桜工房(だったところ)

桜工房(だったところ)

#3



#3 学生作家


 カランコロン・・・。

 「幸せの葉亭」の扉が開く。
 料理を食べるのに夢中なハルカを以外の三人が、直ぐに音に反応してそちらを向いた。

 中に入ってきたのは、髪型が黒髪のストレートヘアで、両サイドを一つまみずつ束ねた髪型をした少女だった。服装は聖エルダー学園中等部の制服姿だ。真っ直ぐに前を見る涼やかな瞳が、凛とした印象を受ける。
 彼女はその目で店内の四人を確認すると、会釈してからカウンターの席に腰を下ろした。
 それから四人の方に体を向ける。

「あら~~。おはようございますカノンさん」
 間延びした口調でミキはクラスメートに挨拶する。
「おはようミキさん。みんなも」
「なぜ、そこに座るのー?」とアオイは不思議そうな顔をする。
「ここは私のお気に入りの場所なんですよ」カノンは答える。「東向きの窓があるから、朝はぽかぽかして気持ちが良いんです」
「なるほどー」アオイはにっこりと微笑む。
「ミキさん、いつものお願いします」
「は~~い」返事をして、ミキは厨房の方へ消えていった。
「いつものって何ですかぁ?」とパスタを頬張りながらハルカが尋ねる。
「美味しいコーヒー」カノンは微笑みながら答える。「毎朝、必ず飲みに来るの」
「優雅だねー」
「そうでもないよ。で、今朝はどうしたの? こんなに集まって?」
「俺が行き倒れたのを助けてもらったんだよ・・・」
 食事を終え、口をナプキンで拭いながらシューは言った。
「あ」カノンは目を少し大きくしてシューを見た。「誰かと思えば、シュー君だったのか」
「・・・あんたまで気づかないのか」
「そりゃ、その頭じゃね。いつ旅から戻ってきたの?」
「今朝」
「そう。何か小説のネタになりそうな面白い話があったら聞かせてくださいね」

 「小説のネタ」といわれて、シューはカノンが自分と同じ年の学生でありながら、ベストセラー作家であったことを、思い出す。
 これでは人のことは言えないなぁ、とシューは内心苦笑した。
「まぁ、考えておいてやる・・・」
「そっか。カノンさんは本を書いてるんだったねー」アオイも忘れていたような口調で言う。
「楽しいお話を書くんですぉ~。カナエちゃんが褒めていましたぁ~」ハルカはニコニコしながら説明した。
「うん、ダイスも褒めていたよ。でもなー、私は体を動かすこと専門だからさー。まったく読んでいません、ごめんねー作家さんを前にして」
「いえ。気にしないで。でも――」カノンそういって窓の外を遠い目をして見た。
「ん?」
「どぉしたのぉ? カノンさん?」
 アオイとハルカは首をかしげた。
「うん。いつか、もっと大勢の人に読んでもらえるような、そんな本が書きたいな、と、そう思ってね」
「今でも充分読んでもらってるんじゃねぇの? 他の街でも売っているとこ見たことあるぞ」シューも不思議そうな顔をした。
「あはは、私、欲張りだからさ。現状では満足できないの」再び三人の方を向いてカノンは言った。

 カノンがそういうと、三人はしばらく彼女の言葉を噛み締めるような顔をしていた。

「素晴らしい志です~」と最初にハルカが言った。
「うん、立派だー」とアオイは手を叩く。
 シューは一度だけ大きく頷いた。

「ありがとう」カノンは微笑みながら、三人に会釈する。

 それから程なくして、ミキが人数分のコーヒーの入ったカップを持ってきた。
「お待たせしました~~。どうぞ、カノンさん」
「ありがとうミキさん」

 最初にカップを受け取ったカノンは、少ししかめた顔をしながらコーヒーに口をつけた。

 その複雑な表情は、コーヒーが熱すぎたためか、それとも苦かったからだろうか。
 あるいはもっと別の意味があるものだったのだろうか・・・・。

   *

 ザバァ・・・!

湯船から出て水滴をタオルで拭い取り、制服に急いで着替えながらアオイは思った。

 今朝はこれまでにない、濃厚な朝だったなぁと・・・。
 何よりも、気になる従弟のクラスメートたちと話ができたことは、自分も2-Gの仲間になれたような気がして、それがとても貴重な体験であり、嬉しく思えた。

 玄関の方からだろうか、自分を呼ぶダイスの声をアオイは耳にした。



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