「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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Polymnia
秋の坂道 番外編 ~夢~
気づけば兄と二人、叔父にに育てられた。
それでも全然苦に思わなかったし、楽しかった。
特に兄と二人暮らしをしはじめてから。
今の私があるのも兄のおかげだし、そういう意味ではすごく感謝している。
そんな私が生涯でこれほど兄の言葉に感謝したことはないであろう出来事をここに書く。
[秋の坂道 番外編 ~夢~]
「ん~困った。」
俺は今家計に困っている。やはり人一人増えたのが大きいだろう。
しかし、まぁ自業自得というか・・・。
「お兄ちゃん。」
そんな悩んでるときに妹の雪菜に話しかけられる。
「ん?どうした?」
俺はいらぬ心配をかけさせたくがないために、家計を記したノートを隠した。
「実は相談があって・・・。」
「いいよ。まぁ、座りな。」
雪菜は俺と向き合って座る。
「あのさ・・・。その・・・言いにくいことなんだけど。」
「なんだよ、気兼ねせず言ってくれよ。」
「今、家計が危ないの知ってるんだよね。」
そういった瞬間ピクッと反応してしまう。
「だから・・・私、高校行かないで就職しようって考えているの。
・・・・ダメかな?」
ここまで俺は心配させてたのかと自分の無力さに怒り、
そして虚しさがこみあげてきてしまった。
「ダメだ。」
そしてこの心の葛藤をついつい雪菜にぶつけてしまう。
言ってしまった後に自分の発言の軽率さに気づくことは少なくない。
「そんな・・・。なんでよ?」
「はっきり言わなきゃダメだろうからきっちり言ってやる。
お前なんかが就職できるほど、今の世の中は易しいものじゃないんだよ。」
「な、楓さんのところに就職するもん。」
「楓さんの会社はな、今波に乗ってるんだよ。
大学を出ている人でも入れないって言われてるほどな。
そんな会社が中卒を雇ったら、会社のイメージは悪くなるだろうよ。」
「・・・・。」
「ほら、そんなこと考える時間があるなら勉強しろ。」
「!?そんなことって・・・!!私はお兄ちゃんを助けようと・・・。」
バンっと机を思いっきり叩く。
「いいか!!その無駄な気遣いが迷惑なんだよ!!お前なんかが何の役に立つんだ!!
調子に乗るなよ!?」
叫んだためか、意識しなくてもハァハァと息を出してしまう。
そしてどんどん冷静になり始めると、自分の言ったことに後悔してしまった。
「ま、まぁ・・・雪菜・・・。その・・・。」
「う、うわぁぁぁぁぁぁん!!!!!!!!!!!」
雪菜は大声で泣いて自分の部屋に駆け込み、バタンと部屋の戸を閉めてしまった。
そして俺は自分の言ったことをさらに後悔した。
はぁ~・・・と大きなため息をひとつをつきながら。
「あぁ~あ。」
渚が見てられないよとでも言いたそうな顔をしていた。
「渚。」
「喧嘩しちゃったね。でもちょっとひどいんじゃない?
今の言い方は。そりゃあ悪いのはたぶん私なんだろうけど・・・。」
「俺のわがままさ。」
「どういうこと?」
「雪菜にはお金のことなんか心配しないで自分の好きなことを追いかけてほしいのさ。
それに・・・高校でしか学べないこと、人間関係があるしな。
あとあいつ、生徒会長だろ?生徒会長っていうステータスを生かしてほしいじゃないか。」
「なるほどね・・・。あっそうだ、明後日に雪菜ちゃんの学校が学園祭があるらしくて、
そこで雪菜ちゃんスピーチやるらしいよ。・・・・一緒に行かない?」
「・・・行くかな。」
「ほらほら。元気出さなきゃ!!」
渚は笑顔で俺の背中をボンボカ叩く。
・・・こいつがいなかったらどうしていただろうかと考えても、
決していい方向に方向にはいかない。
そういう意味で感謝だ。
その夜、渚は雪菜の部屋の戸を叩いた。
コンコン
「ヒックヒック・・・。」
すすり泣く声が聞こえる。
余程ショックだったのだろう。
それも当然なのかもしれない。
ホントに彼らは仲が良いからだ。おそらく喧嘩などしたことがないのだろう。
うらやましい限りだ。
「雪菜ちゃん入るよ。」
「ヒック・・・お姉ちゃん・。」
雪菜の目元は赤くなっていた、余程泣いていたのだろう。
「大丈夫?」
「う、うん・・・・。」
「悲しかった?」
「・・・。」
黙ってうなずく。
「そうだよね・・・。でもね、蕗君も雪菜ちゃんのことすごく考えているのよ。」
「私だって!!お兄ちゃんのこと考えてたのに!!・・・・なのに。」
「でも雪菜ちゃんは友達ともうほとんど会えなくなって平気でいられる?
友達がワイワイ楽しんでる中、仕事できる?」
「・・・・・出来ないかも。」
「蕗君は雪菜ちゃんをそういう目にあわせたくないのよ。」
「うん・・・。お姉ちゃん、明日お兄ちゃんに謝ってみる。」
「別に謝ることはないと思うよ。悪いのは怒鳴った蕗君だし。」
そうだねと二人で笑った。
そして二人で久しぶりに寝た。
翌日・・・・。
「はぁ・・・・・。」
「おはよう!!」
ビクッとして声のしたほうを向くと渚だった。
「も・し・か・し・て、雪菜ちゃんだと思ったでしょ?」
「まままままままままままさか。」
「実は後ろにいるんだよね~。」
バッと渚が体を横にそらすとひょっこり雪菜が出てきた。
「!?」
「お兄ちゃん。」
「は、はい!!」
「明後日の学祭、絶対来てね。」
「お、おおぅ・・・。」
「蕗君、言うことは?」
「昨日はごめんなさいでしたぁ!!」
「いいよ。許す。ただ29のアイス奢ってね。」
「はひ!!」
「じゃあごはん食べよ~。」
渚がパンパンと手をたたく。
その後、みんなでいつも通り分担して朝食を食べた。
「じゃあ、俺は仕事行ってくるから。」
「いってらっしゃい。あんだけ偉そうに雪菜ちゃんに怒ったんだから、
ビシビシ稼いできてね。」
「任せて。」
家を出ようとすると、
「あっ、そうだ。」
渚が何かを思い出したかのように口を開く。
「どしたの?」
「学祭で雪菜ちゃん、スピーチやるらしいよ。」
「へぇ・・・そりゃあビデオカメラ買わなきゃな。」
「ハハッ、そうだねぇ。」
「じゃあ今度こそいってくるよ。」
「ゴメンね、引き止めて。」
俺は仕事へ向かった。
・
・
・
・
ガチャッ
「ただいまぁ・・・。」
玄関でただいまと言ってみるが反応がない。
「ただいまぁ?」
もう一度言う、やはり反応はない。
「ただいまぁ!!」
「うるさいわね!!」
雪菜に怒られた・・・。
「いるなら少しは反応してくれてもいいのにさぁ・・・。」
ショボンとして俺は靴を脱ぎ、食堂へ行った。
「ごめんねぇ。出迎えようと思ったんだけど少し寝かけてて。
あっ、ご飯なら出来てるよ。すぐ食べる?」
「あぁ。今日は何?」
「初めて作ったシュウマイだったり・・・。」
「食べれる?」
「し、失礼ね!!ちゃんと食べれます。
(ボソッ)雪菜ちゃんには出さなかったけど・・・。」
なにかすご~く嫌な予感がする。
「ま、まぁもらうよ。」
ハーイと渚は言って、ご飯を盛って、食器をテーブルに置いていく。
「・・・・なんだこりゃ。」
そこにはシュウマイと呼んでいいのかわからない「なにか」があった。
「シュウマイでしょ。」
「シュウマイ見たことあんのかよ・・・イテッ。」
渚に小突かれた。
「黙って食いなさい。」
「はい・・・パクッ、モグモグ・・・・」
「ど、どう?」
「おうぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ・・・・。」
「あっひどい!!そんな悪いのかな・・。パクッ。」
渚がシュウマイと呼んでいいのか分からない物体を口に運んだ。
「うっ・・・・。」
明らかに涙目だ。
「シュウマイが怖くて食えなくなったよ・・・。」
「アハハ・・・・ごめん。」
全くシュウマイにはいいイメージがないよ。
俺はその後シュウマイには一切手をつけず、
ご飯と漬物だけ食べた。
「ふぅ・・・ごっそさん。」
「あっそうだ、明日なんだけどね。」
「うん。」
「スピーチは3時かららしいよ。」
「なら2時20分に家でりゃいいか。」
「いいよ・・・ねぇ、明日楽しみ?」
「楽しみじゃないわけないだろうよ。」
「だよね。私も楽しみ。
にしてもすごいよねぇ。私中学時代何にもやってなかった気がするよ。」
俺も、たぶんその頃は何の夢もなく、ただ一日一日を馬鹿してただけに違いない。
「とりあえず寝るか。」
「どうせ楽しみで眠れないよぉ~。大丈夫かな?」
ニヤニヤしながら渚は言う。
「うるせぃ、寝る、寝ます。寝て見せます。」
現在12時で、もう目もショボンとしている(・・はず)。
眠れないわけがない。
「じゃあ、お先。」
「うん、おやすみ~アハハ。」
・
・
・
・
・・・・・・・・・・・ゴロ
・・・・・・・・・・・
クルッ・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・ゴロ
・・・・・・ガバッ!!
「ヤバイ、全く眠れない・・・。」
1時間近く布団の中をゴロゴロしている。
12時30分あたりに渚が寝に来た。
まぁその時はタヌキ寝入りでごまかせたと思うのだが。
渚は10分くらいですぐにすぅすぅ寝息を立て始めた。
正直うらやましかった・・・。
俺はこのまま布団の中ゴロゴロしていても眠れそうにないので、
飲み物を飲みに下へ行くことにした。
雪菜の部屋の前を通ると話し声が聞こえてきた。
「私がこの中学校で過ごした・・・」
どうやら明日のスピーチの練習のようだ。
少し気になるので俺は部屋をのぞいてみた。
「ここの・・・ん?何してるの、お兄ちゃん。」
「・・・・ばれた?」
「ばれないとでも思ってるのならタダのアホよ。」
ガチャ
「いやぁ~ばれてたとは。」
「別に入っていいとは言ってないけど・・・。まぁいいよ。」
「明日の練習?」
「そそ、なんか緊張しちゃって。」
「でもなつかしくないか?あの~なんだ。小学校の時にも二人で練習したじゃん。」
「あぁ~・・・・・確か小4かな。作文があったんだよね。」
― ほら、雪ちゃん。がんばろうよ。
うん・・・。わたしはなみはらせつなです。
いますきなのはドッジボールです。
お兄ちゃんとよく二人であそびます。
お兄ちゃんと遊ぶのが一番楽しいのでもっともっと遊んでほしいです。―
「お兄ちゃん嬉しかったのか、涙目になってたよね。」
「そうだっか?ま、まぁお前も早く寝ろよ。」
「うん・・・、お兄ちゃん。」
「あい?」
「その・・・大・・・。」
「大?」
「大仏見に行きないたぁ~なんて。」
「は?」
「な、なんでもない、おやすみ。」
「おぅ、おやすみ。」
俺は部屋を出た。
その頃にはもう咽の渇きもなく、眠たさも先程より感じるようになった。
なんとか眠れるかな・・・。
―学祭当日―
「蕗君、そろそろ行かない?」
「そだなぁ・・・って早くないか?」
今は2時30分。
「こういうのは早いほうがいいの、ほら行こっ。」
「ん~まぁ、そういうなら。」
俺たちは学校に向かった。
徒歩10分、学校に到着する。
どうやら文化祭は体育館のみでやるらしい。
俺らのころとなんら変わりはない。
「ほら、立ってないで。早く座ろうよ。」
渚が手をひっぱる。
・・・・ったく、久しぶりの母校だ。少しは感傷に浸らせてくれてもいいのに。
とりあえず空いている席に座った。
ちょうど休憩中に来たらしい。少ししたら雪菜の声が聞こえてきた。
「・・・次のプログラムは2年4組による合唱です、よろしくおねがいします。」
あ~・・・俺が2年の頃も歌ったなぁ。俺の時は校歌だったけど・・・
「 ~♪ 」
今も校歌らしい。
そして2年4組の出し物が終わり、次は3組、5組・・・全て校歌だった。
ふと時間を見ると2時55分。次が雪菜のスピーチだろう。
「つづきまして・・・。」
もう雪菜はスタンバイしているのか、アナウンスの声が変わった。
「生徒会長によるスピーチです。」
拍手が起きる。なんだか俺まで嬉しい気分になる。
そして雪菜が舞台に立ち、話し始める。
「では話をしたいと思います。
私がこの中学校で過ごした3年間は非常に有意義なものでした。
ここで培えたものは勉学だけでなく、人間づきあいや生活態度。
培えたものの例を出そうにも出しきれそうにないくらいです。
そんな私この学校から卒業、受験が待っています。
私は・・・・・」
雪菜の声が止まる。
周りからはなにがあったのだろうというざわめきが少し起こる。
「私は・・・兄の努力の上で寝転がっているんです。
兄が汗水たらして稼いだお金を私はただただむさぼり続けているんです。
昔兄の部屋に入ってみたところ、一つの文集がありました。
それは兄が中学時代でした。開いて兄のページを探してみると、将来の夢という
題名の作文がありました。そこに兄は介護士と書いていました。
しかし現実は友を捨てて、自由を捨てて選んだ「会社員」です。
兄の夢は潰れているのに、自由に生きてきた私なんかが夢を追いかけていいのかわかりません。」
そこまいい、雪菜は顔を伏せた。周りは先ほどよりもざわついている。
渚も少しあわてたようにこちらをちらっとみた。
俺は気付いた時には立ちあがっていた!!それも考えるより先に。
そして、
「それは違うぞ!!!!!!!!!!」
と叫んでいた。
ばっとみんなこちらに顔を向けていた。
「確かに俺は介護士になりたかったけどな、お前と二人で暮らし始めて、
高校辞めて、冷静になったらな、そんなちっぽけな夢物語よりも、
もっと大事な「夢」を見つけることが出来たんだよ!!
・・・・・お前なんだよ!!お前の見せてくれる未来を見るのが、支えていくのが
俺の今の夢なんだ!!あきらめたわけじゃない!!変わったんだ!!だから無駄な気を使うな!!
お前が選んだ道なら俺はどんなに苦しくても支えるから!!
だから今は今やるべきことをやりきれ!!」
どかっと座る。最初は体育館中シーンとしていたが、どこからか並原コールが起きた。
そしてそのコールはあそこで、今度はこちらで・・・いつの間にか体育館中を包み込んできた。
並原コールは雪菜が次に話し始めるまで続いた。
「ありがとうございます、え~・・・ここからは私事になりますが、
私は生後間もなく父母を事故で失いました。兄が高校に入学するまでは叔父の家にすごしていました。
・・・・時には父母とはどんなものなのだろうかと考えてしまう時もありますが、でも・・・
兄がいてくれたから、私は今までこうして楽しく過ごして来れました。
今まで恥ずかしくて言えませんでしたが・・・私はそんな兄が今も昔も大好きです。
これからも大好きな兄でいてください。」
ここまで言い終えると雪菜は一礼した。
体育館から暖かな拍手が鳴りやむことはなかった・・・
・
・
・
・
このスピーチの後、PTAがボランティアで募金活動をしてくれて、なんとか高校に入学することができた。
そして兄がこつこつお金を貯めてくれていたおかげで大学にも入学することができた。
今私は兄の夢であった「介護士」の免許をとるための勉強中だ。
そろそろ大学へ行かねばならない時間なのでこの日記を終えることにしよう。
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