せいやんせいやん

せいやんせいやん

その5(10話)


【刻音】


ファミレスで遅い昼食を摂っていると、

カチ、カチ、カチ、……と、どこからともなく聞こえてきた。

気になる音だ。

時限爆弾でも仕掛けられているのか。

食事を中断し、テーブルや椅子の下、床、壁、天井に目をやる。

どこにもそれらしきものはない。

いつもと変わらぬ店内。

カチ、カチ、カチ、……。

ほかの客には聞こえないようだ。

おや。私はいつの間にかテーブルの上に立っていた。

いつ脱いだのか、下半身丸出しだ。

腰が左右に振れだす。

左手が水平に、右手が垂直にまっすぐ上がった。

そして、叫んだ。

「ボォーン、ボォーン、ボォーン」






42
【ものにあたる】


「うえェ~。きもちわりぃ~。飲みすぎちった。

 まっすぐに歩けませんよぉ~だ。おえ~。

 どうせオレは、三下のチンピラですよ~だ。

 おーっとっと。うわあ、あ痛たたたたあ! くぅ~、痛てえ。

 ったく! おい、このアホくずかご!

 こんなところにつったてんじゃねえ! じゃまなんだよ!

 こんちくしょう! エーイ! あ痛たたたああ。

 この、バカくずかごヤロウ!」

「うるせえ! 社会のくずのテメエよりマシだ!」






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【安倍さんと神戸さん】


長引いている会議をこっそり抜け出し、トイレに入る。

小のほうの便器の前に立ち、急いでジッパーを下げ、いちもつを出す。

ふぅ~。極楽極楽。よく出るなあ。昨夜のビールが残ってるのかな。

顔を上げる。

うっぷ! おしっこが止まった。

正面の窓に、男の顔がふたつ。

ここはビルの二十七階。窓の向こうに足場は無いはず。

「安倍です」「神戸です」

しゃべった。

『ふたり合わせて、あべこーべでーす』

あべこべ?

わっ、わあああぁぁぁ~~~落ちてゆくうぅぅぅ~~~

こんなかっこうでえぇぇぇ~~~~~。






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【相性】


うららかな春の日曜日。

自然公園のベンチに、付き合い始めたばかりのカップルがすわっていた。

遠くでウグイスが鳴いている。

「わたし、鳥って好きだなあ」

「ボクもだよ」

「じゃあ、好きな鳥の名前を同時に言いましょう」

「いいよ」

『せーの』

「コマドリ」「つくね」






45
【四角くんと三角さん】


四角くんと三角さん ある日出会って恋をした

いつでもいっしょ どこでもいっしょ

肩をよせあい なかよく歩いた

四角くんと三角さん ある日突然 けんかした

コンパスさんが やってきて

くるっとまわって まあるくおさめた

四角くんと三角さん 重なりあってお家ができた

やがて ちっちゃな 五角形

ふたりの あいだで きゃらきゃら笑った



ラーララ ラーララ ラーララ ラー

ラーララ ラーララ ラーララ ラー






46
【発明記者会見1】


江崎博士は、多くの記者を前に説明を始めた。

「みなさん。これが、今回発明した、植物意思疎通マイクです」

手にカラオケマイクのようなものを持っている。

「では、さっそく、この機能を実際にお目にかけましょう」

そう言うと親指でペチッとスイッチを入れ、

テーブルの上に用意しておいた鉢植えのヒマワリに体を向けた。

「ヒマワリさん、ヒマワリさん。自然破壊について、一言」

『ほっとけ、ドあほう!』






47
【発明記者会見2】


江崎博士は、たくさんの記者を前に説明を始めた。

「これが、今回発明した純粋肉探知機です」

テーブル上には、金属探知器のようなものがあった。

「農水省からの要請を受け、昨今のあくどい牛肉偽装に対処するために、

 緊急開発しました。

 このセンサー部をビニールパックのままの食用肉に近づけるだけで、

 純粋肉か混入肉かを瞬時に判別できます。

 従来のDNA鑑定のようなめんどうな検査がいらなくなったわけです。

 では、実際に、この機能をお目にかけましょう」

すでにテーブル上には、

ビニールパック状の食用肉がいくつか並べられていた。

博士は、機器の本体に線でつながっている細長い棒状のセンサー部を

手に取り、ペチッとスイッチを入れた。

すると、

ピロンピロンピロンピロン……。

おかしいぞ。食用肉に近づけていないのに鳴っている。

センサー部の間近には──

「いや~ん」

隣の女性助手が、両手で胸をおさえた。






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【自動販売機1】


いつもいく公園の駐車場に、見慣れぬ自販機があった。

押しボタンに表示された文字を見ると、

『まだ』『ブス』『おもいやり』とあった。

な、なんだあ!?

百二十円を投入し、三つ同時に押してみる。

「ぐぇえ!」

槍が十数本飛び出してきて腹に刺さった。

そして、倒れて覆いかぶさってきた。

「う、ううううう……。お、重い、……そ、そうか……

 『おもいやり・ブス・まだ』──つまり、重い槍衾だ、か……うっ」






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【自然破壊】


海と陸がけんかした。

海:「このツンツルあたまのハゲやろう!」

陸:「うるせえ、このゲロやろう!」

そこへ、空が仲裁に入った。

空:「きみたち、けんかはやめろ」

海と陸は上を見、そろって言った。

海・陸:「黙ってろ、この毒ガスやろう!」







50
【自動販売機2】


加奈子は美人だ。自他共に認める。スタイルもいい。

そんな彼女にもコンプレックスがある。

それは、声だ。だみ声なのだ。

ある日、コンビニの前の真新しい自販機に目がすいこまれた。

新発売飲料『うぐいす』──濁りを取り、さわやかな声に!

ほんとかなあ。飲んでみましょう。

コインをいれ、その缶飲料水を買って、飲んだ。

「あーあー。あいうえおー。かきくけこー。ちっとも変わらないわ」

だみ声のままだ。

「なによこれえ。たまされたあ。ひゃくにしゅう円、返せえ!」

あらっ?

「へんたわ。とうなってるのお?」

以来、濁音が清音になってしまう。





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