蘇芳色(SUOUIRO)~耽美な時間~

「愛の賛歌」




さて、今年も美輪さんの舞台を堪能してきました。
初夏には演劇の舞台、秋にはコンサートというスケジュールを毎年こなしている美輪さん。
ファンの私も、このサイクルを毎年楽しんでいます。

今年の舞台はエディット・ピアフ物語「愛の賛歌」でした。
これまでに見た美輪さんの舞台は、「葵上・卒塔婆小町」「黒蜥蜴」「椿姫」などですが、今回も今までの舞台同様、「愛」に満ちたものでした。

「愛の賛歌」は、言うまでもなくフランスを代表するシャンソン歌手、エディット・ピアフの生涯を舞台にしたものです。
第1幕~第3幕まで、3時間半近くの長時間にわたるお芝居ですが、そんな長さはまったく感じなくて、すっかり美輪ワールドに引き込まれた至福の時間でした。

第1幕は、パリの下町で歌を歌って生計を立てているエディットが、高級クラブの経営者ルイ・ルブレに見出され、彼のクラブで歌うようになり、次第に頭角を現してくる様子を描いていました。
上流階級の人々が集うクラブで、初めて舞台に立つエディット。
美しいドレスもなく、着たきりすずめの姿のままスポットライトを浴びます。
歌い終わったエディットを待っていたのは割れるような拍手と賛辞でした。

このときに美輪さんが歌ったのは、確か「ミロール」だったと思うのですが、いつものコンサートの時ならば、一人芝居を見ているようなこの曲を聴くのはいいのですが、今回のようにお芝居のときに聞くのは、劇中劇を見ているようで、少々違和感がありました。
高級クラブでの歌手デビューならば、シャンソンをフランス語で歌ったほうが臨場感があるように思うのですが・・・。

これは他の曲の時も同様に感じました。今回の舞台はシャンソン歌手の役なので、何度も歌う場面が出てきたのですが、訳詩で歌う時と原語で歌う時の両方ありました。その使い分けはどうされているのか、よくわからなかったので、少々残念だなと。
ただ、第2幕の最後に「愛の賛歌」を原語で歌った時は、もう鳥肌が立つほどに感動しました。
「愛の賛歌」を聴き終わってすぐに休憩に入ったのですが、会場が明るくなって周りを見ると、数多くの観客が目を赤くしてハンカチを当てていました。(笑)

第2幕は、スターの座に君臨するようになったエディットの元に、イブ・モンタンやマルセル・セルダンが現れ、彼らとエディットの係わり合いを中心に描かれていました。

エディットの場合は、私が生まれる前に亡くなっているので、「昔の人」というイメージが強かったのですが、イブ・モンタンの場合は彼が出演した映画「ギャルソン!」を存命中に見ているので、なんだか生きた歴史を見ているような気分でした。(笑)

2幕後半は、妻子のあるボクサー、マルセルとの恋愛を丁寧に描いています。
彼らの恋愛を一般的には不倫というのでしょう。私は保守的な人間なので、不倫はご法度!という考えなのですが、エディットの愛し方を見ていると、「本当の愛とはなんぞや?」と深く考えずにはいられなくなります。

マルセルへの想いをつづった詩で作った「愛の賛歌」
この曲をマルセル本人に聴かせる前に、彼はエディットの待つパリに向かう途中、飛行機が墜落し、急逝してしまいます。
リサイタルが始まる前に、飛行機が墜落したと言う知らせが入り、倒れてしまうエディット。
リサイタルは中止になるかもしれないと気をもむ興行主に、エディットは歌うと宣言します。
彼女の体を心配する友人たちを説得し、エディットは舞台に立ち、マルセルの魂に向かって「愛の賛歌」を歌い上げます。

本当に愛する人が死んだ時の心の痛みが、私の心にも染みてきて、涙を抑えることができませんでした。

第3幕、愛する人を失って自暴自棄になったエディット。酒と麻薬に溺れ、体はボロボロになっていました。そんな彼女の前にギリシャ人の若者テオが現れます。
エディットが入院している病院に、毎日見舞いに来ていたテオは、ある日初めて彼女の病室に通されます。
エディットのファンだったテオは感激して彼女のベッドサイドに立ち尽くします。
そしてエディットも、テオに心が動きます。
21歳の年齢差を越えて、彼女らが愛を育み始めたとき、エディットはカムバック・リサイタルを実現させ、テオもまた歌手としてデビューするのでした。
その後2人は結婚。幸福の絶頂にいる2人に、残された時間は刻一刻と過ぎていきます。
とうとうエディットが倒れてしまいました。
残されたありったけの力で、テオに歌のレッスンをするエディット。

テオの「僕を一人にしないで!」という叫びも虚しく、エディットは波瀾に満ちた人生の幕を閉じるのでした。



エディット・ピアフの生涯を丁寧に描きながら、饒舌すぎると感じなかったのは、演出と脚本のよさなのでしょう。
ツボを押さえているんですね。無駄なセリフはないけれど、必要なセリフはきらびやかな言葉を費やして表現しているんです。

また人の一生を表現しようと思えば、時間を追って長ったらしく退屈になりがちなのですが、美輪さんの舞台は、メリハリが利いていて、まったく無駄がありません。
しかし殺風景ではないんですね。
シンプルでいて、ゴージャスであるという、正反対の要素をうまく舞台上に表現しているんですよね。
そして1番大切な、登場人物の心の動きはきちんと押さえてあるので、場面は省略されていても、感情移入でき、何度も涙が流れました。

美輪さんの演出、ほんとうにお見事でした。


2006年5月26日(金)  シアター・ドラマシティ

「愛の賛歌」プログラム


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