NOVELS2枚目



 そのお客さんを気にしながらも、笑次はレジ打ちをテキパキと済ませようとこなしていたが、そんな時に限って問題は起こるものだ。まさに「弱り目にたたり目」レジペーパーが巻き取りにからんでしまった。(ちっ!このレジはあ~)最近入れ換えたばかりのレジのはずだが、前のレジよりもトラブルが多くて忙しい土日にフリーズなんてことも…あせるキモチを抑えつつようやくレジペーパーも動くようになり、ようやく携帯コーナーへ戻ることができた。さっきのお客さんは、何気にコーナーに並んでいる展示モックを手に取り、選んでいるように見えた。
「すいませんお待たせしました~」とその人に謝りながら、「今日は携帯をお探しでしょうか?」と声を掛ける笑次。声だけは聞こえていたので、相手は女の人とは思っていたが、そこにいたのは…高校の時の同級生である「田中瞳」だった。なんたる偶然!!

 笑次は誰にも言えないでいたのだが、高校の頃はこの瞳に片想いをしていた。彼の性格は今も昔もさほど変わってないということで、その「いいやつ」ぶりがかえってアダとなり、そのキモチを彼女にも、親友にも言えずに一人自分の心の中でしまいこんでいた。

 その思いが瞳を見るやいなや、プレイバックしてくるのがわかり、笑次は照れと懐かしさで、顔が赤面してしまった。
「この前同窓会があって、笑次クンがここで働いてるって聞いて~携帯機種変しようかな~と思って」瞳が切り出してきた。「そうなんだ~電気屋だから土日は、夜でもなかなかすぐ終われなくて行こうと思っても変な時間になっちゃうからパスが多くなっちゃうんだ」笑次はそんな風に答えた。実際、平日勤務のサラリーマンと違いそういう同窓会や、結婚式なんかも行われるほとんどが土日が多かったりするので、電気屋と言わずお客商売の仕事はそういうものかもしれない。

 「今この携帯が売れてるよ~」笑次は、照れを隠しつつも電気屋の姿勢を貫いていた。違う話を持ち出したいのは山々ではあったが、(瞳ちゃんは結婚したんかな)だとか(俺に逢いに来てくれるとは…)とかいろいろな思いが溢れ出してはきているのだがそこは客商売のつらいところである。そうしていると瞳のほうから「携帯はもう機種はこれにしようと思ってるの。」と切り出してきた。笑次は、機種変の事務手続きを始めていた。しかし、いろんな話をしたいがゆえ急いで書いてしまって書類の書く欄を間違えたり、つまらないミスを繰り返してしまって、なかなかはかどらない。それを見ていた瞳が「相変わらず丁寧な字を書くのねえ~」とこの一言で大分、笑次のほうも落ちつきを取り戻し始めた。

 「こんなところで同級生に逢うと緊張しちゃうねえ~」笑次はそんな感じで手続きを済ませ、携帯会社の連絡を待つだけとなったため、瞳と少ししゃべり始めた。「俺ね。電気屋になってから、同級生に逢うのは随分ひさしぶりなんだよ~もうみんな家庭持ってたりするんだろうねえ。」学生のころはなかなかしゃべることもできなかった瞳に笑次は笑って言ってみたのだが不思議だった。あの頃緊張して全然しゃべられなかったというのに、客商売の因果なのかそれともあの頃が若すぎたことだったのか。瞳は「そうなんだ~お客さん相手の仕事って大変ねえ~ところで、今度別の日でいいんだけど、話を聞いてもらいたいことがあるのよ~逢えないかな~?」と。



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