桜工房(だったところ)

桜工房(だったところ)

#4


#4 ナンパ師


 学園の大門を仲良く、通り抜けてダイスとアオイの二人は真っ直ぐに中等部の校舎の方へと向かう。
 ダイスは生徒会の朝のミーティングが、アオイは空手部の朝練があるので二人の登校時間は、他の生徒よりも早い。

 登校する生徒の数もまばらだった。

 途中立ち寄った噴水のある広場。
 先日、暴れこんだはぐれ魔獣の大捕り物があったという事件以後。
 何かの刃物で斬ったように横一文字に切断された噴水も。まるで地面の中を何かがうねったように盛り上がっていた石畳も。だいぶ復旧が進んでいる様子だった。

「一体、なーにやったらあんな風に壊れるんだろうねー?」
 アオイはシートで包まれている噴水を見ながら呟いた。
「さぁ? 生徒会でも何も把握していないんだよね。ケイ先生に聞いても何も知らないらしいし」
 ダイスは腕組しながら答える。
「もしかしたらあれじゃない? ほら、ダイスのところの魔女さんが、また魔法の実験失敗したとか」

 ――当たらずとも遠からず。

「エレンさんね・・・。まぁ、ありえるかな。前にシオンさんとミオさんがゴブリン退治で大変な目に遭ったらしいし」
「あー、聞いた聞いた。そういえばさ、魔法実験といえばもう一人あなたのところにいたよね」

 そうアオイが言うや否や・・・。

「やぁ、お早う!」
 と、さわやかな声を掛けて部活棟からやって来たのは、背が高く、無造作なクセ毛の目立つ青い髪をした少年だった。中等部の制服の上から白衣を羽織っている。
「お、噂をすれば・・・」アオイはニヤニヤッと笑みを浮かべた。
「オペル! 昨日は部室に泊り込んだのか?」
 とダイスが声をかけるが――オペルは甘い笑みを作ってアオイに語りかける。
「今日も水色の涼しげな髪が、可愛いねぇアオイちゃん。徹夜した疲れが君であえたことで吹っ飛んだよ。できれば、これからオレの朝の食事に付き合って欲しいんだけど。ダメかな?」
「ハハハ・・・、朝から面白いなーオペル君は・・・」アオイは少し引きつった笑みを浮かべた。「でも、朝食なら、今朝は『幸せの葉亭』で食べたから。残念だけど、別の子を誘ったら?」
「何を言っているんだい。君と食べるからこそ価値ある朝食なんじゃないかぁ・・・」フッとオペルは気取った笑みを浮かべた。

「オペル・・・オレは無視か?」
 とダイスが言うと、オペルはわざとらしく今更ダイスに気づいたような顔をする。
「おー! 誰かと思えば我が友、ダイスじゃないか! お前、いつからいたんだ?」
「いつからも何も、最初からずっと居ただろう!」
「そっか? ふむ、それはおかしいな・・・」オペルは顎に手を当てて首をかしげた。
「あのなー!」
「ダイス、わざとだよきっと・・・」
 アオイはヒートアップするダイスを宥めた。
「なんと! アオイちゃんはオレのことをそんなにひどい奴だと思っていたのか!?」オペルは大げさに心外そうな顔をした。「ごらん、オレの純粋な輝きを放つ瞳を・・・」
 アオイの顔間近に、自分の蒼い瞳を近づけてオペルは言う。
「や、確かにあなたの目は綺麗なんだけどさー」アオイは後ずさりながら苦笑する。
「それならどうしてオレから離れるんだ!?」
「いや、余計に胡散臭くて・・・」アオイは正直に言った。
「ガーン!」オペルは両手で頭を抱える。「そんな風に思われていたなんて! これはもう誤解を解くために、是非、一緒にお食事を・・・!」

「結局そこかー!」ダイスは殴ろうとする。
「わわ! 顔はやめろよ!」オペルは反射的に自分の顔を守ろうとした。「オレの命なんだぞ!」
「顔が命って・・・、お前は女優か?」
「女優でなくても、顔は大切だろ? 特にオレみたいな国宝級の顔は! はー、はっは!」
「あーはいはい・・・」ダイスはあきれ果ててもう何もいえなかった。

 そんなダイスを見て、フッとオペルは真顔になる。
「・・・お前も、少しは身だしなみに気をつけたほうが良いぞ?」
 ボソッとダイスにだけ聞こえるように耳打ちして、オペルは彼の方をポンと叩いた。
「な・・・!?」ダイスは思わずアオイの方をチラリと見た。
 それからオペルはアオイの方を向く。
「アオイちゃん、今日はダメでもいつかオレと食事しよう?」
「え? ま、まぁ、そうだね、いつか、ね・・・」
「やった! んじゃまぁお二人さん、また後でな・・・」と、オペルはその場を立ち去った。

 オペルを見送り――途中、彼は二人ほど登校中の女の子に声をかけていた。
 ようやくその姿が見えなくなると、ダイスは言った。

「やっと行ったか・・・」何となく安心した顔をダイスはした。
「キャハハ、オペル君って面白いなー」アオイは笑い出した。
「え、面白いの?」ダイスは意外そうな顔をした。
「うん!」アオイはきっぱりと答えた。
「そ、そう・・・」
「それに格好良いしね。食事に誘われてちょっとドキドキ・・・キャハ♪」
「え!?」ダイスは愕然とした。
「Eの女の子たちでは、結構評判良いんだよ」
「そうなんだ・・・」

(アオイちゃん、あんな感じな男の子が好きなのか・・・)
 アオイのオペルに対する評価を聞いて、ダイスは結構ショックだった。

 一方で、ダイスの思いに気づかないアオイは、
(ダイスもあのくらい積極的だったらなぁ・・・)
 などと思っているのだが・・・。

『あの!』
 二人は堰を切ったように同時に口を開いた。

「え?」ダイスは少し驚いた顔をする。
「あ、なに?」アオイも驚いた顔をする。
「や、アオ姉からどうぞ・・・」
「ダイスは何を言おうとしたの?」
「あー、別にそろそろ校舎に行こうか・・・と」
「あ、うん。そーだねー」
「うん・・・」

 何となく気まずい沈黙が流れる――。

 それに堪えられなくなり先に口を開いたのはアオイ。
「えと、なんか面白そうだよねぇ。Gクラス。今朝も何人かに会ったんだけどさー」
「そう? 会ったって誰に・・・?」
「えーとねぇ・・・」

 そんな他愛のない話をしながら、二人は再び歩き始めた。 



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