「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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†World of Azure†
喫茶店『黎明の空』
「大変だっ!また一人殺されたぞっ!!」
『黎明の空』。店員らしき二人が骨董品を磨いている所に男が飛び込んでくる。
「今度は何処が切り取られてるんだ?」
煙草を銜えながら壷を磨いていた男が紫水晶色の瞳を向けると、
「顔の皮膚だ。それもかなり綺麗に剥ぎ取られてた」
飛び込んできた男がカウンターの席に座りながら顔をしかめる。
「手首、腕、腹部、爪、脚、胸部、頭…それで今回は顔の皮。犯人は何が目的なのかな?」
骨董品の人形の髪を梳かしながら少女が言うと、男は少し考え込む。
「カムイはどう思う?」
暫く考えた後、男は顔を上げてカウンターの中に座る黄金色の髪の男に意見を求めた。
「人形を作るコト…か?」
“カムイ”と呼ばれた男は手を止め、灰を落としながら言う。
「人形?」
意見を求めた男は眉を顰めて、カムイの言葉を繰り返す。
「人間を使った人形…ですか?」
「自分の気に入ったパーツを集めて繋ぎ合わせる。全部集めれば自分だけの人形の完成だ」
持っていた人形を元の位置に戻しながら少女が視線を向けると、カムイは頷いて煙草を銜え直し、それを唇に挟んだまま煙を吐き出し、言う。
「それって…先生が持っている『フランケンシュタイン』って本のお話みたいですね」
「あぁ…アレは死体で作ったっつー話だがな。…それにしても、ヒサギはあの本怖くなかったのか?」
少女が首を傾げると、カムイは言ってから視線を上げた。
「面白かったですよ。普段見えてるモノの方がよっぽど怖いです」
“ヒサギ”と呼ばれた少女が肩を竦めながら答えると、カムイと男は顔を見合わせてから苦笑する。
―カランカラン―
と、そこに客らしき人物が入ってくる。
「いらっしゃいませ」
いち早く少女が立ち上がり、入ってきた青年に声をかけると、
「外に“営業中”という看板が出ていましたが…ココは何のお店なんですか?」
書類鞄を小脇に抱えたその人物は店内を見回しながらそう尋ねた。
「一応、喫茶店です」
「そうなんですか…ちょっと席をお借りしても宜しいですか?今日中にまとめたい原稿があるので…」
その質問に苦笑しながら少女が答えると、青年は意外そうな顔をしてから言った。
「構いませんよ。少し騒がしいかも知れませんが、お好きな席を使って下さい」
「ありがとうございます。それでは…珈琲をいただけますか?」
「かしこまりました」
微笑みながら言うと、青年は頭を下げてから注文をし、少女が頷くと窓際の席へと歩いていった。
「この店に客なんて珍しいな」
煙草を灰皿に押し付けながらカムイが呟くと、
「お前も客だろ」
「そうだね。先生も珈琲どうぞ。お兄ちゃんも」
男は苦笑しながら言い、少女は二人に珈琲を出してから青年の座る席へと向かう。
「ありがとうございます」
カップを置くと、青年は顔を上げずに礼を言った。軽く頭を下げてから少女はカウンターの中へと戻り、紅茶を入れ始める。
「それで…何か情報は手に入った?」
紅茶をカップに注ぎながら少女は視線を上げずに男に尋ねる。カムイも長い指に顎を乗せながら視線を遣り、男は二人に瑪瑙色の瞳を向けた。
「最近の被害者は夜間外出禁止令をしっかり守っていたらしい。家の者も見張りを立て、部屋から出る時は必ず誰かが付き添っていた…にも拘わらず、殺しに遭っている。どの被害者も夜中部屋から忽然と姿を消し、そして体の一部を切り取られて捨てられてるんだ」
カップを両手で包み、真面目な顔になって男は言った。
「誰かが家人に気付かれないように侵入して女を攫ったってコトか?」
「犯人がそんな神出鬼没なヤツだったら夜間外出禁止令は意味ないですね」
カムイは表情を変えずに淡々と言う。少女はその横顔に視線を遣り、肩を竦めて苦笑する。
「ところで…ユウ。さっきからあまり俺のコト見ないようにしてるけど、もしかして…」
「うん…お兄ちゃんって幽霊は見えないんだね。第一発見者でしょ?女の子が憑いてる。さっきから泣いてて見てられない」
カップを両手で挟んだまま視線を遣ると、少女はチラッと男を見てからまた視線を逸らして言った。
「毎回すごいなあ、ヒサギ。…第一発見者なのか?タツキ」
手を叩きながら少女に言ったカムイは男に視線を遣って訊く。
「あぁ…偶然な。でも…憑いてるのかよぉ…勘弁してくれっ」
“タツキ”と呼ばれた男は頷いてからがっくりと肩を落として呟く。
「後でシキちゃんにお祓いしてもらわないとね」
少女が苦笑して言うと、タツキは神妙な顔で頷いた。
「あの…第一発見者とか、さっきの情報とかは本当なんですか?」
不意に窓際の席から声を掛けられ、三人はそちらに視線を遣った。
ずっと書類に視線を落としていた青年がタツキに翠玉色の瞳を向けている。
「…」
「あぁ…失礼しました。私はこういう者です」
三人が顔を見合わせると青年は立ち上がり、カウンターに移動してから名刺を出した。
「欅新聞社…冬宮新…とうみや…あらた?」
名刺に視線を落とした少女が文字を読み上げ、首を傾げると青年は微笑みながら頷く。
「えっと…名刺どこやったかな…。お、あった」
それを見ながら懐を探り、名刺入れを取り出したタツキはその中から一枚名刺を取り出し、青年に渡す。
「何でも屋…春臣龍生…はるおみたつきさん、ですか」
名刺を受け取った新は書かれた文字を読み上げる。
「一応、商売だからな。情報が欲しいならそれなりの金は貰うぞ?ユウだけは別だけどな」
頷いてから龍生は言って、少女に向けて優しく微笑んだ。
「俺様はこういうモンだ。ヨロシクな、新聞記者」
驚いたような青年の表情に苦笑した遊烏を横目で見ながらカムイはポケットから名刺を取り出し、新に差し出す。
「天河神威…てんがかむいさん…小説家さんだったんですか」
受け取った新が翠玉色の瞳を神威に向ける。
「お前小説家だったのか!?」
「まぁな」
龍生が視線を遣ると、ニヤリと笑いながら神威は再び長い指に顎を乗せた。
「ユウさん?」
「あ。私、この喫茶店『黎明の空』の店主で楸遊烏といいます」
新が首を傾げて視線を遣ると、少女はそう名乗ってから軽く頭を下げる。
「そんなコトより…冬宮さんと交渉しなくて良いの?お兄ちゃん」
「お幾ら出せばよろしいですか?」
肩を竦めてから遊烏は立ち上がり、新しく珈琲を入れ、新は龍生に視線を遣ってそう尋ねる。珈琲を注ぎ終わった少女は青年に席を勧めてカップを置いた。
「あ…すみません。向こう、片付けてきますね」
「気にしなくて良いよ、どうせお客さん来ないし」
それを見た新が言うと、遊烏は頬を掻きながら微笑む。苦笑してから青年はカウンターの席に腰掛け、龍生に視線を向ける。
「代金は情報聞いてからお前が決めてくれ」
龍生は新に瑪瑙色の瞳を向け、真剣な顔になってから話し始めた。
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