Polymnia

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紅葉吹雪 第8話



―よりにもよって渚がこんな近くにいたとは・・・想定外。
「ふん。あ~あもう少し女の子らしい役が良かったなぁ~」
「でも渚ちゃんは何でも似合いそうだよね。」
「ありがと瑞希君♪・・・であんたは何も言わないの?」
「ん~あれだ。マザーテレサが適任。」
「殴るわよ?」
「もう蹴ってるじゃないですか・・・」
「まぁ渚ちゃんも落ち着いて落ち着いて。どうせまた蕗の悪い冗談だから。」
「そうだぞ。全く。まぁ冗談ナシでお市とかの役でも良かったかもな。」
「そ、それホント!?」
「おぅホントホント。」
「・・・・・ァリガト。」―

壊れた・・・・?

―「蕗君だよね?」
「あ、あぁ。確かに蕗ですけど・・・どちらさん?」
「嫌だなぁ~私だよ。」
「・・・・・」
「もしかして忘れた?」
「・・・・・」
「蛟山高校3年5組10番尾野水渚!!思い出した?」
「ん・・・!?あぁ思い出した!!」―

嘘だろ・・・?

―「なんていうんだろ・・・お前の話を聞いて、お前と一緒に歩きたい
と思ったんだ。変かな?」
渚の顔を見ることが出来ない。見るのが怖くて・・
怒っているのだろうか?泣いているのだろうか・・・
それとも瞳の奥は軽蔑なのだろうか。
「そうね・・・」
ふと渚の口が動く。
「じゃあ結婚しよっか。」
「そうだな・・・お前が23歳になったらな。」―

そうじゃないか、おかしい。あの約束はどうなるんだよ、23で結婚するんだろ?

―「渚・・・。」
最後の力を振り絞って俺は声を出す。
「渚、約束・・・・守るから。」
「!?うん、うん・・・待ってる、待ってるから!!」―

そうじゃないか、この約束すら・・・

いや、なにひとつ


俺はあいつを守れていやしない。


          【紅葉吹雪】

ガシャーン!!!!!!!!!
俺は雪菜から予想していなかった発言を言われ、動けなくなった。
夢だと思いたい、だが耳に響く皿の割れた音は嘘じゃない。
破片が足に刺さった、この痛みは本物だ。
桜をちらっと見ると大丈夫?と言いたそうにこちらを向いた。
それにきちんと答えることができずに俺は、もう遅いから寝なさいと、
全く的外れな返答をした。まぁ桜は納得してくれたのだが。
賢いから今の状況を理解したのだろう、いや元々こうなることをわかっていた?
― ダメだ、疑うことからはじめてはいけない。疑いは人のつながりをなくすことだ。
落ち着け、落ち着くんだ。
もう、変わるって言ったじゃないか。 ―
「さ、三年間なにがあ、あったか、き、聞か・・せてほしい。」
震える声を精いっぱい出し、そういいきった。
足もとが震える、手の感覚がない、それどころか今自分が正常に『生きているのか』すらわからない。
雪菜も同じような心境なのかは知らないが涙声で語ってくれた・・・・。

「そうか。」
俺は雪菜の話を聞いて今まで感じたことがないくらい激しい怒りを感じた。
・・・俺が出されたのち、雪菜と桜は2階の部屋に閉じ込められた。
もちろん、死人が出てはいけないのでご飯・トイレ・風呂には入れてもらえた。
彼らは比較的優遇されていた。
しかしだ、問題は渚への扱いだ。
この3年家から全く出させてもらえず、さらに過酷な家事、挙句の果てにはストレス発散の道具として扱われた。
・・・・・実の娘のはずなのに。
「私がなんで3日間家を空けたかと言うと、
渚お姉ちゃんをお姉ちゃんの北海道の伯母さんのところへ連れて行ってたんだ。
でね、桜は連れて行こうとしたんだけど、ふと思い出したの、お兄ちゃんのこと。
ちゃんと受け入れてくれるか分からなかったんだよ?この前も言われたし。でも私は賭けに出た。
・・・・まぁ成功と言ってもよかったんじゃないかな。あっ忘れてた。」
何かを思い出したかのように雪菜はポケットの中を漁る。
目当てのもの発見したのか手がポケットの中から出てきた。
そしてぐちゃぐちゃの紙を俺に渡してきた。
「なんだ、これ?」
「渚お姉ちゃんからのお手紙・・・もう壊れかけてたから言葉もろくにかけてないんだけど。」
そこには
「もう私のことはいいの・・・約束も忘れてかまわないから・・・。」
と汚い字で書かれていた。
グシャ
つい力が入り紙を握りつぶしてしまった。
そして馬鹿野郎とつぶやいた。
「お兄ちゃん、渚お姉ちゃんのことはじっくり考えてね。お兄ちゃんがその言葉通りに
楽しい日々を送るのを止めない。それにたぶんこの決断は片方を捨てることになるから。
じゃあ寝るね。おやすみ。」
雪菜が上にあがって行った。
俺も片づけして寝るか・・・。
         ・
         ・
         ・
PIPIPIPIPIPIPI!!
ポチ
朝か・・・。桜を送らなきゃな。
昨日の雪菜の言葉が頭をよぎる。
― この決断は片方を捨てることになるから ―
もし渚を助けに行くとなると、沙紀にすべてを話す。それが悪い方に行くのかはわからないが、
今まで通りの関係にはなれないだろう。
渚を助けに行かないとなると、それは大事な人をなくすことであろう。
しかしはたして俺が行くことに意味はあるのだろうか?
わからない。
それに桜は雪菜とはどう接すればいい?
・・・・・・・・・・・・・自分の中で答えは見つかっているはずなのだがあと一歩が出ない。
ダメだ。いろんな人に相談してみよう。
俺はそう思うと、雪菜に桜の送りだけお願いした。



A.M10:00 [仕事場・社長室]

コンコン
はい、どうぞ。と声が返ってくる。
ガチャ
「ん?お、蕗か。どうした?まだ休みはあるはずだが。」
からかい口調で楓さんが言った。
「楓さん。」
俺の真剣さが伝わったのか、およ?っとキョトンとした後、
真顔でこちらを向き、で、どうしたんだ?
と言った。
俺は雪菜から聞いた渚の情報を楓さんに伝え、今の俺の心境も伝えた。
途中で美里さんが入ってきたが、楓さんが大事な話をしているからと追い出した。
楓さんに伝えたあと、部屋がシーンとなる。
数分経ったか、楓さんが口を開いた。
「そうか・・・。俺はこうしろとは言えないからな。ほかの人にも相談してみたらどうだ?
それで結論が出たなら・・・また俺のところに来てくれよ。そこで協力するか決める。」
「ありがとうございます。ではまた来ますね。」
俺はドアをあけ、目の前にいた美里さんにもまた来ますとあいさつし、出ようとした。
そのとき、楓さんが後ろで待て!!と叫んだ。
振り向くと、彼は笑顔で、
「行けよ。後のことは俺に任せろ。馬鹿息子・・・ってあの人なら言うだろうよ。」
「ハハッ。なんかわかります。じゃあ。」
俺は部屋を後にした・・・・。

社長室では、楓が椅子に座り、大きく息を吐いた。
そして胸ポケットからタバコ一本とり出し、それを口に運んだ。
「会社は禁煙って言ってるけど?」
「まぁいいじゃないか。・・・・あいつがこんなにも成長するとはね。」
「そんなに彼のこと知らないの、教えてくれない?」
「そういやぁ結婚してから二人でこうして仕事以外の話をする機会なかったな。
・・・・・・・・すまない。ダメな夫で。」
「ううん、そんなあなたが好きだもの。」
美里は彼の横に行き、ほっぺに軽くキスをした。
「なんか照れるな・・・あっ、そ、そうだ。あいつはな、4歳の時に・・・・。」




A.M11:00 [仕事場・担当場所]

入るなり上田に捕まる。
「先輩!!嫁と喧嘩しました!!聞いてくださいよ。あいつが・・・。」
長々と痴話喧嘩を語られる。正直殺意が芽生える。
「上田、もしだ。もし彼女が精神崩壊したらどうなる?」
「え・・・そりゃあ悲しみます。病院に通います。」
だろうな。
「お前が正常な思考の持ち主でよかったよ。嫁さん逃げないように気をつけろよ。」
「そんなまた大げさなぁ~。先輩ボケちゃいました?」
こいつ・・・いつかボケさせたろか・・・・。
「先輩は恋人とかいるんですか?なんちゃって~。」
「いるよ。嫁さんがな。」
「「えっ!?」」
部屋中に驚きの声が響く。そうか、俺はそんなに独身っぽいのか。
「独身じゃなかったんですか?」
「ん?独身だよ、事実婚だ。おっそろそろ行かなきゃな。じゃあアバヨ。」
俺は部屋を出た。

廊下を歩いていると、後ろからタッタッと走る音がする。
先輩!!と後ろから呼ばれる。少し息が切れている。
振り向くと涼香がいた。
「どうしたんだよ、息切らしてさ。」
「ハァハァ・・・あんなこと、言っちゃっていいんですか!?」
「そうだな・・・ここだと目立つから飯食べに行かないか?もちろん奢る。」
「・・・・まぁいいですよ。では先に外にいてください。」
おっ返事が早い。




A.M11:30 [仕事場・玄関]

出て5分くらいしてか、涼香がお待たせしましたとこちらに小走りで来た。
結局デニェーズに行くことにした。
「で、何か私に用があるんですか?」
「俺に嫁さんがいることは知ってるな。」
コクリとうなずく。
そしてこの4年間の俺、渚の現状を伝え、さらに俺の気持ち、そしてどうすればいいのか尋ねた。
5分は話しただろうか、涼香は話していいですかっと聞きたそうにこちらをむく。
俺はどうぞっとつぶやいた。
「そうですねぇ。あっそうだ、今度はキレないでくださいよ?」
「わかってるよ、黙って聞いてる。」
口の前に人差し指を持っていき、黙っているということをアピールした。
その仕草に涼香はクスリと笑い、話し始めた。
「先輩は渚さんのことがとても好きなんですね。今わかりました。
昔から先輩は私を見ているようで見ていない感じで・・・もう心にはいたのかぁ。
自分に結論が出ているのなら、それは誰にも覆す権利はありませんよ。」
「そっか・・・。アリガトな。」
「いえいえ。あっ今度桜ちゃん見せてくださいね、もちろん渚さんも一緒に。」
「もちろんだよ。絶対見せる。」
「では私は仕事に戻りますね。ごちそうさまでした。」
「お、おぅ。」
涼香はそそくさと席を立ちあがり、店を出た。
そんなに急がなくてもよかっただろうにと思いながら、涼香がいた席を見ると、
机の上に水滴がついていた。
飲んでた水かなと思ったが、彼女はいっさい水に手をつけていない。
・・・・・・つばだと判断した。

涼香は会社に帰るなり、すぐにトイレにこもってた。
そしてぽろぽろ涙を流した。
失恋した、偉そうに言ったけど実は行かないでほしいと思った。
よく耐えたよ自分。偉い偉いと慰めていた。
そんなときふと涼香は思い出した。
「先輩、私のことちゃんと涼香って呼んでくれなかったなぁ・・・」
そう呟くと、ふぇぇぇぇぇんと周りを気にせず、10分間泣き続けたのであった・・・・。




P.M14:20 [御園幼稚園・門]

俺は保護者町の子供の中から桜を見つけると、少し待っててくれと言って、
瑞希のもとに向かった。
瑞希もこちらに気づいたのか、笑顔で手を振ってきた。
「どうしたの?蕗。」
「俺、どうしたらいいと思う?」
「いきなりだなぁ・・・渚ちゃんのことでしょ。」
なんか昔の口調だな。
「お、おぅ。」
「雪菜ちゃんがいってた。お兄ちゃんが瑞希先生のこと頼るかもしれないのでその時は何か言ってあげてくださいって。」
あ、あいつめ・・・・。
「結論は出てるんだけど・・・失うことが怖いんだよ。この2か月が嘘になってしまうのが。」
「犠牲なしに何かを得ることはできない。・・・・・どこかの言葉の受け売りだけどね。
蕗、この日々はウソにはならないよ、少なくとも今までみたいにはいかないかもしれない。
でもお前に助けられてきた人は決してお前の判断を恨まないよ。それだけ、お前のことを信じてるし、感謝してるんだよ。」
親友のその言葉に俺は答えれなかった。
「お前はどうしたい?俺は夢を・・・叶えたと思うしな。」
「俺は・・・・渚を助けたい。」
言えた・・・出そうで出なかったこの言葉が。
顔をあげて瑞希を見ると笑顔だ。
「よし!!なら行ってこい。俺にまたお前らのおしどり夫婦っぷりを見せてくれよ。」
ポンと肩をたたかれる。俺はもう振り向けなかった。
顔を見ると泣いちゃいそうだったから。
桜にお待たせ、さぁ帰ろうかと声をかけ、俺は幼稚園を出た・・・・。

瑞希は一人になると、ある人物に電話をかけた。
「もしもし・・・あっお久しぶりですね。えぇ、大丈夫です。並原蕗の説得には成功したと思ってもらって構いません。
では約束通り、頼みますよ。そうじゃなきゃそれこそ、神様の存在を信じれなくなりますからね。では。」
ピッ
電話を切ると、瑞希は幼稚園の中に入って行った・・・・。

その後俺は家に帰り、服を着替えた。
そして雪菜に桜を預け、俺は会社に向かった・・・・。



P.M16:15 [仕事場・社長室]

コンコン。
はーいと声が聞こえる。
ガチャ。
俺が入ると楓さんは読んでいた新聞をただんで横に置いた。
「結論は?」
俺は楓さんに無言で『ある封筒』を渡す。
「これは・・・?」
表を向けた瞬間楓さんの顔つきが変わった。
「会社を辞めたいんです。」
「なんでだ・・・?」
「楓さんには苦労ばかりかけてきました、それこそ感謝の言葉で表すことが失礼にあたるくらい。
だから・・・もう俺の問題で楓さんに迷惑かけたくないんです。
・・・・渚を迎えに行くという判断を選ぶためにはそれが必要なんです!!」
「・・・・・。」
ビリビリビリ!!
楓さんが封筒を破り、ゴミ箱に捨てた。そして俺の前に立つ。
「蕗、お前が抜けたら誰があのメンバーを支える?いいか、お前は十分すぎるくらい役に立っている。
お前のカリスマ性があったから俺の会社もここまで生きているんだ。
だから・・・辞めないでくれ。」
俺が頭を下げに来たのになぜか楓さんが頭を下げている!!
「か、楓さん!!」
「1か月だ。」
「へ?」
「1か月休みを与える、これでどうだ?」
「・・・・・・。」
俺は無言で首を振った。
「2か月か!?3か月でもいい!!」
「楓さん、俺はもうあのグループにはいらないんですよ。もう巣立ちの時期なんです。
源さんのが言った言葉、老将は去るのみ、でしたっけ?
・・・・・・・・・・家を出てから11年間、ホントお世話になりました。」
頭を深々と下げる。
「・・・・・チッ、わかったよ。なら俺の会社に帰ってこなくていい。
丁度子会社プロジェクトがあってな。そこをおまえにまかせる。」
「!?」
「無論、会社は事実上の退社だ。」
「楓・・・さん、ありがとうございます、ありがとうございます・・・・!!」

08年間の会社での勤務は今日を持って終わりだ・・・。

待っていろよ、渚・・・。

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