「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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Polymnia
シンパシークライスト ~アガペ~
地図をみてみるが俺にはさっぱりわからなかった。
「どうしたの?リトちゃん。」
フェルマは二人乗り用のバギーの後ろから(俺が運転担当なのだ)ひょっこり顔を出す。
「実は地図が読めないんだ。」
俺が恥ずかしそうにそういうとフェルマは小さく笑って、私の下手な案内でもいい?と言った。
俺はむしろ頼むよと手を顔の前で合わせた。
「ならここでフェルマちゃんの地学講座の時間でーす。」
道なりにしか進まないので暇だったらしい。フェルマは唐突にそう言い始めた。
まぁ嫌ではないからいいのだが。
「この世界には七つの大きな世界があります。まぁ詳しくは知らないんだけどね。
私達が今向かっているのは…。」
「確か一番近かったクライストじゃなかったっけ?」
「ピンポーン。さすがリトちゃん。そうですね、クライストです。気を付けて下さいね。」
「なにが?」
「その国はですね…熱心なキリスト崇拝国なんです。」
「そうなのか…あんまいい気分ではなさそうだな。」
「まぁ私達は無神論者ですからねぇ。」
「…………あっ。フェル姉、二本道に出てきた。どっち?」
「そこはですねぇ…右!」
「はいよ。」
すでに俺たちが教会から出発して一時間経っていた。
「もしかして…。」
「ここよねぇ…?」
俺とフェルマは顔を見合わせた。
その町は見渡す限りキリストの十字架だらけだった。正直ここまでくると気味が悪い。
バギーを町の駐留所に停め、先へ進む。
先程からどこかから視線を感じる。無意識のうちに肩にかけてある『武器』をぎゅっと握る。
フェルマもいい気はしてないみたいだ。顔が引きつり始めている。
「あの…フェルね…。」
「そこ!」
フェルマは俺が話しかけている途中で気配の位置に気付いたようだ。
………しかしこのフェルマの習性は体に悪い。他のものが見えなくなる。今も弾道は俺の髪をかすった。
フェルマが弾を撃った後少しの間沈黙があった。俺もフェルマも気のせいかと思い始めた頃、
先程撃った場所から人影が見えた。
「………子供?」
いたのは小さい子供だった。俺たちを警戒しているらしい、キリッとした目で俺たちから目をそらさない。
「他の奴はどこに?」
「俺を撃つ奴に教えてたまるか。」
…撃ったの俺じゃないし。
「まぁまぁ。そんな怖がらないで?私達あなたには痛いことしないから。ね?」
(撃ったはずの)フェルマがそう言うとじょじょに安心したのか顔の筋肉が緩んできた。
「………ここでは言いにくいから俺に着いてきて。あっ後ろの兄ちゃんは俺に謝れ。」
だからなんで俺が…。
「まぁ謝った方がいいんじゃない?リトちゃん。」
フェルマにそう言われなんかやるせない気持ちなるが、ここは大人になろう。
俺は頭を下げ、ゴメンと言った。
少年は謝ったならそれでいいと(見下すように)両手を組んで鼻をふふんと鳴らした。
少年が先頭を歩いているとひょこっとフェルマが気まずそうに隣に来た。
「あのぉ…怒ってます?」
「いんや。弾は俺が撃った。だから謝った。フェル姉が今の流れでは関係してないだろ?なんで怒る。」
「…………さっすがリトちゃん。惚れちゃいます!」
「はいはい、アリガト。」
少年の案内の中不思議な点がいくつかあった。まず人が一人も歩いていない。
そして全部の家にキリスト…十字架がある。
一番気になったのは何かの血がほとんどの家につけられているのだ。
「まさか…いや。」
「どうしたの?リトちゃん。」
「なんでもない。多分俺の思い過ごしだ。」
そう…思い過ごしだ。そうに決まってる。
「ほい、着いたよ。」
少年の家には血がついていなかった。
家に入ると初老の男性がいた。
俺たちはこっちへという少年の後に従い椅子に腰かけた。
「お兄さんたち名前は?」
少年が聞く。
「私はフェルマ。そっちはリト。」
「へぇ、音楽の記号?」
少年は興味深そうにそう聞いた。
「私はそうらしいよ。フェルマータからね。こっちは知らないけどね。」
「俺はキャロット。キャロット・エノ。こっちは父ちゃんのクライブ。」
「自己紹介が終わったところで…クライブさん。
もしかしてつい最近司教さんからか、神のお告げが来ました?」
俺が聞くとクライブさんは目を丸くした。
「ふむ…なぜそれを。」
「じゃなきゃ壁にあんなのつけやしない。」
話についてこれないフェルマはキャロットと遊んでいた。
「先日ね司教様が言われたのさ。裁きの日が来る。羊の血を壁に塗りなさい。
そうすれば盗賊の用に来る裁きを逃れれるでしょうってね。私達は勿論信じた。
しかし羊なぞ私達は買っていない。そしたら言ってくれたよ。三万ギニーで塗るとな。
三万ギニーなぞ…私の家にはない。」
「…………宗教詐偽じゃないか。」
クライブは頭を抱えている。
「私も一応キリシタンなんです。だから司教様の説教を毎日欠かさず聞いていた。
司教様は笑顔で金的な豊かさを身に付けてはならない、
霊的な豊かさを身に付けなさいと行って下さっていた。
しかし蓋を開けてみれば結局金がなければ生かしてもらえやしない!」
「その司教様はホントに神の加護を?」
「彼の力は本物さ。この前もある家で説教していた時いきなり上から下ろしてきた病人を救われた。
小さい頃はある町の司祭に証言したらしいしな。」
「だがおかしいな。あまりにもリンクしすぎだ。」
「どういうことかね?」
「本来聖書というのはその場その場にあった教えを用いて模範にするものだ。
だが話に聞いている限り、その司教はイエス、イザヤなどの予言者の行っていたことをやっている。
確かに表面は綺麗に飾れるが内面は果たして…。おい、フェル姉。」
「ちょっと!今は話しかけないで!!」
キャロットとガリオカートに熱中している。ダメだこりゃ。
「はぁ…なら俺一人で行くか。クライブさん、教会?聖堂はどこに。」
「外に出て顔を上に上げればすぐに気がつきますよ。」
「?そうなんですか。…じゃあ行ってきます。フェル姉をよろしくお願いします。」
「お気を付けて。」
外に出て上を見るとクライブさんの言った意味がわかった。
「俺なら夜に見たいと思わないね。」
俺はでかい十字架に向かって走り出した。
近付いてみるとまず自分の家とあまり変わらない印象を受けた。
扉の向こうから賛歌が聞こえてくる。俺はそれに聞きこんでいた。
『われらが神よ
神の救いに感謝せん
救いたまえ』
歌はその言葉で終わり、司祭かと思われる人のお祈りが始まった。
その中身は無神論のリトに言わせてみれば入ってないように思われた。
(俺が興味ないだけだからかもな…。)
信じる物によって人は変わる。
金を信じているなら卑しい人間になるだろうし、力を信じているなら粗暴な人間になるだろう。
俺の信じているものは…。
祈りが終わったようで、中がざわつく。
入ると横切る人々は口々に今日は裁きの日だ、羊の血を塗ったから救われると言っている。
(キャメル…今日だってよ、これって運命なのかな?)
そんな人々を横切り、俺は司祭に駆け寄った。
「はじめまして。私はリタルダント・シャルロットと言います。」
「ほぉ…リタルダント殿。今日はいかなる用事で参られたのですか?」
「いやぁ観光でこの町に来たんです。ここの司祭様のご評判は我が国でも聞いておりましたので。」
「それはそれは。神が私とあなたをめぐりあわせて下さったのでしょう。神よ、感謝します。」
司祭は老人のようだ。髭を十二分に生やしている。髪も髭も白い。
「それでですね。司祭様に是非とも相談したいことがあります。」
「なんでもお話し下さい。私を見たものは神をも見るのです。」
「…………実は先程今日が裁きの日であると聞いたのですが…。」
「えぇ…実はこの町は表面上は神に崇拝しているのですが、
根底の心は妬み・そねみなど神が非とされているのです。
それがためでしょう。私は夢で見たのです。
今日と言う日に裁くと。私は勿論神に問掛けました。
どうすれば愛すべき人々は救われますかと。す
ると神は羊の血を壁に塗りなさいと。………これが今のこの町の状態です。
おわかり、いただけましたか?」
「なるほど…しかしまぁ、壁に塗っていない人もいますよね。
これはホントに裁きの日を信じていないから塗れていないのですか?」
ゆさぶりをかける…いや、かけたつもりだったのだが、
さすがに手慣れていたらしく即答でなおかつあたかも悲しそうな顔をして、
そういうことになるかもしれませんな。と言った。
「私がこの町で初めにお会いした方は熱心なクリスチャンでしたが、
お金がなく、血を塗れないと申しておりました。
……そんな人のために一肌脱ぐのがクリスチャンの大切な自己犠牲の精神なのではないでしょうか。」
「いやはやあなたの言う通りです。
わかりました。早速今日の夜開かれる講演の時に誰か助けてくださるよう尋ねてみます。」
「ありがとうございます。では私は帰ります。」
司教に背を向けて歩いていったため表情はわからなかったが、
明らかに俺に嫌悪感を抱いているような声色、言い方だった。まぁいいのだが。
家に戻るとキャロットしかいなかった。
「あっおかえり。どこ行ってたの?」
キャロットは何か書いているようだったが、手を休めそう尋ねる。
「司祭様に喧嘩を売ってきた。」
「ハハハ…………マヂで?」
少し発音が違うような気がするものの、頷いた。
「はぁ…なにしてんだよ。この町で司祭に喧嘩を売るってことは町中を敵に回すってことだよ。」
「それでもお前らを助けたかった。」
「んなっ!……いきなり客人にそう言われるなんて。でもありがと。」
「そんなことよりお前は今なにを書いていたんだ?」
するとキャロットはよくぞ聞いてくれましたと言った。
「実はね…ジャジャーン!」
バッと紙を広げる。
「これは…設計図?」
「そう!俺ね、将来エンジニアになりたいんだ。だから今のうちから練習してるんだ。」
「へぇ…にしても。」
本当に十二歳くらいの少年の書いたものだろうか。
あまりに完成された…いや、まだ発展途中だとするなら
こいつは絶対将来の世界に要る存在になるに違いない。
「キャロット…。」
「うん?」
「生きような。」
「へっ?う、うん。」
その日の夜の講演で、エノ家のことが取り上げられることはなかった。
夜、皆が寝静まった頃、キャメルは家の屋根で寝そべっていた。
司祭は話をしなかった。そして今日。塗っていないこの家。
『帰る場所 忘れた鳥
もう姿も思い出せない私は…』
俺はついつい歌ってしまった。
― キャメル。神様はなんで人が殺されるのを許すのかな?
ん~なんでだろ。神様も忙しいんだよ。
なにそれ…。―
辺りが突如騒がしくなる。最初は様子を見ることにした。
こちらへきたのは…四人くらい。一人で十分対抗できる程度か。
よく見ると三人が前を歩き、後ろで一人指示を出していた。
その一人とは間違いなく司祭であった。
「にしてもみんな塗ってやがるな。三万ギニーなんて大金みんな持っているとはな。」
前を歩いている一人が言う。
「いやいや…ここ塗ってないぞ…。」
もう一人の男がクライブさんの家に気付いた。
(……もう頃合いか?)
飛び出そうとしたその時、バンッと家の扉が開いた。…キャロットだ。
「おい!この家には入れないぞ!」
「な、なんだ。ガキか…。まぁいい、ガキでも一人は一人だ。」
一人がキャロットに近付いたが、いきなりその男はうめき声をあげた。
「どうだぃ!俺が作った唐辛子汁鉄砲は!しみるだろ!」
「うごぉ…目がぁ…おいこらクソガキ!!もう許さねぇ!!」
「父ちゃんは殺させない!」
しかしやはり身長の大きさなどが違いすぎるのだろう。捕まりそうになってしまった。
が、なぜか男の手は止まった。そして嘲笑った。
「このガキ、震えてやがる!笑えるな!」
「笑えるか!!」
俺はそう叫びながら男に跳び蹴りを入れた。
男のあごのいい部分に入ったようだ。男は失神した。
「リト!」
「怖かったろ?よく頑張った!後ろへ下がれ!」
「いやだ!俺も父ちゃんを守りたい!」
俺は自分の言ってしまったことを悔いた。そして、
「………わかった。なら援護頼むな。」
「うん!」
「なんだお前は!」
一人が叫んだ。
「名乗る必要ないだろ?それと習わなかったか?人に聞くときは?」
嫌味ったらしくキャロットに尋ねる。
「自分から、だよなぁ。それは常識。」
目の前の男は顔を真っ赤にした。
そして(手になかなか大きな剣を持っているようだ)こちらに剣を振り降ろした。
ガキンッ!
俺はそれを持ってきていた『武器』で防ぐ。
「そんな細い体に俺の剣が止められた!?」
一瞬呆気にとられた男の不意を着き俺は剣を弾いた。
「この武器は久しぶりに出すからな。少し手加減出来ないかもしれない。」
シュルシュルと『武器』の回りについている物を取り外す。
「槍?槍の様な細いものに俺が…。」
「ただの槍じゃないさ。エゼキエルのおじさんが最期に作った作品。
……名前はロンギヌスとでも名付けようか?なぁ!司祭様。」
後ろの方に隠れていた司祭が出てきた。顔からは不機嫌なのがわかる。]
それは昼見たのと別人のようだった。
「司祭様、これは名案だよな。血を塗れば三万ギニー入る、
塗らなきゃ殺して物品を強奪する。どの道結論はまた予言が当たった。だもんな。
あんたの信頼が落ちることはない。」
「そんな…なんで司祭様が…。」
キャロットは少なからずショックなようだ。
「やはりあなたはわかっていましたか。」
「あなたとこの家の主人ならこの家の主人の想いの方が信じれた。ただそれだけだ。確証なんてなかったよ。」
「…………まぁいい。おい、二人とも!こいつらを殺せ!」
司祭がそう叫ぶとホントに二人でつっこんできた。
先程俺が剣を弾いた男単調な人間のようだ。ただただ突っ込み縦に剣を振り降ろした。
「もう少し状況を確認して剣は振った方がいい。」
俺は軽々避け、槍の腹で脇腹を押した。
男はぐぇぇ…とうめきながら倒れた。
もう一人の男は先程の男とは逆の方からつっこんできた。
推定槍の尖端はもう一人の方に向くからチャンスだと思ったのだろう。
俺は槍の後方で軽く彼を押し体勢を立て直した。
「最初からこいつは俺に倒されるとわかっていたのか?」
「………そうじゃない。」
寡黙な性格なのか、必要以上にはしゃべらなそうだ。
「弟達の仇とらしてもらうぞ…。」
「なっ…!」
ガキンッ!
踏み込みが早い。向こうの短剣に俺の槍は相性が悪かった。
こちらがモーションをかけるまえにふところに突っ込んでくる。
グシャッ!
「リト!」
「~~~!んな……くそ!」
ギリギリ避けれたが少しかすった。踏ん張り俺は
片手振りににはなったが槍をおもいっきり振り奴を吹き飛ばした。
「ぐはっ…だが俺の剣には毒が塗ってある…司祭に…殺されろ…。」
確かに傷口がジンジンするし、頭がくらくらする。
目の前にいるキャロットがたくさんに見える。何か叫んでいるようだが……!?目の前でキャロットが倒れた。
「まだまだ未熟ね。リトちゃん。」
「フェル姉…。」
キャロットの背後にいたのはフェルマだった。
「全く…あら?みんな気を失ってる。…どうしてあなたは殺さずに倒そうとするの?
だからそんなことになるのよ…。」
「人が死ぬのは…あまり見たくないんだ…。」
はぁぁ…と深くため息をつくフェルマ。
「それで自分が傷付いたらもともこうもないでしょ。」
そして地面につきさしていたパルチザン(俺の槍のホントの名称だ)を抜いた。
「司祭様ってあなた?」
冷徹な笑いを司祭に向けるフェルマ。リトの目には最悪な結論が頭によぎった。
「ふ、ふん。小娘がなんだ。私が司祭だ、なんか文句あるのかね?」
「へぇ…そんな生意気な口の聞き方するんだぁ。」
ザシュッ
「ギャア!う、腕がぁ!!」
フェルマは躊躇うことなく司祭の腕を切り落とした。
「私の大事なリトちゃんを傷付けたのもあなた?」
またもや冷徹に笑うフェルマだが、先程まで虚勢を張っていた司祭の顔は対称的に恐怖で顔を歪めていた。
「ち、違う!!それは私じゃない!こいつらだ!そこでのびているこの悪党どもだ!」
「ふふふ…確かにそうね。」
ほっと胸を撫で下ろす司祭。しかしそれも束の間、安心しきった顔がまたしても苦痛で歪んだ。
ジュシャン!
「ひぎゃあ!!」
今度は両脚の膝へ槍を水平に動かし、切り落とした。
「誰の口がその悪党にリトちゃんたちを殺せって命じてたのかなぁ?」
「ひぃ…命だけは勘弁を…。」
「私、今日あなたたちの裁きとやらをずっと見てたの。可哀想だったわ。
信じていた司祭に裏切られて死んでいくんですものね。
…その人たちが言った『助けて』をあなたは耳を傾けようとした?」
「やめろ…フェルマ。殺すな…。」
「ゴメンね、リトちゃん。………優しさだけではこの世界生きていけないの。」
フェルマは悲しそうに微笑むと司祭の喉に槍を突き刺した。
俺の意識はそこで途絶えた。さすがに毒が回りすぎたらしい。次の日目が覚めるとベットの上だった。
「気付いた?リトちゃん。」
目を開けると屈託のない笑顔でフェルマがそう喜ぶ。
彼女になにがあったのか、事情のわからないものは戸惑うかもしれない。
(それについてはいつか言える日があるだろう)
「・・・ふん。」
俺はフェルマから目をそらす。…今は顔も見たくないのだ。
「リ、リトちゃん。…私リトちゃんにまで嫌われたら生きていけないよぉ。」
「別に嫌いになったわけじゃない。だけどな!!昨日は何で殺した、殺す必要はなかっただろ。」
「だからあれはリトちゃんを助けるためで・・・。」
「俺はそんなこと望んじゃいない。」
「…。」
「頼むから…俺はフェル姉が人を殺すところなんて見たくない。
今度から俺の好きなようにさせてくれ。」
「…いいわ。好きなようにしなさい。でもあなたが死にそうになったら私は問答無用で相手を殺すから。」
「しなないさ。」
「大変だよ!!」
バンッと戸を開け、あわてた様子で入ってくるキャロット。
「どうしましたぁ、キャロット君。」
「とりあえず下にきて!!」
下に向かうと困ったような顔をしたクライブさんがいた。
そして入口の向こうからは異教者に裁きをという怒声が聞こえてくる。
「まさか・・・俺のせいで。」
「いえいえ、とんでもない。昨日殺されているはずだったのに今日まで生きれた。
ただまぁ。私はいいのですが、リト殿。うちのバカ息子を連れて行ってはくれませんか?
どうしようもないアホたれですが機械の知恵は一級品です。」
「それで、クライブさんはいいのですか?」
当然と言いたそうにクライブはうなずいた。
「私の『心』を『信頼できる人』に託して死ねるのです。・・・本望ですよ。」
「嫌だよ俺。父ちゃんと一緒にいたい!!そうだ、リト!!昨日みたいに戸の向こうの奴らを追い払ってよ。」
「キャロット…お前は賢い。だからわかるだろ?それがいい選択ではないことを。」
「~~~~~!!!」
キャロットは頭では分かっているのだ。なにもかも。
クライブを助けることはできないこと。
そして自分が今すべき最良の選択。
「リト・・。行こう。勝手口がこっちなんだ。」
「あ、あぁ。」
俺とフェルマが後に続く。
勝手口の戸に手を触れたとき、キャロットがクライブの方を見た。
「大好きだよ・・・父ちゃん。」
「!?・・・私もだ。腹出して眠るなよ。」
それが俺たちとクライブさんの最後の会話だった。
俺たちが駐留所に着いたとき町中から銃声と煙が上がった。
キャロットの方を見てみると顔を下に向けていたため、表情は分からなかった。
乗ろう、と二人を催促し、町を出た。
バギーを走らせて数分経っただろうか、キャロットが突如として笑いだした。
「ホント馬鹿だ。なにが神様神様だよ。結局殺されてたら元も子もないってえの。
ホント馬鹿なおやじだよ。」
さすがにこの発言にはフェルマも怒った。
「ちょっとキャロット君!!それは・・。」
だが俺はフェルマの発言をさえぎるようにキャロットに話しかけた。
「本当だな・・・・・だけどな。自分の命よりも大切な心【キャロット】は何が何でも守りきった。
最高の父親さ。」
「!!ひっく・・・・うわぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」
キャロットの泣く声はしばらくやむことはなかった。
そして俺は自分の無力感を情けなく思い、ただただ唇をかみしめるだけであった。
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