私の一番仲良しのお友達なんだよぉ。

 そしてね、カナエちゃんには、昔からの親友の銀色の髪の魔女さんがいるのぉ。
 名前は、エレンさん。ちょっと冷たい感じがするけどぉ、頼りになる人なんだよぉ。

 最近、カナエちゃんは、エレンさんに魔法を教えてもらっているみたいなんだけどぉ…。


 ――五日前、エレンの館。

 魔道書を片手に絵本の魔法使いのような格好をしたカナエは、たどたどしく呪文を唱える。

「…い、でよ…[火]…」

 ――し~ん。

「あ、あれ? いでよ[火]! …[火]!」カナエは何度も同じ呪文を唱えた。
 そこへエレンがやってきた。
「…ただいま。カナエ…どんな感じ?」
「あー、エレンさん。全然、だめ~」
「そう? まぁ、『古の文字』が読めるからって。そう簡単には、魔法を使えないわよ…」
「そうなのー? でも、地下書庫では[閃光]の魔法が出来たんだけどなぁ」カナエは悔しそうに言った。
「…そういえば、そういっていたわね…」エレンは思い出したような顔をした。「でも、地下書庫には多量の魔法関係の本が収められていて、魔力に満ちているから…そのためとも考えられるわ」
「そ、そうなの!? なんだぁ~」カナエはガッカリした顔をした。
「――ん? ところでカナエ…」
「へ? 何、エレンさん?」
「…いや、なんか焦げ臭いんだけど…」

 と、二人は様々な薬品が納められている木製の棚のほうを見た。

 メラメラメラ~

 まだ小さいながらも木製の棚は燃えていた。
「うっひゃあ~~! か、火事だぁ~~!」カナエは魔道書を放り出して、慌てふためいた。
「…あなた、一体何回魔法を唱えたのよ…」
「え、えーと、七十回くらい…かな?」
「あー、それだけやれば…一回くらいはまぐれでねぇ…」エレンは冷静に分析し、納得した顔をする。
「と、とにかく火を消さないとぉ~~!」
「いえ、あそこには危険な薬品がしまってあるから。爆発するかも…逃げた方がいいわ!」

 二人が部屋を出て、扉を閉めた直後――!

 ドッカ~~~ン!!

 という爆音と共に、いくつかの物が壊れる音が扉の外へ漏れて聞こえてきた。
「…後片付け、よろしく」通路の天上を見上げながらエレンはポツリと言う。
「…はい」さすがのカナエも、がっくりとうなだれた…。


 それからね、私のクラスのGのリーダーさんのシオンさんは、
 黒くて長い髪の綺麗な人だけど、ミオお姉ちゃんと同じくらい戦うのが得意な人なのぉ…。

 そのリーダーさんは、
 最近、なんだか学園の行事の仕事で忙しそうだぉ…。


 ――昨日、中等部2-Gの教室。

「あぁ! 面倒くさいったらないわ~!!」髪をかき乱しながら、シオンは叫んだ。「…サボタージュ、いいかしら?」
「ダメ!」即座にミオが言う。
「そぉだぉ!」ハルカも口を尖らせた。
 教室には他にもカナエ、エレン、マヒロの姿があり。他にも数人が集まって書類作り等の作業を行っていた。

 この日、学園中では間なく開かれる。学園総合運動祭「スポーツ祭典(仮)」の実行委員やクラスリーダーたちが、競技種目の見直し等を行っていた。
 2-Gの実行委員には、今年はミオと数人の生徒が選ばれ。
 ハルカたちはお手伝いをしているところだった。

「みんな悪いねぇ。お礼に明日、街でアイスでもおごるねぇ? …シオンが」ミオがいう。
「わぁ~い! アイスだぉ!」ハルカは手を叩いて喜んだ。
「ちょ、ミオ! 何を勝手に決めるのよ!」シオンはミオに抗議する。
「やぁ、シオンさんありがとうねぇ」とにこやかにカナエ。
「…私、アイス好きなの…」エレンは目を細くしていった。
「わ、私もご馳走になっても良いかなぁ?」
 とマヒロまでも言ったので、引っ込みが付かなくなってしまったシオンは叫び声を上げた。
「えぇい! わかりましたよ! ご馳走させていただきます!」
 他の生徒たちも「おぉ!」とシオンに拍手を送る。

 ――と、そこへ教室に誰かが入ってきた…。
 栗色の短い髪をした少しやせ気味の男子生徒である。
 やはり2-Gの生徒で、名前をダイスという。

「あ、ダイス君!」ハルカは真っ先に男子生徒の名を呼んだ。
「おー。なんか盛り上がっているけど、何やっていたの?」ダイスはにこやかに尋ねた。
「あのねぇ。明日、シオンさんが街でアイスをご馳走してくれるんだってぇ」
「マジ? やったぁ? 俺もいいの?」ダイスはシオンの方を見た。
「どうぞどうぞ、もう何人来ても同じよ」シオンは肩をすくめて言った。
「太っ腹だなぁシオンさんは! いよ、さすがクラスリーダー!」
「そういうあなたは、学園トップクラスの成績を誇る生徒会の役員様でしょう?」シオンは嫌味の混じった言い方をする。
「まぁまぁ、みんなもちゃんと先生の話を聞けば勉強だってできるようになるよ」
「…運動は出来るようになったのかしら?」とシオン。
「う…。それは言わない約束だよ…」ダイスは気まずい顔をする。「じゃ、じゃあ、他に寄るところがあるから~! あはは…」
 ダイスは作り笑いを浮かべながら、そそくさと教室を出て行った。

「――やれやれ…」シオンは肩をすくめて、わざとらしくため息をついた。


 そう! もうじきね、学園では運動会が行われるみたいだぉ。
 楽しみですぉ~。

 また、何かあったらお手紙書きます。         

                                         ハルカ

「――なになに、『お空の上のお母さんへ』…?」
「…へ? えぇ!?」
 肩越しに手紙の内容を覗き込んできたマヒロに、ハルカは飛び上がりそうになるくらい驚いた。
「え――?」マヒロの言葉を聴いてカナエは悲しそうな顔をした。「お空の上って…ひょっとしてハルカちゃんのお母さんって…」
「え!? ち、ちがいますよぉ! あの、これはその、あぅ~」うまい説明が出来ずにハルカは困惑する。
「――お空の向こう、そう書くのを間違えたんでしょ?」エレンが助け舟を出した。「つまりすごく、遠い場所にいるお母さんへ、と言う意味。…違うかしら?」
 と、エレンが片目を閉じたので、ハルカは夢中で何度も頷いた。
「そ、その通りです!」
「なんだ、そっか。もう、驚かさないでよぉ」カナエは少しムッとした顔をする。
「あ、あぃ。ごめんなさい…。あ、あの…でも、どうしてここに?」
「何言ってるの。今日は、シオンさんがアイスをご馳走してくれる日じゃない!」マヒロが素っ頓狂な声を上げた。
「あ…」ハルカはうっかり重大なことを忘れていたことを思い出す。
「迎えに着たわよ…。行きましょう?」エレンはそういって部屋をさっさと出た。
「下で、シオンさんやミオさんたちが待っているよぉ! さぁ、早くぅ!」
「う、うん!!」

 三人に連れられて、ハルカは元気良く部屋を飛び出した。
 外は眩しい太陽が輝いていて、アイスを食べるには絶好の日和であった――。


                                                To Be Continued…?  


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