桜工房(だったところ)

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#16


#16 いつもと違う朝

 朝。

 アオイはいつもの通り、ダイスの迎えを制服姿で待っていた・・・。

 しかし、待てでも待てどもダイスが来る様子はなく。
 ついにアオイは我慢できずに自分からダイスの家に行くことにした。

 と、アオイはそこで驚くべきことを聞かせられる。

 ――あら、アオイちゃん?
   ダイスなら今朝は寝坊してねぇ。慌てて出て行ったんだけど。一緒じゃなかったの?

 ダイスの母親から聞かされたこの言葉に、アオイは腹を立てながら駆け足で登校をすることとなった。
「なによ、なによー! ダイスの奴、ダイスの奴ー!」アオイは独り言を愚痴った。

 日課のジョギングのお陰もあり、健脚のアオイは程なくして校門まで辿り着く――途中、お約束どおり何もないところですっ転んだが――だから、まぁ、それは良い。
 問題はである。
 ダイスが自分に一言もなく、勝手に、登校したこと。
 寝坊したかは知らないが、自分のことを迎えにいこうともせずに学園へ向かったことだった。

「私を無視するとは、良い度胸をしているじゃないかぁー。ダイスめぇー」
 校門をくぐるアオイ。

 力強く石畳を踏むアオイ。その衝撃で、一部アオイの足型がしっかりと残るものまであるほど。
 そして、アオイはそのまま自分の教室へと向かった。

 教室に入ると、当たり前のことだが普段よりも人が多くいた。

「ん、アオイ・・・。今朝は遅かったな」
 そうアオイの姿を確認するなり声をかけてきたのは、アオイにとってはEのクラスメートで親友のサキという少女だった。
 赤紫色の髪に、左目を隠すように布製の眼帯をつけているのが印象的な背の高い少女である。
「あ、サキ」アオイは顔を上げて先のほうを見る。「おはよー!」 
「うん。お早うございます」サキは、深々とアオイに向かってお辞儀をした。
「ねー。サキ?」
「何だ?」
「うん、そんなに毎度毎度、ふかーくお辞儀をしなくても・・・」アオイは苦笑しながら言った。
「そのことは気にするなと言ってある」
「う、うん・・・。そうなんだけどさー」
「物事は、礼に始まり礼に終わるものだ。また、親しき仲にも礼儀ありともいう。友であるお前とでも――いや、友であるからこそ、そういうものを怠ってはいかんのだ」
「あ、そー」
 面と向かってそういわれると、アオイは何だか、むずがゆくなってきた。

「――でさー。今朝のダイスの奴と来たら。私に黙って先に登校したみたいなんだー。私が腹立つ気持ちわかるでしょー?」
 アオイが熱心に訴えると、サキはうんうんと、アオイの言葉の節々で相槌を打った。
「うん。つまり裏切られた者の心境というわけだな?」
「裏ぎ・・・る?」
「うん。愛しいものと一緒に登校することを毎朝楽しみにしている乙女の期待と。これまで繰り返し続けてきたことで築いた信頼を。今回、ダイスは裏切ったというわけだ」サキは淡々言った。

 サキのストレートな言葉に、アオイは腑に落ちたという顔をした。

(――そっか、何でこんなに腹立たしいのかと思ったら・・・)
「・・・そういうことなんだ・・・」アオイは無意識にそう呟いていた。
「うん? 何が、そういうことなんだ?」サキは首をかしげる。
「うん――今のサキの言葉を聞いてねー。そのとーりだな、と思ってねー」
「そうか・・・」サキは無表情のまま、大きく頷いた。

 それから二人はしばらく押し黙った――。 

「・・・あの」
 と、先に沈黙を破ったのは、アオイのほうだった。

「・・・ん?」
 机の中に入っている読みかけの本を取り出そうとしていたサキは、手を止めアオイのほうを見た。
「え、えーと・・・」アオイは急にもじもじとする。「さ、さっきー・・・。『愛しいもの』とか、なんとか言った・・・?」
「うん。言ったぞ」サキはそういって頷く。
「わ、私・・・。別に、ダイスのこと――全然、そんな風に思ったことはないんだから!」
 赤面した様子でアオイがそういうと、サキはほんの一瞬目を丸くした。
「は・・・? ああ・・・そうか」
「そうだよー! わ、私は――あいつのことなんか。いつまでも姉離れが出来ない、弟くらいにしか思っていないんだからー!」

 と、叫ぶアオイ。

 そんなアオイを見て、サキは密かにこう思った。

(・・・どうやら。姉の方が弟離れができていないようだな・・・)
 と――。



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