練習航海の思い出 俺は日本人だ! 



 海の感動を読者諸氏と子供達に、今こそ伝えたい。
 1973年北大の実習船おしょろ丸の南方航海で、生涯の記憶に残る体験をした。
 台湾の西からバッシー・バリンタン海峡というシナ海の荒れる海峡をようやく抜け、舷側でほっとしていた。何やらブリッジが騒がしい。何十日振りに、レーダサイトに映った日本の島影を見つけ、学生が興奮しているのだ。海図とコンパスで確認し、しっかりとその島影を目視できた時の感動である。
 時あたかも、水平線が薄紅色に染まり始めた。
 海の1日の中でも最も深閑とした敬虔な時、荘厳な朝まだきである。

 日本の領海に入った安心感。嬉しかった。
 領海の外での操業や楽しかったシンガポールでも、どこか張り詰めていたのだ。 それが、解放された瞬間である。

 「俺は日本人なんだ!」という気持ちが、一瞬の内に胸に込み上げて来た。
 純粋に、この国に生まれてきたことの喜び。
 誰の為ではなく、「この国を守りたい」と思った。
 この体験を、是非とも訴えたい。

 現在は、ジェット機で短時間に、海外旅行を楽しむことができる。
 大変、便利な文明の恩恵を受けた、言わば、デジタルの旅である。機会があれば、アナログの船旅を是非とも体験して欲しい。

 当時の練習船は、フルスピードで時速約22キロ程度であるから、一流のマラソンランナーが駈け抜ける1時間の距離より短い。

 海から陸へのアプローチはゆったりとしており、その分様々な思いが凝縮した最高の気分をたっぷり味わえる。
 デジタルな時代であるからこそ、アナログの船旅は心に染み込むのだと思う。

 ☆ 自分が愛しくなる。
 ☆☆ 人が、本当に恋しくなる。
 ☆☆☆ そして、素直になる。

 こんな内なる気持ちを、言葉ではなく、自分で体験して欲しいと切に思う。
 確かに、海は判断を間違えれば怖いところであるが、人間はなかなかそう簡単には参らない。

 昨夏、長崎の五島から1ヶ月も一人で漂流した漁師が言っていた。「人間死なないもんだなー」って。言い言葉だと感心した。

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