『シリコンバレーは私をどう変えたか』

■2002.2.26(火) USのダイアリより

梅田望夫著『シリコンバレーは私をどう変えたか』を読んで。。。

少し前にふとしたきっかけで入手した『シリコンバレーは私をどう変えたか』(新潮社 1,400 2001年8月発行)という本を大変楽しみながら読んだ。
著者の梅田望夫さんは、米国大手コンサルティング会社「アーサー・D・リトル」の米国支社に1994年に赴任し、1997年に同社を退社後、「ミューズ・アソシエイツ」という会社を起業し、2000年にはシリコンバレーの地の利を生かし「パシフィカ・ファンド」というベンチャー・キャピタルを起業され、現在に至るという。。。

副題に『-起業の聖地での知的格闘記-』とあるように、その内容は、彼の各ステージにおける様々な思考と判断と、その判断に至るまでの洞察と健全でエネルギッシュな悩みに満ちていて大変楽しい。。。
まさに、知らない土地で逞しく、それでいて等身大で頑張ろうとする人間を すぐ端で応援しているような気分になる。
さらに、特筆すべきは、こうした心地よい知的ゲームのような緊張感に加えて、シリコンバレーのふとした日常を語る言葉がみずみずしくて美しく、読み手に安心感を与えてくれていることである。。。

何の準備もなく、この本を読み進めたとしても、シリコンバレーに住む我々にとっては共鳴する点が多数ある。
そして、シリコンバレー以外に住んでいる方々が読んでも意義深いことは間違いないだろう。。。

シリコンバレーという、世界においても稀な自由なワーキングスタイルと気張らない風土の中で、どのようにして世界を揺るがすIT旋風が巻き起こり、加速され、過度に膨れ上がり、減速した(=やっと本来の産業の等身大に落ち着いた)かを、著者のリアルタイムで見たダイナミックな表現と洞察力とで垣間見ることができる。
ここには、後からIT旋風を冷ややかに評論した他人行儀な薄ぺらな議論は存在せず、その代わりに無駄を削ぎ落とした文章と、研ぎ澄まされた五感を精一杯アンテナのように張った心地よい緊張感がある。。。

世界が特別視するシリコンバレーのIT旋風を巻き起こした立役者達はそんなに特別なのか?
確かに、彼らはStanfodを中心とする若き天才エンジニアであり起業家であるが、それは化け物なのか?と言えば、そうではないように思う。。。
確かに彼らは、人生のある一時(30代から40代半ば頃まで)をがむしゃらに駆け抜け、あたかもプロスポーツ選手のように選りすぐられた一握りの人間が巨万の富を手にするが、明らかにそれを育む風土がここにはあるのだ、と気付くようになる。。。

◆ ◆ ◆ ◆

そもそも この本は、日本のある通信系企業からメンロパーク(Stanfordのあるパロアルト市の隣街)のベンチャー・キャピタルに派遣されていた女性からMovingSaleでほぼ新品を譲って頂いたのだった。。。(本の背表紙裏には著者のサインが入っているが、彼女は殆ど読まなかったという。。。(^-^;))
彼女は、ルックスとキャラクタとも申し分のない可愛らしい日本女性であるが、国籍はアメリカであり、英語と日本語を完全にパラレルに話すことができる。。。その実、国籍はアメリカであるゆえ、厳密にはアメリカ人である。。。
彼女自身はあっけらかんとしているが、日本の企業が彼女を欲しがり上手く活躍してもらいたがっているのが手に取るように分かるし(その能力を持て余しているのかもしれないが。。。(^-^;))、それがシリコンバレーのベンチャー・キャピタルへの派遣という形で具体化されているのだということも容易に理解できる。。。

日本の有名企業が金を出し合って、あるベンチャー・キャピタルに資金を集中して、ベンチャー・ビジネス向けファンドを形成し、まだ見ぬ未来の有力ベンチャーを発掘し、それを育む見返りにハイ・リターンの収益を得ようという思惑。。。場合によっては、そこに有力な技術の萌芽があれば、そのベンチャーごと買ってしまおうという思惑。。。
さて、それが上手く行くか? それは難しい問題である。。。
日本の企業から金を集めたはいいが、そのベンチャー・キャピタルが質のよいベンチャー企業を見つけられる可能性は非常に小さいからである。。。
何せ、IT旋風の最盛期には年間に、5000とも6000社とも言われるベンチャーが立ち上がるのである。。。彼らは、それなりのビジネス・プランで、ベンチャー・キャピタルからスタートアップの資金を調達するものの、その中から生き残り、事業を継続し、株式上場に至る企業はほんの一握りという。。。

ここに、ベンチャー・キャピタルに出資しただけで、安心してしまい、リターンに無頓着な日本企業の姿が想像される。。。

◆ ◆ ◆ ◆

一方、この本を読む少し前に、私の英会話のパートナーであるTerryさんが私に面白い話をしてくれた。。。(彼自身、シリコンバレーで腕をならしたエンジニアでありロスアルトスのHillサイドに住む十分な成功者である。。。)

私の「何故、シリコンバレーでは、コンピュータ・エンジニアがあれほどまでに短期の間に様々な企業を渡り歩くのか?」という質問に、
彼は「それは、シリコンバレー自体が1つの大きな企業と考えればいいんだよ。」と答え、「そして、個々の企業1つ1つは、普通の企業の1つ1つの事業所に過ぎないんだ。。。自分のやっている仕事に面白みを感じなくなったら、2、3年で違う事業所に移っていけばいいだろう?。。。」と付け加えた。
この答えには大変驚き、同時に新鮮さを感じた。。。

◆ ◆ ◆ ◆

そして、最近のソフトウェア業界における開発のアウトソーシング・ブームと、その発注先としての低コスト高品質を生み出す土壌をもつインド、イスラエルの勃興。。。
世界のコンピュータのメッカ、シリコンバレーでマイクロ・ソフトやビル・ゲイツが忌み嫌われる理由。
また、Linuxを初めとするオープンソース・ビジネス(自由に加筆修正可能なプログラム体系)や、Napstarを初めとするフリーソフトウェア・ビジネスがもたらす恩恵と危うさ、資本主義とのなれあい。。。

こうした我々のすぐ身の回りにある、そして世界が注目する様々な興味深い問題と解の一部がこの本には存在する。。。
そして、世界のビジネスの偉大な実験場であるシリコンバレーの歩みを知ることができる。

是非、一読されることをお薦めする一冊である。。。

あ~あ、それにしても完全に風邪をひいてしまった。。。ぼけた頭でこれを書いている次第。。。(T_T)

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