Polymnia

Polymnia

紅葉吹雪 第2話


・・・・先日から俺のグループの成績が伸び、
ついに単独1位になった。(当社比)
楓さんはほめてくれたし、俺自身も嬉しかった。
これで、終わればよかったのだが・・・
「先輩。」
「ん?どうした。近藤。」
「聞きましたよ~。うちの成績、1位なんですって?」
「ったく・・・お前はどこでその情報を得た・・。」
「乙女の秘密です。それよりぃ~。
みんなで今から飲みに行きません?」
「はぁ?」
「ねぇみんな!!飲みに行きたいかぁ~!!!!!!!!!!」
イエ~!!!と拍手喝さいが起きる。
「どうしますぅ?まさか先輩この歓声を無視するなんてことは・・・」
「あぁ~あ~!!わかったよ、分かった。
お前ら!!残業は明日だ。飲みに行くぞ!!」
俺のグループは皆6時退社という形になった。

「では~!!!1位を祝して~乾杯!!」
「「乾杯!!」」
なんとかいいお店を捕まえれたものだ。
25人入れて、さらにカラオケサービス付きだ。
こんな店が四日市にあるとは・・・。
「あっカラオケだ!!だれか歌う人~?」
上田が空気を読めず叫ぶ。
シーンとする会場。
このままだと上田がスベったまんまになる。
よし一肌脱ぐか。
「俺が行こう。ほら、マイク貸せよ。」
シーンとしていたのに俺が言った途端ざわつく。
「上田、感謝しろよ。ほら3324-26.入れてくれよ。」
「はい!!3324-26・・・。」
曲が流れ始める。

   「Forever Love」

もう独りで歩けない
時代の風が強すぎて
Ah 傷つくことなんて慣れたはず
だけど今は…
Ah このまま抱きしめて
濡れたままの心を
変わり続けるこの時代に
変わらない愛があるなら
Will you hold my heart
涙受け止めて
もう壊れそうなAll my heart

Forever Love
Forever Dream
溢れる想いだけが
激しくせつなく
時間を埋め尽くす
Oh Tell me why

All I see is blue in my heart

Will you stay with me
風が過ぎ去るまで
また溢れ出す All my tears

Forever Love
Forever Dream
このままそばにいて
夜明けに震える心を
抱きしめてOh Stay with me

Ah 全てが終わればいい
終りのないこの夜に
Ah 失うものなんて何もない
貴方だけ

Forever Love
Forever Dream
このままそばにいて
夜明けに震える心を
抱きしめて
Ah Will you stay with me
風が過ぎ去るまで
もう誰よりもそばに

Forever Love
Forever Dream
これ以上歩けない
Oh Tell me why
Oh Tell me true
教えて生きる意味を
夜明けに震える心を抱きしめて

Ah Will you stay with me
風が過ぎ去るまで
もう誰よりもそばに

Forever Love
Forever Dream
これ以上歩けない
Oh Tell me why
Oh Tell me true
教えて生きる意味を

Forever Love
Forever Dream
溢れる涙の中
輝く季節が永遠に変わるまで
Forever Love

(X-JAPAN)

「・・・・ふぅ。」
しばらく聞いてなかったけどきちんと歌えたな。
ん?またシーンとなった。
「先輩・・・。」
「そんな下手だったか?」
「うまいとかへたとかじゃないですよ!!感動しましたよ!!」
「そりゃあよかった。」
「つぎ私いきま~す!!」
俺の後にどんどん曲が入っていく。
まぁこれで出番はないかな?
うぅ・・・飲んだらトイレ行きたくなったな。
トイレトイレ・・・と。
宴会場から出て、トイレに向かう。
ひとつ角を曲がるとアルバイト店員とぶつかりそうになった。
「おっと、スイマセン。」
「いえ、申し訳ございません!!」
どうやら女の子のようだ。
名札には「並原雪菜」とあった。
「・・・・まさかお前。」
「はい?」
目が合うと、ハッと少し驚いた顔をして、
すぐに涙を溜める「妹」の姿があった。
あれから3年だから・・・今彼女は24か?
「お兄ちゃん・・・。」
「一応バイト中だろ?話してやりたいけどそうはいかないもんな。
何時に終わる?」
「9時・・。」
消え入りそうな声で言う。
涙を堪えているのだろう。
そんな妹を見て、俺も涙が出そうになった。
しかし、少し顔色が悪くなっていた。
俺は雪菜に辛い思いをさせたあの家族に怒りを覚えた。
「わかった、じゃあ9時ごろに店の前で俺は待つ。」
彼女はこくりとうなずいて仕事に戻って行った。
彼女・・・・雪菜も悪い意味で大人になったのだろうか。
俺の判断は犠牲が大きかったのかな・・・。
とりあえず漏れそうなので考えるよりトイレに行くことにした。

その頃沙紀は心配していた。
なぜなら先輩である並原が帰ってこないからだ。
先日一緒にご飯を食べた時から沙紀は蕗のことが気になっていた。
それは恋愛感情ではないと自分では思っていた。
「沙紀~飲んでるぅ?」
同じグループで一番の親友である近藤涼香が話しかけてくれる。
しかし少し酒臭い・・・。
「う、うん。飲んでるよ・・・。」
「にしては元気がないわねぇ。あっもしかしてぇ・・・
先輩のことが気になってるんでしょ?」
「!?ち、違うよ・・・・。」
「あはは!!照れちゃって照れちゃって!!このこのぉ♪」
やはり大分酔っているようだ。
「先輩、さっき女の子としゃべってたよ。」
「へ!?」
「あれは仲良さそうだったけどなぁ。
・・・・行かなくていいの?」
「・・・・ち。」
「ち?」
「ちょっとトイレに・・・行ってきます。」
「はいはい。あんたからトイレって言葉が出ただけ成長したよ。」
私は足早とトイレに向かった。
すると、
「あれ?菅原、どうしたんだよ。そんなに焦って。」
いつも通りの並原がいた。
よかったぁ・・・

「い、いや・・その・・・。」
菅原が目の前で口ごもる。
「まさか・・・。」
そう言うと菅原がびくっとして顔が真っ赤になる。
「トイレ我慢してたんだろ?」
「!?ふ、ふぇぇぇぇぇぇぇ・・・!!!」
そう叫び菅原は走ってきた道を戻って行った。
(なんだったんだろう・・・?)
なんだかよくわからないが、とりあえず早く戻ったほうがいいのかもしれないと思い、
少し早足でみんなのもとに帰ってみた。
「あっ先輩!!お帰りなさい~
長かったですねぇ。う○○ですかぁ?」
「お前、少し酔いを醒ましてから話せ。
思いがけないこと口走ってるから。」
「そ・れ・よ・りぃ、沙紀がさっき半泣きの状態で帰ってきましたよ。
どうしたんですか、全く。」
こいつは絡み酒か。
「どうしたもなにも、トイレから出てきたら目が合って、
走ってきたけど、お前もトイレ我慢してたのかって聞いたら、
あぁなったんだよ。」
「はぁ・・・いいですか?先輩。
あの子は人一倍純情なんです。それに極度の人間恐怖症です。」
「そんな子がよくこんな会社に入ろうと思ったな・・・。」
「ですから、私と接するような態度ではあの子は心を開かないですよ。
優しくしてあげてください。」
「ん。わかった。」
俺は腰を上げる。
「またトイレでう○○ですか?」
「違うよ、菅原に謝りに行ってくるんだよ。
それと、お前は酔ってるようだから酒はしばらくお預けだ。」
「へ~い・・・。」
菅原はどこにいるだろうと見渡してみる。
すると机の端っこで小さく座り、水をちょびちょび飲んでいる。
― それに極度の人間恐怖症なんです・・・。 ―
「菅原。」
声をかけると、菅原は(やはり)びくっとした。
「はははははははははい、何でしょう!!」
「いやぁさっきは悪かったなぁって。
あっ隣座っていい?」
「ど、どうぞ・・・。」
「どうも。よっこらせ。」
「・・・・・配だったんです。」
「うん?」
「先輩が帰ってこなくて・・・どうしたのかなぁ
って・・・やっぱり迷惑でした・・・よね。」
「・・・・う~ん。でもさ、考えてみて。」
「・・・・。」
「迷惑な存在ならこうやって話しかけに来たいと思わないよ。」
「!?」
「でしょ?菅原は嫌いな人とわざわざしゃべりたい?」
菅原は首を横に振った。
「少なくとも、俺みたいなのが心配してもらえて、すんごく嬉しかった。
菅原・・・人を今すぐ好きになれだなんて言わないよ。
ただ、この人のために動きたい、そう思えるようになりな。」
「は、はい。」
「・・・・な~んて、偉そうに言うけど、俺もだめだ。
この3年間、何をしていたか分からないよ。」
ホントそうだ。
3年間無駄に人を憎んで、誰も信用しようとしないで、
でも、なぜ?と一人で自問すると、答えはいつも見つからなかった。
それもそうだ。答えは見えるようで、見えない場所にあったからだ。
・・・・・彼女のように人を恐れていたんだ。
自分の弱さを見せたくがないために。
裏切られるのが怖かったんだ。
それに気づけたのはほかでもない、近藤・菅原のおかげだ。
あのビックリ箱がそんな恐怖やらを一瞬で飛ばしてしまった。

「先輩。その・・・・えっとですね・・・。
えっと・・・こんな私ですが・・・・これからもお願いします。」
「そうだなぁ、よし。上田!!リモコンこっち持ってこい!!」
「は~い。また先輩が歌うんですか?」
「い~や。彼女が歌う。」
俺は菅原を指さす。
「「え、えぇ!!!」」
彼女からも、周りからも驚きの声が聞こえる。
「無理・・・です。」
「そうですよ、沙紀ちゃんは・・・。」
アホの上田でも本人の前での暴言は遠慮するんだろう。
予約曲を見ると、現在4曲入ってる。
時間にすると16分くらいか・・。
「ならリモコンをおれに貸してくれ。
彼女を歌わす。歌わなかったら俺は頭を丸めよう。どうだ?」
「い、いや・・・俺はまぁ、いいですけど。」
「なら歌ってこい。」
は~いといってこの緊迫したムードから早く出たかったのだろう、
上田はそそくさと元の位置に戻って行った。
「先輩・・・。」
もう菅原は泣きそうだ。
「ここで一歩進もう。少し強硬手段になったけど・・。
どうする?立ち止まるならお前はここまでだ。
別に今までと同じだからそれでもいいかもしれない。
誰もお前を責めないよ。」
「・・・・ゃります・・。」
「聞こえないな。」
「やります・・・私なんかでも・・がんばって・・みようと思います。」
「そうか。どうする、歌のほうは?
ゆっくり決めれる時間があげれないんだが。」
「私の思い出の曲があります・・。」
「そりゃあよかった。」
「えっと・・・・これですね。」
カラオケ用の本を菅原は探し、どうやらお目当ての曲を見つけたようだ。
「番号は・・・4476-38です。」
「ほいきた・・・4476-38。」
「先輩・・・その・・・支えてくださいね。」
順番が回ってくるまで彼女は眼をつぶっていた。
怖いのだろう、逃げ出したいのだろう。
そんな彼女が立ち止まって、自らの恐怖に立ち向かおうとしているのだ。
俺の半端な言葉をかけることはむしろ馬鹿にしていることになってしまうだろう。
ついに順番が来た。
まわりも菅原が歌うとなるとシーンとしていた。
菅原の小さな口が開く。


  「ため息」

たとえば僕が 今を生きようと すべてを投げ出したなら
どうなるのかな 壊れるのかな 何もかも終わるだろう

それでも いつかは ここから抜け出してみせるんだと
つぶやいて 飲み込んで 悲しいけど…これが今の力

色のないため息ひとつ 風はこんな僕を隠していく
枯れ果てぬため息ふたつ 誰も僕の存在(こと)など知らない

たとえば僕が あの日に戻って すべてやり直せたなら
何をしようか どこに行こうか 少し旅に出ようか

それでも やっぱり きっと僕はここに戻ってくる
わかるから 自分だもの 意気地のない弱い僕だから

白くつくため息ひとつ 冬はこんな僕を見逃さない
宛てのないため息ふたつ 違う人になんてなれない

色のないため息ひとつ 風はこんな僕を許していく
宛てのないため息ふたつ 今はまだここから動けない

(柴田淳)

菅原の声は温かく、そして優しさに満ち溢れていた。
まるで母が愛する子のために歌う子守唄のようだった。
そう思っているのはおれだけじゃないようだ。
みんな聞き入っている。
そして、菅原が歌い終わった。
俺はそんな彼女に拍手をした。
まわりからも拍手がひとつ、ふたつ、みっつというように
どんどん拍手の音が大きくなる。
それに彼女はお辞儀で答えた。
今の時間は8時40分だ。
「・・よし、じゃあきりがいいとこで今日はお開きだ!!
そこから各自飲むなり何でもしてくれ!!」
「「ハーイ」」
「いい返事だ、じゃあ明日からも頑張っていこうぜ!!」
あっしたぁ!!という返事ののち、24人がぞろぞろ帰っていく。
「せ、先輩・・。」
突然菅原に話しかけられる。
「どうした?今日のヒーロー。」
ニヤニヤしながらそんな冗談を言う。
「ち、違います・・・。ヒーローじゃ・・・ない・・・です。
えっと・・・その・・・ありがとうございました。」
「別に俺は何にもしてないよ。
そうだな・・・お前が頑張ったんだ。俺はただお前が行くべき道を指さしただけだよ。」
「いえ・・・先輩がいてくれたから頑張れたわけでありまして・・・。
また・・迷惑かけちゃうと思うんですけど・・・その・・・。」
「ちゃんと支える。約束するよ。」
約束・・・・またしてしまった。
ホントに大事だった約束はまだ守れてないのに・・・。
「・・・よろしくお願い・・します。」
「なら俺はこれから親しみやすいように沙紀ちゃんって呼ぶかな。」
「えぇ・・・!?」
「ん?嫌?」
「い、いえ・・・その・・・男性にそうやって呼ばれるのは初めてでして・・。」
「まぁ、これからはどんどんそうやって呼んでくれる人が増えていくよ。」
「よ、よろしくお願いします。」
「こちらこそ、沙紀ちゃん。
さ、早く俺らも出よう。」
店を出ようとすると、
「スイマセン、お会計の方を・・・。」
と、店員に止められた。
(・・・・うん?)
「そうだった、お~い、みん・・・・」
もう菅、沙紀以外誰もいない。
・・・・結局俺が払った(もちろん全て)
沙紀は半分出すと言ったがそんなことはさせられない。
三万円、飛んで行った。
      ・
      ・
      ・
「じゃあ、俺はここで。」
店を出てすぐに沙紀に言う。
「は、はい。おやすみなさい・・・。」
「おぅ、おやすみ。また明日な。」
軽く会釈をし、彼女は去って行った。
・・・さぁ、俺の試練はここからだ。



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