Polymnia

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紅葉吹雪 第1話


いや、変わってしまった。
あまり人が信じられなくなった、煙草を吸うようになった、写真を撮りたくなくなった、
子供が嫌いになった、子供がガキにしか見えなくなった、
仕事を毎日するようになった。
「上田。」
俺がそう呼ぶと上田はびくっとしてこちらを向いた。
「いいから早く来い…。」
「は、はい!」
駆け足で上田がこちらに来た。
「なんで呼び出されたかわかるか?」
「い、いえ…。」
「安心しろ、別に怒りはしない。こないだの接待、よく頑張ってくれたな。」
「ホントですか!?」
「あぁ。ただ一つ言うなら顔が悪かったな。」
周りからドッと笑いが起きる。
「ちょっ、先輩~。」
「そんだけだ、よし、仕事に戻っていいぞ。その顔を洗ってからな。」

「おっす、蕗。」
「楓社長。」
「……もう楓さんとは呼ばないんだな。」
「一応公私混同は避けているので。」
「お前も悪い意味で大人になったな。」
「…………。」
「確かにあんなことがあったら、そうもなるか。」
「社長、そのことはもう…。」
「そうだな、でもびっくりしたよ。
いつも通りお前の家に行ったら血だらけのお前が電気も付けないで佇んでいたもんな。」
「ははっ、まぁそんなこともありましたね。
ではそろそろ仕事に戻りますので。」
「・・・・おぅ。」
楓さんに気を使わして悪いと思っている。
しかし、俺にはもう人が信じられないのだ。
それがたとえ今までお世話になった人でも。


       [紅葉吹雪 第1話]


(あっ、戻る前に一服するか・・・。)
俺は仕事場と逆方向に歩きだした。
外へ行くのである。
その途中の道に食堂があるのだが、
そこでご飯を食べている女性たちの声が聞こえてきた。
「さっきもさぁ~並原先輩ホント面白かったよ。」
そういうのは俺と同じグループの近藤涼香だ。
「えぇ・・・・・でも私あの先輩無愛想な感じで苦手・・。」
ほっとけと内心思うのだが、そんなことを言うのは、
やはり同じグループの菅原沙紀だ。
「あの先輩、絶対モテるよ!!あっ沙紀。あんた彼氏おらんよね!?」
なにやら近藤がよからぬことを考えたようだ。
「う、うん・・・確かにいない・・けど。」
「むふふ・・。」
近藤の悪巧みにつきあいきれないと俺は一つ、小さなため息をつき、
その場を去った。
「ふぅ~。」
煙草を口から放し、大きく息を吐く。
口からはあんまりおすすめできない煙草の臭いを出しながら。
いろいろ考えてみた。
楓さんに悪い意味で大人になった、と言われたからであろう。
確かにそう言われてもしょうがないと思う。
先程女性方に言われたように無愛想になった。
楓さんだって・・・ホントは今まで通りに接したい。
でも、怖いのだ。
裏切られるのが。もうあの時のような虚無感は嫌なのだ。
「おっと、そろそろ時間か。」
吸ってた煙草を携帯灰皿で処理し、部屋に戻った。
すると今まで会話交じりだった部屋から会話が消えた。
(俺ってそんな怖い存在なのかよ・・。)
「あのぉ・・・。」
「ん?」
話しかけてきたのは先程見かけた菅原だ。
「これ、どうぞ・・。」
そう言って彼女は小さな箱を差し出す。
「あぁ、ありがと。」
こういうものは本人の前で開けてみるのがいいと思い、
俺はその箱を開けてみた。
すると・・・
パコーン!!!
なにかが顔にぶつかった。
どうやらビックリ箱のようだ。
「・・・・・おい、菅原。」
「ひぃ!?ごめんなさいです!!」
「ぷっ、あはははははははは!!」
「ほへ?」
彼女は殴られるとでも思ったのか身構えていた。
しかし俺が笑い始めたのでキョトンとしている。
「はぁはぁ。久しぶりに笑わされたよ。
おい!!近藤!!」
「はい、なんでしょ?」
「お前だろ?これ考えたの。」
「さぁ~なんのことやら。」
「うそつけ。お前、俺が箱を開ける少し前あたりから笑ってたのに気付かないとでも思ったか。」
「あはは~・・・・ばれました?」
「ったく・・・おいお前ら!!だから俺が来た瞬間会話が止まったのか・・。」
この部屋から笑い声が止まらない。
「俺はそんな恨まれることしたのかな・・。」
「違いますよ先輩~。」
近藤が笑顔でこちらにくる。
「先輩がこの頃悩んでるように見えたからみんなで笑わせようと・・・
ねぇ!!みんな。」
そうですそうですと周りから聞こえてくる。
「・・・・ならこうしよう!!
俺に気を使うな。みんなで仲良くやろう。俺もお前らを信頼する。
お前らも俺を信頼してくれ。
悩みは相談し合おう、みんなで残業は手伝い合おう。
みんなで話そう!!これでどうだ!!」
周りからは拍手が生まれる。
「よし!!なら作業開始だ!!」
手をパンと叩く。するとみんなは笑顔で机に向かい始めた。
「あぁそれと菅原。」
「は、はひ!?」
だから取って食わないって。
「ゴメンな。下手な気を使わしてしまって。」
「い、いえ・・・。」
ん?なんで顔が赤くなってるんだろう。
「顔赤いぞ?介護室行くか?」
おでこに手を当てようとするとバッと後ろに身を引いて、
「なんでもないですぅ!!」
と、自分の机に帰って行った。
「あぁ~あ。先輩が沙紀いじめちゃった。」
「なんだよ、近藤。ニヤニヤして。」
「別にぃ~。あっ、そうだ、沙紀とご飯今日食べに行くんですけど、
先輩も来ます?」
「は?」
「いいじゃないですか~来ましょうよ。
なんでしたっけ?みんなで仲良く、でしょ?」
「はぁ・・・それ言われたら何も言い返せないな。
いいよ、何時から?」
「そうそう、そのノリですよ。
えっとですね・・・8時にみとせ会堂に来てください。」
「了解。ほらお前も仕事してこい。」
「はいは~い。」
(ったく・・・あいつのテンションを見ていると渚を思い出す・・・
渚?)
どうしてるんだろうな・・・あいつら。
それよりも今は仕事だな。

7時になるとどんどん人が帰っていく。
そいつら一人一人に「また明日も頑張ろうな。」と声をかける。
こういう心配りは大切だと思うからだ。
そして7時30分、ついに俺一人になった。
予定の場所まで行くのに15分。そろそろ行くことにした。
出口付近で楓・・・社長に会う。
「ども。」
「さっき見たぞ。なかなかのカリスマ性じゃないか。」
「そんな、買いかぶらないで下さいよ。」
「ホントのことだ。お前も・・・いやそんなお前だから
みんなついていくんだろうな。」
「ありがとうございます。・・・では俺も今から食事に誘われているんで、
行ってきます。」
「お前がか・・・・ふふふ、いってこい。」
楓社長がうれしそうだ。
そんな社長を尻目に俺は会社を出る。
    ・
    ・
    ・
「お待たせ・・・ん?菅原だけか?」
「い、いえ・・・・その・・なんといいますか・・。」
「?」
「涼香ちゃんは来れなくなっちゃって、私と二人きりなんですけど・・・。」
― あの先輩、絶対モテるよ!!あっ沙紀。あんた彼氏おらんよね!? ―
(まさかあの野郎・・・ハメやがったな。)
「先輩?」
「ん?あぁ、スマン。まぁどうせ集まったんだし、入ろうよ。
奢るよ。」
「は、はい・・・。」
がらがら
いらっしゃいませーっと店員に出迎えられる。
そして2人だということを伝えると、二人用のテーブルに案内される。
いわゆる向きあってご飯を食べるのだ。
(こういうのは何年振りだろう・・・)
「あ、あの・・・。」
菅原が口を開く。
「どうした?」
「迷惑・・・でしたよね?」
「いや。こういう機会もなかったし、久しぶりにウキウキするよ。」
「よかった・・・・。」
「菅原はなんでそんなマイナス思考なんだ?」
「え?・・・・それは・・・やっぱりこんな性格だから、
昔からよくいじめられたんです。
それから人が怖くなって・・・。」
「それは・・・聞いて悪かったな。」
「い、いえ。・・・でも涼香ちゃんがいてくれたからこうやって
しゃべることもできるようになれました。涼香ちゃんがいてくれたから、
こうやって・・・・その・・・先輩とも・・・食べれるんですし。」
「なんか照れるな・・・あっ注文どうする?」
お互いそそくさとメニューを選ぶ。
俺はとんかつ定食、彼女は和風みとせ定食だ。
「私…」
菅原が口を開く。
「私…ホントは先輩のこと…怖かったです。」
「無愛想にみえる?」
「はい…でも違いました。ホントは優しいんだなぁ…って。」
「俺は優しくなんかないよ。
ただ菅原が…菅原にしかない雰囲気が優しい気持ちにさせてくれるだけさ。」
そんなことないです。と照れながら言う菅原。
そこでとんかつ定食、和風みとせ定食が来た。
いただきますと小さな声でつぶやき、俺は食べた。
その後久しぶりに楽しいご飯を食べ終えた。
ホント、楽しい時間は早く過ぎるな。

「今日はごちそうさまでした。」
笑顔でお辞儀をする菅原。
「いやいやこっちも楽しかったよ。家まで送ろうか?」
「い、いえっ…その…先輩!」
「ん?」
「また…また一緒に…食べに行きませんか!?」
「いいよ。誘ってくれたらいつでも行くよ。」
「本当…ですか?」
すると突然彼女はぽろぽろ泣き始めた。
・・・周りからの視線が痛い。
「!?えっと・・・とりあえず落ち着こう、な?」
彼女はコクンとうなずくが、落ち着く気配がない。
俺は彼女の手を優しく握り、俺の車まで案内し、
乗せた。
数分後、彼女はやっとおちついたのか、泣きやんだ。
「・・・落ち着いた?」
「!?は、はい!!あのぉ・・・すいません・・。」
「別に怒ってはいないけど・・・どうかした?」
「・・・・・嬉しかったんです。
いつでもいいっていってもらえて・・・。
こんな私でもそうやって言ってくれる人がいるんだって思ったら、
もう・・・涙が止まらなくて・・・その・・・。」
この子はなんて純真なのだろう、
いや、なにもかもに一生懸命なのか。
俺はこんな彼女に愛らしさを感じた。
「俺なんかのために泣いてもらえるなんて、なんか嬉しいような
恥ずかしいようなって感じだな。
・・・・菅原はやさしいな。」
「そんな・・・ことないです。」
「俺ももう意地も張らなくていいんだよな。」
「え?」
「いやいや。こっちの話だよ。
それよりやっぱ送っていくよ。なんか心配になってきたし。」
「えぇ!?じ、じゃあ・・・お願いします。」
「ん、分かった。」
彼女の家までここから30分くらいだった。
さすが三重。もう到着だ。
「今日は・・・その・・・ありがとうございました。」
「いいよ、こっちも楽しかったよ。ありがとう。
じゃあまた明日会社で。」
「はい!!先輩・・・おやすみなさい。」
「ん。おやすみ。」
俺もそこから帰宅し、シャワーだけ浴びてさっさと寝た。
      ・
      ・
      ・
「先輩~!!!」
会社に着くなり笑顔で近藤に出迎えられる。
「おい、お前昨日・・・。」
「えへへ~いいムードだったんですって?」
「なっ!?(ボソッ)誰から聞いた!!」
「そこは乙女の秘密ですよ~。あっ沙紀だ!!
おはよ~沙紀!!」
菅原は近藤の顔を見ると笑顔になったが、
俺の顔を見るなり、ボッと音がするくらい顔が真っ赤になった。
「あっ、先輩・・・その・・・昨日はありがとうございました。」
「い、いや。」
そんな会話を笑顔で見る近藤。
(絶対後で仕返ししてやる・・。覚えておけよ。)
「先輩垢抜けましたね~。」
「は?」
「昨日までと雰囲気が違いますよ。なんか接しやすくなりました。」
「冗談、いつもどおりさ。
さぁ!!みんな今日も一日がんばろう!!」
おーと部屋中から声がする。
部屋の戸辺りを横切る楓社・・・。いや。
「楓さん。」
びくっとする楓さん。
「お、おう。蕗か。」
「俺、もう変な意地張りません。
人を信じようと思います。」
「そうか・・。まぁ詳しくは聞かないさ。
やっと進めたんだな。」
楓さんはうれしそうだ。
「じゃあ楓さんも仕事、頑張って下さい。」
「当たり前だ、じゃあな。」
俺の新しい日々がここから始まるのかも知れない。

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