球根

あお



 青は、色んな顔を持っている。深い青、透明な青、鮮やかな青、濃い、淡い、煙ったような、やわらかな、目の醒めるような……。この表情豊かな形容にふさわしいのは青のほかにない。赤や黄色や緑では、こんなに生き生きしない。きっと青じゃなければ出せない。青にしかできない繊細さだ。瑞々しさはたくさんのイメージを連れてくる。たった一人の孤独に耐えるための圧倒的な絶望感や、自分が溶けてなくなってしまいそうな心地よさや、胸に突き刺さる強すぎた想いの切なさを。青は黙ってそこにいるだけで、きっと歌を聴かせてくれる。
 いちばん胸に迫ってくるのは、空の青。快晴の、秋の朝の、空の青。海の深さよりも空の高さのほうが遠いから。海面から底へと溜まってゆく重たい水の色よりも、水平線から大気圏までカーンと突き抜ける青の軽さが余計にしみる。その日たまたま見上げた空は、もしかしたら二度と現れないかもしれない儚さで私たちを包み込んでいる。あまりにも当たり前な存在が、痛いくらい自分を見つめていることを思い出させられる瞬間だ。頬や、腿や、胸や、肩や……どこか身体の中の柔らかくていつも守られている肌を、きらきら光るナイフでさっ、と切り付けられる。その浅い傷の裂け目から見えているのは、どろっ、とした赤黒い粘液なんかじゃあなくて、さらさらした水より淡い空の色に違いない。透き通って透き通って自分の姿さえ判らなくなりそうなくらい清んだ、青。身体の中にしみ込んでいても気付かない。ほんの少しだけしか、青くないから。それでもまだ、空は青であろうとする。己の最後の存在証明をかけて、青。ただ、青。ささやかな祈りを込めた私たちの声が、ちゃんと天に聞こえるように。

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: