時の旅人

時の旅人

その13


「こんにちは」照れ隠しに少年に声を掛けた。
「こんにちは」彼も挨拶を返してきた。
「あの、・・・お兄さん、どうして天神さん(天神社の愛称)の写真なんか撮るんですか?」彼は遠慮がちに尋ねてきた。
「お兄さんねえ、昔この近くに住んでいたんだ。懐かしくって、記念にさ」僕は苦笑しながら答えた。
「そうなの?いつ頃ですか、住んでたの?」
「二十年も前だよ」
「えーっ、そんなに?」少年が驚く。意外と人懐こい彼と少し話をしてみたくなった。境内地の中にある小さな遊園地で、僕らは錆び付いたブランコに腰かけた。
「君は何年生だい?」
「四年生です。あの・・・」
「ああ、お兄さんは今は秋田県に住んでる。三十歳で独身」子供相手につい余計なことを言ったが、彼が笑みを浮かべる。
「秋田に?僕のお父さんも秋田に居て、もうすぐ僕を迎えに来るんだよ」少年は瞳を輝かせていたが、僕は唖然とするばかりだ。まるで、過去の自分じゃないか。「今、お父さんがくるって言ったね」
「うん。あの、離婚して、僕いまはお母さんと住んでるんだ」彼は答えた。この年で離婚と言う言葉を口に出してしまうとは。それに自分と環境が酷似しているのには驚いてしまう。
「僕、秋田に行くと帰ってくるのが嫌だなあ。こっちにも友達たくさんいるのに」少年は続けた。よその家にいるような感じがするから、日曜日は家に居たくない。だから普段から日中は一人でどこへでもいってしまうのだという。
 僕もそうだった。日曜日には天気が悪くない限り自転車に乗って一日中外出した。学校からは一人での出入りが禁止されていた広小路の大型スーパーにも構わず出かけて行った。小遣い銭がないときは立ち読みだけして帰ってきたこともある。時として同級生が家族と一緒に歩いている様子を見掛けることもあった。特に父親と一緒だったりする姿を見ると気持ちが沈んだ。

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: