函館山 



 母校水産学部での特別講義が終わり、ほっとした思いで駅前から市電に乗った。
 十字街で降り、11時過ぎの閑静な青柳町をゆっくりと函館山の方へと向かった。
 商用看板などほとんど見当たらず、晩秋の坂道は時折雲間から陽光が射してきた。

 31年振りの逍遥で、過ぎし日の色々な思い出が走馬灯のように浮かんできた。
 昔と少しも変わっていない格調高いハリストス正教会を眺め、
 学生時代にタイムスリップ。
 急峻な道を上り詰め、見返ると鈍く鉛色の函館湾の海が輝く。

 ふと目にした道標。函館山への旧山道の案内。
 三大夜景のダイアモンドの光と漁り火が観光名物だが、今は寂寥とした臥牛山。

 3日前の降雪で、登山バスは春まで運行休止。
 まばらな観光客を乗せたケーブルを横目に、はっきりと徒歩で登山の覚悟。
 函館山はその昔、陸とは繋がっていなかった。いわゆる陸繋島。
 現在の市街は砂州と河岸段丘に立地。
 冬鳥もいるらしいが鳴くのはカラス。
 東京のせわしいカラスと違って、鳴き声もカァーと伸びやか。
 首都圏の嫌われ者とは段違い。

 鈴を鳴らしながら下ってきた初老の紳士に出会い、短い会話を交わす。
 スーツ姿の登山者は初めてと妙に感心された。
 案内板に標高332mとあるから、普通の足なら小1時間。
 白い息を吐きつつ、冬枯れの木立の中を行くと、澄み切った冷気と霊気が漂い、 眼下の街での出来事が遠い昔のことのように思えるから不思議だ。

 頂上には昼前に到着。後から登ってきた一組の母娘の会話は津軽弁。
 景色にピッタリ耳に心地よく、旅愁満喫。

 頂上からは昼下がりの陽光で、黄金色に輝く津軽海峡と巴の港・函館湾と恵山に 至る遠景が見事。
 しばし佇み、下北半島に目を凝らし閑中有情。

 北洋漁業の基地で栄えた大門、松風町の街並みも一変。
 青函連絡のターミナルを終え、函館駅も新装。

 最後の北洋船団出港に託け飲んで騒いだ千畳敷を通り、
 七曲コースを熊笹の落ち葉を踏みしめ、立待岬へ出た。
 啄木一族の墓にお参りし、函館散策終了。

 水産に学び、昨今の漁業の凋落に感慨深い。
 産官学や経済特区プロジェクトで戻って来たい心の故郷港町。

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