「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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嫁様は魔女
硝子窓(愚痴)
今回の山梨行きは気合入りまくりや。
いつも通り、行くんはホンマにイヤやけど、
お義母さんが出してやってるってつもりのお金は耳を揃えて付き返したるつもりやし、
ついでって言うか、この際、口出しもほどほどにしてって言うたろと思うてる。
貴信かていつまでもあんたのかわいいボクちゃんやなくて
奏人の、一人の子供の親になってんやからそれなりの扱いにしてくれんな困るんや。
そんなん言うたらまたあのお義母さんは逆上モードに入るやろ。
でも、貴信自身のためにもウチら家族のためにも
そろそろわかってもらわんとアカン話やと思う。
言うたんで!と言う気合とは反対に
なるべく穏便に理解してもらえるように
どない話したらええか、頭の中で何回も練習してみた。
せやけど!
もうさすがとしか言えんわ、このくそばばぁっ!
羽田から乗り換えてどうにか山梨の清水の家に着いたとたん、
(この間、貴信はえんえんと車だったら楽やのに、と言い続けてた、しつこいっちゅうねん。)
先制攻撃でクリティカルヒットって、こんなんや。
挨拶して、家に上がると宅急便で送った荷物が
中身、それも全部、箱から出されておいてあった。
うっそやん!冗談やないわ、何やってんのんよ!
そない大声で言いたいのを必死でこらえてお義母さんに言うた。
「あの・・・こう言うのは止めてもらえないでしょうか?」
「なぁに?こう言うのって。」
初めて孫の奏を抱っこして上機嫌なのか、義母は普段なら考えられないような
親しげな口調で返事をよこす。
・・・なにが「おばあちゃんでしゅよー。」やねん。
「荷物なんですけど、下着なんかも入っているんですし。
親子でもこう言うのはそのまま開けずに置いといて頂いた方が・・・。」
煮えくり返る感情を抑えてできるだけ言葉を選んで話す。
ここでブチ切れて終わり、って訳にはイカンねや。
まだまだ肝心な話はこれからや。
「あら、何が入ってるかわからなかったのよ。」
そんな訳ないやろー!!
ちゃんと着替えを送るから荷受してっておととい貴信が電話したやんか!
「それに、子連れで大変だと思ってこうやって出しておいたんだけど?」
言外に「それがどうしたの。」って言うんがにじみ出てる。
人の荷物開けて、お義父さんかておるのに下着とかも出しっぱなしで積み上げて。
そんでなんでこんなに恩着せがましいん!?
「ありがたいんですけど、こう言うものはやっぱり自分でさせてもらいたいんで。」
「・・・余計なおせっかいだと言いたいの?」
「おせっかいって言うか、お義母さんも同じ事されたらやっぱり困ると思うんです。」
「困るなんてそんなやましい事、私はありませんよ。
それよりこうやって仕分けもしておいたんだから、助かったと思って頂戴。ね?」
貴信やお義父さんの目があるからか、
奏人のおかげでよっぽど機嫌がエエんか知らんけど、妙な猫なで声でどっさり恩を着せられた。
どうかしてるわ。
日本語通じへん。
自分のこめかみで青筋がぴくぴくしてるんが
なんや漫画みたいって場違いな事を考えてたんは
心が、こんな現実と相対したくないって思ったせいやろ。
充分やったはずの気合は、到着5分でへなへなになって飛んでいってしもた。
清水の義父母(おや)2人は奏人に夢中になってる。
その間にぱっぱと箱に衣類を戻して、貴信に頼んで2階に運んでもろた。
当然、ウチも2階へ上がる。
「たまらんわ・・・・。信じられへん。普通開ける?」
「うーん、親切のつもりなんじゃないか?
オレが独身の頃だって帰省のときに荷物送ったら全部タンスに移してあったけど?」
「ちゃうやん、今は!おかしいいんちゃう?」
「理恵のだってやってると思うけど。」
「理恵さんは娘やんか!娘でもそんなんするん変やって。」
「そんなもんかなぁ、気にした事ないよ。」
ああ、そうか。
あのお義母さんに育てられてるからお義母さんと同じ感覚なんや。
プライバシーとか、恥じらいとか、遠慮とか
そう言うもんが欠落してんねんわ、一家揃って。
とりあえず「こらえろー辛抱しろー。」と自分に言い聞かせる。
早々にぶっちぎれてケンカになったらお宮参りだのなんだのが
サイアクの展開になるんは目に見えてるし。
言いたい事は最終日にまとめて言うんや、お金もその時きっちり渡すねん。
そんでお義母さんが逆上したかて、はいさよならで帰る日や。
「こんにちはぁ、理恵ー。入っていい?」
と、廊下から理恵さんの声がした。
義妹やからか、それなりにプライバシー意識があるからか
ちゃんと声をかけて入ってくるだけ、お義母さんよりはだいぶマシやと思う。
「由香子さん、いらっしゃいー。奏人クン見たかったんけど
おかあさんがずーっと抱っこしてて離しそうにないから、上がって来たんだぁ。」
「そう。」
・・・なんて返事したらええんや。
「えっと、今は東京じゃないとか聞いたけど?」
「うん、ヤツとは別れた。会社も不渡りつかまされてヤバくなったから辞めたし。
とりあえずしばらくはカジテツってやつよ。」
「ウチで遊んでるとかあさんうるさいだろ?」
にやにやしながら貴信が聞いた。
「そーなのっ、もう見合いとか結婚しろとかうるさいうるさい。
一応、恋に破れた傷心のオトメなんだから気遣えーってぇの。」
ここ、笑ぉてええんか?
どうもこっちの人の言う事は笑い処が違うからやりにくい。
「だったらさっさと仕事探せば?」
「失業保険貰い終わるまではねー、ちょっとくらい遊びたいって。」
「遊んでばっかだろ?」
「いいじゃんー。それよりお土産はぁ?」
「ねぇよ、そんなの。」
お土産取りに来たんかいな。
子供みたい、理恵さん。
「あの、理恵さん。お仏壇にお菓子供えてきてるけど?」
「そう?またお饅頭とかカステラとか?」
相変わらず無遠慮って言うか口の利き方知らんって言うか。
「お正月にカステラにしたら、たまには別のがいいって言うてたでしょ?
せやからアンリの焼き菓子の詰め合わせにしたよ。」
あー、顔がひくひくする。
「そうなん。ほんならお茶入れて仏壇からお菓子さげてこよっかな。
お兄ちゃんたちも飲む?」
飲む?って普通は聞かなくても用意せぇへんかなぁ?
「そうだな、奏はかあさんが見ててくれるだろうしちょっと休憩にしよう。
コーヒー淹れて。」
「えー、コーヒー。インスタントでいい?」
「コーヒーメーカーでちょちょっと淹れろよ、そんなに手間じゃないだろ。」
「だってぇ、後洗わなきゃかあさんウルサイんだもん。」
ホンマにそんなんちょっとした手間やん。
「どうせ由香子さんみたいにはムリだしぃ。」
うまいこと振って来たなぁ、こない言われたらウチが淹れなしゃあないようになる。
「あのな由香子だって疲れてるの。・・・いいや、インスタントで。
理恵、淹れて。」
「はいはーい。」
先に階段を下り、仏間を回ってお供えを回収したらしい。
「なぁにー、5000円のぉ?どうせ外商割引なんだからもっとでかいのにすればいいのにー。」
なんて、世にも失礼な声が聞こえてくる。
理恵さんは裏表のある性格ではない。
素直すぎる位や。
ただ悪意はないにせよ、物事をあんまり考えんと言うたりしたりするから
周りのもんが迷惑する。
自分の損得を優先するけど、単純な性格のせいかそれが表に出てるから憎たらしいとまでは思われへんやろ。
嫌いになるほどではないけど、ウチの性格からしたらつきあいにくい。
どうでもエエけど、ホンマにその口だけはどないかして。
「おにーちゃん、由香子さんー。食べよー。」
「ガキか、お前は。」
ダイニングに行くとちょうど理恵さんがコーヒーを淹れてた。
インスタントコーヒーの瓶から直接、スプーンも使わず
マグカップへさらさらっと、コーヒーを入れる。
そこにポットのお湯を入れて、かきまぜることもなく
「はい、由香子さんブラックだよね。」と渡された日には
なんかすっごい絶望的な気分になった。
きっと美味しいとかまずいとかそれ以前の味なんやろな・・・。
コーヒーマニアかも知れんと自分で思ってるウチからしたら
たとえインスタントにしたかて、淹れ方次第でどないかなるって思うんやけど。
いらん小姑根性出すんは、やめとこ。
コーヒーとは別な飲みもんやと割り切ったらええねん。
「ありがとー、羽田から結構しんどかったから嬉しいわぁ。」
「いいよねー、その「ありがとう」って言い方。
最近、大阪弁オトコウケいいんだけど、なんかうまく言えないんだよねー。」
「そんなの流行ってるのか?」
「うん、なまらスキとかさぁ、方言かわいいじゃんって。」
「じゃあ無理やり大阪弁使わないで甲州弁で話せばいいんじゃないの。」
「えー、それって違くて。地元じゃない子が使うからモテ要素になんだって。」
「わっかんねーな、そもそもなんで東京人ぶってんだよ。
お前は立派な甲州山梨地元民だろーが。」
「ヤメテよ、寒いこと言わないでー。
それよりぃ、猫クッキーが白バージョンしか入ってないしぃ。」
アンリ・シャルパンティエのラング・ド・シャのパッケージには
大きくチェシャ猫みたいな猫が描かれてる。
「猫の舌」って意味やから猫クッキーでもええねんけどな。
ラング・ド・シャがココアベースで白いクリームが入ってるんと
バニラ生地でチョコクリームのはさんだヤツがある。
バニラの方しかなかったんは理恵さん的にはアカンのやろ。
「詰め合わせなんだからしゃーないじゃんか。」
「えぇー、黒クッキーの方が絶対イケてるよね、由香子さん!」
こんな液体と飲むならどっちでも同じやと思うけど。
「じゃあ次回はココアのラングドシャにしようか。」
「んっ!いいって。次はアンリじゃなくって。
毎回同じ店のだと、芸ないなーって思われちゃうよ?」
・・・これって気を使ってんのかケンカ売ってるんかどっちなんや?
って言うかウチ文句多い!?
小姑状態!?
「芸がないって言うならもう買ってこねー。」
「あ、うそうそ。もう言わないって。
そーだ、由香子さん、これ見てぇ。」
そう言って理恵はチェーンのベビー用品店の袋をテーブルに乗せた。
「美保と、って美保は高校からの連れなんだけどぉ。
こないだ行ってきたんだ、もぅ超ーぉカワイイの。
赤ちゃんの服って。
なんかサイズとかわかんないけど買って来ちゃったんだ。」
「えー、うれしい。ありがとぉ。」
「美保が買ったのもあるんだぁ、ね、コレどう?」
プーさんの着ぐるみだった・・・・・。
確かにカワイイけど、もこもこしててあまりにも実用的じゃない。
セール品やったんか、えらい冬物が多かった。
サイズは70とか、80のもあるけど。
お店の人とちょっとは相談したんかな?
多分、今度の冬にコレって・・・着られへんよなぁ。
今やったらサイズはええにしても、暑いやろうし。
とか、思うたけど子供のおらん若い理恵さんが
一生懸命選んできてくれてんやから感謝せな。
「ほんまありがとう、美保さんにもよろしぃ言うとってねぇ。
うわぁ。これもかわいいわぁ、帽子被ったらカエルになるんやー。」
「でしょお?」
「せやけど・・・・ごめんやけどもしかしたらサイズ合わへんかも知れんねんやん。
ここのお店って遠いんかなぁ。」
一瞬、ムっとしたような顔になる。
「別に遠くないけど。おにいちゃんなら知ってるよ、ココ。
でもさぁ、サイズ違いとかもうないんじゃない?」
「そう。でもせっかく理恵さんがお友達と選んでくれたのに
奏人が着られへんかったら、申し訳ないし。
後で試着さしてみて、どうしてもムリそうな服だけサイズ交換できるか
聞きに行ってみていいかなぁ。」
「・・・まぁ。サイズ合わなきゃもったいないけどぉ。」
「同じのが合ったらええけど・・・。
そうや、もしなかったら困るから理恵さんも一緒に選びに行ってくれへん?
ウチらだけやったらこんなかわいいのんよう探しきらんし。」
なんでこんな気ぃ使わなあかんのんよ。
理恵のほうはちょっと機嫌が直ったのか鼻の穴が膨らんでる。
そう言うたら不思議なもんで、お客さんでも優越感をくすぐられると
なんでか鼻の穴がふんふんって動く人が多かったわ。
「いいよ、また美保と遊ぶからそん時交換してくるし。
換えてくるのだけ袋に入れて、サイズ書いといて。」
「一緒に行けばいいじゃん。」
「いいよー、お兄ちゃんたちは。」
「あ、さてはバーゲン品だな!売り尽くしで買っただろぉ!」
「ちーがうって。もうそんなのいいじゃん。」
思いっきり語るに落ちてる。
「貴信さん、せっかくのお祝いにそんな事・・・。」
「だよねー。値段の問題じゃないよねー。」
ますます深みにはまってんねんけど。
そんな話の最中に、お義母さんがダイニングに入ってきた。
奏人は抱いてない。
「由香子さん、お客様。
近所の方が奏人を見に来てくだすってるの。
コーヒー4つとお茶4つ・・・あら?洋菓子なの?
一旦はお仏壇にお供えするんだからもう少し考えないと恥をかくのはあなたですよ。」
アンタの娘がカステラやら羊羹を嫌がんねんっ!
人様のところからもろた嫁に文句言う前に、自分に娘をどないかしときぃや。
お客来たかて、お茶出しさせれん娘やって自覚あるからウチに接客させんねんやろー!
ああ・・・・むかつく。
早く、早くぶっちゃけて文句言うてやりたいー。
お義母さんは、ウチの顔色が変わったんなんかは一切気にせず、
食器棚から鶯色の箱を持ってきて言う。
「仕方ないわね。これ、最中があるからお茶と一緒に持ってきてね。」
「わかりました。」
箱を受け取るのはなんかシャクに触る。
返事しながら、お義母さんに背中を向けてやかんに水をいれコンロにかけた。
「置いとくわよ。あ、貴信、食べてもいいわよ。」
「いいよ、今甘いもん食ったし。」
「そう?だったら居間の方に顔出さない?
お父さんのいとこの雄三おじさんも来てるわよ。」
「んー、後で行くわ。」
「理恵は?」
ちらっと理恵さんの顔を見るとそこにははっきり
「年寄りの話し相手はイヤ。」と書いてある。
「あたし、ちょっと出かけなきゃなの。
この服、サイズあわないんだってー。
店閉まったら困るからすぐ美保誘って、行って来るわ。」
「そんなの明日でもいいでしょ?」
「明日はお宮参りとかで忙しいんじゃないの?」
「あなたは行かなくてもいいの。」
「あー、だってさ。ほらお兄ちゃんに運転してもらわなきゃ。
荷物あるしぃ、ねぇ?お兄ちゃんも奏クンの服とか選びたいよねー。」
「オレはどっちでもいいけど・・・じゃあ行こうか。」
どうも貴信もお年寄りのお相手は面倒らしい。
いっつも仕事でやってるだけに気が乗らんって言うトコなんか?
「しょうがないわね、早めに帰ってきなさいよ。」
「由香子さぁん、サイズは?」
・・・って試着もしてへんのに。
「えと、春夏物だったら80で、冬物だったら90・・・かなぁ。」
おおよそで返事する。
アカンかっても、この際しゃあないわ。
「父さんのキィは?」
「スペアだったら玄関よ。」
お義母さん、やっぱり貴信には甘い。
「由香子さん、私は先に戻りますよ。」
「はい。」
こうしてる間、奏人はみんなに抱っこされておもちゃ状態なんやろなぁ。
かわいがってくれはるんは嬉しいけど、お義母さんが抱き続けてると
なんか・・・・「取られてる」って気がしてイヤな気分になる。
「ウチの子」なんて思うてへんねやろな。
「貴信の子」「私の孫」「清水の跡取り」・・・・。
態度でわかるわ、そう思うてるやろって。
ともかく。
コーヒーはできた。
カップもお湯飲みもホドホドに温ぅなってる。
急須にお茶っぱ入れて一旦湯飲みに入れたお湯を急須に移す。
蒸らしてる間に、コーヒーをセットして、
頃合になったお茶を湯のみに入れる。
ぴっと。
最後の一滴まで湯飲みに入れて。
まずは飲み物。
お菓子は後や。
ここの家のトレイはそんなに大きくない。
ソーサーと茶托は重ねて置いてぴっちりって言うぐらいや。
居間に入ると奏を囲んで大賑わいやった。
奏はぱっちり目を開けてにこっと笑いながら抱っこされてる。
誰やっけ・・・・あ、お義母さんのウォーキングの友達や。
さっさと年齢のめぼしをつけつつ、上座側からお茶かコーヒーか聞いていく。
接客はお父ちゃんが議員やってた頃に、仕込まれてるからそうヘマはせぇへんわ。
行き渡ったところで、雄三おじさんやったか、武弘おじさんやったか
・・・同じ様な顔してるんよ。ここの身内って。
「由香子さん、うまいことお茶出しするねぇ。志づるさん厳しいんじゃないの?」と、笑った。
こう言う時、ウチはノーコメントで笑ってるに限る。
「イヤだわぁ、雄三兄さん。
ちょっとした常識くらいしか教えてませんって。
今時の若い人にうるさく言うほど、わからない年寄りじゃありませんよ。」
「そうかぁ?」
聞かない聞かない・・・・真面目に聞いてたらやってられん。
お茶請けお持ちします、と断って中座した。
最中と一緒に手土産のフィナンシェやマドレーヌも出そっかな。
コーヒーに最中はあんまりやろ、と菓子盆に見栄えよぉ盛り付ける。
運んでいくと、ウォーキング仲間のおばさんたちは
「あらぁ、芦屋のお菓子なのね。オシャレだわぁ。」などと喜んで食べてくれた。
「貴信がデパート勤めでしょう?だからこう言う目新しいものをね、持ってきてくれるのよ。」
仏壇に供えるのに洋菓子じゃ恥をかくとか言ってたのはどの口でしたっけねぇ?
褒められたら貴信のお手柄、気に入らん事は全部ウチかいな。
こっちも美味しいのよ、とかすすめてるお義母さんの笑い顔に
シュガーポット投げつけてやったら、どんなけ気持ちええやろう?
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