『月のフェイズ』(ラスト・クォーター


空には綺麗な星、アタシのダイスキな光度の低い下弦の月が穏やかにアタシ達を見下ろしていた。


『月のフェイズ』


その日から、アタシと健吾は恋人関係に成った。
健吾と居ると、本当安心できるし、辛い時いつでも傍に居てくれる。健吾はアタシだけを見てくれていた。
でも、アタシは…心の何処かで、刹那がアタシを求めている事を願ってた。
そんな事健吾に言える筈も無くアタシ自身の中でもこの惨めな感情を掻き消そうとしていた。

ある日、いつもの様に健吾と二人で街をふら付いていた。
12月半ばに入った街はもうすっかり冬の色に染まって、クリスマスの準備も整っていた。

「俺、魅月ちゃんと一緒にクリスマス過ごせるなんて夢みたいだ!」

目をキラキラと輝かせ、まるで子供の様にはしゃぐ健吾は正直可愛い。

「うん、アタシも健吾と一緒に過ごせるの嬉しいよ」

嘘じゃなかった。
しかし、やっぱり何処かで刹那を想っていて、去年のクリスマス、刹那は彼女と一緒に過ごしたのだろうかなんて事が頭の中を掻き回す。
忘れなきゃ、忘れなきゃって思うほど想いは強くなっていって、いつか歯止めがきかなくなるんじゃないかと思った。
純粋な健吾を傷付けるのが怖かった。
健吾は本当、綺麗過ぎる。こんな汚いアタシを受け入れ愛してくれた。
なのに、なのにアタシの身勝手で…健吾を哀しませるのは駄目だと思った。
駄目だったんだ。だから、刹那をキッパリ忘れなきゃ。刹那がアタシを想ってくれる事なんて有り得ないんだし。
想っても…報われないんだ。

「じゃぁ、これから俺バイトだから、またね!」

街をふら付いた後確りと家まで送ってくれた。
考え事ばかりしているアタシに嫌な顔一つせず付き合ってくれた。こんな良い子、滅多に居ないのに…何故刹那じゃなきゃ駄目なのか、哀しかった。

その日からイブの夜まで、アタシの頭は健吾と刹那の事でいっぱいだった。
健吾は優しい、アタシを本当に愛してくれている。健吾と愛し合ったほうが確実に幸せになれる。
幸せになれるのに…アタシは刹那を忘れられない。健吾と付き合っていながら刹那を想っているなんて…いけないって解ってた。
健吾は嫌いじゃない。良い奴だし、純粋だし。でもアタシが本当に好きなのは、愛しているのは刹那なんだ。
でも刹那は死んだ彼女が忘れられずに今でも愛している。
彼の中にアタシは居ない。


「メリクリ!!魅月ちゃん!」

イブの夜、健吾はいつもの様に笑顔でアタシの家まで迎えに来た。

「健吾、まだイブだよ」

あはは、とアタシ達は笑って出掛けて行った。

「寒いね~~!雪降らないかなぁ???俺、雪ダイスキ!!」

健吾と居てつまらない訳じゃない。無邪気に笑う健吾は可愛いし、好きだ。
でもそれ以上に刹那の深くて吸い込まれそうな瞳や聴いててとても安心する声が大好きだった。

「アタシは雪あんまり好きじゃないなぁ、冷たいし」

子供の頃から雪とか好きじゃなかったアタシ。変わってたのかもしれない。
冬の空は星が綺麗だったから、雪が降って星達が見えなくなるのが哀しかったんだ。
雪よりも澄んだ空や瞬く星が好きだった。
でも何よりも好きだったのは月だった。
月は月でも欠けてゆく下弦の月が一番好きだった。
光度が低く、ゆっくり優しく照らしてくれる下弦の月が。

「アタシは、雪より綺麗な月や星の方が好きだな」

アタシがそういうと健吾は頷いて

「そっか、冬の夜空綺麗だもんね!」

と言った。

「うん、それに今日はラストクォーター、下弦の月だもん。アタシが一番好きな月」

健吾はまた目を輝かせて

「魅月ちゃんは、雪より月が似合う!!」

そういって微笑んだ。

「あはは、有難う」

そんな事を話していたアタシ達は繁華街に着いた。
刹那の過去を受けとめられずに一人で泣いていたあの繁華街。
刹那への気持ちが溢れかえって仕方なかった。
でも、今日は健吾が居てくれるから少し救われた気分になった。
街はクリスマス一色。幸せそうなカップルが手を繋ぎ歩いている。他から見ればアタシ達も幸せなカップルに見えるのかな。
それからアタシは健吾と会話をしていたが内容は殆ど頭に入っては居なかった。考え事でいっぱい。
悪いとは解っていてもやっぱり刹那の事を考えて仕舞う。健吾に悪い事をしている…。汚い自分が本当に嫌になった。

そんな時、健吾と交差点の信号待ちをしていた時だった。交差点の向こうに、刹那が見えたんだ。

「刹那!!!!」

見付けたと同時にアタシはそう叫んで走り出していた。
刹那はアタシの声に気付いたらしく、こっちを向いて何か叫んでいた。アタシを求めてくれているの?

そう想った時、後ろで健吾の叫ぶ声も聞こえた。

「危ない!!!!!!」

次の瞬間アタシは宙を舞っていた。時間がゆっくりと流れている…。
何?何が起こったの?そう思うと同時に意識が遠のいていった。

気が付いた時はもう遅かった。

アタシ、死んだんだ。

下のほうで泣いている刹那と健吾が見えた。血まみれのアタシも。
ごめんね、刹那。ごめんね、健吾。

アタシ、もう…逝きます。月が…待ってるから。。。
アタシは二人に永遠の別れを告げた・・・。


空には綺麗な星、アタシのダイスキな光度の低い下弦の月が穏やかにアタシ達を見下ろしていた。



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