桜工房(だったところ)

桜工房(だったところ)

#15


#15 転入手続き

 Gクラスの面々がプールでトレーニングをしていたその頃。

 無事にヴァメルティの街へ辿り着いたルカは、早速、聖エルダー学園へと向かって理事長室の中に居た。

「あ、あの・・・これを長様に渡されました・・・」
 おずおずと魔道士組合の長から預かった手紙を、ルカは理事長に差し出した。
「拝見します。確かに、魔道士組合長の印ですね・・・」
 理事長は目を細め、丁寧に手紙を開封した――、

 パパパ~~ン!

 封を切ったその瞬間、手紙は爆竹のような炸裂音を鳴らし弾けた。

「うぉ!?」
「きゃ・・・!」
 理事長とルカは驚き、思わず眼を閉じる。

 モワワワ~~ン・・・

 二人がそうしている間に、理事長室はたちまちピンク色のもやに包まれた。

「・・・これは!?」
「こほ、こほ・・・。[幻影の霞み]みたいです」ルカは咳き込みながら説明した。
「幻影・・・」

『いよっ! ヒゲ、元気してるか?』
 もやの中から女性の声がした。
「ん? その声は――」理事長は視界の開けぬもやの中で目を凝らそうとする。

 やがて二人の前に、黒い人影が浮かび上がり――それが魔道士組合の組合長の姿になった。

「長様!」
「ネイ!」理事長は組合長の名を呼んだ。 

『――普通の手紙じゃつまらんから、こういう形を取らせてもらった。どうだ? ビックリしたか?』
「驚いたよ、ネイ・・・」理事長は呟く。
「わ、わたしもです・・・」ルカは何度も頷いた。
『あー、初めにいっておくが。これは事前にとって置いたものをそのまま流しているだけのものだ。これに向かって声をかけても反応しないからそのつもりでな・・・』
 組合長――ネイの幻影は言う。
 理事長とルカは互いに顔を見合わせた。
『――どうやらうちの優等生は、学園の方に着いたみたいだなヒゲ』
「『ヒゲ』っていうなよ・・・」理事長はむっとした顔をして呟く。
『ヒゲは、ヒゲだからな――』ネイの幻影はニヤニヤした顔で言う。
 理事長とルカは思わずネイの幻影を見た。
「・・・本当に事前に撮った映像なのかこれ・・・」
『――本当に事前に撮ったものなのか? とか思っているだろヒゲ? ん?』
「ああ・・・」
『本当に事前に撮ったものだよ――。大体、お前の考えはお見通しだぞ』
「参ったね・・・」理事長はもはやネイの幻影を幻影とは思えなかった。
『さて、時間もないのでさっさと本題に入らせてもらう。そこに――』とネイの幻影は、何もないところを指差す。どうやらルカを指差そうと思ったらしい。『――いるのは、うちの優等生のルカだ。事情があって、小さい頃から魔道士組合の本部で私が直々に面倒を見て可愛がってやっていたが。社会勉強をほとんどしていなくてな・・・。で、どうか一つヒゲのところの学校に入れてやってはもらえないかな?』
 理事長はルカのほうを見た。
 理事長と目が合ったルカは、思わず目を伏せた。
『――たぶん目を伏せておどおどしてるんじゃないかな?』ネイの幻影は言う。『ご覧の通り、気が弱いところがあるので、扱いには気をつけて可愛がってやってくれ。あー、それからできればだが。私の妹がそこの教師やってたろ? できたらそこに入れてくれないか? 確か、おたくの天才魔道士もそのクラスだったろ?』
「天才・・・、エレンさんのことか? それにネイの妹といえば・・・」
『ルカは――多少、心配なところはあるが・・・。普段は見た目の通り、大人しい良い娘だ。が、組合の中には、じーさんばかりで、少々不憫に思えてな。やはりこのくらいになると、同じ年の友達がいたほうが良いだろうと思ったんだ。だからヒゲ! 滅多に人に頭を下げない私が頼んでるんだ――』とネイの幻影は、そこでなぜか腰に手を当ておおげさにふんぞりかえる。『ルカをお前のところに通わせてやってくれ!』
「・・・頭は下げないのか」
『――って、いうか。うちの可愛いルカをそのまま追い返してみろよ。ただじゃ済まさんぞ!』
「・・・お、長様。それって頼みじゃなく、脅迫じゃ・・・」
 ルカは思わず呟き。となりの理事長の反応を窺がった。
『――まぁ、そういうわけだ。頼んだぞヒゲ・・・!』
「ははは・・・」理事長は乾いた笑い声を上げた。「了解、ルカさんを入学させよう。他ならぬ君の頼みだ」
『――うむ、そういってくれると思ったぞ』ネイの幻影は確信に満ちた笑みを浮かべた。
「え?」理事長は再び驚いた顔をした。
「・・・ほ、本当にこれは幻影でしょうか?」ルカは首をかしげる。
『んじゃ! そういうことで・・・』シュタッと片手を挙げるネイ、ふと彼女は何かを思い出した顔をする。「――そういえば、もう直エルダーじゃスポーツ祭典があるのか? 時間があれば、その頃に一度お邪魔しに行くとしよう。それじゃ!』

 ネイの幻影が消えると同時に、あれだけ立ち込めていたもやが嘘のように消滅した。
「・・・ふむ、あいかわらずだな彼女は」理事長は苦笑した。
「あ、あの・・・。すみませんでした」ルカは理事長に頭を下げた。
「何、あなたが謝ることはありませんよ。お陰で懐かしい友達の元気な姿を見ることが出来ました」
「そ、そう・・・ですか?」
「ええ」理事長は頷く。「では、ルカさん」
「は、はい・・・」
「ようこそ聖エルダー学園へ」
 理事長は優しい笑みを浮かべて、恭しくルカにお辞儀をした。
「あ、あ、はい・・・!」
「ネイのたっての希望ということもあるので、早速、週明けから登校してください。それから住まいはありませんね?」
「あ、あの・・・。え、ええ・・・。お金は持たされたので、宿に泊まることも出来ますが・・・」
「よろしい。では、あなたには、まず学園の敷地にある寮に入ってもらうことにします――」
 と、理事長は自分の机の後ろある呼び鈴を鳴らす紐を引いた。

 程なくして理事長室の扉を開いて若い男の秘書が現れた。
「お呼びですか?」
「はい。そちらの方に寮の入居手続きと、一番よい寮の部屋を用意してください。それが終わったら――転入の手続きもお願いします」
「はい! 転入の手続きはどちらに・・・?」
「中等部の2-Gです。担当のケイ先生には、私から連絡をしておきますので、そのまま手続きをお願いします」
「かしこまりました。では、あなたは一緒に来てください?」
「は、はい・・・」
 秘書の男性は理事長に一礼し、ルカを入寮手続きをする部屋へと案内した・・・。

 残った理事長は、少し疲れた顔をして机にもたれかかった。
 そして、深く息を吐いた・・・。

 その口元は、どこか愉快そうに緩んでいた。





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