http://movie.walkerplus.com/mv18555/
今年(平成25年)7月、山口県の山奥の集落で、連続放火殺人事件が発生し、焼けた民家から4世帯5遺体が発見されました。
これをマスコミは「平成の八つ墓村」と報道したのです。
犯人宅の窓に「つけびして 煙り喜ぶ 田舎者」という謎めいた張り紙があり、これも猟奇的事件の色合いを強くしました。
「八つ墓村」は推理小説作家・横溝正史の4作目(昭和25年)の長編小説ですが、一般的に有名になったのは松竹映画『八つ墓村(昭和52年)』のTVCMの影響です。
山崎努が、懐中電灯2本を角のように頭に巻き、日本刀と猟銃を持って白塗りになって、桜吹雪の中を疾走するシーン。
「たたりじゃ~」と叫ぶ老女のセリフ。
このおどろおどろしさが話題となり、映画も大ヒット配収20億円を稼ぎ出しました。
スタッフは野村芳太郎監督、橋本忍脚本の『砂の器』コンビ。
『砂の器』の儲けがあったので、当時破格の7億円を投下して制作されたのですが、予想以上に儲かりました。
ただしヒットの要因のひとつには、前年に公開され莫大な宣伝力でヒットした『犬神家の一族』のによる横溝正史ブームの影響もあります。
先に企画があったのは『八つ墓村』(松竹)のほうだったのですが、野村芳太郎がいろいろこだわっているうちに『犬神家の一族』(角川・東宝)に先を越されてしまい、それが結果的にブームに便乗する形となりラッキーでした。
長編小説を映画の枠に収めようとすると、話を端折るかエピソードを絞るか、換骨奪胎して作り直すしかありません。
そこが監督や脚本家の腕の見せ所なのですが、小説のファンからすると不評を買う原因になります。
そう言っても小説の楽しみ方と映画のそれとは違うものなので、原作の通りに作ってもあまり面白いものはできません。
小説と映画とがお互いに利用しあって、相乗効果で双方が儲かる仕組みが経済的にはよい関係になります。
それに知名度が浸透したことによるTV放映権やDVD(ビデオ)販売・レンタルと、複合的な儲けモデルがこの時期から生まれてくるのでした。
『八つ墓村』は映画3回、TVドラマ6回と数多く映像化されていますが、この松竹版の金田一耕助は特異でした。
なんたって『男はつらいよ』の寅さん、渥美清だったのですから。
松竹の看板俳優と言うことで、『砂の器』でも『幸福の黄色いハンカチ』でもちょい役で登場しますが、渥美が画面に出ると場内の雰囲気が変ってしまいます。
とにかくあの四角い顔は強烈で、どうしても寅さんに見えて、つい噴き出してしまうのです。
もともとこの作品は金田一の存在価値は薄く、NHK銀河ドラマの時は登場しなかったほどです。
だから誰でもいいと思ったわけではなく、たぶん当時はまだ珍しかったホラー映画(恐怖感を与える映画)にしようと言う意図があり、おどろおどろしさの偏りすぎを緩和するために、息継ぎの役割でキャスティングしたのでしょうが、先に公開した『犬神家の一族』の石坂浩二が三枚目的で好評だったので、このねらいは空振りになった感があります。
知られていることですが、『八つ墓村』にはモデルになった実際に起こった事件がありました。
太平洋戦争中の昭和13年、岡山県の集落でおきた「津山三十人殺し事件」です。
横溝正史は戦時中岡山に疎開しており、その時に事件のあらましを知りました。
戦時中と言うことで、世間にはあまり公表されていなかったのですが、隠そうとして隠せる事件ではありません。
ひとりが30人を殺害した事件は空前絶後です(オウム事件でも犠牲者は合計27人)。
事件そのものを扱ったわけではありませんが、過去の因縁話として鍵を握っている、映画における山崎努の部分です。
そのシーンが、まったくこの事件をなぞったものなのです。
http://www.youtube.com/watch?v=EWsqVX1895E
被害者の家族はほぼ皆殺しになったため、目撃情報は少ないのですが、警察の調書に記された内容がくだんのごとき殺戮でした。
頭に懐中電灯を巻いているのもその通り、腰には日本刀と匕首、手には9連発ブローニング猟銃を持ち、2時間あまりで30人を殺しました(白塗りはしていませんが)。
スティーブン・キングの小説のようなこの事件そのものが映画になりそうですが、昭和57年に『丑三つの村』としてノンフィクション小説(作・西村望)が出て、58年に同名で映画化もされました(監督・田中登、主演・古尾谷雅人)。
この映画は一般映画でありながら、「全編が残虐で非道的」という理由で、映倫から18歳未満観覧禁止の成人映画に指定されました。
当時残虐を理由に、成人指定を受けた映画は珍しかったと思います(ほとんどがポルノ映画)。
『八つ墓村』は400年前の落ち武者の怨念がそうさせたのですが、津山事件は計画的に行われた犯罪でした。
犯人の都井睦夫(21歳)は、犯行後自殺してしまったので真相はわからないのですが、遺書が残されていました。
それによると「うつべきをうたず、うたいでもよいものをうった」とあります。
うつべき目的の相手は、自分と関係がありながら他の村に嫁いだ女性のことで、事件はその女性が帰郷した日を狙って決行されました。
目標にされたのはその縁談を仕組んだ関係者、それと常日頃差別的に都井に弾圧を与えていた人たちでした。
都井は結核もちで、それとわかった時(徴兵検査で結核により不合格となる)から村人は接触を避けるようになったといいます。
『砂の器』のハンセン病と同じように、当時は結核も差別を受ける病気でした。
病気を理由に女に逃げられ、狭い村社会から拒絶され、もともと成績は良かったプライドはずたずたにされ、恨みは増幅していきます。
復讐のため猟銃免許を取得、猟銃を購入し、毎日山にこもって射撃練習にはげみ、決行の機会を待っていたのです。
アメリカでは、今月16日もワシントン海軍施設で12人の犠牲者が出た銃乱射事件が起き、9日にはシカゴの公園で3歳児を含む11人が死亡する銃撃事件が起きています。
オバマ大統領は「罪の無い男女が職場で銃弾によって倒れることが当たり前であってはならない」と演説しましたが、そんなこと当たり前でしょ。
さらに「米国人が本質的に暴力的なわけではない。犯罪者や危険人物の手から、銃を遠ざけるという常識的な行動が出来ていないためだ」と訴えましたが、銃が普通にある事自体が問題だとなぜ気づかないんだろう。
武器によって世界を制圧してきた歴史が、矛盾から抜け出せない根本なのでしょう。
銃の無い日本はつくづくありがたいと思います。
そして、"怨み"とか"復讐"というものが、破壊するだけでなにも生まないということも真実です。
「倍返しだ!」と決め台詞をいうドラマも、虚しいなあと思います。
"勧善懲悪"なるルールも、勝手な思い上がりであることも知る必要があります。
シリアに介入することは何とか回避されそうですが、"正義"なるものに振り回されると不幸になることは、数々の歴史が証明しています。
自分自身と、それぞれの人々の幸せを、現実的に考えるほうがいい選択になるはずです。
小津安二郎『晩春』と「少子化問題」 2023年01月31日
昭和映画落書 『犬神家の一族』 2013年09月20日
昭和映画落書 『太陽を盗んだ男』 2013年09月14日
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