Blazing Ash

Blazing Ash

第一話「First Flight」



「首尾はどうだ?」

謎の大柄な男が、細身で短髪の黒衣を着た優男に尋ねる。

「上々、とでも言えば良いでしょうか・・・」

「フン。だが、大丈夫なのか?」

「心配は無用です。私の計画に狂いが無ければ、あと数ヶ月で目覚めることができそうですね・・・」

「なるほど。『あちら』に送り込んだ例のあいつはどうなっている?」

「ああ。確か・・・は消息不明、かつ音信普通になってるんですが・・・実は、不審な点が幾らかあるんです」

優男は、首を捻り頬杖をつく。

「ん?不審点か。大丈夫、今までこのような事があったがいずれも裏切っている例は一度たりともなかった。無線の故障、迎撃による戦死・・・」

「はい、そのような点は有りません。しかし、今回送り込んだ工作員は・・・」

優男はため息を漏らす。

「元々我々の方針に反感を抱いている・・・だろう?」

優男の言葉を、大柄な男が先に言う。敵工作員の名前は、雷鳴により周りには聞こえていない。

「そうです。そして最近の通信の際のあいつの態度、そして『ここ』に対する度重なる敵襲・・・最初の敵襲以来通信が途絶えたからです。」

「果報は期待できん、そう言いたげだな・・・」

大柄な男は不服そうに聞く。

―――オオオオオオオオ・・・

「今日のこいつは慌ただしいな・・・」

「まさか、『X』タイプと、何か関連性が・・・」

すると、大柄な男が微笑を浮かべた。

「始まる・・・我が時代、覇権をつかむ時代が・・・」

大柄な男は、ガラス越しに見える『それ』を見て、不敵な笑みを浮かべた。そして、『それ』から、声ともつかぬ声が聞こえた・・・

          ―我ニ跪ケ・・・

―ここはテスラ・ライヒ研究所、通称”テスラ研”の格納庫内・・・


「ラプターの整備はどうなっている?」

「少し待って下さい・・・ハイ、もう少しで完了します!只今、機体チェック完了率、78,4%」

「あと20分程度で完了することはできるか?」

今回、テスラ研では新しく、パーソナルトルーパー・・・通称PT、「ビルトラプター」の試験飛行を行う。
しかし、昔、ビルトラプターの一号機のテスト飛行を初めて行う時、変形の時に大破し、そのまま封印されてしまったという記録が残っている。
それに加え、二号機はデータ収集のために月のマオ・インダストリー、通称マオ社に送還されてしまい、三号機は消息不明・・・今テスラ研で保有しているのは、修復された一号機のみとなってしまっている。

「でもあのジンクスは捨てきれないとは思いますね・・・・・・」

「あの時のか・・・。でもあれは基地指揮官の采配ミスとラプターの変形機構不良が原因なんだろ?じゃあそこまで気に病む必要は無いとは思うがな」

「当時のパイロットも今では軍の特殊部隊で活躍するほどのエースパイロットに成長したって聞いたぜ。問題の機構も改善もされたし、心配は無いだろう」

「ああ。しかし今回のパイロット、新米だからなぁ。すこし事件のことを気に病んでドジったりしなきゃいいんだがな」

「大丈夫、俺なら気にしてませんよ。そんな事」

「うわあ!?」

整備士の会話に割って入ったのは、今回ビルトラプターのテストパイロットを勤めるパイロット・・・緑髪の少年、ウィリオ・アルフィー曹長だ。

「ウィリオ、聞いてたのかよ?」


「あはは、とりあえず事故のあたりから聞かせてもらいましたけど、俺、基本的にそういうの気にしない質ですから」

「ま、アンタの為にラプターは最高のコンディションだ。しっかり扱えよ?」

笑顔のウィリオの肩を叩いた男はガンツ・ターナー、階級は中尉だ


「・・・リーフ・クロイツだ。改めて、よろしく」

ウィリオに声をかけるリーフだが、二人は歳もあまり離れていないので、並んでみると同年代の友達という視点にもとれる。


そして、パイロットの招集の時間となった。

「行って来るよ、リーフ、ガンツさん。」

「死ぬんじゃねーぞ」

リーフがウィリオに愚痴る。

(さて、行くか・・・)

ウィリオが思う矢先、わけもなく突堤に、脳裏に一つの言葉がよぎる。いや、むしろ「聞こえる」と言ったほうが正しいかもしれない。

『賽ハ投ゲラレタ』


(・・・?何だ、この声・・・)

そして、運命のテストフライトは、今始まろうとしていた。しかし、ここにいる誰もが予想しなかっただろう。このフライトが、新たなる戦乱の幕開けとなるということは・・・・・・


―ビルトラプターのコックピット内

「OS設定完了・・・変形シークエンス、オールグリーン。パーツ・ブロック正常起動。いつでもいいぜ」

「カタパルト・発進準備完了!ビルトラプター発進、どうぞ!」

(コンディションは万全だな。流石だな。しかし・・・なんだ、この不安は・・・)

(まるで、このフライトで、何かが起こるとでも言わんばかりの、この、不安は・・・いや、そんなことを考える余裕はない。考えるなんて、俺の性に合わないしな。なるようになるか・・・)

「ウィリオ・アルフィー、ビルトラプター、出る!」

レールが光り、ウイングが開く。そして、翼竜は空を軽やかに舞う。

「流石PT試験学校の特待生だ。その辺のパイロットとは違うな」

ガンツが感心する。

「ま、もっともラプターを壊しでもしたら元も子もないわけだが、な」

リーフが皮肉るが、彼も内心では、ウィリオの実力を認めている。

「では、これよりステップ2に入ります。変形してください。」

「了解。これより変形する」

ビルトラプターが地面と平行になるように低空飛行をし、翼竜は、竜人・・・PT形態を象った。

「よし・・・ウイング1、変形完了だ」

「では、最終ステップに入ります。これよりPTドローンを射出するので戦闘、これを破壊してください。」

アナウンスの声と共に、ラプターの周りにゲシュペンストが4機現れる。
だが、その時、搭乗前に感じた悪寒が、すさまじい速さでウィリオの精神を食い荒らす。

(まただ・・・この悪寒・・・何か、来る!)

ウィリオが気付くと同時に、テスラ研のレーダーにアンノウン反応が点灯した。

「主任、レーダーに敵影!データ無し、アンノウンです!」

主任と呼ばれた男はオペレーターの報告に驚いた。

(くっ、予想以上に速かったか・・・しかも、よりにもよってこんな時に・・・)

「直ちにPTドローンのAI思考を迎撃に変えるんだ!そしてアンノウンの機種を直ちに検索しろ!これは最優先だ!」

しかし、時はすでに遅かった。敵影―――リオンは、いとも簡単にドローンを全滅させた。

「ドローン全滅!ウィリオ曹長、危険です!今すぐ後退してください!」

――待ってくれ!

「曹長!後退してください!でないと・・・」

――テスラ研が占拠される、だろう。それ位なら迎撃する!命令違反は承知です。でもここで占拠されるのを静観する気はありません!

「・・・わかった。アルフィー曹長は迎撃を頼む。あと数分で応援も来る。それまで持ちこたえてくれ」

――了解!

「しゅ、主任!」

「アルフィー曹長の言うとおりだ。ここは迎撃するのが妥当だ。」

主任から承諾を貰うと、ラプターは変形し、飛行形態となった。

「俺の腕前・・・見せてやるぜ!」

ラプターは加速し、リオンの周りを飛び回り、鮮やかに翻弄する。

「どこを見ている。こっちだああ!」

すでにリオンの一機の背後にラプターは回りこんでいる。一気に不意を突き、期待下部に装備されたビームキャノンで撃墜する。

「くっ、なかなかの手練れだな・・・囲め!多数で攻撃するんだ!」

今度は三機のリオンが素早くラプターの周囲を取り囲む。三機がレールガンを一斉に撃つ。

「貧困な発想だな。もう少し柔軟に考えた方がいいぞ・・!」

なんと、ウィリオは空中でラプターをPT形態に変形させる。当然ラプターは落下し、銃弾は空を切る。

「もらった!」

ラプターは両手に素早くハイパービームライフルとGリボルバーを構え、三機に浴びせかける。一斉掃射により、ものの数秒で全機を撃墜する。撃墜を確認すると、ラプターは再び変形する。

「悪いな・・・格が違う」

「ア、アンノウン・・・全機・・・撃墜・・・」

オペレーターが腰の抜けた声で報告する。ラプターがテスラ研の方に戻っていく。

「とんだ実践テストだな・・・?」

ウィリオが愚痴をこぼす。しかし、何故か空気は、戦場特有のそれから全く代わっていない。

(どうやら、敵はまだいるらしいな・・・しかし、どこに?)

――その通りだ。次は俺の相手をしてもらおう・・・

「何・・・!?」

ウィリオの聞いた『声』を裏付けるかの如く、レーダーが高速で接近する敵影を捕らえる。

「良いだろう・・・お前も、俺が叩き潰す!」

――ほう、それは楽しみだ・・・だが!

――――できるものならな!

その瞬間・・・赤い風がラプターのすぐ横をよぎる。すさまじい速さで移動している。レーダーでかろうじて確認できたほどだ。無論、レーダーの索敵範囲をものの2,3秒で通過するほどだ。視認など不可能だ。

「何っ!?」

(こいつ・・・速い!)

赤い風は、すぐに方向転換し、ラプターの方に再び向かっていく。

(明らかにいままでの奴らとは・・・違う!)

勿論、その疾風はウィリオの体勢を整うまで待たせてはくれなかった。さらに加速し、ラプターを捉えようとする。

(だが、速さだけで勝とうなんて言うのは、甘いぜ!)



「今度は逃げないぜ・・・来い!」

ラプターは、ハイパービームライフルを構え、素早く撃つ。放たれた光線に対して、疾風は逃げず、そのまま突っ込んでくる。そして、光線は真っ直ぐ、相手を完璧に捉え、吹き飛ばした。
そして、その硝煙が晴れた中にいたのは・・・

「ビ・・・ビルトビルガー、だと!?」

「この機体の記録はテスラ研のデータベースには無い。だとすると、同型機か、或いは模造品か・・・」

『ご名答。流石にやるな・・・ウィリオ・アルフィー』

「・・・何故俺の名を!?」

『フッ、それを知る必要は無い。何故なら・・・』

『貴様は今ここで倒れるからだ!!』

それと同時に赤いビルガーは剣を抜き、ラプターに斬りかかる。

「何っ?回避運動を・・・!」

しかし、ビルガーのパイロットはすでにウィリオの2手、3手先まで読んでいた。

「甘い」

ビルガーの縦斬りを、ラプターは左によける。しかし、ビルガーは剣を持ち直し、逆袈裟の太刀筋で斬撃を放つ。ウィリオはとっさに脚部のブースターを動かし、のけぞる形で後退する。だが、次にビルガーは大胆にも一歩大きく踏み込み、上に振り上げた剣を横に構え、再三振る。腹部の真ん中あたりを両断する軌道だ。とっさに、ウィリオは腰のビームソードで剣を受け止める。しかし、それもほぼ数秒だ。ビームが斬られる前に、一気に軌道修正し、ビルガーと再び距離を取り直す。
ウィリオは感じていた。自分が追い詰められているのを。こちらはその場その場の判断で動いているに等しいが、相手の攻撃は次に次に連鎖を繰り返し、何より計画的だ。勿論、こんなことをしていてもこちらの尻についた火がいっそう燃え上がるだけだ。彼の脳裏で、少しずつ「敗北」という言葉が成長し始めている。彼は本能的に、この言葉は確信に近い思考だということを感じ取っている。故に、尚更震え上がる。意志とは関係なく、それは心を蝕んでいく。

(いや、まだだ・・・まだ死ぬわけには・・・)

「死ぬわけにはいかないんだああああああああああああ!!」

(・・・何?何だ、この殺気は?いや、だが奥に焦燥をうっすらと感じる。自棄を起こしたと見るのが妥当だろう)

ウィリオの咆哮とともに、ラプターはビームソードを構え直し、さっきとはうってかわって攻撃的な戦い方になった。先ほどまでの冷静さを、今ウィリオは完璧に欠いていた。

(フン。湯が沸いた頭で俺に対抗しようなどと・・・俺も、甘く見られたな)

ビルガーは右腕を振りかぶる。すると、腕の一部がせり上がり、杭のような突起が突き出る。ウィリオはビルガーの行動に直感的な危険を察知し、ビームソードを投擲する。

『甘いな。Gインパクトステーク、シュート!』

ビルガーの右腕に内蔵された杭打ち器・・・Gインパクトステークがビームソードとぶつかり合う。ガシャンという弾を込めるような音がするとともに、ぶつかりあったビームソードがビームごと裂け、ひびが入りバラバラになる。ステークの側面に開いた穴から、煙を放つ薬莢がカランと落ちる。

『勝負はこれからだ・・・翼竜!!』

しかし、この後の競り合いは、ウィリオには不利な状況だった。一つ目の不安要素は、機動力の違いだ。ラプターの飛行形態よりなお速く、ビルガーは動ける。

『早々に片付ける。ネオ・チャクラムシューター、射出』

今度は左手から、光を帯びたディスクが多数打ち出される。

「こんなもの・・・当たるかっ!」

そう喋りつつ、Gリボルバーでディスクの一つを打ち落とす。しかし、弾があたった瞬間、ディスクは衝撃波を放ち、消えた。衝撃波は放射状に、ほんの少しラプターを掠めた。

「くっ、エネルギーを圧縮したもののようだな。下手に破壊すると、距離によっては余波でやられる危険もあるらしいな」

二つ目の要素は、攻撃力の差である。先にも書いたように、ビルトビルガーは二つの高攻撃力の武器を装備しているため、ダメージはラプターを軽く凌駕する。

(そして装甲も、一発目で軽く焦げ目がついてるだけのところを見ると、相当硬いな。)

目の前に突きつけられた大きな「壁」の大きさに、ウィリオは改めて動揺した。その危機的状況を察知したのか、通信回線に、テスラ研からリーフが割り込んできた。

――ウィリオ、大丈夫か?

「かろうじて、だけどな。」

ウィリオが明るく返答する。しかし、状況はそれほど良くもない。おそらくリーフの気持ちを汲んでの返答なのだろう。しかし、リーフとは長い付き合いだ。やはり、すぐに見抜かれてしまう。

――昔っからお前はそんな状況でも能天気に返答してるな。全く・・・

「悪い。リーフ、できればテスラ研の正確な残存戦力と、そっちの機体のコンディションも頼む。」

――戦力は皆無、シュバインとシュッツバルトはオーバーホールが終了してない。出せるまで2時間は必要だ。

リーフの答えは、ウィリオに赤いビルガーとの一騎打ちを暗黙の了解として言い聞かせてるようにも取れた。
そして、ウィリオの発言を遮るかのように、ビルガーが一気に距離を詰めてくる。

『会話とは余裕だな。俺も見くびられたものだ』

(接近戦は分が悪い。だとすると、空に逃げるしかないか)

接近戦が危険と感じると、ラプターは変形し、青空に逃げた。
しかし、やはりビルガーのパイロットは手馴れているかのように、ほとんど勘で、ウィリオと同タイミングで飛び立った。
いくら全速力を出しても、ビルガーは振り切れず、それどころか尚もラプターとの距離を詰めてくる。

(冗談だろ・・・全速力を出してるっていうのに・・・)

だが、その瞬間、ラプターに再び通信が入った。ガンツからだ。

――ウィリオ、ウィリオ、聞こえるか!?

「ガンツ・・・さん、悪いけど今、お取り込み中なんですけど・・・」

―いいから聞け、そこに黄色いカバー付のボタンがあるだろう。

探してみると、確かにガラスカバーに包まれたボタンがあった。ただ、ウィリオはそのボタンに骸骨の絵があったのが妙に気になった。

「ありましたよ。次に俺はなにをすればいいんで?」

―よく聞け、そのボタンは加速装置の発動ボタンだ。最大速度を軽く凌駕したスピードを出せる。

この言葉は、まさにウィリオにとって救いの言葉だった。しかし、ガンツは喜ぶウィリオをよそに、特に語調を変えず淡々と喋り続ける。

―ただ、加速もすごいがパイロットにかかるGも半端じゃない。気をつけないと体が参ってしまうからな。

「助かる、ありがとう」

―なんて事はない。しっかり帰ってこいよ

しかし、やはり攻撃力の差は歴然としている。なんとか相手に致命傷を与えないことには勝ち目はない。

―そうだ、忘れるところだった。そのターボも3分しか使えない。それを過ぎると回路が焼ききれて機体がオーバーロードしてしまう。気をつけろ。

(オーバーロード?待てよ、もしかして・・・いや・・・今は可能性を選りすぐる余裕はない。藁にもすがらせて貰うぜ。だが・・・)

「俺は、勝つ」

その言葉と共に、ウィリオは力任せにボタンを叩く。カバーがたたき割れ、ラプターはすさまじい加速をはじめた。
風となったラプターは踵を返し、ビルガーに突進していった。
敵も受け止めたが、やはりラプターのスピードは尋常ではなかった。お互い地面に勢いよく落ちた。
土煙のなか、変形したビルガーが猛進してくる。

「自らのうのうと・・・食らえ!」

ビルガーがステークを構える。だが、ラプターは身じろぎもせず、ただ突っ込んでくる。死を一切恐れないかのように。

「シュート!」

ラプターの左肩はすさまじい衝撃音とともに、砕け散り、接続部位を失った腕が地面に落ちる。しかし、ウィリオは一切動じない。

「極上の一発だ。たっぷり味わいな」

その顔は、薄ら微笑を浮かべていた。ラプターの手には、銃身が真っ赤に発光したハイパービームライフルが握られている。
ウィリオは、銃口を押し付けた。すでにエネルギーの許容量は軽く過ぎていて、いまにも暴発せんばかりである。

「じゃあな」

その瞬間、ライフルが弾け飛び、その光りはビルガーの腹を飲み込み、真っ二つに吹き飛ばした。

「な・・・・・・」

相手は唖然としている。

(ビルガーの装甲が・・・カスタムもろくにされていない試作型に、その上ライフルを暴発させ吹き飛ばすという・・・こんな、馬鹿げた戦法で・・・・・・)

「くっ、だが・・・まだ動く!」

すると、パイロットに通信が割り込んだ。

―もういいだろう、零。今は撤退するのが妥当だ。

「しかし・・・!」

零と呼ばれた男は煮え切らない態度で反論する。
しかし、そんな零の意志は、次の男の言葉にかき消される。

―これが参謀の直接の指示、と言ってもか

すると、零の唇の動きが止まる。どうやら、参謀というのはかなりの権力者であることが伺える。

「チッ・・・わかった、撤退すればいいのだろう」

零は了解し、一度撤退しようとする。そして、両断されたビルガーの上半身はラプターを向いた。すぐに、ラプターの通信回線が開く。そこには、黒い長髪の男の顔が出る。

「俺の名は聖十字軍6守護刃が一人、零だ。もう貴様は逃れられない。この運命から・・・・・・な」

そう吐き捨て、撤退していく。なんとかテスラ研は守り通せた。

「・・・・・ふぅ」

ウィリオは大きく深呼吸した。無理もない。
さっきまで最大限に張り詰めていた緊張の糸が、今、切れた。安心により気が緩み、自分の体から力が抜けていくことを、ウィリオは初めて認識した。
やっとの思いでテスラ研の格納庫に帰りついたのは、三十分ほど経った後だった。
コックピットから降りると、テスラ研の職員が一気に集まっていた。

「すげえぜ、ウィリオ!」   

「すごかったわ!ありがとう!」

「よくやった、ウィリオ」

口々に褒める。しかし、ウィリオの視界は半ば霞んでいた。
そして、ウィリオは動かない口をどうにかこうにか動かして言えた言葉はただ一つだけだった。

「ったく・・・とんだ、実践テストだ・・・・・・ぜ・・・・・・」

その言葉を言い終えると、ウィリオの体から力が抜け、ゆっくりと目を閉じる。
テスラ研専属のドクターは駆けつけて、ウィリオの状態を確かめる。

「大丈夫。ただの過労だな。まだ実戦の空気はあなどれなかったということだろう」

ドクターのその言葉を裏付けるかのように、ウィリオはかわいらしい顔をし、スースーと寝息を立てて、ようやくきた安息を、ゆっくりと味わっていた。

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