日進月歩

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独りぼっちの馬と裏切り者の鹿・3


そう言って沙咲が顔を伏せたまま
その日一日口を聞いてくれなかったのは親友の話をしたときだった。

樹里には親友が居た。
赤ん坊の頃からの付き合いで
親も仲良し同士。
高校は別になったものの、今でもメールを交わしたりする。
大の仲良しだ。

長谷川 菜留子。
それが親友の名前。
沙咲とはまた違った楽しさをくれる子。
というか、菜留子と居ると安心する。
懐かしい故郷みたいな感覚だと思う。
それに、長年付き合ってるだけあって、以心伝心的なところもある。

そう、言った。
沙咲に。
そしたら俯いた。
俯いて、そうなの、とだけ言った。

次の日。
沙咲はいつも通りに声をかけてきた。
菜留子と逢いたいとまで言ってきた。
駄目だと言うと、また俯いて
今度は一週間口を聞かなかった。

菜留子からメールが来たのは丁度その頃だった。
内容は簡潔だった。
ただし、意味がわからなかった。

「縁切りたい。」


「どうしてこんなことしたの?!」
教室中の視線を集めながら
樹里はそれでも大声で沙咲に問うた。

「何の事かしら。」
沙咲は憎らしいほどすっとぼけた調子で樹里の顔に問い返した。

「な…何の事って…菜留子よ。
 それ以外何だと思ったの?!」
「ナルコ…??
 ああ。あなたの親友さんね。」

イライラしてブチ切れそうになるのを
樹里は必死で抑えながら更に問う。

「菜留子に…菜留子に会ったそうね…
 アタシ…あんなに駄目だって言ったのに!!」

沙咲は答えなかった。
ただ黙って、しかし不貞腐れた様子は無く
いつも通りの余裕の構えで堂々と、遠慮がちに座っていた。

沙咲が口を開く前に教室がざわつきだす。
当たり前だ。
この小さな箱の中では、沙咲はイイ子で
樹里は無口で何を考えてるか判らない付き合いづらい子、なのだから。
当然何も知らないクラスメートは樹里が
か弱き沙咲をいじめているように見えるだろう。

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