純粋な心



以前、私が電車通勤をしていた頃の話。

私が乗る電車はいつも、ぎゅうぎゅう詰めではないものの、座る事は絶対無理な状態でした。
その電車で時々出会う男の子がいました。世間では「知恵遅れ」と呼ばれているような子で、年は中学生位だったと思います。
彼は、電車に乗ると歌ったり踊ったり車掌さんの真似をしたり。。。とちょっと変わった行動をする子ではありましたが、不思議と嫌な思いはしませんでした。
むしろ、彼に会えるとその日一日楽しい気分で過ごせたものでした。

ある日、低血圧の私は朝から具合が悪く、電車の中で貧血を起こしてしまいました。
目の前にチカチカと星が散らばり、すれ違う黄色い電車がピンクに見え。。。目の前が真っ暗に。。。とうとうしゃがみこんでしまいました。

周りには大人が沢山乗っているのに、誰一人声をかけてくれる人はいませんでした。

「社会はなんて冷たいのだろう」

そう思っていると、耳のそばで

「だいじょぉぶ~?だいじょぉぶ~?」

と、誰かが声をかけて来てくれました。
私は、顔を上げることも返事をする事も出来ない状態でしたが、その声の主が例の男の子だとわかりました。

「あ~、なんて優しい子なんだろう。それに比べて他の大人たちは!!!」

などと思いながら到着駅まで頑張りました。
その間中、ずっと彼は踊りながら

「だいじょぉぶ~?だいじょぉぶ~?」

と、声をかけつづけてくれていました。
どうしても、お礼が言いたかったのですが、駅に着くと同時に私の事はすっかり忘れてしまったのか、歌って踊りながら改札口まで走って行ってしまいました。

私は倒れこむ様にホームへ降りて、数10分座りこんでなんとか歩けるようになりました。
その間にも、駅員すら声をかけてはくれませんでした。

あの日以来、不思議と彼と会う事はなくお礼も言えないまま現在に至っています。
しかし、どうしてもあの日の事が忘れられません。
どんなに奇怪な行動をしていても、あの純粋な心に触れられた事は少なからず、今の私に影響を与えています。

何故、大人はあの様な純粋な心を無くしてしまうのでしょうか。。。


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