アスベスト疾患の発生メカニズム



 アスベスト疾患といえば、悪性胸膜中皮腫と肺がんに分けられますが、悪性中皮腫の発生メカニズムに関しては諸説あります。その中でたいへん興味深い報告を見つけましたので紹介します。
 ポイントは今までのアスベスト繊維に含まれるFe2+イオンがFe3+イオンに鉄が酸化されるときに酸素原子Oがラジカル化されることにより活性酸素が発生し遺伝子に障害を加えるということでしたが、患者の非腫瘍部分のアスベスト繊維の数を調べても腫瘍との相関関係が見られず、その説を否定しています。一方、ケイ素Siを含むアスベストには吸着性があるのでタバコなどによる発癌物質を吸着蓄積しやすいわけで、それにより中皮腫や肺がんを発症するのでないかという見解です。アスベスト曝露から早いヒトで10年、長いヒトで40年後の発病していますが、この潜伏期間は他のガンと比較しても特別に長いわけでなく、そもそも他のガンの場合は最初の曝露がはっきりしていないので本当は他のガンもアスベスト疾患のような潜伏期間の可能性があると指摘しています。


 易学的には、アスベストへの暴露が多くの中皮腫例の80%以上では非腫瘍部の肺に、光学顕微鏡でアスベスト小体をみること、細気管支周囲に特徴的な繊維化をみること、あるいは電子顕微鏡レベルでアスベスト繊維の沈着とそれによって引き起こされる組織変化を証明することができる。しかし、経気道的に吸引されたアスベスト繊維が中皮腫を発生させるメカニズムについては、多くのことが不明である。
 中皮腫例、肺がん例、対照例(非中皮腫・非肺がん例)の肺について、沈着したアスベスト繊維の量、種類、長さを電子顕微鏡レベルで比較すると中皮腫例においては、アスベスト繊維の吸着量がもっとも多く、種類からみるとクロシドライトがもっとも多い。沈着した繊維の長さをみると、中皮腫例では長い繊維の占める割合は大きくなく、これはクロシドライトでは長い繊維は少ないことを反映している可能性が高い。
 これらの事実から、中皮腫の発生には、沈着するアスベスト繊維の種類がもっとも大きく関係すると考えられる。すなわち、クロシドライトは鉄の含有量がもっとも大きいので、二価の鉄が三価の鉄に変換される際に活性酸素を生じ、この活性酸素による中皮細胞のDNA損傷が中皮腫の発生に結びつくいて戦死異常を来すと推測されている。
 しかし、いくつかの疑問点があるまず、自験例の中皮腫例の非腫瘍部の肺をみると、アスベスト小体数では肺湿重量5g当り最高2.4×10の5乗から、最低2.4×10の5乗本と1000倍近い差がある。すなわち、中皮腫発生とアスベストの沈着量との間には量-反応関係(dose-response relationship)がないといえる。いい換えれば、中皮腫発生について沈着するアスベスト量に閾値を定めることが難しいといえる。
 一方、南アフリカのアスベスト高山に10年以上勤務した労働者における中皮腫発生には、遺伝的要因としてアスベスト障害に対する感受性を検討する必要があるとの指摘がある。
 また、日本での労災例をみると、アスベストへの曝露開始時から症状の確認時までの年月、すなわち中皮腫の潜伏期間は胸膜例(70例)で最小11.5年、最大54.2年、平均36.9年であり、腹膜例(23例)では、最小27.3年、最大52.2年、平均41.1年、胸膜・腹膜例をあわせると、平均38.0年となる。この期間は大変長いと感じられるかもしれないが、他のがんにおいても潜伏期間は同様に長い可能性が高い。
 胃がんでも大腸がんでも、アスベストによる中皮腫のように発ガンの原因が特定されていないために、発ガン因子に曝露され始めた時期が明確でなく、中皮腫のように正確な潜伏期間を推測できないといえる。遺伝性のがんや若年者のがんを除けば、一般にどの臓器のがんも60~70歳が発生のピークであることから、発ガンの潜伏期間は30~40年であるということができ、中皮腫のみが特別に長いわけではない。
 中皮腫の発生に関しては、アスベストの他にSV40というウイルスの関与が主として実験的に実証されているが、分子病理学的研究によって、ヒトにおいてはSV40のみでの中皮腫が発生するとは考えにくい。また、アスベストによる肺がんの発生については、前述の沈着したアスベスト繊維の分析結果からすると、種類としては、アモサイトが多く、8μm異常の長い繊維が多い。
 したがって、クロシドライトで推測された鉄の関与より、アスベスト繊維の持つ特徴の一つである強い吸着性からタバコ中の発ガン物質を吸着してその担体となり、その発ガン作用を助長すると考えられる。

広島大学大学院病理学教授  井内康輝
日本医事新報より

© Rakuten Group, Inc.

Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: