たゆたひ

たゆたひ

夢は王女さま


彼女は盲目だった。
別に、恋に盲目であるとか、周りに目が向かない自己中、という意味ではない。
否、あながち先の意味でも間違っては居ないが。
そういう比喩ではなく、真に盲目であったのだ。

「お嬢様、お茶が入りましたよ」
盲目の彼女は、しかし生活に苦労はしていない。
もちろん、目が見えない上で、必然と負うハンデが無いものになるわけではなかったが。
即ち、自分が動かなくても生活できるだけの裕福さを、彼女は持っていた。

「あと、お客様がお見えです」
ありがとうも言わずに、無言で受け取った茶器を口元へと運びながら、盲目の彼女は女の声に反応する。
一口だけ口に含んだ紅茶をそのまま、女の手に返す。
それを合図にしたように、女は部屋を出、入れ違いになるように、別の人間が部屋に入ってきた。

「やぁ、姫」
「……いいかげん、そのよび方やめてくれない?」
「どうしてさ。だって、姫ったら本当にキレイなんだよ?」
男の声に、盲目の彼女は眉を寄せる。
「その、キレイってのが理解できないわ。私は自分の顔を知らないし」
「でもきれいだから。俺が言うんだから間違いないの」

男の自信のこもった言葉に、盲目の彼女は軽く肩を諌めただけで諦めた。
「だいたい、姫で何が悪いのさ。こーんな大きい家に住んでいて」
「家を見たことがないしね」
「でも、家を歩いたことはあるでしょ?」
「他の家を知らないのだから、比較できない以上、私の家が大きいかどうかなんて分からないわよ」
「あんな数の使用人がいるくせに」
「あんな数、ね。使用人の人数なんて把握できないし」
「声で分からないのかい?」
「どうして、声を聞き分けてまで、使用人を数える必要があるの。母親の声さえ分からないわよ」

盲目の彼女の言葉に、男は軽く口の端を持ち上げる。
もちろん、盲目の彼女にそんな小さな動作が見えるわけはない。

「その親だって、普通とは比べ物にならないくらい稼いでる」
「普通、の友達が居ないからわからないわ」
「俺は?」
「普通なの?自意識過剰なんじゃない?」
「あはは!」
男は、今度は声をあげて笑う。

「じゃ、何だったらいいのさ」
「そもそも、姫ってのが気に入らないのよ」
「いいじゃないか。高貴で」
男の言葉に、盲目の彼女は唇を持ち上げて、皮肉に笑う。

「冗談じゃない。姫なんてプリンセスじゃない。私は親のすねをかじって威張るのはごめんなの」
「よく言うよ。親の金で生きてるくせに」
「それは、親が偉いんじゃなくて、私が偉いから、よ。親のすねをかじってるんじゃない。私が偉いから、私が親に貢がせてるの」
「へぇ」
「私の夢は王女様だから。プリンセスじゃなくて、クイーンじゃないとね」

盲目の彼女の言葉に、男は喉をならして、さも愉快そうに笑った。
「かしこまりました。王女さま」




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