桜工房(だったところ)

桜工房(だったところ)

#11


#11 魔道士組合

 ガタガタガタ・・・ッ!

 ――大陸の街道をゆっくり進む、四頭立ての一台の幌馬車。

 六人ほどの乗客にまぎれて、外に近い席に腰を下ろしていたのは、ローブを身に付けた少女だった。

 フードからはみ出して見合える髪の色はこげ茶色。
 長旅に疲れた様子の目の色はブラウン。
 ぼんやりと外の景色を見ている彼女には、あまり他の乗客たちの談笑は聞こえていないようだった。

 少女の名はルカといった。

 ルカは他の乗客をよそに、手に持っている魔道士組合の印章入りの封筒を眺めた。
 そして、今回の旅に立つ前の日のことを思い出す――。

   *

 大陸の西の最果てに存在する魔法使いの都。

 そこに大陸中の魔法使いを管理サポートする機関である魔道士組合の本部が存在する。
 ちなみに、これに対し冒険者の管理サポートする機関である冒険者ギルドよりも、魔道士組合の歴史は遥かに古いといわれている。

 その日、ルカは修行の間から、組合の長に呼び出された。
 普段、引っ込み思案な大人しい性格の彼女は、組合長直々の呼び出しと聞いて非常に緊張した。

 個室ではあるものの、組合長の部屋という割には意外と小さな部屋に入ったルカ。
 中には誰もいなく、静かだった。
 拍子抜けし、なんとなく手持ち無沙汰なルカ。
 しかし、この場を離れるわけには行かないので、部屋の真ん中に立ったまま彼女はしばらく待った。
「・・・うーん、遅いなぁ・・・」
 五分ほど時間がたち、ルカはか細い声で呟いた。

 と、突如バタバタッという廊下のほうから騒がしい足音が聞こえて来た。
「やー、すまんすまん!」
 そう言いながら中に入ってきたのは、年代を重ねたワインのような深い赤い髪の美女だった。
 見た目は二十代後半といった感じであり。首周りと背を隠すような丈の長いマント姿だった。
「待ったろ?」くだけた口調で女性はルカに言った。
「え、い、いえ・・・。組合長様。待ってはいません」ルカは慌てて首を振る。
「嘘をつくなって」組合長と呼ばれた女性は苦笑する。「まぁ、悪かったよ。委員会の連中が頭固くって――いや、今はそれどころじゃないな。うん」
「は、はぁ・・・。あ、あの、それでは私への用件を教えていただけますか?」
「おぅ、その件な。ルカさ、お前今年でいくつだ?」
「は? えぇと・・・十四歳ですけれど・・・」
「そうだよなぁ~」組合長は腕組をして悩んだ顔をする。「あのさ、お前学校には行かないのか? 普通の人間が通っているところ」
「え、えと・・・。ここでの修行もありますから・・・」ルカは静かに首を横に振った。
「んじゃ、質問を変えよう」と組合長はルカの顔を覗きこむ。「学校、行きたくはない?」
「え、えぇと・・・」
「迷っているところを見ると、行くのに問題はなさそうだな?」顔を離して組合長は言う。
「あ、あの・・・」  
「ルカよ。学校に行け!」組合長は上から押さえつけるような命令口調で言った。
「え、えぇ? どうしてですか? ここでの修行は!?」
「続きは学校を卒業してからな」
「そ、そんな!」ルカはひどく理不尽な目にあったという顔をした。

 だが組合内では新人と等しい存在であるルカには、組合長直々の命令を拒否数権限などなかった。
 二つ返事で学校に行くことを承諾すると、組合長は一通の手紙をルカに手渡した。

「――実は、私、ヴァメルティの聖エルダー学園の理事長と知り合いなんだ。だからこの手紙を渡せば面倒な手続きは要らないはずだ。大切に持って行け」
「はい・・・」ルカは受け取った手紙を心痛な顔をしながら握り締めた。
 そんなルカを見て組合長は笑った。
「アハハ、腐るな腐るな。あの学園は、ここでの修行で得られるもの以上のものを、きっとお前に与えてくれる。それにな、確か私の記憶が正確なら、確かお前と同学年の奴に天才と呼ばれる魔女がいるはずだ」
「天才・・・?」ルカは顔を上げる。
「ああ」組合長は頷く。「少しは興味が湧いたか? あとな、あそこの学園の大図書館には貴重な魔法関連の資料が収められているらしいぞ」
「えと、そ、その、組合直営の図書館以上にですか?」
「うーん、それはどうかな? 私は滅多に本を読まないからなぁ~」組合長は苦笑した。
「そう、ですか・・・」
「アハハ、まぁあれだ。お前も年頃の娘だ。頭の固いおっさんやじいさんばかりの組合の中に居るよりも、たまには魔法から離れて、同い年の連中とバカやったりした方が良いに決まっている」
「は、はぁ・・・」
「大体、私はお前のことが前々から心配だったんだ。私が若い頃はもっと――」

 それから組合長の話は延々と続いた。
 ほとんど愚痴のような内容だったが、ルカは黙ってそれを聞いた。

 こんな、がさつ者な組合長とも、学園に通うとなるとしばらく別れることになる――。

 それを思うと、普段は苦痛な愚痴を聞き続けることは、ちっとも辛くはなかった。

   *

 ルカは、組合長から預かった手紙を壊れ物を扱うように大切にしまった。

 聖エルダー学園のある都市、ヴァメルティ到着まで、後二日である・・・。



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