庵理恵の私的書物

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過怠



 めずらしく早く退社した隆夫を待っていたのは、目を真っ赤にした妻、京子だった。尋常じゃない面持ちに、駆け寄って、尋ねる。

 「どうした?何があったんだ?」

 「亜樹が、出て行ってしまったの。どうしたらいいの?」

 「何があったか、きちんと話してくれないか?」

 「あのこ、不倫してるのよ・・。何、馬鹿なことしてるのって、怒ったの。そしたら、飛び出して行っちゃって・・」

 隆夫は言葉を失った。 京子をなだめるように言った。

 「帰ってくるさ。そしたら、俺が、話してみるから・・」

 「ええ、、」涙をこぼす京子。

 「どうしたの?お姉ちゃん、なんかあったの?」

 「何もないさ、少し母さんと喧嘩だよ・・」

 俊哉は、怪訝な顔をしつつリビングを後にした・・ 得も知れない嫌な雰囲気を全身で隆夫は感じていた。


 夜も更け、渋々、亜樹が家のドアを押し開き帰ってきた。

 玄関におどりでて、京子は駆け寄った。

 「心配したわ・・」

 「もう、子供じゃないわ。あたし・・」亜樹は京子を睨んだ。

 「やりかた、汚いわよね、母さんは、、」

 呆然とみていた隆夫が口火を切った、

 「話そう・・話してくれないか・・?」

 「わかったわ・・部屋に荷物、置いてくる・・」階段を上がる亜樹の背中がひどく小さく細く見えた。


 ガス台で、沸騰しているやかんの火を慌てて京子は止め、熱いお茶を入れた。いつになく、リビングは静かで、無機質な感じがした・・

 「何が聞きたいの? もう、知ってるんでしょ?」

 「母さんから聞いたよ、だいたいの話はね、でも、亜樹の気持ちを聞かせてくれないか? 本当に不倫してるの?」

 「・・・・・」

 「父さんも母さんも、亜樹を心配してるんだよ。子供が大事じゃない親なんていないよ。」

 「不倫だ何て、嫌な言い方しないで・・」振り絞るように言い放った亜樹の目はからは涙が零れる。

 「たまたま、好きになった相手に奥さんと子供が居ただけじゃない・・」

 「どうして、そんな言い方するの、あたしだって、好きでこんな事してない・・」

 「亜樹・・」京子も目を押さえた。。

 言葉を選びながら、自分を冷静に装いながら、隆夫は言った。

 「亜樹、父さんは亜樹が大事なんだよ。愛している。そんな亜樹が、不幸 になるのは見ていられないよ。

 普通に恋をして、結婚をして、幸せな家庭を築いて欲しいよ・・亜樹の好 きになった人には家庭があったんだよね。

 今のままでは、彼だって辛い はずだよ。 別れるべきだよ。辛いのもわ かる・・」

 「あたしたち愛し合ってるの、彼はあたしの存在が一番大きいって言って くれる。

 ココロの真ん中に居て欲しいって。お互いのココロに正直に向き合っいた いの。

 彼の暖かさをかんじていたい・・それに、、彼にとっては亜樹はかけがえ の無い存在だって言ってくれる。

 こんなに通じ合う 相手初めてなの・・ お付き合いを許して・・」

 亜樹が深々と頭を二人の前 に下げた。

 「亜樹・・彼はあなたの為に離婚を真剣に考えてくれてるの?」

 「・・・・」亜樹は絶句した。

 「亜樹、どうなの?答えて・・」京子が詰め寄る。

 「子供が一番だって・・俺の分身だからって・・」亜樹は耐え切れなくな って京子にすがって大きな声で泣きじゃくった。。

 隆夫は、平静を保ちながら、心の中がざわざわするのを感じていた、、体 中に冷気を感じた。。

 「亜樹、気持ちだけじゃ、幸せにはなれないんだよ。行動がね伴わなきゃ ね。彼が離婚して、亜樹と一緒になるのなら、わかるよ。

 でもね、彼には子供がいる。大抵ね、夫婦してたら、どんなにいろんなコ トがあっても、子供を一番に考えてしまうものなんだよ。

 亜樹が親になればわかるだろうけどね、、 彼の愛が本物なら、子供を手 放してでも亜樹と一緒になるのが正論だよ  ね。分るよね?

 行動と責任が伴うんだよ、愛は。リスクが あるんだよ。。」

 「でも、彼は心の真ん中にいるのは私だって、気持ちは越えて言ってくれ たよ。

 あれは嘘なんかじゃないよ。父さん、、わかって、、」最後は声にならず に、泣き崩れた。

 「亜樹、今日はもう、いいわ、よく分ったから、、母さん達と一緒に考え ましょうね・・」 亜樹は京子の胸で泣いている。。


 隆夫は徐に立ち上がり二階の書斎へ上がった、バルコニーに出て、煙草に 火をつけた・・

 そして住宅街の灯りが浮かび上がっている闇に紫煙を吐き出した・・。

 そして、無意識に、、隆夫の頬を涙が蔦ってながれた・・

 とめどなく、とめどなく、嗚咽に近い声を押し殺しながら、バルコニーに ひざまずき、泣いた・・

 遠い昔を、自分の子供を通して体中で感じた。

 カズミが言ったことと同じ事を、今、俺は、娘の亜樹に言っている。

 おそろしく過怠であったことに今更に打ちのめされて、頭を深く下げた。

 止まること無い涙を感じながら、深省した。。



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