「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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-蒼き氷の女神- 三章
『蒼き石の物語外伝』-蒼き氷の女神-
三章
蒼き氷の女神 11『真名追う者の叫び』
「待ちなさい」
あたしが陣営からブリッチヘッドに向かう街道の途中。
そこに、一人の魔術師が・・・・ヘディンさんは立ち塞がっていた。
「どいて」
「お断りします」
間髪いれず、彼は否定の言葉を放つ。
彼の表情は、相変わらず読めない。
だが、その言葉から強硬な意思が読み取れる。
「あたし、行かないといけないんだ」
まるで感情が篭っていないのを自覚する。
「どいて」
貴方は敵じゃないんだから・・・
「貴女は何をしたいのですか?」
静かに、だが沈黙を許さぬ強い言葉が放たれる。
質問してくるのは、ずるいな。
だけど、いいよ。答えてあげる。
「貴方が考えている可能性。全部」
「・・・・・・・」
彼はその言葉に押し黙る。だが、その目には何かを覚悟する力がある。
「今の貴方は非常に、危険です」
危険・・・その通りだ。
今、あたしが歩いてきた道を見れば分かる。
氷
そう、道どころか、あたしが歩いてきた場所全ての物が凍りついている。
草も、木も、空気さえも。
『纏ウ零ノ鎧』
それは師匠から教えられた魔術の中でも禁忌中の禁忌。
誰一人扱う事を不可能とされ、高弟の中でなぜか継承を認められたあたしにだけ教えられた秘術。
過去から未来に伝える事だけを望まれた術。使うことを禁止されていた術。
身に強力すぎる魔術の氷風を纏わせ、歩くだけで、動くだけで全てを凍らせる。
そして、恐ろしいのは周囲全ての氷霊を容赦なく服従させる力。
普通魔術師は元素の霊に協力してもらって魔術を使う。
でも、この魔術は協力なんて生易しいものじゃない。
文字通りの服従だ。それも絶対の。
けど、この魔術が禁忌とされた何よりの理由はそんなものじゃない。
「貴女の感情が、全く見えません」
元素の霊はひとつひとつに意思がある。感情がある。
そして協力してもらう魔術はその霊一つ一つに呼びかけ、発動する。
だけど、それがもし強制的な服従であるならば・・・?
普通の人間じゃ、目に見えぬ元素の力で一瞬にして精神を破壊されるだろう。
ならばどうすればいい?
簡単だ。
元から壊される感情を消せばいい。もしくは壊れていればいい。
感情を完全に排し、ただただ目的のために突き進む殺戮人形になること。
それこそが、第一位から五位まである魔術の範疇から逸脱した第零位の魔術、禁忌。
そして禁忌を使った者が持つ目的は・・・集め続け、膨れ上がった霊たちによる大規模破壊。
でもね、そんなのどうだっていいの。
「だから、何?」
ヘディンさんは無表情のまま、答える。
「貴女はきっと、後悔します」
「うん。だから?」
「・・・・っく」
投げられる言葉のボールをあたしはすぐに溶け去る雪球で投げ返す。
しばしの沈黙。
そして、その僅かの時間で、彼は説得を諦めたようだ。
でもあたしには関係ない。あたしはただ前に進むだけ。
再び歩み始めるあたしに、彼は呟いた。
「貴女は、優しい人だ」
あたしはそこで止まる。
「この二ヶ月。私は貴女を見ていてそう感じました。どんな時でも周囲を思いやる強い心を持っている。あの時、切水草の件でも私を案じてくれたでしょう」
彼からそんな言葉が出てくるとは思わなかった。
だけど、心に響かない。そんなもの、とっくに凍り付いてるからだ。
「だからこそ、貴女はこれほどの魔術を操って壊れないというのは分かります・・・ですが!!」
ヘディンさんの周囲に、氷の精霊の気配が現れる。
「そんな事、誰も望みません!!」
そっか。
あたしは黙り込む。
一瞬へディンさんへの気が緩んだが、次の瞬間、あたしは黙ったまま・・・また歩き出す。
それを見た彼は悔しそうな顔をする。
「説得は・・・無理なのですね」
悲しげに、彼は首を振る。
しかしそれで諦めがついたのか、彼はついにあたしと対峙した。
それは魔術の気配。
彼の右腕に氷霊が絡み付いているのが『視える』。
今、この状態になって初めてわかったが、彼は本当に強い。
絡みつく氷霊たちの涼しげな声はどんどん増え、その量は見たこともないような強さとなっていく。
普段のあたしならば、なす術もなく打ち倒されるであろう力を彼はやすやすと操ってみせた。
だけど、今のあたしは倒されるわけにはいかないのだ。
だから
あたしはそれらに命令した。
『壊れてしまえ』、と。
変化はすぐだった。
ヘディンさんの扱う氷霊たちが『壊れた』。
それは文字通りの崩壊。つまりは暴走。
彼が使おうとした魔術が彼の意思で発動する前におかしな形で暴走した。
そうなればどうなるか?
「な!? ぐああああああああああ!?」
彼自身が、その身に自分の魔術を受けることになる。
あたしの目の前で、彼は一瞬にして右手を中心に右半身が凍りつき始めた。
「がぁあああ!?」
彼には何が起こったかわからないだろう。
当然だ。
自分の手足のように氷霊を操って見せた彼が、従順なはずの氷霊に牙を剥かれたのだから。
すぐに彼はその場から離れ、体を伏せる。
いい判断だ。暴走したのはあくまで右腕に集まった氷霊だけ。暴走している氷霊たちに、ヘディンさんについていくという意思など、もうない。
ヘディンさんが飛びのいた場所は一瞬にして巨大な氷塊が作り上げられた。
あたしはゆっくりとその氷塊の元へ歩いていく。
そしてそれにゆっくりと右手を添える。
次にあたしが命令したのは単純なものだった。
『消えろ』
その瞬間、氷塊から氷霊たちの気配が消え、塊は一息つく前に崩れ去った。
いや、文字通り消えたのだ。あとかたもなく。
信じられないような物を見る目であたしを見るヘディンさん。
だが、それでも彼の目から戦意は消えていない。
まだ右腕は氷によって動かないはずなのに、彼は立ち上がった。
そしてなお彼に集まる氷霊は、先ほどとは異なり彼の周囲に集まる。
どうやら接近戦は諦めたようだ。
今ここで彼の氷霊を『壊して』も意味はない。
だからあたしは待つ。彼が動くのを。
時間はそうかからなかった。
すぐに、あたしの目の前に先端を削られた氷塊が現れたからだ。
ヘディンさんの『ダイヤモンドカノン』
ハノブで襲ってきた奴に向けて打ち出したヘディンさんの魔術があたしに向かって飛んでくる。
だけど、無駄。
刺し貫かないように、という心遣いはうれしいけれど、初めから意味がない。
壊す命令をするまでもなく、あたしはただ前に出るだけで、その氷塊はあっという間に地面から現れた氷に取り込まれてしまう。
あたしを覆う氷霊たちが彼の氷霊をのみこんだからだ。
それを見て、彼の目に悔しげな物が浮かぶ。
『纏ウ零ノ鎧』は、氷系魔術師にとって最も最悪の術と言ってもいい。
この魔術は、従える氷霊を服従させ限界まで力を解放させる。
つまりはどんな氷霊であろうともその力を限界まで無理矢理引き出されている。
彼がいかに氷の魔術を極めようと、これを破るには全く逆の炎系魔術でもなければ無理だ。
だけど、彼が今まで炎の魔術を使うところを見たことがない。
おそらくあれだけの氷霊を扱うために、彼は炎の魔術を封印しているのではないだろうか。
でも、もし炎の魔術を使えたとしても・・・
彼の目は、それでも戦意を失わない。
普段なら心が痛むような目だ。
だからあたしは目を閉じて、少しだけ周囲で踊る冷気を弱めた。
その様子を怪しげに睨むヘディンさん。
「ごめんなさい」
その言葉が終わった瞬間に、ヘディンさんの両足は凍りついた。
凍りついた瞬間に、無数の小さな氷塊が彼の目の前に現れ容赦なく彼の全身へ打ち込まれた。
「が・・・は・・・」
それは、ほんのまなたき一つも必要ないくらいに起きた出来事だった。
あまりにもあっけない終わり。
そう、あたしはいつでも彼を殺すことが出来た。
今までそうしなかったのは・・・・心のどこかで・・・止めてもらいたかったのかもしれない。
でも、そんなあたしの考えとは裏腹に、倒れるヘディンさんの下へゆっくりと歩いていった。
「・・・ちぇるしー・・・さん・・・行っては・・・いけない・・・!!」
小さな小さな呟きは、あたしの心を打とうとした。
だから
あたしは彼の胸を全力で蹴りあげる。
大した力もないはずのあたしだけど、感情が消えつつある今、肉体の限界を越えた力なんていくらでも出せる。
ヘディンさんを蹴り上げた足に嫌な感触。どうやら彼の肋骨をいくつか折ってしまったようだ。
だけど、そんなのはどうでもいい。
「ごめんね、ヘディンさん。でも、そのまま転がってくれていた殺さずに済むから」
あたしの心がまだ残っているうちに、あたしは彼を逃がしたかった。
どうやら意識を失ってしまった彼を尻目に、あたしは歩を進める。
あたしは進む。前へ、前へ。
その前に、後ろに、空虚な死だけがあったとしても、今のあたしに届く物はなかった。
蒼き氷の女神 12 『シティシーフの終末』
ここにあるのは静かな死の宴。
そこで奏でられるは死の旋律。
右手を動かせば死の氷柱が何かを貫き。
左手を振るえば死の冷雪が何かを凍らせる。
一歩進めば周囲は凍てつき、跡に残るは死の道のみ。
戦の舞台となるブリッチヘッドは今、たった一人が起こす死の雪風により、徐々に、だが確実に凍りつきつつあった。
幸運な事に、街はすでにシーフたちだけしか残っていなかった。
戦いの前線となる場所に一般人が残っていること自体、そうそうあるはずがない。
よかった、と言う思いはない。
いや、考えること事態は行っていたが、それについて何の感慨もない。
あたしの意思はもう凍り付いている。
今、あたしはただの機械。自動人形(オートマータ)。
・・・後、何人殺せばいいのかな・・・
すでに、あたしの腕は、足は、体は見えない死であふれかえっていた。
街に入った時、街中の池を通るとき、倉庫を通るとき。
覚えている。
もう、100や200じゃきかない。
僅かの時間に、あたしはこの手で、多くの命を踏み潰した。
たくさんの人の命が散っていった。
仲間を殺され、怒りで襲い掛かる者がいた。
友の為に、友情のために戦う者がいた。
助けを請う者がいた。許しを請う者がいた。
何かの為に戦う者がいた。
諦める者がいた。死の前に狂い出す者もいた。
殺した。殺しつくした。何もかも、何もかも。
あたしを包む氷は消していった。
命を、心を、魂を、怒りも、悲しみも、喜びも、希望も、絶望も。
全て、全て全て全てだ。
だけどあたしの心は震えない。
だけどあたしは止まらない。
そして、今。
あたしは、シティシーフが本拠地としているシーフギルド倉庫の中で立っていた。
あたしの目の前には一人の男が立ち塞がっていた。背中に傷つき、動けない仲間たちを守る形で。
「・・・私の家族の仇・・・討たせてもらう」
細い細いレイピアを右手に、壮年の男はゆっくりと剣を構える。
強い。
冷静に男の放つ威圧と力強い構えからそれを悟る。
静かなこの場所で、彼はまるでひとつの芸術品のように美しい型を維持しつつ、あたしの命を絶つためにあらゆる手段を考えているのだろう。
だけど、それを待ってあげる謂れはない。
あたしは命じる。
穿て、と。
その命令だけで氷霊は氷の杭をいくつも創り上げ、男へ放たれる。
だが、その攻撃を彼は体捌きと細いとも思えるレイピアでいなしていく。
早い。
その動きは止まることなく、そしてあたしも止まることがなく。
それは一つの舞踏のように。
男が舞い、あたしが奏でる。
だけどそれは決して美しいだけの舞ではない。
命と命がぶつかり合う、死と死が向かいあう葬送の舞。
だが、その舞も少しずつあたしが押されるという形で終わりに向かっていく。
あたしは氷霊たちに命じる。凍らせろ、と。
命令は即座に履行された。
一瞬。そう一瞬だけ男の舞が止まる。
見逃す手はない。あたしは氷塊を作り、それを彼に向かって打ち出した。
重く、重量のある氷塊。普通なら当たるだけで即死。だが、彼は諦めていなかった。
彼は腰から何か黒い物体を取り出し、己に迫る氷塊に投げつける。
爆音が鳴り響いた。
耳に残るその重音はあたしの脳を直撃する。
ぐ・・・・
意識を失わなかったのは、ある意味奇跡だ。
どんよりとした頭痛に、しかしあたしは眉もひそめない。
どこだ。
彼のおこした爆発は、彼を助け出すだけではなく煙のように姿さえも失わせた。
意識を集中させろ。
敵は、どこだ。
その答えはすぐに返ってきた。
音。すさまじいまでの速度が起こす音が、かすかにあたしの耳をかする。
そして彼は現れた。
場所はすぐ目の前。
常に氷霊が舞い踊っているあたしの傍へ来るだけで、その身は氷つくほどの冷気を受けるというのにそれを気にしている様子はない。
そして一瞬の交差。
刹那の瞬間で、彼はあたしを通り過ぎ距離をとった。
そしてあたしの首から血が噴き出した。
致命傷だ。
誰が見てもそうとしか言えない様な傷だ。
男もそれで勝利を確信しただろう。
だが
次の瞬間には、男の顔に恐れの色がありありと浮かぶ。
「馬鹿な!?」
血が止まったのだ。
いや、止めたのだ。
氷によって。
あたしの首の傷は、血が吹き上げた瞬間に凍りついた。
普通、これほどの傷であればすぐに血を流しつくして死に至るだろう。
ならばどうするか?
凍らせればいい。
血管が切られたならば、凍らせて血を押さえ込めばいい。
今のあたしは神経の一つ一つまで自由に操ることが出来る。
普通の人間ならば、その考えに至る前に焦りが判断を鈍らせるだろう。
だけど、今のあたしにはこの致命傷ですら焦りという感情を浮かばせることは出来ない。
そして、どんな細かい作業でも、止血さえも氷霊を介して行うことが出来る。
『纏ウ零ノ鎧』
この術を行使するということ。その真髄はまさにここにあった。
あたしの身は、思考は、すでに人間とはかけ離れた存在となっていたのだ。
逆に言えば、そんな身でもなければ数百を越すシティシーフを相手に出来るはずがない。
そして、改めて男は思っただろう。
今、目の前にいるのが考えている以上の化け物であったということが。
あたしの前に、全身の至る所を氷柱に貫かれた男が倒れることも許されず、氷柱に支えられ立っていた。
息はすでに、ない。
空ろに浮かぶその瞳にあるのは、哀。
彼はどれほど悔しかったのだろうか?
彼は、家族の仇を討つために戦うと言った。
・・・あたしと同じ・・・
そう思う思考は、だけど体は従わない。
あたしは、男の命をただ機械的に摘み取った。
・・・悔しかったのかな・・・
だけど、あたしは動きを止めなかった。自動人形は、ただ動くだけ。
あたしはギルドの長だった者に背を向け、歩き出す。
まだ生残っている者たちを、全て眠らせるために。
・・・・・物言わぬ骸を・・・・氷がゆっくりと閉ざしていく。
蒼き氷の女神 13『手品師は躍らせる』
「・・・行かれるのですね・・・」
「ああ、行く」
そこに、一人の女性と一人の男が立っていた。
一人は紅い法衣を着た女性神官。
もう一人は、黒い黒衣と鎧を着込んだ巨漢。
「・・・」
彼らは、ブリッチヘッドにほど近い丘に立っていた。
「あの方を、どうするおつもりですか?」
「止める」
彼はそう言うと、ゆっくりと街に向かって歩き出した。
それを見送る女性の眼には・・・信頼があった。
「この戦いが、気に入らないのですね?」
「ああ」
止まることがないその歩みはしっかりと、だが確実に街への距離を縮めていく。
彼女は沈黙し、ただただその背中を見守っているだけだった。
どれくらいの時間が経っただろうか。
どれくらいの命が消えただろうか。
今、ここには目的を失った人形がいた。
すでに、街中に人影はない。
終わり。
そう、全て終わった。
今、目の前に写る景色は、ひどく・・・ひどく悲しい物だった。
多くの者が、氷に閉ざされていた。
すでに、あたしの目的は達してしまっていた。
もう、これ以上壊す物はない。
もう、これ以上殺す者はない。
今、あたしはそこに在るだけだった。糸切れた操り人形だった。
だが、そこにいるだけで何かを傷つける人形なんて、あのシーフたち以下だ。
でも、そのシーフたちもすでに息絶えてそこら中に転がっている。
そういえば、あたしはどうしてここにいるのだろう?
どうして、あたしはこんな事をしたんだろう。
ああ・・・寒いな・・・寒いよ・・・・
だんだんと頭にもやが掛かってきた。
霞のように振り払うことの出来ないそのもやはだんだんとあたしの中を蝕んでいく。
分かる。
もう、あたしは長くない。
もうすぐ暴走した氷霊たちはあたしに襲い掛かり、服従させた代償としてあたしの身を壊し、従えた氷霊の数だけこの街を蝕み、氷が閉ざすだろう。
いや、もしかしたらそれだけですまないかもしれない。
ここまで多くの氷霊を従えてしまったのだ。その氷霊たちがいつまでもこの地に留まり、永遠に氷と吹雪に閉ざされた不毛の地になってしまうかもしれない。
それは・・・駄目。
薄れていこうとした意識が、凍りついていたはずの心が、動く。
何がそうさせるか分からない。だけど、それだけは駄目だと何かが叫ぶ。
あたしは・・・
すでに目的がないはずの人形は、ゆっくりと動き始めた。
向かう先にあるのは・・・海だった。
「追いつきましたよ」
その声はあたしの背後から飛んできた。
ヘディンさんの声だ。
振り向いたあたしに、ある意味予測していない人物たちが写った。
「まったくもって・・・すさまじい物ですな」
葉巻を咥えた『手品師』ヴェド・サウルスミスであった。
今あたしたちは海に近い港の埠頭で対峙していた。
「これほど鮮やかな腕前を持つ方だとは、失礼ですが初めてお会いした時には全く持って思いもしていませんでした」
手品師はそう言いつつも、葉巻を吸う事に余念がなく、その周辺には紫煙が立ち込めていた。
そして・・・
「どうして来たの?」
あたしはそれだけを言う。いや、これしか言えないのだ。
色々と聞きたい事があるが、どんな言葉も最終的にはこの疑問だけになってしまう為に、これ以上の言葉を必要なしと思ってしまう。
今のあたしはすでに身体と心が別々に分かれてしまっている状態だ。
その心さえも、すでに氷つきはじめて久しい。
「・・・私にも、分かりません。ただ」
彼の身の回りに風の精霊たちが集まり始める。
いい判断だ。また氷霊を出せば、あたしはすぐにそれを壊し、ヘディンさんを壊していた。
そして、風の精霊たちが彼の周りを踊り、あたしの氷霊たちが近づけない。
「これ以上、貴女に誰かを傷つけて欲しくないからです」
ヘディンさんはそういうと、静かに構えた。
あたしが蹴り折ったはずの骨はすでに完治しているようだ。おそらくあの紅い神官のおかげだろう。
そして、構えたということは、あたしをどうにかするということだろう。
「もう、手加減できないよ?」
海へ行く、海でこの氷霊たちを暴走させ、少しでも街の被害を抑えるという目的を持ってしまったあたしは、それを阻止する彼らへ容赦なく攻撃するだろう。
今、この言葉を言ったのは警告のためだった。
だが、それでも彼らに引く様子はない。
「分かっています。そして、貴女が異常とも言うべき怒れる氷霊をどこかへ連れていくことも」
氷の魔術師である彼にも見えているのだろう。
あたしの周りで踊り狂っている、数百、数千、数万とも見える氷霊たちが。
その結末さえも分かっていて、尚あたしの前に立ち塞がってくれる意味をあたしは理解する。
「じゃあ、逃げて」
「お断りします」
ヘディンさんは即答する。
ヴェドさんにも目を向けるが、彼は相変わらず紫煙をくゆらせるだけで引く気はないようだった。
「・・・・・・そう」
呟きと共に、あたしは彼らに向けて攻撃することを氷霊に命じた。
攻防は意外な事に一進一退の接戦となっていた。
ヘディンさんが守り担当し、あの中年紳士、ヴェド・サウルスミスが炎の魔術で攻撃をした。
あたしが氷槍を作れば、ヘイストによって爆発的に速度を高めた拳でヘディンさんがそれらを叩き落とし、時には避ける。
あたしが風雪を生み出せば、ヴェドさんのファイヤーストームがそれらは無効化した。
そして、その隙を突いて、ヴェドさんは次々と炎の一撃を食らわせてきた。
だが、常に氷霊に守られている・・・いや、既に氷霊に喰われつつある体は、それらを通すことを許しはしない。
例え炎の直撃を食らう事になっても、それらはあたしに火傷を負わせることも出来ない。
そう、『纏ウ零ノ鎧』に付随する機能として、魔術・・・少なくとも火、水、風、地、闇、光の攻撃をほぼ一通さないというものがある。
感情を凍らせ、常に冷静な対処を行い、その上攻撃も守りも万能な術。
師が何故禁忌を使うべからずとだけ説いてこの魔術を未来のためと受け継がせたのか。
あまりにも優秀すぎる術であったからだ。
そして何より、将来この術を改良し、何かに役立てる事が出来るかもしれないというその期待から。
だけど、その期待もあたしは踏みにじる。
だんだんと、彼らと私の攻撃は、ひとつの舞踏となる。
氷が、風が、炎が。
貫く、舞う、崩す。
いつまでも切がない。
なら。
あたしは攻撃を止めた。
その隙を突こうとは、彼らも考えなかったようだ。
どう考えてもこれは誘い。
だけどね。
「・・・しまった!?」
ヘディンさんはその隙の意味が分かったようだ。
それはそうだろう。
これは、彼の技なのだから。
「これ・・・・『シルバーインパクト』、って言ったよね?」
言葉を言い放った瞬間に、あたしを中心に荒々しい氷の大地がせりあがった。
ハノブで見たときは、床に厚い氷の膜を張り、敵を転ばせるために使っていた。
だけど、今あたしが即興で作らせた氷の大地はそんなあまいものではない。
氷の大地に、氷柱が突き出す。
人の死角となる場所は大きく分けて3つ。
真上、背中、そして。
「っぐ!?」
ヘディンさんの太ももが氷柱に削られる。
そう、真下だ。
彼は次々に現れる氷柱に次々と身を削られていく。
そして倒れるヘディンさん。
だが。
「ふむ・・・」
ヴェドさんはそう呟くだけで動くことはなかった。
何故なら彼の周りだけ炎の精霊が舞っていたからだ。
炎は氷を溶かす。当然の結果だ。
だけど、その姿にあたしは違和感を感じた。
「・・・なんで?」
何故、ヘディンさんを守らない?
それは本当に直感だった。
さっきまであたしと彼らが互角に戦えたのは、ヘディンさんとヴェドさんが連携していたからだ。
だけど、彼はそれを放棄した。
確かにあたしの攻撃を予想できなかったというのはあるかもしれない・・・
いや、違う。
予想できなければ、何故死角からの攻撃を防げる?
あたしは困惑する。感情なき理性だからこそ、全く意図が読めず混乱する。
それはいつ火をつけたか分からなかったあの時とよく似ている。
気にしなければ、全く気付かない動作。
「ヴェドには、ある二つ名があります」
ヘディンさんは言っていた。
彼の二つ名を。
「『手品師』・・・ジャグラーという意味での手品師です」
・・・手品師・・・・
なにか、なにか見落としていないか・・・?
そう思った時だった。
あたしは、片膝を屈した。
蒼き氷の女神 14『立ち上がる者』
「ええ。是非お願いします」
その言葉に、あたしは絶句する。
「・・・何を・・・・言っている?」
ヴェドはあたしの眼をまっすぐに見て、言葉を紡ぐ。
その言葉で紡がれた物は、『絶望』
「簡単な事です」
ヴェドはそう言うと、吸い終わった煙草を放り投げた。それは、すぐに彼の炎で焼き尽くされた。
あたりには炎と氷の精霊が入り乱れている。
常人であれば、そこにいるだけで炎に焼き尽くされるか、暴走した氷霊に包まれて命を奪われるだろう。
だが、そんな中を彼は全く意に介した様子もなく近づいてくる。
その手にあるのは、6本のナイフ。
「私としては、この街が滅びてもらった方が色々面倒がなくてよいのですよ」
ニコリと、その顔に貼り付けたような笑顔が浮かんだ。
その顔には感情が何一つ伴っていない。
不気味とか、そんなものよりもまず不安が襲ってくるような、そんな笑顔。
「それに、丁度いいではないですか」
彼は一歩こちらへ進む。
「弟妹をこの街のシーフに殺されたのでしょう?」
その言葉があたしを貫く。
「復讐を終えた今、すぐに彼らの後を追うべきではないですか?」
辛辣すぎる皮肉。
そう思った次の瞬間。彼のナイフがあたしに向けて放たれた。
そのナイフの意味はすなわち死。
先ほどまでならば、氷霊に命令して防ぐこともできただろう。
だが、その氷霊は今にも暴走してあたしに襲い掛かろうとしている。
手立てが・・・ない。
だけど、これも似合いの結末かもしれない・・・・
多くのシティシーフをこの手にかけた、罪なのかもしれない。
例え、彼らが多くの命を奪ったとしても、それは一重に自らの立場を立証しようとした結果だ。
だが、彼らはあたしの個人の恨みで理不尽な死を迎えた。
不本意な死に相対し、あたしは思う。
あたしは、罪人だ。
ただただ己の不幸に耐えられず、圧倒的な力を持って彼らの命を奪い去った。
そんな女の最後なんて、こんなものなのかもしれない。
眼を閉じ、あたしは諦めた。
もう・・・いいや、と。
考えるのも疲れた。
だが、死はいつまで経ってもこなかった。
それをいぶかしく思い、あたしは目を開ける。
そこに、立っていたのは・・・
「へ・・・ディンさん・・・?」
そう、『真名の探索者』が、目の前に立っていた。
さきほど、あたしが与えたダメージそのままに、全身から血を流し痛い痛しい姿のままに。彼は。
その血まみれの腕に、足に、全身で。
ヴェドの投げた6本のナイフを自ら犠牲にして防いでいた。
「どうして・・・・どうして!?」
だが、彼はあたしに振り向いてくれない。
涙が出てくる。
彼が、何故そこまでの傷を負ってでもあたしの前に立ってくれていたのか。
分からない。全然分からない。
思えば彼はどこまでもあたしを守ろうとしてくれた。
ハノブでも、フンド川の街道でも。
そして暴走したあたし自身から、あたしを・・・
「どうして・・・・」
だが、彼はそれでも振り向かない。
ただただ、目の前にいるヴェドを睨みつける。
「ヴェド」
ヘディンさんは今まで聞いたことのないような凄みのある声でヴェド・サウルスミスに問いかける。
「貴様。この件に何か関わっているな」
その言葉の意味を、あたしは理解できない。
彼は何を言っている?
困惑し、混乱する。
その衝撃は先ほどのヴェドの奇言よりも、強い。
「ふふ・・・さすがは『真名の探索者』。本質をよく見抜いている」
ヴェドはさも嬉しそうにヘディンさんを見る。
「当然だ。さっきちぇるさんも言っていたように・・・殺すならば、あの時彼女を見逃していた方が得策だったはず」
呟くような小さく、だが強い声。
「だが、お前はブリッチヘッドの滅びを望んでいた」
その声はだんだんと強く、大きくなっていく。
「何が・・・何が目的だ・・・ヴェド!!」
声はそのまま威圧となり、圧力となる。
普段のあたしがもしこの威圧を正面から受けたら、おそらく心も体も竦みあがっていただろう。
それほどまでに目の前のヘディンさんから放たれる威圧・・・いや、すでに殺気は凄まじいものだった。
「さぁ?」
だが、ヴェドはその殺気さえ何事もないように受け流す。
この手品師は、どこまでも、どこまでも人を翻弄する。
怒りも哀しみも、誠実さえも。
その言葉にヘディンさんは何かを諦めたように口を閉じる。
だが、その目に現れるのは諦めではない。
「ちぇるしーさん。まだ、耐えられますか?」
彼はあたしに小さな声で言う。
「・・・長くは、ないね」
とっくに、『纏ウ零ノ鎧』は、あたしの手を離れていた。
その証拠に、先ほどまでほとんどなかった全身の傷という傷から血が流れ出していた。
シティシーフの長から受けた最も深い致命傷である首の傷は、なんとか操れている氷霊で押さえ込んであるけれど、それも長くはもたないと思う。
何よりもナイフに塗られた毒が、体の自由を奪っている。
そして、暴走する数万の氷霊は今にも暴走せんとあたしの周りで蠢き続けている。
そうですか、というヘディンさんの言葉が聞こえた・・・と思う。
彼はまた、目の前にいる『敵』を見ていた。
「あくまで、彼女を殺すいうならば・・・」
ヘディンさんの周りに氷霊と風霊が現れたのを感じた。
「ヴェド・・・例え貴様でも、私は躊躇しない」
続く
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