嫁様は魔女

嫁様は魔女

硝子窓(相互無理解)


いわゆる『ウチの子に限って』ってヤツ?

なんならいっそ暴露して差し上げましょうか。

オタクのお坊ちゃまがいかに婚前交渉活動に熱心だったか。
結婚した今よりずーっとご執心だったんですけど?

「あはははは。そんな訳ないじゃんー。」

って!こっちのバカは後に引けんような事ペロっと言うてるし。

「そうよねぇ。ご立派なお宅ですもの。そんな躾の悪い娘さんはいないわよねぇ。」

ふーん・・・・。
ウチが聞いてないと思ったらこんなイヤミ飛ばしまくってんねんな。
この人。

あきれはてて腹も立たんようになってきた。
って言うかここまで来たら笑えてくるわ。

躾が悪いんはアンタの息子とそのムスコやで、って教えたろか。

・・・あ、失敗した。
お宅のオリコウサンの理恵ちゃんがうっかりデキ婚したら
今の言葉全部まとめて返せるように録音しといたったらよかったわ。

「だったら現金の方がいいわね、お祝いは。」

「別にいいんじゃない?式も何もしないんだし。」

「そう言う訳には行かないわよ、ウチがきちんとしなきゃ恥をかくのはあなたですもの。」

「そう?じゃあ・・・。」

言いながら、貴信はチラっとウチの顔を見る。

見たって出るんは舌くらいや。

べー。

「うん、じゃそんだけだから切るわ。おやすみ。」

受話器を置いた貴信は

「やれやれ、参っちゃうよ。相変わらず冗談キツイって言うか。更年期かなぁ。」

と、薄ら笑いを浮かべながら話しかけてきた。

「キツイ冗談はお義母さんだけとちゃうよなぁ?」

「え?」

「なんでウチがバイト行ってることとか知ってるんよ、あっちで。」

「あぁ、そう言えば。なんでだろ?」

「アンタが喋れへんかったら誰が喋るんよ。
 全国コーヒー連盟かなんかが回覧板でもまわしてるって言うん?」

「あれ、いつ言ったんだっけ・・・・。」

「しらばっくれなや。コソコソと言いつけるような真似する?普通。」

「でもさ、詳しく知らなかったみたいだし。
 単発で行っただけって今、説明したから大丈夫だって。」

「大丈夫?なにが?」

「なにがって。」

「どこがっ!?」

「えー。なんとなく。」

「わかったわ!あんたがいっつもいつもそんな態度やから
 タダでさえ悪い心証が極悪になるねん。
 離婚せぇせぇって言うんも、お義母さんはアンタが別れたがってるって思ってるんや。
 せやからあんな強気やねん。」

「いや、あのかあさんに真っ向から言い返してもさ。
 言い争いになるだけじゃん?さらっと流して・・・。」

「何がサラっとや!ちょっと位言い返してよ。
 ちょっとでもウチのことかばってくれたってええやんか!
 どっちつかず!八方美人のこうもり男っ!」

 「なんでそんな怒るんだよ、俺何も言ってないじゃん。」

このオトコだけは!!まったくわかってへんし!

「あんたが何にも言わへんから怒ってんねんやろ。もう知らん、どっか行って!」

「どっか行けって・・・。」

こんだけウチが腹立ててんのに、まだ本気にしてないのか貴信の目はうっすら笑ってる。
ボケナス、スカタン、ノータリンっ!
いっぺん死んでくれって本気で思うわ。

「顔も見たない!アンタが出て行かんのやったらウチが出る。」

「ちょ・・・、わ、わかった。
 オレ、二階に行ってるから、な。」

そそくさと、でも半分はこれ幸いって様子で貴信は部屋を出て行った。

・・・ほんま、おめでたい話でなんでこんなムカつかなアカンねんな。

あんな電話聞くんじゃなかったわ。

嫁姑の板ばさみのダンナさんが一番つらいとかって言うけど、そんなん絶対ウソやね。

ダンナがどっちつかずで頼りなくてアホやから、ケンカになるんやんか。

自分の親になんで自分の思ってることがちゃんと言えんのよ。
親やからこそ言いにくいことでも言えるんちゃうん。

なんで自分の妻がバカにされてヘラヘラできる?

そんなんが謙虚とか思ってるんやったらとことんバカ。

身内相手に「ウチの愚妻が」ってありえへんやろ。

聞き流すほうが円満て?
ちゃうやん。あんた、めんどくさいだけやろ。

あー・・・ロクでもない。

なんかめっちゃしょーもない男に思えてきた。

ホンマに離婚でもして、実家に奏預けて働きにでも出たほうが
平和な気持ちで子育てできるような気がするわ。

あんな人おらんでも、ウチは奏ちゃんさえおったらええねんし。

でも離婚したらあのババァが手ぇ叩いて喜ぶんやと思うと、意地でも別れたるかとも思うけど。

大体息子が結婚したら『嫁に取られた』って思う感覚がどうかしてる。

息子はあんたの『モノ』か。
そんな位やったらもっと自分のダンナに一生懸命になったらええやん。

そら、元は他人のダンナより、
母親である自分の思い通りになる子供のほうが何かと都合がええんやろうけど?

はぁ、あそこまで言われてるとはなぁ。

嫌われてるとは思ってたけど、やっぱり実際聞くとこたえるなぁ。

バイトの事も怒りまくってるんやろなぁ。
あのアホ、なんで理恵に話してるんよ、ちょっと考えたらわかるやろ。

しかもいつ話したか覚えてない?
しょーもないとぼけ方して。

健忘症かっちゅーねん。

あーあ。
アメリカの親子やったらこんな嫁姑バトルとかってないんかなぁ。

陽菜ちゃんの彼氏の自分って言うのがしっかり通った語り口を思い出すと
羨ましくなってきた。

あんな人やったら、周りから何言われても奥さん信じて守りきってくれそう。

隣の芝生やろってナナメから自分にツッコミながらも、
うらやましい気持ちはとまれへん。

なんか昔っから、別に要領いいってわけでもないのに
陽菜ちゃんはアタリクジを引いてくるんよね。

ここぞって時の引きが強いって言うか、なんかに守られてるって言うんか。

同じようにしてても、どうもウチのほうがビミョーに巡り合わせが悪いって思う。

学校も陽菜ちゃん行ってるトコはラクで楽しそうと思ってついてったら
ウチの学年にはとんでもなく怖い学年主任がついてきたりして。

ダンナはそこそこかと思ってたらアレやしなぁ。

・・・。

電話しよ。

せめて愚痴くらい聞いてもろてもバチあたらんやろ。

どうせ面白がるやろしな。

長電話用にアイスオーレを持ってきて、ウチは実家に電話をかけた。

ほんまに腹たつ、と怒りのトップモードに入ったウチの話に
陽菜ちゃんは涙を流さんばかりのイキオイで大受けしていた。

「アカン!!パンパンやて?パンパンっ!!面白すぎる。
 お腹イタイーっ!!」

腹筋が痛くなるほどおもしろいか?

めっちゃ失礼やねんけど、あのバーサマ。

「サイコーやって。
 いつの時代の人間よ、パンパンってぇー!!」

もう、完全にげらげら笑いのゲラコちゃん化してる陽菜ちゃん。
自分のこと言われてるのに、こんなに笑えるのって羨ましい性格してるわ。

「もうブログネタ満載やわぁ、貴信さんもナイスなヘタレっぷり!」

「ちょっとウチの身にもなってよー、もう気分最低やねんで。」

「そうかぁ?その情けなさ、むしろ買いって感じやけどなぁ。」

「ウソやん、ありえへんって。」

「でもドメスティックな男よりよっぽどマシやろ。
 あんたの事がスキやから弱腰なんやろうしさ、
 親も大事にできん男なんか、それこそ一緒におれんやん。」

「そんな人としての最低ラインを基準にされたって。」

自分はいいよなぁ、ってちょっと思う。
キースは弱腰でも八方美人でも、もちろん暴力的でもなさそうやもん。

「結婚前につきあった男考えてみ?
 ほら、別れるときに今までのプレゼントの金額相殺して請求してきたヤツとか、
 お前はオレがいないとシアワセになれないとか、
 訳わからん事言うのんいっぱいおったやろ?

 家に給料入れて浮気はせんと、おとなしく板ばさみになってるくらいのアホさ加減やったら扱いやすくてええやんか。」

「そら、扱いやすいって言うたら扱いやすいけどな。」

「それは大事やでー。
 ヘンに自信過剰でオレがオレがって出てきてさー、現場混乱さして満足するアホの方がキツイやろ。」

「まぁなー。でもウチのバイトの事とか? 
 わざわざ言わんでもええ事まで報告してんのってどうよ?
 マザコンもええとこちゃう?」

「一応それはフォローしはってんやろ?」

「めっちゃ苦し紛れって感じやけどな。 
 それもいつ言うたか覚えてないとかとぼけんねんで?」

「アホやな。」

「ここまでアホやと腹立てへん?」

「もうちょっとコマシな言い訳できんのかいな。」

「あれで自分はトーク上手って思ってるねんで、外商プロとか言うて。」

「ほんならいっそ家の中も仕事やと思って気ぃつこたらええのになぁ。」

「そう!!それをなウチにはしろって言うねん!
 あのお義母さんが何言うても、お客のわがままやと思って受け流せって。」

「客やと思え言うんやったら給料くれよなぁー。」

「そうそうそう!!」

陽菜ちゃん、やっぱわかってるわぁ。

「それにしても、お祝いってあのお義母さん、何くれるんやろ?占いとかしてほしいわぁ。」

「えー?そうかぁ。」

「相性サイアクです、別れなさいって手紙とか来たらめっちゃ笑えるやん。
 なぁなぁひょっとしたらアンタが離婚って言われるん、占いで何か言われたとかちゃうん?
 別れやなタタリがあるとか。」

「げー、ありがちぃ。
 でもそんなんやったら結婚前にわかりそうなもんやんなぁ。
 ウチの親の誕生日まで聞いてきて占いしてはんねんし。」

「そうやっけ?」

「先祖に悪縁がないかとかって。」

「きゃははは、それもすごいなぁ。
 先祖なんか遡ったら一人や二人、殺人者とかいてるやろ。」

「やろー?自分の先祖は何様やねんって思うわ。
 そんな占い中心で物事決めてて、自分が不自由ちゃうんかなぁ。」

「自分でケツもたんでええからラクなんやって。
 なんかあったら責任転嫁できるやん。」

「あぁ、なるほど・・・。」

「それを自分だけで満足してくれたらええけど、アンタらの生活にまで強要してくるからややこしいんよな。
 お百度踏めとか言われるんやろ?」

「印鑑とか壺買えって言い出さんだけマシかも知れんけどな。」

「なんにしたってネタに事かかへんよな、アンタのトコは。」

やっぱり結局ブログネタかい、と思ったけど
なんか喋ってるうちに真面目に怒ってるんもあほらしくなってきた。

「陽菜ちゃんくらい割り切れたらええねんけどなぁー。
 なぁ、そっちは?
 キースの親とかに会うたことあるん?」

「全然。」

「えー!そんで結婚決めてええの?」

「ええやろ、大人やねんし。親と結婚するんちゃうもん。」

「はぁ・・・うらやましい。ウチなんか妻じゃなくって嫁やもんなぁ。」

「キース自身、何年も会うてへんねんて。親はどっか田舎のほうで暮らしてるって。
 キースにしたら結婚するって親に挨拶する方が新鮮みたいやで?」

「ふーん、そんなもんなんや。ドライやなぁ。」

「自分の子供じゃなくあくまで個人として見てる感じちゃう?
 ちょっと見習ってくれたらええのになぁ。」

「あはは。ムリムリ。
 反対にアメリカ人に先祖供養とか押し付けそうやん。」

「カルトな宗教みたいになったりしてね、志ぃ様教!」

「あはははは、こっわーい。」

悪趣味って思うけど、人の悪口って結構スッキリする。
言われるほうが言われるだけの事してんねんから、って思うと罪悪感もないし。

こんで不満解消して家の中安泰やったら安いもんやって感謝して欲しいくらいやわ。

実際、貴信もコソコソなんか密告してるし
お義母さんの電話なんか、それこそ陰口のオンパレードやったやん。

仲悪いよなぁ、変な家族って思うけど
こう言うガス抜きがないとやっていけんよ、ほんまの話。

素直に正面から話して余計に嫌われるって、実際に痛い目も見た事やし。

一緒に盛り上がってくれる陽菜ちゃんが遠くなるんは寂しいし困るけど
せめて陽菜ちゃんはこんな悪口言うほうの立場にならんかったらいいね。

心からそう思った。




















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